Morning Starter   作:灰の熊猫

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Training Starter

「――二十……二十一……二十ニ……」

 

 昼過ぎの暖かさが窓をすり抜けて降り注ぐ木の床の大部屋、陽の届く中心部で一人の男の呟きだけが規則的なリズムで聞こえてくる。

 この家と声の主である十三は、日課の鍛錬の一つとして腕立て伏せをし続けていた。全身が筋肉の鎧で覆われていると言っても過言では無い十三にとっては、基礎的すぎるトレーニングではあったが、しかしそれでも十三はその基礎を怠る日など殆ど無い。

 何もせずに現状を維持する事は出来ない。むしろ筋肉を持つ人間ほど基礎を大事とし、その重要性を身を以て知っている十三は、毎日の様に全身の筋肉を隈無く鍛錬に使い続けている。

 が、今日に限ってはいつものトレーニングとは異なる点が一つあった。

 

「ニ十八……二十九……」

「へいへーい、土台がちがうよ、筋肉がおたけびをあげているー」

 

 十三の声の内に、少女の無感情な声が混じる。その少女――真魚は、鍛錬に取り組む十三を囃し立てていた。

 暇を持て余している真魚は、時折十三の家にアポイントも無しにやってくる事がある。弥武組や蓮のセーフハウスなどに訪れる事も多いが、日中の時間の殆どを鍛錬や趣味のビデオ鑑賞に当てている――有り体に言えば、真魚同様に暇を持て余している十三の家にも、真魚はかなりの頻度で訪れていた。

 それ自体は、十三にとっては一つの日常でもある。故に真魚がここに居る事自体は、多少の変化であれど”いつもと異なる”と言う程では無い。

 そんな日常との相違点とは――真魚が、()()()()()()声をかけていた事だった。

 

「三十三……三十四……」

「背中ばりばりー、上腕筋がはちきれそー」

「…………」

 

 十三の背の中央に腰を下ろした真魚が、ぽんぽんと肩甲骨の辺りを軽く叩く。

 今日、真魚が十三の家を訪れた時は、既に十三は鍛錬の途中だった。始めてからは少し時間が経ち、終わらせるには尚早すぎる時間だったので、来客(まな)には悪いと思ったが、十三は自身の鍛錬を一区切りまでやる事を優先した。

 が、その鍛錬を眺めていた真魚の方から提案があった。「ちょっとお手伝いがしたい」、と。

 

「……三十六……」

「んー……えーと……筋肉むきむき剥き出しみかーん」

「……真魚、気が抜けるんだが」

 

 が、そう真魚から言われたものの、自宅で出来る基礎トレーニングに補助など必要無く、そもそも素人の真魚が正しい補助など出来る訳が無い。

 十三は気持ちだけ受け取るつもりだったが、「重石になるぐらいなら出来るでしょ」と言った真魚は、十三をうつ伏せにさせた状態で背中に乗ってきた。

 確かにこれなら一人でやるよりも負荷がかかる。たまにはいいか、そう思って十三は真魚を乗せての腕立て伏せに臨んだ訳だったが――さっきから背の上で聞こえてくる掛け声が、集中を地味に乱していた。

 

「えー、こんなにけなげに応援してるのにー」

「応援は健気とは言わねえし、ガヤも応援じゃねえ。あと揺らすな」

 

 指摘が不服とばかりに真魚は自分の体を動かし、下にいる十三を揺らそうとする。腕を伸ばし背を真っ直ぐ伸ばした十三の体幹は、そんな真魚の動きに対しても不動を貫いてみせる。

 とはいえ、十三と真魚の体重から来る負担の殆どを受け取っている両腕にはかなりの負担がかかっている。連続しての一セットとしては十分すぎる回数ではあった為、十三はひとまず文句を後回しとし、キリの良い所まで腕立てをする事にした。

 

「……三十七、三十八」

「ひゃくろくじゅうさんー、さんびゃくごじゅうはちー」

「……三十……九……」

「さん、に、いち――ぜろ、ぜろ、ぜろっ……!」

「…………四十」

 

 ここぞとばかりに数字を撹乱しに来ている真魚を無視し、十三は四十回目の腕立てを終え、負担をかけた体を床に下ろして休める。

 心地良い疲労と、心地良くない気疲れが一度に十三にやってくる。真魚の存在は、トレーニングの負担になったといえばなったが、同時にいらない負担までかけられた。

 ちらりと顔を後ろに向け、未だに腰の上に陣取る真魚を見る。その顔はいつも通り、相も変わらず何を考えているのか見通せない無表情のままだった。

 

「ん、おじさん限界?わたし不完全燃焼なんだけど」

「そのまま永遠に燻ってろ」

「ひどい」

 

 およよ、と真魚は口元に右手を当てて泣き崩れる振りを見せる。だが、その無表情の下に愉快さを隠しているのは見るまでも無く明らかだった。

 体の上から振り落としてやろうかとすら一瞬頭に過ぎるほどではあったが、畳の上でも無いこの床に下手に落ちて怪我でもされるとこちらが困る。結局十三は何もせず、文字通り真魚の尻に敷かれていた。

 

「んー、ひまー。おじさんもっと動きのあるアトラクションにしてー」

「トレーニングにテーマパーク的要素を求めてんじゃねえよ」

「じゃあ何がたのしくてこんな事してるの?」

「お前の面白みの為じゃない事は確かだな」

 

 ぐいぐいと背中を両手で押しながら、真魚は十三に暇の解消を求める。不服を表す様に真魚は掌に力を込めて強く背を押してきたが、背中まで筋肉の詰められた十三にとってはマッサージ程度の刺激にしかならない。

 というか、普通に気持ち良かった。なるほど、世の父親はこういうものに憧れているのか。少々納得をしながら、十三はそのまま真魚からの抗議的按摩を受け続けた。

 

「……かたい。どんだけ鍛えてんのおじさん、こわ」

「”怖い”は酷くねえか。これで戦ってんだから筋肉に感謝するべきだろ」

「背中に鬼がやどっている……」

「どんな背中だよ」

 

 抗議が意味を為さない事を背中からの感触で確かめた真魚は、その硬さに目を細めて若干引きつつ、盛り上がった筋肉のラインを人差し指でなぞっていく。

 真魚の指先に擽ったさを覚えながらも、十三は真魚の言葉に反論する。十三が自身を鍛えている理由の半分は趣味ではあるが、もう半分は仲間達――特に女性陣を守る為の体作りだからだ。

 自身と共に化物へと立ち向かう仲間の女性三人は、魔術を始めとする異能に特化している。それ故に純粋な身体能力は並から外れる事は無く、近寄られでもすれば命の危険は付き物だ。

 特に真魚などは、魔術に関して言えば殲滅的と言っても過言では無い力量ではあるが、運動能力はただの子供よりも尚劣る。そんな仲間達を守る為に、十三は前に立って敵と戦う事が多い。

 自分から進んでやっている事とはいえ、そこは感謝が欲しい所ではあった。

 

「……感謝はしてるよ。いつも守ってもらってるし、わたしの復讐を最初に賛成してくれたのもおじさんだったからね」

「……お、おう。素直に言われるとちょっとむず痒いな」

 

 ぴたりと手を止め、真魚は混じり気を感じさせない声色で話す。

 真魚は元々、亡くなった父親の原因を求め、そして元凶に対しての復讐の為に独りで動いていた。その結果として深すぎる傷を負ったものの、それでも父親の復讐を捨てる事はしなかった。

 平時は全くといっていい程に表情を変えない真魚だったが、その裏にある意志は強固だ。そんな真魚の意志に最初に賛同したのが、十三だった。

 

「おじさんが賛成してくれなきゃ、また一人でやるしかなかったかもだからね」

「折角助けたんだ、もう少し自分を大事にしろ」

「……おじさんは本当にいい人だよね。顔がこわくて童貞なのに」

「二段斬りはやめろ、マジでキツい」

 

 真魚の言葉を受け、十三は床に頭突きをする様に突っ伏す。この話の流れでそう来るとは思わなかった、そんな不意を突く一撃がボディブローの様に心にダメージを与えてくる。

 顔は生まれつきだし、童貞は――なんか、仕方ない。ちょっと機会に恵まれなかっただけなんだ、巡りが悪いだけでこちらに過失は無い。たぶん。きっと。おそらく。

 そんな心中で自分に対して弁護を重ねる度に、十三の気分は現状の認識によって奈落の暗闇へと近付いていった。

 

「ん、ごめんね、そこまで傷付くとは。今度からもっと繊細にあつかうね」

「扱い方を改善するじゃなくて、触れないでくれるのが人情ってモノじゃねえのか……」

「社会はきびしいよね」

「個人間の人付き合いを社会と呼ぶには無理があるだろ……」

 

 遠回しにこれからも指摘し続けるという真魚からの言葉に、十三は突っ伏した体勢のまま顔を腕で抑えた。正直ちょっと泣きそうだった。

 一体どうしてこんな事になったんだ。誰だ最初に童貞とか言い出したのは。政次郎だった。あの野郎許せん。高速で回る思考が、現状の大本に対する憎しみを募らせる。

 いつか絶対こちらも政次郎の弱味を握ってやろう。十三は憎悪の中でそんな大志を抱いた。

 

「――ん?……うわ」

「ん?どうした真魚」

 

 そんな事を考えていると、背が軽くなる。唐突に真魚は腰を上げ、十三から離れた。

 一体何があったのか、そう問いに対する答えが返ってくるよりも先に、顔を上げた十三の視界に小さく動くモノが映った。

 

「……コオロギか、どっから入ったんだか」

 

 部屋の壁際に居たのは、光を返す黒茶色の身体を持つ小さな虫――コオロギだった。家の窓か扉か、どこかの隙間より侵入してきた珍客に、十三は腰を上げる。

 虫に関してはあまりいい思い出が無い。かつて生きた虫を食わざるを得ない状況に追い込まれた時、硬さと柔らかさが入り混じる食感、口内で手足が暴れる感触、液汁の味――どれを取っても人間の食べる物とは感じさせない、そんな知りたくも無い世界を味わわされた。

 とはいえ、虫は虫だ。いかにかつての思い出が悪かろうが、いちいち気にする程に女々しくはない。十三はコオロギの傍へ近付き、無警戒にも動かない虫をすっと指先で摘み上げた。

 

「ったく、こんな所に入ってくるんじゃねえよ。さっさと出て行――」

 

 無駄に逃げもしなかった以上、わざわざ潰して床を汚す事も無いだろう、外にでも放ってやるか。そう思い、十三は窓のある方へと振り返る。

 が、そこで思いも寄らない光景が目に入った。

 

「…………」

「……真魚?」

 

 真魚が、いつの間にか窓際にまで寄っていた。十三が真魚に向けて一歩近付くと、真魚がすり足で横に僅かに動く。

 さらに一歩近付く。今度は僅かに幅を大きく取り、真魚は窓の傍の壁へと動いた。

 

「……虫、怖いとか?」

「いや、怖くはないよ。うん」

 

 指先でしきりに足を動かしているコオロギに目を向け、十三が問いかける。

 真魚の表情は変わる事は無く、汗一つかいていない。が、両肘と背を壁に押し当てているその姿は、どう見ても虫に怖がっている様にしか見えなかった。

 

「……」

「ぎゃー」

 

 す、と手を持ち上げてコオロギを真魚の前に掲げる。そうすると、真魚は力の入っていない悲鳴を上げてさらに横へと逃げた。

 怖がっているというには淡白な反応だが、少なくとも避けている事は間違い無い。そんな真魚の様子を見て――十三が、大きく口端を持ち上げた。

 

「なんだ、かわいいトコあんじゃねえか。ほれ、ほれ」

「うわぎゃー、来ないで、きたない、おじさんのフケツ」

「そんな態度取っていいと思ってんのか、そら」

「ひゃー」

 

 壁を背にする真魚を追い詰める様に、十三はコオロギを掲げながら歩み寄っていく。その度に真魚は声色こそ一切変えないものの、否定と拒絶の声を上げながら壁をまさに虫の様に擦って逃げていく。

 が、前に十三がいる以上、真魚の逃げる方向は左右二つしか無い。真魚がどう逃げても十三から大きく距離を取れない、そんな状況でじりじりと十三は近付いていく。

 無表情で恐れ知らずな真魚にこんな弱味があるとは。珍しい光景に、十三は思わず笑いを浮かべながら手でばたばたと動こうとするコオロギを真魚の逃げようとする方向へ向けては、逆側に逃げようとする真魚の様子を面白がって眺めた。

 

「やー、おじさんにヨゴされるー、たすけてー」

「この状況でそんな事を言う意味がまだわからねえみたいだな」

「うわーっ」

 

 それでも口はいつも通りに動き続ける真魚に、十三が一瞬コオロギを顔先に突き付ける。そうすると真魚は目に見えて全身を跳ねさせ、背どころか頭まで引いて壁にくっつけた。

 いつもは何かと振り回される事が多い真魚を、簡単に懲らしめられるのはちょっと気分が良かった。やってる事自体は子供レベルの悪戯で少々気が引けるが、少しの間ぐらいはこうして遊ぶぐらいは許されるだろう。

 そう考えて、十三は真魚の前でコオロギを突き付け続けた――が。

 

「……やく」

「え?」

「塵一つのこさず、やく」

 

 真魚が動きを止め、腰から何かを取り出し、左手に持つ。

 何を取り出したかと十三が視線を下げれば、そこには見慣れたタッチ式のタブレット――妖しげな光を放つ魔術エミュレータがあった。

 

「ちょっ、おま、やめろ!そんなモンぶっ放したら俺が――っていうか家が壊れる!」

「人にヒドい事してるのに逃れようなんて、そんなムシのいい話はないよ」

「それお前が言う!?いやちょ、待て、その操作する指を止めろ!」

 

 十三の制止も聞かず、真魚はエミュレータの表面に右手を這わせ、その度に表面の発光が増していく。

 ヤバい、本気だ。まるで揺らがない真魚の瞳の奥の殺意を感じ取り、それの引き起こすだろう事態を予測して十三が焦り出す。

 真魚の魔術は強力かつ、広範囲に至る物が多い。真魚自身の意志と操作で規模や性質をコントロール出来るとはいえ、今は怒りの余り本当に十三ごと、この家ごと破壊を齎しかねない。

 危機感を覚えた十三は、真魚をなんとか制止する為に手を伸ばした。

 

「あっ」

「ひぃっ、ぎゃぁーっ」

 

 が、その時の拍子で十三の指の力が緩み、その瞬間を突いて摘まれていたコオロギが空に逃げ出した。

 目の前のすぐ近くで飛び立ったコオロギに驚いた真魚は、エミュレータを床に取り落として素早く十三の背後へと回り込む。飛んだコオロギは透明な窓にぶつかり、今度は十三と真魚のいる方向へと体の向きを転身させた。

 

「ちょ、真魚、動き辛ぇ、離れろ!」

「おじさん早くつかまえて、はやく、はよ」

「なら腕を掴むな!うおお登ってくる!カサカサする!」

 

 コオロギはそのまま反撃とばかりに十三の脚に襲いかかり、そこから胴を目指して登ってくる。それに対応しようとしても、十三を盾代わりにする為に両腕を掴んでくる真魚の手がそれを阻む。

 脚を伝って登ってくる虫からの寒気が走る感触を受けながら、なんとか真魚の手を振り払うも、その度に真魚の手が追いすがって腕を掴もうとしてくる。

 腕を自由に動かす事を妨げられ、仕方なく十三は膝上まで達しているコオロギを前蹴りを放って振り払う。その勢いに押され、十三の膝からコオロギが飛んだ。

 

「うわきもっ」

「どああ飛ぶな!あと真魚、俺を盾にするぐらいなら新聞紙なりなんか武器持ってこい!こいつ倒すから!」

「……おじさんの命令はきかん……」

「コイツさっきのを根に持ってやがる!」

 

 胴に目掛けて飛んでくるコオロギを、十三はなんとか身を捩り回避する。それに合わせて真魚も十三の側面へと回り、十三の右腕を両腕でホールドしてコオロギの対角線上を位置し続けた。

 そのまま十三の周囲を動き回る虫に対し、十三という盾を得た真魚はこれまでの引け腰を一変させ、いつも通りの調子で虫を対処しようとする十三の足を引っ張り続ける。

 コオロギが右に動けば真魚が十三の左腕に回り、左に動けば再び右腕に戻る。自分の周囲を動き続ける真魚の存在が邪魔となり、十三はコオロギに何も出来ずにいた。

 

「お前どっちの味方だよ、とにかく離れろ!」

「おじさんの敵かな」

「三つ巴かよ!敵しかいねえ!」

 

 虫と十三と真魚、完全に独立した三勢力が板の間で動き続ける。

 そうこうしている内にコオロギは誰も居ない方向へと走り出すも、真魚は未だに十三の周囲を円を描く様に動き回り続けていた。

 

「ぬぉぉーぐるぐるぐる」

「邪魔だコラ!もうあっち行っただろ!離れろ!」

「おどれやおどれー」

「完全に面白がってやがるなこの野郎!そっちがその気なら――」

 

 もはや虫の存在など無関係に十三の邪魔をし続ける真魚を、十三が中腰になって両腕で捕まえる。

 そのまま十三は左手で真魚の右腕を持ち上げ、空いた脇下に頭を入れる。そして真魚が暴れるよりも早く真魚の脚の間に自身の右腕を差し入れ、腿を抱える様に固定する。

 そうして真魚の脇から腿までを、十三は自身の頭と両肩に乗せ、地面から引っこ抜いた。

 

「ぬおあー」

「動きがあるアトラクションが欲しいとか抜かしてたな、丁度いい。このまま俺のスクワットに付き合ってもらうぞ、とりあえず一分からだ」

 

 肩に背負って完全に真魚の動きを封じたまま、十三は広間の中央に戻り、そのままスクワットを始める。持ち上げられた真魚が両足をぱたぱたと動かすも、安定感のある背負い方によって十三の体がぶれる事は無かった。

 どこかに跳んでいったコオロギの事など完全に忘れ、十三はスクワットしていく。これだけの重量を背負ってのスクワットは経験が無かったが、それが丁度良い負担になっている。

 五、六。そのまま十三は、心の中でスクワットの回数を数えていった。

 

「おじさんこれセクハラじゃない?わたしの体に触りたいだけじゃない?すけべー」

「安心しろ、お前の体に触ってもなんとも思わん」

「……ふん、ふんふん」

「殴っても効かんぞ、俺の背の硬さを舐めるな」

 

 十三からの言葉に真魚はいくらかの憤りを込め、その背中を空いた左拳で殴りつけるも、鍛えられた背筋が岩の如くそれを弾き返す。

 真魚からの怒りの鉄拳をまるで気にも止めず、十三は腰を上下に動かし続ける。真魚が拳では無く脚で抵抗を見せようとすれば、十三はその都度自らの体を揺らしてそれを封じた。

 この方が動きを制しやすいな。そう考え、十三は無心となってトレーニングを再開した。

 

「やぁっ、やだっ、こんな、こんなの、いやあっ……」

「十……十一……」

「ひあっ……どこさわってるの……えっち……」

「……十三……十四……」

 

 背負う以外何もしていないにも関わらず、悩ましげに演技する真魚の声を、十三は回数のカウントと自身の体の負荷に集中する事で意識の外へと追いやる。

 真魚の重みとささやかな抵抗にも慣れてきた十三は、少しずつスクワットのスピードをゆっくりに、落とす腰の幅を広げていく。負担が確かに腿にかかっている事を一つ一つ確認する様に、十三のスクワットは時間と共に丁寧なものへと変わっていった。

 

「十七……十八……」

「――ふふっ」

 

 呟く様な小さな少女の笑いすらも、十三の集中に割り入る事は無い。

 優しい陽の暖かさに包まれる中で、時はゆっくりと過ぎていった。

 




真魚ちゃん on 十三さん

真魚ちゃんの虫嫌いは一年半ぐらい前にあった作者様のコメントからです。
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