受験ェ…
「・・・あの・・・松浦さん・・・?」
「んー?」
ダイビングスポットへと向かい、仕事用の小型船を操縦している最中に遠慮気味の声が掛かる。
振り返った先でダイビングスーツを着込んだ長髪の少女が何か言いたげな顔をしているのを目にし、果南は首を傾げつつも柔和に笑った。
「梨子ちゃんか・・・どうかしたの?」
「ああいえ、別に何かあった訳じゃないんですけど・・・・・・。この前のお礼、ちゃんと言えてなかったなぁって・・・」
「え・・・・・・あー・・・」
一拍置いて梨子の言葉に当てはまる記憶が呼び起こされる。
先日戦兎がスマッシュにされていた彼女を救出してきた際、念のためにと呼び出された果南が怪我などがないかと彼女の身体を診たのだった。
「あはは、いいよお礼なんて。私ほとんどなんにもしてないし」
「いえ・・・、それでもお世話になった事には変わりないので・・・・・・その・・・ありがとうございました」
少し微笑ましい気持ちになりながら、ぺこりと頭を下げた梨子に優しい視線を送る。
長く元気全開の幼馴染達と付き合ってきた事もあり、こういう清楚な雰囲気の子は新鮮だ。
「・・・それとその・・・松浦さん」
「果南でいいよ。この辺の子は皆名前で呼んでくるし」
「えっと・・・じゃあ・・・・・・果南さん」
少し照れくさそうに口を動かし、やはり遠慮気味の瞳を向けてくる。
「その・・・・・・三海先生とはどういったご関係で・・・」
「う・・・」
まさかの問いに思わず抜けた声が出てしまう。
「ああその! 答えにくいなら全然答えてくれなくても構わな―――」
「いやまあ・・・答えられない訳じゃないんだけどさ・・・・・・ちょっとびっくりしただけで」
ピンポイント過ぎる質問に驚きこそしたが、ここで変に取り乱しては疑われかねない。
スマッシュ化の前後の記憶が残っていない梨子には路上で倒れていたという体で通してあるため、彼女は戦兎が仮面ライダービルドである事と、果南がその正体を知る者だとは知らないはずだ。
だったらこの問いは純粋な疑問なはず。余計な疑念を抱かせぬように答えなければ。
「えっとね、私今休学しててさ。それで担任の三海先生がたまに様子見に来てて・・・家も近いしさ」
「それだけにしては仲が良過ぎませんかね? 果南さん普通にタメ口ですし」
大人しそうな雰囲気に反してグイグイとくる梨子。やたらと目が輝いて見えるのは気のせいだろうか。
「休学中の女生徒とそれを気に掛けてたまに家を訪問する教師・・・・・・こんなお約束みたいなシチュエーションで何もない訳ないじゃないですか!」
「りりり梨子ちゃん⁉」
人が変わったように熱弁を振るう梨子に圧倒され、威嚇された小動物のような上擦った声が出てしまう。
カプだの攻めだの受けだのと小声で呟く姿は今の今で見せていたおしとやかさなど見る影もない。
「しちゅえーしょん? っていうのはよく分かんないけど一回落ち着いて・・・」
「はっ・・・!」
果南に宥められ、正気に戻ったかのように梨子は目を見開く。一体何が彼女にこうさせるのだろうか。
「すすすみません! つい・・・」
「いいよ・・・気にしないから・・・はは・・・」
多少ズレているとは言え、年相応の女の子らしくそういう事に興味はあるらしい。
ただ何かの弾みでスイッチが入ると平常運転が大人しめな分止まれなくなるようだが。
「とにかく、私と先生はただの生徒と教師。それだけだよ」
痴態を晒して顔を真っ赤にする梨子にそう念押しし、船を操縦する手を止める。
「ほら、もう着いたから行こ? 潜れば恥ずかしい事なんて忘れられるよ」
「はい・・・・・・うぅ・・・」
―――私はただ桜内さんが困ってるみたいだから助けてあげたいなーって・・・
―――友達が困ってたら力にならないと!
「・・・力にねぇ・・・」
潮風に波打つ海面を眺める戦兎の脳裏に刻まれた言葉が反芻する。
気力のない双眸の先では、発言の主である千歌が諦観とした空気感の中に檄を飛ばしていた。
「もう一回! もう一回挑戦してみよう!」
何が彼女にああさせるのだろうか。
いくら友人とは言え、梨子が海の音とやらを聞けたところで何か見返りが返ってくる訳でもないのに、何故あそこまで力になりたいと思えるのだろうか。
「・・・頑張るなぁ・・・千歌達」
「・・・・・・アイツ、昔からあんな感じなのか?」
再び潜水していったのを横目に、彼女の幼馴染である果南に問う。
「・・・ずっとそうだよ。自分の事でうまく出来なかったりするとすぐ不貞腐れて投げ出したけど、誰かのためってなると絶対諦めようとしなかったからね」
「・・・・・・ほんと変わった奴だな・・・」
「先生が言う・・・?」
戦兎自身の事を棚に上げるとかそう言うのは関係なく、純粋にそう思っただけ。
「少なくともそれをする事で何か徳がある訳でもないのに、よく誰かの力になりたいと思えるよな・・・・・・最悪自分が不利益被るかもしれないのによ」
確かに人柄の良さは伝わるし、世間一般から見ても称賛されるものであろう。
だが同時にそれは損をする可能性も孕んだものである。
ずっと自分の過去を探すために戦ってきた戦兎には、理解し難い事だった。
「・・・多分、千歌にそんな事はどうでもいいんだよ。見返りを求めたら、それは手助けでも力になる事でも何でもないって」
「・・・分かんねえなぁ・・・」
確かに戦兎とて誰かの笑顔を見て喜びが伝播することこそあるが、それだけのために行動を起こそうとはやはり思えない。
「まあ、理解はされにくいかもね・・・」
少なくとも自分は共感できるとでも言うように、果南が誇らしげで、それでいてどこか悲し気な視線を風と共に海の方へと流した。
「・・・でも」
船から少し離れた海面で、ぱしゃりと水飛沫が上がる。
浮上してきた千歌達の輝いた表情を見れば、成果は明らかだった。
「・・・だからああして、海も答えてくれるんじゃない?」
身を寄せて喜びを分かち合う三人の笑顔に釣られ、果南もまた口元を緩ませているのだった。
「―――このように今でこそ平穏を維持できているが、それが崩れるのも時間の問題なんだ!」
「ふぇぇ・・・?」
熱弁を振るう見知らぬ男性を前に、赤髪の少女が怯えた声を漏らす。
「政府間の緊張が高まっている現状ではいつ戦争が勃発してもおかしくない。もし戦争が起これば諸外国からの輸入が止まり、農耕地の乏しい東都では食糧不足が起こる」
「えっと・・・その・・・・・・今お使いの途中で・・・」
「エリアJはスカイウォールの影響を受けていない奇跡の土地だ。農地となれば多大な富を得られるというのに当の地主は認めないの一点張り・・・・・・。これ以上君の御家族が渋るようであれば、多くの東都市民が苦しむ事になるのかもしれないんだぞ⁉」
「そそ・・・・・そんな事言われてもルビィ分かんないです・・・」
極度の人見知りに加え、親族以外の異性と殆ど関わった事のない彼女に、恐怖の対象以外の何物でもない「初対面の男の人」の訴えなどほとんど耳に入ってこない。
彼女が抱くのは早く話を切り上げてこの場から逃げ出したいという思いだけ。
「だから、君の口から御両親に今一度ご検討頂けるよう進言してくれないか?」
そんな事など露知らず、男は少女に協力と同意を投げかけた。
それどころか逃げ出そうという彼女の希望を奪い去るかの如くその肩を掴み、拒否などさせないと言わんばかりに逼迫した圧を小さな身体に寄せてゆく。
「ピギッ・・・・・・お・・・おねえちゃ――――――」
「何をしているのですか‼」
身体に触れられた事で遂に耐え切れなくなり、抑え込まれていた少女のストレスや恐怖を悲鳴となって解き放たれようとしたその時、稲光のように轟いた声が一つ。
「お姉ちゃん!」
「帰りが遅いと思って見に来てみれば・・・・・・こういう事だったのですね。ルビィ、大丈夫ですか?」
ルビィと呼ばれた少女の顔に明るさが燈ったのを確認しつつ、黒澤ダイヤは獅子を彷彿とさせる眼光を持って男を睨みつけた。
「いくらお上からのお達しとは言え、年端も行かぬ少女を利用しようとするなど・・・・・・恥ずかしいとは思わないのですか?」
「君の両親が譲らないからなりふり構っていられなくなっているんだろう! とにかくもう一度話をさせてくれ!」
少しも態度を改める様子のない男にルビィを背後に隠したダイヤの視線が鋭さを増す。
「貴方のような卑怯者とする話など微塵もありませんわ。お引き取りを」
「ぐ・・・うぅ・・・!」
凛々しくも、確かに怒りの籠ったダイヤの声音に気圧された男が苦虫を嚙み潰したような顔で引き下がってゆく。
その背中が見えなくなるまで敵意の眼差しを突き刺し続けた後、ダイヤは自らの妹の身体を優しく抱擁した。
「ごめんなさいルビィ・・・・・・警戒して然るべきでしたわ」
「・・・お姉ちゃん・・・・・・今の人誰・・・?」
「・・・貴方は何も気にする必要はありませんわ」
柔らかく笑って見せ、ルビィを落ち着かせるために、自らに言い聞かせるためにそう口にするダイヤ。
「・・・帰りましょうか。お母様も心配していますわ」
「・・・・・・うゅ・・・」
ルビィも何か隠しているという確信こそ得たものの、知られたくないという姉の心情を敏感に察知してそれ以上は何も言及しない。
今はただ静かに、穏やかではない姉の雰囲気に尻すぼみするのだった。
「ふっふ~ん♪」
登校した生徒同士の賑やかな会話が弾む朝の教室に、上機嫌な千歌の鼻歌が溶け込んでゆく。
無邪気に輝く瞳の先には、『入部届 桜内梨子』と記入された一枚の用紙。
無事海の音を聞く事が出来たダイビング体験から数日。千歌の粘り強い交渉と、あの件を切っ掛けに打ち解けたという事もあり、遂に梨子が入部を決意してくれたの。
「とりあえず、これで作曲方面の心配はなくなったね」
「ほんとだよ~。もし梨子ちゃんが手伝ってくれなかったら、私イチから音楽の勉強しないとだったもん」
「・・・・・・そうなのね」
本来部活の立ち上げに必要だという五人にはまだ届かないが、それでも部員は集まってきている。それに三人もいれば歌って踊るには十分だろう。
「それでどうしよっか。ファーストライブ!」
梨子の加入が決まってからというもの、千歌が口を開けば飛び出してくるものがこの単語。
きちんと活動ができる状況になった今、早くスクールアイドルの醍醐味であるライブがしたくて堪らない。
「気が早いんじゃない? まだ練習もしてないし、曲も衣装も何も考えてないんだしさ」
「だったら今日ウチで考えよう!」
現実的な意見を飛ばす曜に対しそう即答。
あくまでも必須事項を揃えただけで活動をする上での土台は何も出来てはいないが、それでも出来るだけ早くライブをしてスクールアイドルとしての一歩を踏み出したい。
「千歌ちゃん落ち着いて。それに会場とかの事もあるから、三海先生にも相談して進めないと―――――」
「あ、先生来た」
騒がしく夢を語る時間も一旦お開き。
教室へ入ってきた担任の教師の姿を確認し、千歌達はそれぞれの席に着いた。
「はーい皆さん。実はまた新しい仲間が一人増える事になりました」
教卓に手を掛けるや否や、開口一番にそう言った教師に騒めくクラス一同。
「また転校生?」
「ちょっと前に梨子ちゃんが来たばっかりなのにね。それもこんな田舎に」
千歌と曜も御多分に漏れずひそひそと会話を交わす。
流石に転校生という珍しいイベントが立て続けに舞い込めば誰だって疑問には思うだろう。
「あーはい静かにー。それじゃ、入って」
担任の声にクラス全体の視線が教室前方の入り口に集中する中、軽い音を立ててドアが開かれた。
「ほぁぁ・・・」
瞬間、そんな腑抜けた声が千歌を含め数名の生徒の口から漏れる。
「エリアQの方にある学校から来た・・・・・・ほら、自己紹介して」
担任に促され、転校生の少女は小さく頷く。
明るめなショートヘアに、どこか愛嬌を感じさせる小柄な身体。
何より目を引くのは着用している制服が千歌達のようなセーラー服ではなく、ブレザーだという事。
そんなクラス中の視線を釘付けにする彼女は、少し照れるような仕草を見せ、柔らかな雰囲気を持って口を開いた。
「石動美月です。よろしくお願いします」
オリキャラ投入。名前で分かる通り元キャラはビルドの石動美空です。美空ポジって事は当然˝アレ˝も…
容姿はこちらとなります↓
【挿絵表示】
オリキャラも出したし、そろそろ話しの進みもブースト掛かりますのでお楽しみに
それでは次回で!