「・・・そんな事が・・・」
「・・・ええ」
理事長室にて、とても生徒同士の会話中とは思えない程深刻な顔を突き合わせる鞠莉とダイヤ。
「正直、今後どんな手を使ってくるか想像できませんわ」
「それほど切羽詰まった状況って訳ね・・・」
先日、黒澤家の当主である両親の外堀から攻めようとしたのか、ダイヤの妹であるルビィに接触してきたあの男。
彼一人の判断で動いたとは考えにくいとすると、必然的に浮かび上がってくるのは背後にいる東都政府の存在だ。
「・・・ダイヤはさ、本当に農耕地を増やすってためだけに国が内浦を欲しがってると思う?」
「そんな事は最初から信用していませんわ。そもそも、内浦に住まう人々の生活を無視している時点であの方々が掲げる国民主義に反します」
「そうよね・・・今の政府が国民のために動いてるとは思えない」
国民のために農耕地を増やす、というのはほぼ確実に建前。内浦を手中に収めるための大義名分が欲しかったのだろう。
恐らく、本当の狙いは別にある。
「政府がここを欲しがっている本当の理由・・・何なのでしょうか」
「I don`t know.向こうも馬鹿じゃないんだし、そうEasyには漏らさないでしょ」
東都政府に影響力を持つグループの一人娘と、網元の家の長女という特殊な生まれである二人だからこそ知り得る事は大いにあるが、それでも国を動かすトップの動向までは流石に知り得ない。
「何にせよ、相手が政府ならこっちは世間を味方につけるしかないの。だからこそのスクールアイドルよ・・・・・・ちかっち達には大きくなってもらわないと」
スクールアイドル。
鞠莉の口からその単語が紡がれたその刹那、ダイヤの表情に差す影が増す。
「・・・本当に、あの子達に背負わせるつもりなのですか・・・?」
「当然よ・・・・・・利用できるものは何でも利用してやるわ」
揺るがない意思を声にする鞠莉。
かつては純粋な輝きを持っていたはずなのに、いつの間にか濁ってしまった彼女の瞳。そんな瞳が目に入る。
(・・・わたくしはどうすればいいのでしょうか・・・・・・果南さん・・・)
もう決して戻らない日々の記憶を想起し、ダイヤは悲し気に目を伏せるのだった。
「まーた転校生捕まえてきたのかよお前・・・・・・」
放課後。
件の転校生―――石動美月の連れてきては「これで四人目だ―!」と騒ぐ千歌。
なお当の美月は何が何だか分からないと言った様子で目を白黒させている。どうやら梨子同様、勢いだけで勧誘してきたクチらしい。
「てなわけで先生! 石動さんの分の入部届ください!」
「落ち着けアホ」
「あたぁっ⁉」
本人の同意等の過程を色々すっ飛ばして入部させようとする千歌の額に戦兎のデコピンが炸裂。
「悪いな。転校初日からウチの馬鹿が」
「あ、あっと・・・・・・ありがとうございます」
相当強めな一発を貰って蹲った千歌を心配するような仕草を見せつつ、美月はぺこりと戦兎にも頭を下げる。
その容姿は美人、というよりは可愛いという表現の方が似合い、千歌が目をつけるのも納得できた。
「ったく・・・・・・お前等も止めろよな」
「そうしたかったんですけど、千歌ちゃん一人でどんどん話進めちゃって・・・・・・。それに・・・」
苦笑いをした梨子の目が横に逸れる。
「・・・曜ちゃんもずっとあんな感じだし・・・・・・」
今回はコイツもかとこめかみを抑える戦兎。
何か悪いものでも口にしたのか、普段は千歌のストッパーであるはずの曜まで何やら興奮した様子で美月を凝視している。
「・・・お前はどうした渡辺。目が完全に犯罪者だぞ」
「はっ・・・!」
戦兎の声で我に返ったかのように目を見開く。
「いや・・・その・・・・・・石動さんの制服が気になって・・・」
「あー。曜ちゃん制服好きだもんねぇ」
千歌にそう言われ、照れくさそうに後頭部を掻く曜。
まあ、女の子らしい趣向だとは思うが、彼女は通常とは少しベクトルが違うようだ。
「その・・・! 少しだけその制服を拝見させてもらってもいいでありますか・・・・・・⁉」
好みを暴露された事で吹っ切れたのか、曜が思い切って美月に嘆願する。
「・・・まあ、別にいいよ・・・?」
尋常ではない熱量に怯みながらも美月が首肯し、その刹那に曜の瞳が獲物を狙う猛禽類が如し光を宿す。
瞬時に美月の真正面まで肉薄すると、どこかの金髪ハーフのように両腕をワキワキさせ―――、
「ブレザー・・・! 都会の学校のブレザー・・・!」
「ふぁっ⁉ ちょ・・・⁉」
拝見、とは一体何だったのか。制服愛の赴くままに触るわ擦るわのセクハラオンパレード。
常識人だと思っていた曜のぶっ飛んだ一面に、知り合って日が浅い戦兎と梨子はおろか、幼馴染の千歌までドン引きである。
「・・・・・・変なのばっかだなこの部活」
「スクールアイドル?」
(主に興奮した曜が)騒ぎすぎて他の教職員からお叱りを受けたため、職員室前から中庭に移動。
「・・・・・・なにそれ」
「へ?」
美月をもスクールアイドル部に引き込もうとした千歌だが、ここで問題発生。
「まさか・・・知らないの⁉」
信じられないと言った顔で詰め寄る千歌に対し、美月が小さく頷く。
「うん・・・。私結構長く施設にいたから、そう言うの疎くて・・・」
「・・・だとしても今のご時世でスクールアイドルを知らないのは中々だな・・・」
昨今のスクールアイドルブームの影響力はもはや部活動程度に留まるものではない。
東都のみならず北都や西都でも名のあるグループは数多く存在し、それらが一堂に会する全国大会「ラブライブ!」はスカイウォールによって分断された日本が一つになる数少ない催し事となっている。
一部では政府間が一触即発の空気になりながらも戦争が勃発せずにいるのは、スクールアイドルの人気が一役買っているという声も上がっているほどだ。
そのスクールアイドルを知らないとなると、この石動美月という少女、相当世間離れした人生を送ってきたらしい。
「だったらこれ見て! ほら!」
手早くスマホを操作し、その画面を美月に見せつける千歌。
数コンマ遅れて聞こえてきたのは、大してスクールアイドルに興味のない戦兎でも知っているような曲と歌声だった。
「私ね、この人達を見てスクールアイドルを始めようって思ったんだ!」
スマホが映し出している映像の中で踊る少女達は、数年前から人気を誇っていたスクールアイドルの勢いを確かなものにした伝説のグループ。
千歌同様、彼女達に憧れてスクールアイドルを始めた者も多い。・・・・・・あの時だってそうだった。
「どう? どう?」
「・・・うーん・・・・・・いまいちピンとこないかも・・・・・・」
千歌が感想を求めるも、当の美月の反応は彼女が求めていたようなものとは違う。
まああれだけ多くの人間を魅了しているのだから、少しばかり興味を示さない者がいても何ら不思議ではないが。
「そっかぁ・・・・・・あ! じゃあさ! 今度私達もライブやるから見に来てよ! それでもし興味持ってくれたら・・・・・・」
「ちょっと⁉ さっきまだ何も決まってないって話したよね⁉」
「だから今から家で会議だよ! 石動さん、またねー!」
「ちょ・・・! 千歌ちゃ~ん!」
思い立ったら猪突猛進の千歌が別れの挨拶も手短に走り去ってゆき、遅れて曜もその背中に続く。
「ああもうあの二人は・・・・・・。その、ゴメンね石動さん。色々と・・・。先生もお騒がせしました」
「・・・・・・お前も大変だな」
梨子がどんな経緯でスクールアイドル部に入る決心をしたかは知らないが、よもや大きな子供二人の御守をする事になるとは夢にも思っていなかっただろうに。
呆れ顔で二人の後を追っていった梨子に同情の眼差しを送った後、戦兎は最後に残された転校生に顔を向けた。
「石動、だったか? お前がいたって言う施設ってどこだ?」
「え? えっと・・・・・・難波重工総合化学研究所に・・・」
「・・・そ。悪かったな、変なこと聞いて。じゃな、お前も気を付けて帰れよ」
スクールアイドルの情報すら届かない施設と聞いてまさかとは思ったが、やはり出てきたのは難波重工の名前。
その施設にいたとなると、難波の黒い噂の一つである˝あの子供達˝の存在が頭を過る。
(・・・まさか・・・な・・・)
考えすぎだ。そう結論付け、勝手に話を飛躍させようとする思考を振り払った。
肌寒い春風の吹く空の下。
『・・・来たな』
ぎぎぃ、と錆びれた音を立てて戸が開き、ブラッドスタークは一段高い屋根の上から一人校舎の屋上へと出でた少女を見下ろした。
『驚いたぜ? まさか施設を抜け出したお前が、何を思ったかこんな所に来るなんてなぁ・・・』
『お前の醜悪な気配を嗅ぎつけたものでな。・・・それに、これ以上美月が苦しむのは見ていられん』
『・・・ほぉ、まさかお前にそんな情があるたぁ驚いた。てっきり俺への復讐のためだけに動いてると思ってたぜ』
『十年も憑りついた身体と人格だ。当然愛着も沸くものだろう?』
無言が舞い降り、風の吹く音だけが緊張感が支配した世界を通り過ぎてゆく。
数拍の間の後、少女の身体を借りた˝何か˝が厳かに口を開いた。
『・・・今度はここか?』
『・・・・・・ああ。生憎それが俺・・・いや、俺達の使命なもんでな』
突き刺すような視線をものともせず、何気なく言って見せるスターク。
だがすぐにそんな態度は消え、確かな怒りを滲ませた声音で圧を掛ける。
『ったく・・・・・・お前のせいで何もかも滅茶苦茶だ・・・。計画は狂うわ、俺の力は失われるわ。・・・・・・やってくれたもんだな』
『それはこっちのセリフだ』
見開かれた瞳が淡い緑色に煌いた、その途端。
小柄な身体から異質なざわめきが広がってゆき、カタカタと空気が震える。
『・・・貴様は必ずここで滅ぼす・・・・・・――ボ―――ト』
『クク・・・そうかい』
少女に宿る者の力をその目で確認し、面白がるようにして再度スタークは嬉々とした態度を見せた。
『まあ、せいぜいあの時みたいに足掻く事だな。チャオ』
愉快そうな笑い声だけを残し、煙に包まれたスタークの身体が消えてゆく。
その紅い身体が塵ほども見えなくなった後、少女ははっと我に返ったようにせわしなく周囲を見回した。
「・・・・・・あれ・・・? 何でこんなところに・・・?」
まあ美空ポジが出てくるならハッピーセットで付いてくる人もいるよねって。
とりあえずあと3話以内にファーストライブの話は終わらせようかと。
それと、そろそろ正規ルート(アニメ展開)から外れることを告知しておきます。
それでは次回で!