アクアに続きエターナルって予想外過ぎるでしょ…
「ワンツー、スリーフォー、ワンツー、スリーフォー」
ほんの少し前までこの場を満たしていた静けさが恋しい。
スクールアイドル部の面々が新入部員だという三人を引き連れて現れてから数分、ものの見事に屋上は占拠されてしまった。
「そこでストップ。・・・すごい! ルビィちゃん上手~!」
リズムを刻んでいた曜の手拍子が止まり、同時に新顔二人、国木田花丸と黒澤ルビィが動きを止める。
曜の言う通り、若干と言うかかなりたどたどしい花丸に対し、ルビィの方は未経験者とは思えない身のこなしを披露していた。
「えへへ・・・よく真似して踊ってるからかな・・・?」
照れくさそうにルビィが小動物感溢れる笑みを見せる。これであの黒澤ダイヤの妹だというのだから驚きだ。実は腹違いだとか別次元の妹とかそんなではないのだろうか。
「・・・・・・お前はやらねぇの?」
千歌や梨子も加わって称賛されるルビイから視線をずらし、ただ一人練習着にも着替えていないもう一人の小動物、美月に目をやる。
ちなみに正式に入部したのは美月だけで、花丸とルビィは今のところまだ体験入部止まりなのだそうな。
「あぁ・・・その、私は部員だけどスクールアイドルではない・・・みたいな・・・」
「・・・・・・マネージャーって事か? 何でまた」
「・・・私は自分で踊るより見てる方が好きかなって。それにこの前のライブ見たら、なんだか手伝いたくなっちゃって」
「ふーん・・・」
そう語る美月の笑みと言葉に嘘はないように思える。だが、難波重工の施設出身だという過去からか、心のどこかで彼女を警戒している自分もいて。
(流石にないとは思うが・・・・・・用心するに越した事はねーか・・・)
難波が仮面ライダービルドの技術を欲していると言う可能性もある。
美月には悪いが、鞠莉の白黒を探るついでに彼女の出自も洗うとしよう。
「あれ? 先生どこ行くの?」
「仕事だ仕事。あとはお前等でテキトーにやっとけ」
スクールアイドル部の練習場と化してしまった今屋上にも用はない。
問うてくる千歌を適当にあしらいつつ、戦兎は校内へ続く階段を下へと降りた。
「鞠莉」
躊躇いなく理事長室に突入し、扉を開いた先にいた少女の名を呼ぶ。
「・・・せ、戦兎・・・?」
戦兎の姿を確認し、驚くような、警戒するようなといった様子の顔を見せる鞠莉。
「あ? どうかしたか?」
一瞬周囲を嗅ぎまわっていたのがバレたのかと肝を冷やしたが、態度には出さず努めていつも通りに接する。
まあ、実際、どこかで戦兎の行動が違和感を持たれる可能性も念頭にはおいていた。今こうして堂々と彼女の前に姿を現したのも、変にコソコソと行動して真意を勘付かれるのを避けるためだ。
「ああいや、学校で戦兎から顔出してくるの珍しいなぁ・・・って」
やはりどこかで戦兎の行動を耳にしたのか、鞠莉の態度もどこかよそよそしい。
だがここで変に態度を崩してしまっては元も子もない。変に意識したりせず、自然体で。
「そうか? まあそれはいいとしてちょっと頼まれろ。桜内じゃない方の転校生いるだろ? 石動美月。アイツが編入時に提出してきた経歴書みてーなのちょっと貸してくれ」
「・・・貸してって・・・・・・何する気?」
鞠莉の注意が戦兎から美月の事へとずれる。
だが生徒の経歴を調べようとしている事で別の不信感を抱かせてしまったのか、危険人物を見るかのような目を向けてきているため誤解は早めに解こう。
「別に大したことじゃねぇよ。ただアイツが入部してきたから部員登録に使うだけだ」
スクールアイドルをやる以上はそれなりの個人情報を協会の方に提出する必要があるという決まりを盾に主張する。
まあ、実際美月はマネージャーとして入部するのでスクールアイドルをやる訳ではないのだが、鞠莉はそれを知らないため、戦兎も知らなかった体で押し通す。
「ああそう言う・・・・・・All right. ちょっと待ってて」
無事に納得させるとこができ内心でガッツポーズ。
騙すようで忍びない気もするがこの際気にしたら負けだ。
「・・・ねえ戦兎・・・・・・最近、果南はどんな感じ・・・?」
ほどなくして手渡された複数枚の書類を手に取り、その場でパラパラと眺めていた戦兎にそんな言葉を投げかける鞠莉。
「・・・どうって・・・具体的に何だ?」
大して興味もないような素振りで返す。
「・・・最近どんな様子なのか気になっただけよ。戦兎たまに会ってるんでしょ?」
同級生として、理事長として、純粋に果南を思いやっての言葉なのかもしれないが、その果南からスタークとの関わりを仄めかされている手前、どうしても疑いの念を抱いてしまう。
「元々アイツの事知らなかったから詳しい事は言えねーが・・・、まあ、高海達が違和感感じてねぇって事はいつも通りなんじゃねぇの? ・・・・・・つっても、ライブの日以降は会ってねーけどな」
少し鎌をかけてみる。
もしライブの日の起きた事、スタークと共謀し、それを果南が目撃してしまったというのが事実ならば。何か反応を見せるはずだ。
「・・・・・・そう、なんだ・・・」
安堵と落胆を同時に孕んだような、矛盾染みた含みのある微妙な表情。
今の彼女が何を考えているかは分からない。だが、如何にも返答に怯えていたと言った様子のその顔は、果南の言葉が真実であると自ら語っているようなものだった。
(・・・・・・)
針で刺されたような感覚が胸に生まれる。
恩人でもあり、記憶を失くしてからは一番付き合いの長い彼女がそのような事に手を染めていると思うのはやはり気分のよいものではない。
「・・・コイツは何時頃返せばいい?」
「・・・・・・出来る限りQuickな方がいいかな」
「そ、んじゃ明日には返却するわ。あんがとな」
どうにも今鞠莉と同じ空間にいるのが心苦しくなり、そそくさと部屋を出る。
彼女本人の意思によるものなのか、もしくは他者からの圧を受けているかどうかは不明だが、いずれにせよ鞠莉の行動に何か黒い部分があるのはほぼ確実となった。
(・・・・・・どうすりゃいい)
閉じた扉に体重を預け、纏まらない思考を巡らせる。
どうするべきだ。
戦兎がしていたのは、あくまでも鞠莉が白か黒かを確かめる事だけ。
いざ真相が判明した後、鞠莉が黒だと発覚した場合の事は何も考えていなかった。
「・・・とても学び舎で教鞭を持つ者とは思えない顔してますわね」
嫌味ったらしい声が耳朶に触れ、視線を飛ばせば相変わらずの仏頂面を貼り付けた黒澤ダイヤ。
「どうかしましたの? 珍しく悩んでいそうな様子ですが」
「珍しく・・・は余計だ硬度十」
気に掛けてくれているにしては少々刺々しいその態度で脳内金剛石の生徒会長が歩み寄ってくる。書類を手に取っているのを見るに生徒会の仕事の最中らしい。
「・・・・・・なあ黒澤。お前友達いるか?」
「いきなり失礼な事聞きますわね貴方。わたくしにも友達くらいいますわ・・・・・・二人ほど」
最後少し悲しい数字が聞こえた気がするが、別に彼女の友達が少ない事を馬鹿にするためにこんな事を聞いた訳ではない。
むしろその人数なら好都合なくらいだ。
「・・・お前さ、もしそのお前みたいな常軌を逸した話の通じねー堅物でも付き合ってくれる数少ない絶滅危惧種みたいなクレイジーかつ物好きな友人が、なんつーかその、表立って人に言えないような事をしてるのが判明しちまったとするぞ」
「っ・・・・・・!」
滅茶苦茶失礼な事を口走った戦兎に怒るでもなく、何故か動揺するような表情を見せるダイヤ。
「・・・もしそうなったら、お前ならどうする?」
自分では答えが分からないからと言って己の生徒にその答えを出してもらう教師というのも情けないものだろう。
だが記憶喪失になって以降、当然といえば当然だが戦兎には友人などいない。仮にいるとしても鞠莉くらいだから。
その唯一の友人のような者である鞠莉に対する信頼が揺らいだ今、どうしたらいいのかが分からない。
「・・・・・・そう、ですわね・・・」
まだ少し狼狽の余韻を残しつつ、ダイヤは考え込む仕草を見せた。
戦兎が知っている限りのダイヤの性格上、曲がった事や卑怯な手は好まないはず。親しい友人がそのような事に手を染めていると分かれば迷わずに正すだろう。
だが、もしそれが原因でただでさえ少ない友人を失うような事が起ころうものなら・・・・・・彼女はどうするのだろうか。
「・・・・・・正直、何が正解なのかは分かりませんわ」
しばらくの間の後、静かに口が開かれる。
「・・・選んだ手段が決して褒められたものでないにしても、その人にもその人なりの事情や信念があるのでしょうし、それを一概に悪い事とは言い切れません」
そう語るダイヤの表情は、妙に現実味を帯びた緊迫感があった。
まるで、今まさに自分がその状況に直面しているかのような。そんな雰囲気。
「・・・・・・だから止めないと?」
「・・・止めないというよりは、止めることが出来ない。と言った方が正しいかもしれません。・・・・・・ですが」
悲し気に瞳を曇らせた後、しっかりと戦兎と視線を重ねたダイヤは続けた。
「・・・もしわたくしにもその方と対立しなければいけない理由があって、尚且つ、その方を止める覚悟と、力がわたくしにあるのなら・・・・・・その時は決別してでも止めるのでしょうね」
戦兎に、と言うよりは自分自身に言い聞かせるかのように言の葉を紡いだダイヤは、どことなく高校生らしからぬ哀愁を漂わせている気がして。
大人びている、と言えばそうなのだが、彼女からはそれとはまた違う何かを感じた。
「・・・すげぇな、お前」
無意識の内にそう口にしていた。
冷やかしでも冗談でもなんでもない。純粋な所感。
「・・・・・・そうでしょうか」
「答える義務もねぇ質問答えてくれた奴に嘘なんかつくかよ。・・・・・・なんかうゆうゆしてる妹の方とは大違いだな」
本当にこの姉妹は似ていない。勿論良い意味で。
この姉にしてあの妹ありならば、あの妹にしてこの姉ありだろう。
「・・・それはどうも。・・・・・・ところで、妹と面識があるのですか? 先生に妹の話をした記憶はありませんが・・・」
「・・・ん? ああいや、お前の妹、今スクールアイドル部に顔出してるからよ。・・・知らねぇのか?」
「・・・・・・え・・・?」
知らなかった。と言うのは若干拍子抜けしたその顔を見れば伝わった。
てっきり体験入部は姉妹間で共有している情報かと思っていたが、案外家族の間でもそう言うのは話さないものなのだろうか。兄弟も家族もないので分からないが。
「・・・スクール・・・・・・アイドル部にですか・・・? ルビィが・・・?」
「・・・黒澤・・・?」
急に凛としていた声音が震え出したのを感じ、目の前のダイヤに意識を戻す。
「・・・え、あぁ・・・・・・すみません・・・」
はっと我に返ったように頭を振り、何度か深く息を吸い込むその姿は自分を落ち着かせているように見えた。
ただ驚いただけにしてはいささかオーバーな気もするその反応。だがまあ、本当に予想外だったというだけなのかもしれないし、特に気に留めずに流す。
「え・・・っと・・・・・・その・・・・・・どうでした? ルビィは・・・」
「見た目その通りの子供みてーに目ぇ輝かせてたよ。前々から練習してたっつーダンスの腕前まで披露してな」
日頃あれだけ弱々しい様子の彼女があれだけ溌溂になるほどなのだ。本当にスクールアイドルが好きなのだろう。
「・・・楽しんでいるのなら何も言う事はありませんわ」
穏やかで、どこか儚く見える微笑み。
その裏に秘めた感情を読み取ることのないまま、ダイヤは次の句を継いだ。
「・・・今・・・ルビィ達はどこで練習しているのでしょうか・・・」
紅に染まった空を目指すように、参拝者殺しとも呼ばれている淡島神社の階段を上る。
戦兎に聞くと、スクールアイドル部はこの時間帯になるといつもここ淡島神社の階段を駆け上って足腰を鍛えているそうだ。
その話を頼りに疲労で肩を揺らしながら祠のある頂上に辿り着けば・・・・・・彼女の姿はあった。
夕陽が差す中でもなお輝いて見えるその笑顔。ずっと憧れていたスクールアイドルの活動が出来た事が本当にうれしいのだろう。
「・・・・・・ルビィ・・・」
「え・・・お姉ちゃん・・・?」
「ダイヤさん・・・・・・なんで・・・?」
自分の存在を視認すると、嬉々とした顔が一変。驚嘆と、隠しきれていない落胆の色が伺えた。
恐らく自分に見られた事でこれ以上スクールアイドルの活動が出来なくなる・・・そう思っているのだろう。
「うゅ・・・その・・・・・・お姉ちゃんこれは・・・・・・」
「別に怒ってなんていませんわ」
口籠る妹に柔らかく笑いかける。
ずっと自分の存在が、過去が、彼女のスクールアイドルに対する思いを抑圧していたのだろう。
もしそれで彼女の可能性が縛り付けられていたとするのなら・・・解放してあげるのが姉の役目だ。
「・・・・・・楽しかった?」
問わずとも分かり切っているような事を敢えて問う。
この目で、この耳で、彼女の本心を感じれば、前に進める気がした。
「・・・・・・うん・・・!」
静かに、力強くルビィが頷く。
揺らいでいた覚悟を決めるには・・・それで十分だった。
「・・・・・・なら、貴方の信じたことを貫きなさい」
え・・・と、意外そうな顔をする妹に背を向け、たった今登ってきた階段を再び下る。
寧静で、勇猛で、狂気すら感じる覚悟を、翡翠の瞳に宿して。
「・・・・・・」
ぼんやりと月明りに照らされた庭へと、家の者に勘付かれないように出でる。
『・・・・・・返事は決まったみてぇだな・・・』
暗い夜の闇から這い出てきたように、紅い毒蛇が姿を見せた。
どうしてここにいるのか、何故自分の決心を知っているのか、そんな野暮な事はもはや聞くまい。
「・・・・・・ええ」
ずっと誰かに対して祈るばかりだった。
鞠莉ならスクールアイドル部を己の野望のために利用しないように。ルビィならそのスクールアイドル部に携わり、その野望に巻き込まれる事のないようにと。
自分で何か行動を起こし、現状を変えようともせずに。
「・・・縛られる義務も必要もない鎖に縛られず、あの子が翼をはためかせられるのなら・・・わたくしは何だって背負いますわ」
政府の動向の事や鞠莉の計画から生じる被害がどんな形でルビィに降りかかるか分からない以上、もう祈っていてばかりではいられない。
その結果が鞠莉の暴走、そしてルビィを縛り付けることとなっていたから。
行動を起こすべきは自分だ。例えそれが、悪魔に魂を売るような行為であっても。
だって、自分はあの教師に言ったから。
対立する覚悟と力があれば決別してでも止めると。
『・・・・・・・・・・・・いい覚悟だ』
《デビルスチーム!!》
「ぐっ・・・・・・ううぅぅぅぅ・・・・・・ッ⁉」
黒い短刀が振り下ろされた途端に黒霧が視界を包み、全身を襲った激痛に思わず身を屈める。
「・・・あうぁ・・・・・・く・・・うぅッ・・・・・・!」
身体中の血液が蒸発しているかのような、体内に溶けた鉛を流し込まれたような。そんな例えでも生温い、形容しがたい痛み。
辛い、苦しいといった感情が芽生え、その苦痛から逃れようと身体は意識を手放そうとする。
『・・・どうしたァ・・・? お前の覚悟ってのはそんなもんなのかよ・・・』
「っ・・・・・・!」
消えかける意識に割って入ったスタークの声。
それと同時に呼び起こされたのは、いつの日かの、妹の笑顔。
――――――お姉ちゃん!
「あっ・・・・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
発生した衝撃波によって激痛と黒霧が晴れ、再び夜空に浮かぶ月の光が目に届く。
視界が揺らぎ、痛みの余韻もまだ抜けきらないが・・・不思議と力が湧き上がってくる感覚がした。
『クク・・・・・・スマッシュ化する直前にハザードレベルを上げるたぁ・・・・・・俺の見込んだ通りだったよ』
愉快そうな笑いに視線を流せば、称賛の意を表するように拍手をするスタークが映る。
『そいつがお前の力だ。・・・ようこそ、˝ファウスト˝へ・・・』
投げ渡され、手の中に納まった一本の銀と紫のボトル。
それに施されたコウモリの意匠が月明りを受け、妖艶な光が怪しく灯った。
前回ナイトローグを出すといったな。あれは嘘だ()
そろそろスタークより作者の方が凶悪と言われてもおかしくないっすね…
それより続々と友達が闇落ちする果南ちゃんェ……
それでは次回で!