Build The Sunshine   作:がじゃまる

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今更ビルドドライバーとクローズドラゴンを購入した作者です


二十話 堕天使のホープ

 

 

 

「・・・津島さんが家に帰っていない・・・?」

 

「そうなの! 昨日ルビィ達と別れてから連絡も取れないって・・・・・・!」

 

 丁度日が水平線から顔を覗かせ始めた明け方。

 愛くるしい見た目に反した騒がしい足音で家に駆けこんできた妹は、血相を変えた顔でそう訴えてきた。

 

「・・・どうしよう・・・ルビィ達がちゃんと励ませなかったから・・・・・・」

 

「貴方は悪くありませんわ。・・・ですが一晩中帰って来ないとなるとやはり不安ですわね・・・」

 

「ルビィ、花丸ちゃん達と一緒に探してくる!」

 

 踵を返して外へ飛び出して行こうとするルビィを見て内心で笑う。ここまでは想像通りだ。

 

「ねえ、ルビィ」

 

 だが、一つ確認しなければいけない事がある。

 

「・・・なに・・・?」

 

 早く善子を探しに行きたいのか、次の瞬間には走り出していそうな程うずうずしながら次の言葉を待っているルビィ。それほど彼女を気に掛けているらしい。

 

「ルビィは、津島さんと一緒にスクールアイドルをやりたいと思ってますか?」

 

 ここが最も重要なポイント。

 ここが違えば、行動を起こした意味がなくなってしまうが・・・・・・この様子なら心配する事はないだろう。

 

 

「勿論! 一緒にいると楽しいもん!」

 

 よかった。

 これで心置きなく次の行動に移れる。

 

「なら、早く行きなさい。国木田さんや先輩方を待たせているのでしょう?」

 

「うん!」

 

 ぱたぱたと˝昨日どこかで見たような衣服˝を抱えて走り去って行った妹を見届けてから、自らもすくりと立ち上がる。

 

 これで自分も同罪。やっている事は鞠莉と同じだ。

 でも、これは自分で決めた道。

 

 後戻りはできない。もう自分は、引き金を弾いてしまったから。

 

 

「・・・・・・ょ―――つ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よい・・・しょ・・・」

 

 鞠莉の事で思い悩もうと日頃の習慣は変わらない。今日も日課のランニングを終え、朝も早くから開店の準備を進める果南。

 

「・・・・・・」

 

 昨日、父にそろそろ仕事に復帰できるかもという話をされた。

 父の怪我が治る事やようやく休学が明ける事は素直に喜ばしい事だが、それは同時に学校で鞠莉と顔を合わせてしまうという事になる。

 

 戦兎だって悩んだ末に彼女と向き合う事を決めたのだ。果南だっていつまでも目を逸らし続けてはいられない事は分かっている。

 

 けれど、人が変わってしまったかのような鞠莉と、どう接すれば―――。

 

『御免くださーい。ダイビングショップってここであってますかー?』

 

 思考を遮るように掛かった声。早く準備し過ぎたせいか、既に営業していると思われてしまったようだ。

 

「あ、すみません。まだ営業時間じゃ――――――ッ⁉」

 

 観光の客にしては随分と早い時間だなと思いつつ振り返り―――思わず身体をビクつかせる。

 

「アンタ・・・・・・!」

 

『おいおい。せっかく用事すっぽかしてまで会いに来たんだ。もう少し歓迎してくれてもいいんじゃねーのか?』

 

 ふらふらと緊張感もなく歩み寄ってくる紅い毒蛇はブラッドスターク。

 おかしくなってしまった鞠莉と共に何かを企んでいる、正体不明の怪人だ。

 

『・・・まあ、どうせ歓迎されようがされまいがやる事は一緒だからいいんだけどな』

 

 口にされた不穏な意図に本能的な恐怖を覚え、少しずつ距離をとるように後退する。

 そんな果南が面白いのか、愉快そうに笑って見せたスタークは―――。

 

『・・・注射はお好きかな?』

 

「え・・・・・・ッ・・・・・・⁉」

 

 何気なく振るって見せた奴の腕から触手が伸びたと思った刹那、突き刺さるような鋭い痛みと共に˝何か˝を流し込まれる感覚が首元に走る。

 

「あ・・・・・・ぅ・・・・・・・・・」

 

 それを痛いと思えたのも束の間。

 ぐらりと視界が揺らいだ直後、自分が地面に倒れ込んだ事を認識した時には既に意識は暗闇の中にあった。

 

 

『・・・よっこらせ・・・と』

 

 自らの毒で昏倒させた少女を担ぎ上げ、自らの身体をトランスチームガンから噴出した黒霧で包み込むスターク。

 

『・・・クク・・・・・・アイツもうまくやってる頃かねぇ・・・』

 

 吹き付けた潮風に乗り、霧散していった霧の中に毒蛇の姿はもうない。

 静かな海辺に、奴の邪悪な声音だけが溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウ・・・アアアァァァァ・・・!』

 

「・・・妙だな・・・」

 

 探知レーダーに引っ掛かったスマッシュを発見したまではよかった。

 だが不思議なことにこのスマッシュ、視界に入っているはずの戦兎に反応する様子がない。

 自我のないスマッシュの性質上、視界に入った動くものは本能的に攻撃を加えるはずなのだが・・・。

 

「ま、どうであろうと倒させてもらうけどな」

 

《ラビット!》

 

《タンク!》

 

 

《ベストマッチ!》

 

 

 手早くボトルを装填したビルドドライバーのレバーを回し、赤と青の装甲を形成。

 

《Are you ready?》

 

「変身!」

 

 

《鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イエェェイ!》

 

 

「おらっ!」

 

『アアアァァァァッ・・・・・・⁉』

 

 ガンモードで展開したドリルクラッシャーの銃口をゴツゴツとした氷のような外殻を纏った青いスマッシュ―――アイススマッシュに向け、トリガーを弾く。

 

『ウ・・・ゥ・・・・・・アァァァ・・・・・・』

 

「・・・って、あり?」

 

 確かに銃弾は命中し、ダメージだって与えた。

 だがアイススマッシュはそれでもビルドを気に留める様子もなく、ふらふらと全く別の方向へと歩き去って行こうとしてしまう。

 

「・・・何だコイツ・・・・・・でもまあ、倒しやすくていいか」

 

 倒し易いに越した事はない。戦意がないというのなら有難く倒してボトルの成分になってもらうとしよう。

 

《Ready Go!》

 

《ボルテックフィニッシュ!》

 

 アイススマッシュを拘束した数式の頂点から放物線を描いて急降下。

 そして今まさに最高威力の伝わる角度で繰り出されたビルドのキックが直撃せんとした、その時だった。

 

 

『――――今倒されてしまっては困るのですがね』

 

 

 突如として耳朶に滑り込んだ声。

 その声に釣られ、スマッシュに向いていた意識が僅かながらも逸れた瞬刻―――、

 

《バット!》

 

《スチームアタック!》

 

「がああぁぁッ・・・・・・⁉」

 

 いつの間にか迫っていた紫色の光弾が直撃と共に炸裂。それまで推進力の働いていた方向とは九十度真横に数式ごと吹き飛ぶ。

 

「なん・・・・・・だ・・・?」

 

 素早く起き上がり、周囲を確認する。

 日が顔を出した直後でまだ少し薄暗い街の景観。その中の一点、住宅の屋根の上に佇む黒い影に戦兎は視線を向けた。

 

『初めましてですね。仮面ライダーさん』

 

 楽々と屋根から地上に着地してみせたその姿は、蝙蝠。

 漆黒の身体や装甲の形状などで所々奴とは異なるものの、どことなくあのブラッドスタークを彷彿とさせる外見は、戦兎の警戒心を引き出すには十分だった。

 

「・・・誰だお前・・・」

 

『・・・誰、ですか・・・。そう言えば名前を決めていませんでしたね。次会う時にまで考えておきます』

 

「何訳分かんねーこと抜かしてん・・・だッ!」

 

 スマッシュとの戦闘を妨害してきた辺り少なくとも味方ではない。

 先程のお返しだ。そう言わんばかりにドリルクラッシャーのトリガーを絞って銃弾を発射するも、奴の持つ短刀が描いた剣閃によってそれは防がれてしまう。

 

『こちらから仕掛けておいてなんですがあまり争い事は得意ではないので。出来れば貴方と戦うのは避けたいのですが』

 

「はあ・・・?」

 

 澄ました口調で敵意の無いように見せかけているが、奴が防御に用いたバルブの付属した剣と、反対の手に握られた怪しげな銃はスタークと同じもの。

 

 コイツはスタークの仲間。つまり敵だ。

 

「ご生憎様、喧嘩売られて黙ってられるほど出来た人間じゃないんでね!」

 

『・・・正義のヒーローだと言うからどんな方だろうと思っていたのですが・・・意外と血気盛んなようですね』

 

 やれやれと肩を竦める蝙蝠目掛けて地面を蹴る。

 振り下ろされたブレードモードのドリルクラッシャーと奴の持つ黒い剣―――スチームブレードが衝突し、金属音を鳴らす。

 

『・・・まあいいでしょう。少し戦闘に慣れておくのも今後のためです』

 

「そうかよ! ハアァァ!」

 

 そう言うや否や、ビルドの繰り出した横薙ぎの一撃を流水のような滑らかな動きで回避してみせる蝙蝠。

 しつこく何度も放った追撃も、尽くその動きの前に空を切ってしまう。

 

『躱すだけなら意外と私でも出来るものなのですね』

 

「くっそ・・・舐めやがって・・・!」

 

 空手や合気道のような、何か武道の心得でもあるのか。

日本舞踊でも舞うかのように攻撃をいなすその姿には何かしらの型を感じる。

 

「ならコイツでどう・・・だッ!」

 

『ぐっ・・・!』

 

 回避され続ける剣戟の合間を縫うようにして左腕に握ったホークガトリンガーから打ち出した銃弾が奴の胸元で火花を散らす。

 大したダメージにはなってないだろうが、一瞬。

 

 奴が怯んだその一瞬に全力の一撃を叩き込めばいい。

 

《Ready Go!》

 

 予めソケット部分に突っ込んであったラビットフルボトルの成分を纏い、ドリルクラッシャーの刀身が赤いエネルギーを纏って高速回転を開始する。

 

 そのエネルギーの行き先は―――当然、

 

《ボルテックアタック!》

 

「オオォラアァァァァッ!!」

 

『ああぁッ・・・・・・⁉』

 

 閃光が迸る。

 殴打に近しい威力の籠った一閃をモロに受け、盛大に胸元を掻っ捌かれた蝙蝠の黒い身体が勢いよく吹き飛んだ。

 

『っ・・・! 流石にっ・・・敵いませんかっ・・・・・・!』

 

「何が目的かは知らねーけど・・・・・・」

 

 痛みを緩和するように肩を荒げる蝙蝠の上を取り、切っ先をその首元に突き付ける。

 

「・・・・・・何をした」

 

『はい・・・?』

 

「アイツに・・・小原鞠莉に何をした・・・・・・知ってんだろ!」

 

 コイツがスタークと繋がっているのなら、何か知っている可能性が高い。

 スタークの目的は何か。鞠莉に何があったのか、どうしてああなってしまったのか。

 知りたかった事実をコイツは握っているかもしれない。

 

『・・・⁉』

 

 驚いたように揺れる肩。

 この反応ならば、間違いはないだろう。

 

『何故貴方が鞠莉さんの事を・・・・・・?』

 

「・・・! やっぱ何か繋がって――――――」

 

 そのまま無理矢理にでも白状させようと剣束を強く握り直した瞬間、少し離れた場所で何かが砕けるような音が上がる。

 

「なんだ・・・?」

 

『・・・・・・どうやら来たようですね』

 

 気が逸れた隙を突いて体勢を立て直した蝙蝠が目元のグラスを明後日の方角へ向ける。

 その先で見たものは、先程まで何の危害も加える様子が無かったにも拘らず、急に叫び声を上げて暴れ始めたアイススマッシュの姿と―――、

 

「っ・・・! 高海・・・⁉」

 

 とても町中で着るようなものではない黒と白のゴスロリを身に着けたみかん髪の少女。

 スマッシュを前に逃げる様子も見せずに立ち並んでいるのは、紛れもなく高海千歌の姿だった。

 

「何でここに・・・・・・てか何で逃げねぇんだ・・・?」

 

『知っているからではないですか? あの怪物の正体が彼女の探し人だと・・・』

 

「なに・・・?」

 

 そういえばと昨夜から帰宅していない生徒がいると教員内メールで話題になっていた事を思い出す。

 確かその生徒は、いなくなる直前までスクールアイドル部と共にいたという―――、

 

「アイツ・・・・・・津島か⁉」

 

『・・・彼女の事まで知っているのですね。ならついでに、あの子とそのお友達に情報を流してスマッシュと接触するよう仕向けたのも私だと明かしておきましょうか』

 

 飄々と告げられる事実。

 やはりコイツ、見た目に違いはあってもやる事はスタークの野郎と同じだ。

 

『早く倒した方がいいのでは? あのスマッシュ、見境なく攻撃しない代わりにあのような衣服に対する反応が過剰なようですから、彼女達が危険ですよ?』

 

「っ・・・! よくもまあいけしゃあしゃあと・・・・・・!」

 

 この蝙蝠をぶっ飛ばしてやりたいのは山々だが、暴れ出した以上アイススマッシュを放置する訳にもいかない。

 おまけに今はその標的になりそうな生徒もいる。この場においてはスマッシュの撃破を優先せざるを得ない。

 

《ライオン!》

 

《掃除機!》

 

 

《ベストマッチ‼》

 

 

《Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

 

《たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イエェェイ!》

 

 

 獅子の獰猛さと掃除機の精密性を併せ持った装甲へと姿を変え、千歌に襲い掛からんとするアイススマッシュの前に立ち塞がる。

 

『ウアアアァァァァ!』

 

「うおっ⁉」

 

 蝙蝠の言葉の通り千歌の着ているゴスロリに対しての過剰反応故か、先程までとは打って変わった凶暴さをもって行く手を阻むビルドに襲い掛かってくるアイススマッシュ。

 

 あの衣装はあの痛々しいPVで用いられていたもの。あの時善子はノリノリでアレを身に着けていたはずだ。とすると、

 

(鞠莉の奴が原因か・・・)

 

 PVの件で善子を責めていたのは鞠莉ただ一人。

 その時自分や、自分の趣向に対する嫌悪感でも抱いてしまったのか。スマッシュになった今でもそれは消えず、破壊衝動として残ってしまったらしい。

 

「アイツ余計な事言いやがって・・・・・・!」

 

 色々とぼやきたい事はあるが、とにかく今はコイツの撃破だ。

 突進しながら吐きかけてくる冷気をクリーナーで吸引し、そのエネルギーを燃え盛る獅子の炎へと変換する。

 

《Ready Go!》

 

「フゥッ!」

 

『グウゥ・・・⁉』

 

 チャージを終了させた直後。切り返しの水平回し蹴りを貰い悶えるアイススマッシュ。

 

 その隙だらけの姿目掛けて―――解き放つ。

 

《ボルテックフィニッシュ!!》

 

『ウ・・・・・・アアアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 吹き上がった爆炎の中に倒れ込んだスマッシュにエンプティボトルのキャップ部分を向け、成分を吸収。

 抜け落ちた成分と共に怪物としての肉体が消え去り、目を閉じたまま横たわる津島善子が姿を現した。

 

「・・・! 善子ちゃん!」

 

 善子が元に戻るや否や瞬時に駆け寄った千歌がその身体を抱き上げる。

 

「善子ちゃん! よーしーこーちゃーん!」

 

「ふぅ・・・ん・・・?」

 

 あんまりにしつこく揺さぶられたせいかすぐに目を覚ました善子は、現在自分の状況がよく理解出来ていないと言った様子で周りを見渡している。

 

「よかったぁ・・・。変なメールが送られてきたから皆で手分けして探してたんだよ?」

 

「・・・探してた・・・・・・って!」

 

 そんな彼女が真っ先に反応を見せたのは千歌でも、ビルドでもなく、律儀に今の戦闘を眺めていた蝙蝠だった。

 

「アンタは・・・!」

 

『おはようございますヨハネさん。お目覚めの気分は如何ですか?』

 

 言動からして間違いなく彼女をスマッシュにしたのはコイツだろうに、悪びれもせず朝のご挨拶。

 しかも例の痛々しい自称まで用いているのが嫌味ったらしい。

 

「最悪よ・・・。それとヨハネって呼ばないで。・・・もう卒業するって決めたから・・・・・・高校生にもなってみっともないし・・・」

 

 不貞腐れるようにして顔を逸らす善子。

 スマッシュ変貌時に好んでいたゴスロリ衣装に過剰反応を見せたのも本人が堕天使を拒絶し始めていたかららしい。

 

 だが、その表情はどこか辛そうに見える。

 

『・・・そうですか・・・。でも、貴方のお友達はそうは思っていないようですよ? こうして貴方を探しに来たのも、ある事を伝えるためでしょうし』

 

 そんな彼女の心情を見透かしていたのか、焚きつけるような、それでいて励ますように語り掛ける。

 その視線が向いた先は―――千歌だった。

 

『でしょう?』

 

「・・・どういうこと?」

 

 奴に釣られ、善子と、ついでに戦兎の視線も千歌に流れる。

 彼女が素面で町中が着るには少々ハードルの高い服を着て善子を探していた理由。それは―――、

 

「あ・・・これ今言った方がいい感じ? 皆が来てからにしようと思ったんだけど・・・」

 

 意図は汲んだのだろうが、どこか締まらない調子で善子に顔を向けた。

 

「えっと・・・おっほん! 津島善子ちゃん・・・いや、堕天使ヨハネちゃん。Aqoursに入ってくれませんか?」

 

「「・・・はぁ?」」

 

 善子のみならず戦兎からも抜けた声が漏れる。

 それもそうだろう。昨日散々鞠莉に怒られたのは彼女の堕天使芸が原因だろうに。

 

「・・・自分が何言ってるか分かってるの? 私がいたら、また・・・」

 

「いいんだよ。善子ちゃんは堕天使で。自分が好きならそれでいいんだよ」

 

 屈託なくそう語る千歌からは、偽善でもなんでもない。ただ純粋に善子とスクールアイドルがしたい。自分の思うように羽を広げて欲しい。そんな気持ちが伺えた。

 

「・・・だめよ・・・・・・。私はもう―――」

 

『いいのですか? その手を取らなければ、貴方はずっと窮屈に、自分を偽り続ける事になりますよ?』

 

 拒もうすると善子だったが、割って入った蝙蝠の声に言葉を詰まらせてしまう。

 変わらなきゃと言い聞かせてはいても、やはり本心には理想の自分で振舞っていたいという想いは残っているらしい。

 

「私ね、誰にどう思われるとかじゃなくて、自分が一番好きな姿で輝いている事が大事だと思うんだ」

 

「・・・・・・」

 

 そんな善子に語り掛ける千歌に、以前も見た光景が重なる。

 

これをする事で何か得を得る保証なんてないのに。むしろ不利益を被る可能性すらあるのに。

 どうして彼女は、それでも誰かの助けになりたいと思えるのか。

 

「だから私は善子ちゃんに堕天使でいて欲しい。善子ちゃんに堕天使が好きだっている気持ちがある限り」

 

 千歌はただ純粋に、伝えたかっただけ。

 梨子の時で言えば、また大好きなピアノに向き合えるようになって欲しい事を。善子に対してはありのままの自分でいて欲しい事を。

 

―――――・・・多分、千歌にそんな事はどうでもいいんだよ。見返りを求めたら、それは手助けでも力になる事でも何でもないって

 

 きっとAqoursに勧誘するのだって、千歌が自身のスクールアイドル活動に彼女達を利用したいからではない。

 彼女達に、輝いて欲しかったから。

 

 

「善子ちゃん。一緒に輝こうよ。堕天使ヨハネとして、Aqoursで!」

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・それでいいのです』

 

「っ・・・、おい。ちょっと待て!」

 

 善子が千歌の手を取ったのを見届けてから満足そうに立ち去ろうとする蝙蝠を引き留める。

 

「なんか一仕事したみてーな雰囲気出してっけど・・・、こっちは聞きたい事が山ほどあるんだよ」

 

 何故コイツが善子をスマッシュにし、彼女をスクールアイドルの道に踏み込むように仕向けたのかは知らないが、現状それはどうでもいい。

 今戦兎にとって大事なのは、コイツが鞠莉がおかしくなった理由を知っているかもしれないという事だ。

 

『あぁ・・・そうでしたね。では迷惑料代わりに一つお教えしましょう』

 

 いちいち言い回しが鼻につくが、イラっと来るのを抑えて次の言葉を待つ。

 そして、奴の口から語られた事は―――、

 

 

 

『・・・鞠莉さんは―――――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子がAqoursに入ったって・・・・・・どういう事よ‼」

 

 鞠莉の怒号と叩かれた机の立てた音が放課後の理事長室を揺らす。

 彼女の怒りの原因は・・・言うまでもなく机に置かれた津島善子の入部届だ。

 

「わたくしがそうなるように仕向けたのですわ。これ以上、あの子達が貴方の敷いたレールの上を進まないように」

 

 鞠莉とは対照的に冷たい雰囲気を纏ったダイヤが淡々とそう告げる。

 

「なんで・・・? ダイヤはここがどうなってもいいの⁉」

 

「どうなってもいいだなんて言ってませんわ。ですが、ルビィを利用するようなやり方をわたくしが許すとでも?」

 

「ダイヤが許すとか許さないとかなんて関係ない! ちかっち達にはどんな手を使ってでも成功してもらわないと困るの‼」

 

ヒステリックに散らされた声を受け、感情の温度がさらに下がっていくのを感じた。

 やはり、もう彼女は親友だった頃の小原鞠莉ではない。

 

「・・・そうですか・・・・・・分かりました」

 

 今の彼女がとある要因で歪んでしまっている事は分かっている。それを取り除けば元の優しい鞠莉に戻ってくれるのだろう。

 けれど、そんな術は分からず、見つけ出す時間ももうない。

 

 だからこそ、自分がこうするべきなのだ。

 

「なら・・・・・・これがわたくしの答えです」

 

《バット!》

 

 手のひらに収めていたボトルを数回振り、衣服に忍ばせていた漆黒の銃のスロット部分に装填。

 

「それ・・・って・・・・・・」

 

「今この瞬間をもって、わたくしは貴方との提携を破棄しますわ・・・・・・・・・これからはわたくしのやり方でやらせて頂きます」

 

 これが、黒澤ダイヤの、覚悟だ。

 

「蒸血・・・!」

 

《ミストマッチ!》

 

 引き金を振り絞り、噴出させた黒い霧を纏うかのように自身の身体を包み込む。

 

 

 

《バット・・・バッ・・・バット・・・・・・・・・ファイヤー!》

 

 

 

「・・・ダイ・・・・・・ヤ・・・・・・・・・?」

 

「ああ・・・そういえば名前を考えなければいけないのでしたね・・・・・・」

 

 何度も花火のような爆発を起こす霧の中で変貌していったダイヤの姿は―――蝙蝠。

肩部から伸びたパイプから迸発する火花が散るその中、漆黒の怪物は目元のグラスを愕然とする鞠莉の方へと向けた。

 

 

 

「そうですね・・・・・・ルビィが明るい世界を進むのなら、わたくしは暗い闇夜の世界のならず者――――――ナイトローグとでも名乗りましょうか」

 

 

 




はい。という訳でBuild the Sunshineのナイトローグ枠は黒澤ダイヤさんとなります
善子をスマッシュにするわなんか不穏な事言い残すわでいいヒールしてますね()
目の前で蒸血するところを見せつけられた鞠莉さんは一体どんな行動にでるのやら…


そしてダイヤさんの影に隠れてますがスタァァァァァァァァクッッッ!!!!


不安要素しか残さず終わりますが、それでは次回で!
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