浦の星女学院がネビュラガスを用いた襲撃を受けた放課後。
当然授業はそこで中断され、今は政府の調査機関が入っている。こんな立て続けに事件が起これば浦女に政府の使いが派遣されるのも時間の問題だろう。
「・・・嘘だ」
学校が臨時休校となったので放課後に予定されていた部活も中止。それ以前に部員も活動できる状態ではなかった。
千歌、ルビィ、花丸はガスに当てられ完全にグロッキー。以前ガスを注入された善子や体力のある曜ですら不調を訴えていた。それほどの濃度だったという事だろう。
「そんなはずない・・・だってダイヤが鞠莉を殺した連中の仲間なんて・・・・・・」
「だってもへちまもないわ。この目で見たんだから事実だ」
で、まあ。何故今果南が駄々を捏ねる子供のようにつんけんしているかという話だが。
原因はダイヤの件。親友の事となれば知っておいた方がよいと判断し伝えた結果今に至る。
「だって! ダイヤがそんな奴等と手を組む理由ってなに!?」
「わーきゃー騒がれたって俺が知る訳ないだろ・・・・・・どうしても知りたいってんなら」
突っかかってくる果南と同じタイミングでメッセージを受信し鳴り始めたビルドフォンを手に取り、送り主を確認した数コンマ後に彼女の方へと向ける。
「・・・・・・自分の目と耳で確かめろ」
液晶に表示された文字は黒澤ダイヤ。この先更なる波乱を引き起こす、少女の名だった。
「・・・・・・本当にやる必要があったのか?」
「んにゃー? どしたの京香―?」
だらりと寝そべって怠惰とスナック菓子を貪り、仮にも国家転覆を目論む組織の幹部とはかけ離れた雰囲気を醸し出す紫苑に眉を寄せた顔を向ける京香。
「黒澤ダイヤの事だ。彼女はお前と違ってしっかりとした人格者だ。お前と違ってな。・・・・・・パンドラボックスの光を浴びせることで生じるデメリットは考えなかったのか?」
「ノンノン。分かってないな京香―。メリットの方が大きいからやったに決まってんじゃん。いくらあたしでも一時の感情に身を任せてあんな事しないよー」
「しかし・・・・・・小原鞠莉の例を考えるとだな・・・・・・」
「まあ心配になる気持ちも分からなくはないけどねー。でもまあ見てなって、きっと期待以上の結果を出してくれるから」
迷いのない邪悪な笑顔でそう答えると、それを保ったまま身体を起き上げ、ここにはいない誰かに向けて紫苑がぽつり。
「さぁてと、どう動くかなぁ・・・・・・松浦果南ちゃん・・・」
顔と家柄だけはいい硬度十の堅物生徒会長・・・・・・それが彼女への第一印象だったか。
正直それに関しては今も変わっていないしこれからも変えるつもりはない。
融通が利かず細かい上に厳しく、事あるごとに口を尖らせて突っかかってきて、その癖自分は少し抜けてるところがあって。
でもそんな彼女は数少ない遠慮せずに本音をぶつけられる人間であり、その時間は決しって悪いものではなかった。
だからこそ―――、
「・・・・・・お前とはこんな事にはなりたくなかったんだがな・・・・・・・・・・・・黒澤」
さざ波が立つ海辺の潮臭さの中、普段の制服姿ではない、黒い外套のような布を纏った少女に哀愁の眼を向ける。
いくら否定しようがこれは現実。変えようのない事実。目の前に立っているのは黒澤ダイヤ本人なのだ。
「思い出話は結構です。指定したものは持ってきて頂けたでしょうか? 三海先生」
「・・・コイツだろ」
かしゃり、と、懐に忍ばせていた十数本のフルボトルが音を立てて海辺の砂を叩く。
突然連絡を寄越したダイヤ要求してきた代物がこれ、先日戦兎から奪い損ねたフルボトルだった。
「・・・・・・嘘でしょダイヤ・・・」
嫌な緊張の走る戦兎とダイヤの間に割って入る第三の声。
ダイヤはその主である果南を見やると、鬱陶しそうに溜息をついた。
「・・・何か、理由があるんだよね・・・? ダイヤが自分からあんな奴等と一緒にいる訳・・・・・・」
「理由もなしにこんな所にいるはずがないでしょう? ・・・・・・けど、ファウストにいるのは正真正銘自分の意志。わたくしが選んだことですわ」
迷いなくキッパリと言い切ったダイヤに、果南の顔が絶望に染まるのが伺えた。
無理もない。ずっとすれ違いながらも想い続けていた鞠莉を失った心の整理が出来ていなかった矢先に、もう一人の親友であるダイヤが彼女の殺した連中と同じ組織に身を置いていたとなれば、その心情は想像に難くない。
「・・・お前、何があった」
昨日ナイトローグとしてビルドに挑んできた時のダイヤには迷いがあるように見えた。だが今はそんな影を微塵も感じさせない。
例え一晩の内に覚悟を固めたのだとしても、昨日の今日で変貌し過ぎだ。
「目が覚めたんです。今までのわたくしは甘すぎましたわ」
まるで人格そのものが黒澤ダイヤという基軸を残して別物に成り代わったかのような・・・・・・そんな感じがする。
「・・・まあともかく。ボトルを持ってこいって言うお前の要求は聞いてやったんだ。あとは俺の好きにやらせてもらう・・・・・・お尻ぺんぺんの刑だこの問題児が!!」
《Are you Ready?》
「そうですわね・・・きっちり決着をつけてからボトルを頂戴するとしましょう」
《ミストマッチ!》
「変身!」
「蒸血」
《鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イエェェイ!》
《バット・・・バ・・・バット・・・! ファイヤー!》
胸の奥で生じた不安を押し殺すように仮面ライダービルドへと変身。続けてダイヤもナイトローグへと姿を変える。
「っ・・・!」
スタークと酷似した怪人へと変貌したダイヤに、またも果南の顔が絶望と戸惑いに歪む。
それを傍目に流し、ビルドとナイトローグ。両者の拳が激突した。
「なあお前、なんでそっちについた」
せめぎ合うドリルクラッシャーとスチームブレードが火花を散らす中、ビルドの装甲の下から戦兎が零す。
「・・・三海先生もわたくしの決断を否定するおつもりで?」
「別に何が正しくて何が間違ってるかを論じるつもりはねーよ。・・・ただ、お前みたいなクソ真面目ちゃんが如何にも悪の組織ですよ感丸出しな連中に味方するくらいだし、相当の訳があるんだろうなと思ってな」
剣戟の合間を縫いつつ言葉を続ける。
浦の星女学院一番の真面目ちゃんは?と聞けばほぼ全員が名前を上げる黒澤ダイヤ。彼女の正義感が強いことは知り合ってさほど日の経っていない戦兎でも分かる。きっと今の自分がやっていることの是非など彼女が一番分かっているはずだ。
それでもなお彼女にその道を突き進ませるのは、何か強い、脅迫概念のようなもの。
「・・・・・・・・・妹か」
「っ・・・!」
その指摘に、正確無比だった剣線に乱れが生じる。
「・・・ビンゴか」
その隙を縫う刺突でスチームブレードを弾き飛ばし、続けて喉元へとその切っ先を向ける。
「やっぱりな。だろうとは思ったよ。お前が私利私欲でスタークなんかと組む訳がねぇし、アイツ等の所業とくれば尚更だ。全部あの妹のためにやってんだろ」
そう言及する戦兎の後方で果南の表情から少し緊張が抜けたのを確認した。ダイヤの事を信じたい彼女にとっては気休めでもなんでもいい、不安を和らげる材料が欲しかったのだろう。
「・・・ええ。そうですわ。確かに今わたくしがこうしているのはルビィのためです」
だが、その後に続いたダイヤの返答はそんな安堵を打ち壊すもので。
「・・・・・・けど勘違いなさらないでください? これは立派に、わたくしの欲望でもあるのですから!!」
トランスチームガンに持ち替えたナイトローグから銃弾が打ち出される。
その一発は気の緩んだビルドの隙のみならず、果南の願望までもを打ち抜き、着弾と共に破裂。
「誇れるものではないとはいえ、生徒が覚悟をもって道を進んだのならその背中を押すのが教師というものではなくて?」
「生憎俺はんな御大層な教師じゃなくてね・・・俺の面倒事になる時点で有罪だゴラ」
「あらあら、手厳しいのですね」
「世間ではよくないとか抜かしやがるが、俺は折檻のための体罰なら全然アリアリだと思っててな。やっていいか?」
「・・・・・・その割には随分と手を抜いていらっしゃるようですが」
攻防の間をくぐり抜け、伸ばされた手刀がドリルクラッシャーをビルドの腕ごと弾く。
「・・・やはり教え子に手を上げるのはさしもの三海先生といえ気が引けるのでしょうか?」
《フルボトル!》
《スチームアタック!!》
開けた懐へ金剛石の奔流が直撃。装甲に紫電を走らせながらビルドが吹き飛ぶ。
「へっ・・・ダイヤだからダイヤモンドってか・・・・・・洒落込むじゃねーの!」
《Ready Go!》
《ボルテックブレイク!》
起き上がり様に拾い上げたボトルを突っ込み、即座に発射。
あれだけの大技となれば連射は難しいはず。トランスチームガンを弾いて武器をなくせばどうとでも―――、
「・・・甘いですね。貴方は・・・」
「っ・・・!」
ビルド同様にナイトローグが拾いあげたのは、先程弾き飛ばしたはずのスチームブレード。
まさか即座にそれを拾えるように位置を計算しながら戦っていたとでもいうのか。
《エレキスチーム!》
電撃を纏った一閃によりドリルクラッシャーのエネルギー弾は真っ二つに割れ、黒い蝙蝠の両サイドで爆散。
その風圧に靡かれつつ、ナイトローグは連結させた自身の獲物に更なるボトルを差し込んだ。
《ライフルモード!》
《バット!》
《スチームブレイク!!》
先撃の倍は膨れ上がっているであろう光弾が猛進し、ビルドを飲み込まんと迫る。
回避が頭を過るが、その場合真後ろの果南に―――、
「が・・・あぁぁぁぁぁ・・・・・・ッ!!」
受け止めきれずに薙ぎ払われたビルドがそのまま吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がりながら変身解除。
顔を上げれば遠慮する気はないといった様子のナイトローグがこちらに歩み寄り、ボトルと共に命すらも奪わんといった雰囲気を醸し出していた。
「気に揉むあまり本気になれない・・・それが甘さですわよ先生。・・・・・・まあ、わたくしが言えた口ではないのでしょうが」
ナイトローグの正体がダイヤと分かってしまってから、どうにも奴に対し力が出し切れない。
鞠莉と同じような目を見るのはもう御免だった。
「逃げられては困りますし、おしゃべりもここらにしてそろそろボトルを―――」
「ダイヤッ!」
這い蹲りながらもボトルを回収しようとする戦兎からそれを奪おうと迫ったナイトローグを抱き留めようとする果南。
「ダメだよダイヤ・・・どんな理由でもこんなこと絶対ダメ!」
「・・・放してください果南さん。敵対することになってしまったとはいえ貴方にまで手を上げたくはありません」
「絶対放さない! 目を覚ましてよダイヤ! 何をしたいのかは分かんないけど、こんなやり方間違ってるよ!」
「・・・・・・そうですか」
鞠莉の時の教訓からなのか、ハッキリと余すことなく自分の気持ちをぶつけた果南の言葉を受けてナイトローグの足が止まる。
思い直してくれたのか、そんな期待を孕んで回した腕に込める力を緩めた果南の想いは――――――またも打ち砕かれる事となった。
「・・・・・・貴方も同じですのね」
「ダイヤ・・・―――――うぶッ・・・・・・!?」
「松浦・・・!」
ノーモーションで放たれた掌底が鳩尾を捉え、一気に脱力した果南が崩れ落ちる。
「かは・・・っ・・・・・・ぁ・・・・・・!」
「・・・結局皆そう。果南さんも、鞠莉さんも。誰もわたくしのことなど理解しようとしないのですね」
蹲る果南を見下ろすナイトローグのマスクの裏で、ダイヤが冷徹な瞳をしているのは見えずとも理解出来た。
その姿はどことなく・・・・・・歪んでしまっていた鞠莉と重なった。
「もういいです。三海先生、早くボトルを渡してください。・・・こちらには人質もいますので、賢明なご判断を期待しますわ」
彼女を見限ったのか対応が一変。まるでモノとして扱うかのように果南のポニーテールを掴み上げたナイトローグが側頭部に銃口を突き付ける。
「・・・・・・おいおい。友達人質に取るとか生徒会長の風上にも置けないんじゃねーの?」
「・・・わたくしは本気ですわよ」
「ぁぁあッ・・・ぐ・・・ぅ・・・!」
一切の躊躇もなく一度痛めつけた鳩尾を蹴り上げるナイトローグに軽口など叩いている場合ではないと悟る。
今のダイヤは正気じゃない。もし次を断れば果南に何をするか・・・・・・、
「・・・・・・わかったよ」
ビルドドライバーに差していた二本も含め、所持していたボトルを全てナイトローグへと放る。
四の五の言っていられなかった。それが自分のせいで何度傷付けたかも分からない果南とくれば以ての外だ。
「理解が早くて助かりますわ」
ボトルと交換するように果南を戦兎の方へと投げ、既に彼女への興味は無くなったとでもいうように散乱した目的を回収。
その全てを手に持ったパネルに填め込むと、用は済んだのか銃から噴出した煙に紛れ消えていった。
「・・・ダイ・・・ヤぁ・・・・・・!」
姿を消した親友へ向けた果南の声は、虚空の中さざ波の音に掻き消された。
完全に悪役と化してますねダイヤ様……
そして紫苑がダイヤさんにパンドラボックスの光を浴びせた真の狙いは果南……?
んでボトルは˝ある一本˝を除いて全部奪われちゃった訳で、果たして収集つくのやら……
それでは次回で!