白い死神   作:フラット床

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プレッシャーをかけるため連続投稿です。


1話

カーテンから漏れた光が顔にかかる。ついさっき止めた目覚まし時計の時刻は七時前。血の巡りが悪い頭で記憶を掘り起こす。

何かに襲われていたような気がする。いや、あれは夢だろう。ここは私の部屋で私は倒れ伏す少年ではない。そう…今日は平日だ、学校がある。

意識が完全に覚醒した。まだ母は起こしに来ていない。自分が朝に弱いことを考えれば珍しい。

頭痛がする。いつものことだ、深くは気に留めない。気にしなければ忘れる程度の弱い痛みだ。

眩暈なんかもないし体に痛みもない。

なかなか調子が良い。そこばかりはいつも通り気怠い低血圧の体をベッドから起こし、支度を済ませてリビングへと向かう。

「あら、おはよう。今日はひとりで起きられたのね。」

「おはよう、お母さん…私だって自分で起きるつもりはあるんだから。」

母からの口撃(ジャブ)を適当にいなす。あるけれど言うことを聞かない体が悪い。

そんなことを考えつつ食事の配膳を手伝っていると父と兄、姉が朝の稽古――父は古武術の師範であり兄達は指導を受けている――から戻ってきた。他愛のない会話を交わしつつ朝食を摂り学校へ行く準備をする。

「それじゃあいってきます。」

いってらっしゃい、と掛けられる声に軽く手を振りつつバス停まで歩く。今日は本当に調子が良い。普段はギリギリで到着する所を五分も前に着いてしまった。待つというのが新鮮なくらいだ。いつになく穏やかな気分で通学バスに乗り込む。

「おはよ、珍しくギリギリじゃないのね。」

「なのはちゃん、おはよう。」

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん。今朝は早めに起きられたからね。」

「自分で起きたってこと?…今日は雪でも降るんじゃない?」

「アリサちゃんは私を何だと思ってるのかな?」

アリサ・バニングスと月村すずか、私の友達だ。三年目ともなれば付き合いは長いと言えるだろうが…

そんなに私が朝に余裕を持っているのはおかしいことだろうか?……おかしいかもしれない。バス亭へ焦らなかった朝は記憶に数えるほどしか無い。

「遅刻しないのが不思議なくらいの寝坊助少女が何か言ってるわ。」

「…何でもないです…」

 

*

 

特に問題も無く授業は終わった。放課後だというのにいつになく元気が有り余っている。やはり身体に不具合が無いと言うのは良い。一日心穏やかにすごせた。

『…助けて…』

「………」

すごせていた。

今のは気のせいでは無い…と思う。確かに声のようなものが聞こえた。アリサとすずかは習い事があるので先程別れたし、そもそも鼓膜を震わせる音ではなかった。身体のことを考えればあまり一人でふらふらするべきではないが、幸い頭痛は鳴りを潜め気怠さも無い。それほど離れている感じはしないし、助けを求めているのに無視するのも寝覚めが悪い。

『助けて……誰か…』

なんとなくそれらしい方向へと向かう。つい最近見覚えがあるような景色だ。すぐに今朝の夢で見た場所だと思い至る。不思議に思いつつ進むと何かの気配を感じた。一体何が居るのかと身構えていると、

(イタチ…いや、フェレット?)

傷付いたフェレットのように見える動物が横たわっていた。赤い宝石のついた首輪かペンダントの様なものを着けている。ボロボロで意識はないが()()ところ致命傷ではないようだ。慎重に抱え上げてひとまず病院へと連れて行く。獣医の話によると命に別状はないらしいがしばらく目を覚まさないらしいので、このまま預かってもらうことにして私は帰宅する。

命に別状がなかったことに安堵しつつも少々微妙な気持ちになる。ただちに命の危険があるほど深刻な傷ではないことは()()()()()し、傷の原因も謎の声も謎のままで何もわかっていない。他に辺りに妙な物もなかった。それにこのまま放りだすのも胸につかえるものがあるので家で飼わせてもらえるか打診することにした。

 

*

 

夕食の席で細部をぼかしつつフェレットについて家族に伝えると、きちんと世話をするなら良いと言ってもらえた。また明日病院へ行って引き取ってくるとしよう。そうと決まれば今日は早めに寝ようと思い、

『誰か…僕の声を聞いて…』

「昼間の、声?」

また、声が聞こえた。病院の方からだ。

『力を貸してください…僕の所へ…危険が迫って…』

家を飛び出して駆け出す。"何か"があると直感する。

(それに…あの子も心配だし…)

病院に着くとそこは妙な気配で満ちていた。思わず入口で足を止めると奥から走ってくる小さな影に気づく。

「あれは…っ」

後を追うように現れた大きな化け物がフェレットの居た辺りを叩き潰す。

が、体の小ささを活かしてフェレットはそれをかわし

――目が合った。

叩き折られる木から此方へ跳んでくるフェレットに一瞬怯み――なんとか受けとめる。

「なっ…何?何なのこれ!?」

「来て、くれたの?」

「……喋った!?」

思わず叫んでしまうが化け物の咆哮にすぐ我に帰る。取り敢えずアレから逃げなくては。いくら()()()()あんな化け物に近づくなんて無理だ。

遁走しつつ腕の中のフェレットに説明を求める。

「一体全体何が起きてるのこれ!?」

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

「資質?」

彼は「ある捜し物」のために異世界から来たのだという。しかし一人では力不足のため「魔法」を使う資質を持つなのはに、力を貸してほしい、らしい。

「魔法…」

「お礼は必ずしますから!」

「お礼とかそんなこと言ってる場合じゃあ――」

破砕音。既にアレはそこまで来ている。このまま逃げ切ることは不可能だがおとなしく捕まる気もない。

「―っどうすればいいの?」

「これを持って心を澄ませて、僕の言う通りに繰り返して!」

赤い宝石を受け取る。あたたかい。不思議と鼓動を感じる。これは()()()いる。思わず直視してしまった宝石(ソレ)を取り落としそうになり、

「いくよ!」

「…うん!」

しっかりと握り視界から外す。目蓋を閉じて心を落ち着ける。どのみち今より酷くはならないだろう。

 

「「我、使命を受けし者なり。      

契約の下、その力を解き放て。

風は空に、星は天に。」」

                               この終末にももう慣れた。

「そして、不屈の心はこの胸に。  

この手に魔法を。

  

――レイジングハート、セット・アップ!」

 

                               何時もの様に目を逸らそう。

〈stand by ready.set up.〉




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