白い死神   作:フラット床

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色はなんか使いたくなかったので。ちょっと読みづらいかも


6話

「う"あ"ーー…」

「…どうしたのよなのは?」

「いやあ、ちょっとね…」

旅行先でのフェイトとの戦闘から暫く、なのはは悩みに悩んでいた。二度の戦いで二度とも負け越している現状は個人的にあまり面白くない。一度目がある意味での初戦だったとはいえ、二度目は遠距離攻撃(対策)を用意しても敗北した。負けず嫌いの気があるなのはとしては次は勝ちを取りたいところだ。なお、目的(話し合いをする)手段(勝利して大人しくさせる)が入れ替わっている事には気付いていない。

「それってこないだから悩んでること?」

「うーん関係はあるけど別件…まあ、前のはとりあえず方針は固まったから心配しないで」

アリサとしては友人として力になってくれようとしているのだろう。しかし言い方は悪いが現状手を貸して貰ったとして状況に大きな変化はないうえ込み入った事情を説明する必要があるのであまり詳しくは話さないでおく。

「…そう、ならいいけど…あんた体調崩しやすいんだから考え込むのもほどほどにしなさいよ」

「うん、気をつけるー」

「こいつ…」

「まあまあ、なのはちゃん今回は結構余裕ありそうだし」

「はぁ…まあいいわ。じゃあね、また明日」

アリサとすずかの二人は習い事があるため今日は別々に帰るので別れを交わす。特に予定のないなのはは一旦帰ってから再びジュエルシードを探すつもりだ。

 

「ふぅ、こんなものかな」

遠距離での戦闘力の向上のため小サイズの魔力塊を同時に複数動かすトレーニングを終えて呟く。別に遠距離にこだわる必要はないのだが、格闘技術は一人で訓練するには少々効率が悪い。そのため実戦と大きく勝手の変わらない魔力操作に力を入れている。

「ねえ、いつも帰ってからはそれやってるけど、宿題とかは大丈夫なの?」

「あぁうん。私、時間があるときにささっと終わらせちゃうから」

このところは調子が良いがなのはは頭痛持ちだ。酷いときは一日寝込む事もあるため、その時やれることは直ぐに終わらせるようにしている。それに、今はジュエルシード捜索に時間を割いているが、それまでは頭痛や()のこともあり突然生活に支障が出たときのために先の範囲の予習を行っていたのだ。既に小学5年程度の学習をこなしているなのはにとっては現状の時間的な負担はほとんど無いようなものである。

「ならいいんだけど…勉強といい訓練といいなんか色々と準備が良すぎない?」

「まあね。気が付いたら遅すぎたなんてことが無いように早めに動いてるだけだよ」

そう、確かに行動が早い自覚はあるが、なにか特別な理由があるわけでもなくただ早めに準備を始めているだけだ。体調はいつ崩れるかわからないし、事故に遭うことだってそう珍しくもない。失くなるかもしれないものが有るなら先に手に入れておくようにするのが確実だ。喪ってからでは遅いのだから。

 

それを私は識っている。

 

*

 

『そういえば聞きたいことって何?』

『?…あ、そうそう!こないだの事なんだけど。フェイトちゃん達の所に着いたときにはもうジュエルシードは封印されてたけど、戦った跡とか無かったじゃない?あれってどういうことかなって』

前回のフェイトとの遭遇の折、場所は橋の上であったが特に壊れていたりした様子はなかった。暴走していたのなら思念体なりが出て来てある程度の被害が出そうなものだが。

『あぁ、あれは多分だけど強制発動したんじゃないかな?』

『強制、発動?』

話によればロストロギアの中には過剰に魔力を注ぐと多少の条件を無視して起動するものがあるらしい。ジュエルシードの場合は願いを掛ける手順を省略して起動するため、魔力の指向性が定まらずに思念体の発生も遅れるのだろう、という事らしい。

『現代のデバイスなんかはきちんと安全装置が有るからそういう暴発事故はほとんど無いんだけど…ロストロギアは出自が出自(過去文明の遺産)だから安定性に欠けるものも多いんだ。なんならそれが原因で滅んだ文明なんかもあるみたいだしね。一応、暴発を防ぐような遺物もあったみたいだけど、そういう物は大抵構造が繊細で完全に残っているのは結構珍しいんだよね』

管理体制がなっていないというか、その辺り開放的だったからこそ強力な品物ができたのか…まあ要はロストロギアは不安定なうえ強力な力を秘めた危険物らしい。なかなか厄介な代物である。

『過剰な魔力で起動を促す、か………ねぇそれって…これ…?』

そんな話をしていれば丁度近くからジュエルシードの反応が現れた。注意すれば不自然に多い魔力も感じ取れる。

『!?こんな町中で…結界を張るからすぐに封印を!』

『わかった!』

結界の展開を確認し、すぐにバリアジャケットを纏う。急いで反応のある方へ移動すれば異常な魔力を放出しているジュエルシードが見えた。

〈sealing form.set up.〉

「リリカルマジカル!」

封印準備を始めるとジュエルシードを挟んで反対側見えるに金色の魔力光。やはりこの強制発動はフェイト達がやったことらしい。

「ジュエルシード、シリアル19。封印!」

あちらからもほぼ同時に閃光が放たれジュエルシードを挟んでぶつかり合う。数瞬の間光は押し合っていたがどちらからともなく混ざりあって大きな光を放った。。

 

〈device mode.〉

魔法の余波が収まるのを待って空中に留まるジュエルシードへと近付く。封印は無事に済んだようだ。だが…

「やった…!なのは早く確保を…」

「させないよ!」

そこへビルの上から落ちてくるようにアルフが飛びかかってくる。それをユーノが防御魔法で弾くがその一瞬でフェイトはすぐそばの街灯の上に移動していた。お互いにらみ合う。しかし、目的はあくまでもジュエルシードの回収であって戦闘ではない。

「今度はこっちから名乗るね。私は高町なのは。改めて、あなたの理由を聞かせてほしい。」

〔scythe form.set up.〕

返ってきたのはそんな電子音(こえ)

「…答えては、くれないね!」

鎌を振り上げ突進してくるフェイトにこちらも飛翔(回避)して対峙する。

ユーノとアルフも戦い始めたのを確認しつつ魔力弾を撃ち合うがお互いに有効弾は出ない。しかしこちらの弾を巧みにかわしながら近付いてきたフェイトが急加速し背後を取ろうとする。死角を突かれる事を予測していたなのはは振り向き様に魔力刃を形成し()を避けて切り結ぶ。数瞬の鍔迫り合い。視線が交差して、互いに距離を取り、再び話しかける。

「フェイトちゃん!話し合ってもなにも変わらないかもしれないけど、なにも知らずに刃を向け合うのは…嫌だ!」

僅かにたじろぐフェイト。それを機と見て畳み掛けるように言葉を続ける。

「私達はジュエルシードが街に散ったままなのは危険だから集めてる!知っているのにそのままにして誰かが傷付くのは嫌だから!それが私の理由、貴女がジュエルシードを集める理由は何!?」

「…私、は――」

「フェイト、言わなくていい!そんなぬくぬくと甘ったれて暮らしてるような奴には何も教えなくていい!私達はジュエルシードの捕獲が最優先だ!」

なのはの声がが届いたのか思わず、といった様子で言葉を漏らすフェイト。しかしそこへアルフの声が割って入り開きかけた口を閉ざす。一瞬躊躇うようなそぶりを見せたがすぐにジュエルシードへと飛び出した。当然なのはも追従する。

瞬間、どくん、と不気味な鼓動を感じた。

迂闊だった。よく見ればしばらく放置していたジュエルシードの封印が解けかけている。双方が速度をあげて接近するがこの距離では間に合わない。

「いけない…っ!」

普通に封印したのでは時間が足りないと判断して、()()を選ぶ。

()を凝らす。

停止を考えず更に加速し、

視界に写る()が濃い。だがまだだ。

一気に突っ込んでレイジングハートを突き出して。

頭が痛む。もう少し。

爆風のような魔力が吹き荒れ、

()が視えた。

一拍遅れて刃を突き立てた。

 

無事に終息したことを確認して地面を擦りながら着地する。案外呆気なく危機は去った。()を貫く感触を得た時にはジュエルシードは砕け散ってあらゆる現象が停止していた。一瞬だけ暴走による衝撃が発生してしまったようだが眼に見える被害は無さそうだ。その事に安堵すると同時に、ユーノに止められていたジュエルシードの破壊を行ってしまった事を少々後悔しつつ視線を戻すと、その場にいた全員が固まっていた。

思わずなのはも動きを止める。

「え…えーっと…」

なんで皆固まって、と言う前に。

 

「な、に…その、眼……?」

 

怯えたような声が聞こえた。

 

*

 

夜の闇に蒼く滲んだ()

それが自分を見つめていて。

ただ見られているだけの筈なのに。

私は、それが、とても、とても怖かった(自分を殺せると識っていた)


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