ガールズ&パンツァー Bad Company Story   作:Colonel.大佐

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第10話「強豪校もまた死す」

 今日は大破した戦車の修理が理由で土曜恒例の練習は休みとなった。

 かく言う私も休みを思い切り満喫している。いつもなら朝の5時に鳴る目覚まし時計も切っていたため、珍しく好きなだけ寝て起床できた、現在時刻は午前10時。寝巻きを脱いで部屋着のジャージに着替える。今日は一日中寮に引き篭もるつもりだ。どうせ外は暑いし。

 寮の食堂が閉まっているので朝食は食べれなかったものの、部屋の中の冷蔵庫から栄養ゼリーとミネラルウォーター、更に戸棚から非常食代わりのブロック栄養食を取り出し、軽い朝食を済ませる。

 それから、カレンダーの日付を見て私は定期購読していた雑誌――「月刊 戦車道」が今日届く事を思い出した。

 通常、学園艦の書店に本が並ぶのは距離によるが大体1、2日遅れだ。逸る気持ちを抑えながら玄関に向かうと、書店の紙袋が私の下駄箱に突っ込まれていた。相変わらずな寮長の雑すぎる仕事だが構わない、私はすぐさまそれを手に取ると自室へ戻った。

 私は書店の紙袋の封を切り、雑誌「戦車道」の8月号を取り出す。ベッドの上に寝転がりながら、ドイツのティーガーが一面に書かれた表紙を捲った。目録に目を通す、今月の目玉は恒例の「○○で××に勝てるか?」特集で、チハでタイガーⅠを倒せるか?という無謀な記事が踊っている。その他は真面目にバカな事をする事に定評のある英国の自動車番組が協賛する恒例の人気記事・激安戦車チャレンジ、全世界のプロ戦車道チームの特集記事、中古戦車ショップの特売情報、それらを読み進めていくと高校生戦車道大会の特集記事にあたる。

 記事で大々的に取り上げられているのが、今では強豪の一つとして数えられる大洗女子学園の戦車道チームである。隊長である西住みほ選手のインタビュー記事も少しだけ乗っている。他にも個性的とも言える面子が勢ぞろいし、それと同じくらい特徴ある使用戦車の記事も組まれている。ポルシェティーガーに八九式中戦車を使っている学校は全国広しと言えどもこの学校くらいなものだ。

 今年度の大会では順調に勝ち星を上げており、場合によっては準決勝で因縁の黒森峰ともう一度再戦するのでは?とも言われている。

 他はいつも通りの顔ぶれだ、黒森峰、サンダース、プラウダ、聖グロリアーナ。継続高校の記事も書かれている、ただし隊長を降格したライナの変わりに去年、黒森峰に完敗したミカ隊長のインタビュー記事が載っている。どうやら記事の内容から察するに、継続高校も戦車道の転換期に入っているようだ。

 そして、特集記事最後のページが目に入る、記事のタイトルは「今年から要チェック!大会活躍中の新鋭校特集」で、文字と校章のイラストだけだが、編集部からその他学校への簡単な評価とコメントが記載されている。

「シュバルツ・ヴァッサー……と」

 まず目に入ったのは先の対戦相手の記事だ、「世界各国からの強豪選手を集めた来年度もっとも期待が持てるチーム」と書かれ、それに続いて選手の質の高さの賛辞、保有戦車のバランス分析、そしてアレクシア隊長の指揮についての説明がされている。

 そして――私はそのページの片隅に信越学園の文字と校章が書かれている事に気が付いた。

「!!」

 私は食い入るように記事をチェックする。

 見出しは「今大会のダークホースとなり得る新チーム!?」とある。感嘆詞はまずいいとして疑問詞は何なんだ。

 記事の内容は素っ気無かった。「かつての強豪校が更にスタイルを変えて参戦、僅差で勝ち続ける乗りに乗っているチームであるが、荒削りな戦術と戦略は他の強豪校とは程遠く、獰猛な力だけのパワープレイが中心。しかし話題にこそあがらないが、選手の質の高さは各連携行動や単独行動で如実に現われており、今後の動向次第では去年の大洗女子学園のような番狂わせになりえる可能性大。更に今年度からはコメットや四式中戦車などのレア戦車やパーシングと言った重戦車も装備し、戦車の強化もそこそこされている。」……たったこれだけである。

 随分とぞんざいな扱いな気もしてきたが、私はつい嬉しくなってしまう。自分達の学校が、戦車道の雑誌に載っている。それだけでも嬉しくてしょうがない。

 この雑誌は保存版にしてしまおう、そう思いつつも私はページの後ろの大会日程に目を通した。

「あっ」

 そして、もう一つの嬉しい情報も私は目にする事になった。

 

 翌日、日曜日。

 学園艦が寄港するこの日、私は朝から慌しく外出の支度をしていた。寄港を理由にした観光はよくある話だが、私の場合は少し違う。今日は試合を見に行くからだ。

 雑誌・戦車道の試合日程で、ネットのデータ収集で済ませようと思っていた試合――プラウダ高校対サンダース大付属高校の公式試合が、寄港によって見れる事が判明したのが理由だ。試合会場もさほど離れておらず、これなら大丈夫だろう。移動はこの前購入したBTR-80で行い、今回は観戦の助手として紗江を連れて行く事にした。

 荷物をまとめ、寮の部屋を出る。私がドアを開けたのを皮切りに、待っていましたと言わんばかりの向かい部屋のドアが開き、理香が顔を出してきた。

「由里、もしかしてお出かけ?」

 目を輝かせている。

「紗江と今日の試合見に行く、プラウダとサンダースの試合」

「えっ、いーなー由里、私も私も」

 まるで家族旅行に思いを馳せる小学生のような輝かしい笑顔を浮かべるが、私は理科が今日何をする予定だったかをすんでの所で思い出した。

「あんたは補修っ!かろうじて戦車道で単位保ってるんだからさっさと勉強しろっ!」

「殺生な!」

 抱きついて懇願しようとする理香を押さえ込みながら私は叫ぶ。

 理香はパーシングを動かせたらピカイチだが勉学に関しては絶望的である。出席日数も十分、遅刻欠席も無しという優良生徒にも関わらず、テストの結果はすこぶる悪い。そのスタイルと戦車道にパラメーターを全て割り切ってしまい勉強が犠牲になったと思えるほどのバカっぷりに幼馴染の私ですら、未だに戦慄を覚えている。

「じゃあお土産お願い。出来ればお菓子」

 私が買って来るとでも?と言いかけるが理香は財布から三千円ほど取り出す。

「あまったら好きに使っていいから。レシート無くしたら怒るよ?」

 ありがとう理香!やはり持つべきは終生の友だ!

 

 学園艦では普段嗅げない、陸の匂いを嗅ぎながら、私は心地よい風に煽られて車道と周りの風景を眺めていた。

 学園艦から降りて1時間、目的地である試合会場まですぐそこだ。BTRを追い抜くように、家族連れの車が私達と同じ方向へ向かっていく。

「それにしても公道をBTRで走れるなんて最高ですね!ああ、きっとアフガン侵攻時のソ連兵もこんな風にアフガンの荒涼とした道を駆け巡っていたなんて考えるとロマンが――」

 運転席に座る紗江は出発してからこの調子である。

 普段から装填手をやっているお陰で紗江は戦車の運転はからっきしだが、このBTR-80の運転は前にやった戦車の運転よりは幾分かやりやすいらしい。運転席からの視界が広いのも気に入っていて、戦車と違って楽に運転できるのも最高だ、というのが紗江が朝から語っている話大まかな内容である。要所は理解できるが、話の脱線と薀蓄が多すぎて私にはサッパリ不明だ。

「BTR最高ですね!戦場での運用は全然ダメですけど」

 紗江が嬉しそうに喋っている。

 誰かと一緒にBTRに乗るは私はこれが初めだ。普段から戦車に乗りなれているお陰か、こうした装甲車に乗って駆け巡るのは新鮮な気分だし、紗江が嬉しそうなのも解らなくはない。

「次の練習で補助用に使おうと思ってたけど、これなら学園艦の外でも使いやすいかもね」

「それなら指揮車両用の改造をすればよかったですね。練習中の指揮に役立ちますよ」

「まぁ……その手の改造は値段がかかるらね」

 私は地図を片手に会場の駐車場を探しながら答える。

 戦車道の試合があるお陰か、歩道には人が行き交い、出店が出ていて、車道も駐車場も車で一杯だ。

 試合は戦車道のファンはもとより、ある種のお祭りとして認知されている感じが強い。戦車道は娯楽でありスポーツでありイベントでもある、こうした出店が出て、家族連れで観戦するというのも珍しい事ではないだろう。特に有名校の試合となれば、その分観客の数も計り知れない。

「出店やってますよ、何か食べませんか?」

「たこ焼きと焼きそばとから揚げとチョコバナナが食べたいなぁ……」

 お祭りのような賑わいと出店から漂う食欲をそそる香りに思わず喉が鳴り、腹の虫が叫びかける。

「でもあんまり食べ過ぎると太るからなぁ……」

 思わず遠い目を浮かべてしまう。節制しなければブクブク太ってしまうのが関の山だ。

「ですよね……出来ることなら一箇所だけ太って欲しいですよね。主に胸が」

 ハンドルを握っている紗江も遠い目を浮かべる。

「……理香の奴な、食べても食べても太らないから困るんだよなー、って、あのぶっといバスト見せ付けて喋ってきた事があってさ……ホントにぶん殴りたくなったよ、腹を、ゲンコで」

「副隊長凄いですもんね、アレは」

 幾ら食べても太らない魔法の身体が欲しいよな、という結論に紗江と達するまではそう時間はかからなかった。

 

 道路を抜けて、一般の駐車場を通り抜けると同じく戦車道受講者用――つまり観戦する他校向けの駐車スペースへと向かう。

 一般者用とは別に試合観戦を希望する戦車道受講者は特別乗り付けて来てもいい、という大会側の配慮だ。何で乗り付けるかは言うまでも無いだろう。既に観戦目当てに来ている他校の車両も見える、レンジローバーにウィリスジープ、UAZ469、ハンヴィー、GMCトラック……果ては誰が乗り付けてきたのだろうか、米軍が使用しているM113装甲車や旧日本軍が使用していた陸王(軍用サイドカー)まである、前者はサンダース、後者は知波単だろうか。。

 大抵、この手の車両は私達の乗っているBTRと同じく他校が選手移動用や雑務に使っている車両だ。戦車道の受講者であれば学園艦内や公道をある程度走っても良いとされているので、恐らくは近場の学園艦寄港地から移動してきたのだろう。何にせよ貧乏校は公共交通機関を使っての移動だろうけど……

 それにしてもこの種類を見ていると、本当に色んな学校が観戦に来ているのだなと実感する。流石に強豪校の試合だけあって人気がある。

 紗江が駐車をBTRを停車位置へ置く。車体脇の入り口から外へ出ると、真夏のまぶしく熱い陽射しが身体を容赦なく照りつけた。

「さてと……今日の試合プログラムの配布場所は……」

 と、私の横に車が停車し、クラクションが鳴る。私はクラシションを鳴らした主を見た。

 BTRの横に1台のキューベルワーゲンが停まっていた、BTRに比べたら大層小ぶりなドイツ軍の軽車両だ。運転席と助手席に人影がある、制服は見慣れたいつもの奴。

「ライナにミルカさん」

 継続高校の“元”隊長と副隊長だ。

 後ろに付いていたキューベルワーゲンから2人が降りてくる。

「久しぶりね。三回戦突破おめでとう」

「おめでとうございます」

「久しぶり」

 ライナの握手をしっかり握り返す。

 二回戦目の再会とアドバイス以来、継続高校との交流もぼちぼち続いている。よほど学園艦のメシがマズいのか、遊びに来た際はライナが感涙しながら米と味噌汁をがっついていたのが記憶に新しい。

「この間の試合、録画で見たわ。相変わらず無茶な戦い方をするわね、今時夜戦で片を付けるなんて」

「まぁ、空にはUAVが飛んでたからね。それに待ち伏せは私の十八番、暗くなってからが本番じゃない?」

 確かに待ち伏せはここ最近、我が校の十八番となってきている。

「それにしても、よくあんな急場凌ぎの戦術でT28を撃破できたわね。四式がやられてたらおしまいだったじゃない」

「相手がヘタクソだったんだよ、多分」

 ははは、と笑いかけるが、不意に肩へ手が置かれる。

「下手糞とは言ってくれるじゃないの」

 思わず心臓が縮み上がりそうになる。急ぎ振り向くと、そこには赤毛の少女が口元を吊り上げて笑っている。

「あ…来てたのあんた」

「来てたも何もさっきからBTRの後ろで聞かせてもらってたわ」

 シュヴァルツ・ヴァッサー学園の隊長、アレクシアが意地悪く答える。

「ウチの面子は今後夜戦訓練を視野に入れた強化合宿をするわよ……今度やったら私達が勝たせてもらう、暗視装置も積んじゃうし、ミルスペックのUAVもどんどん使っちゃうからねー」

「それだけはカンベンして」

 流石に暗視装置込みで夜戦に持ち込まれたら間違いなくこっちが負けるだろう。さすが金持ち校、装備に対する投資が凄い。

「……あなたは?」

 ライナが怪訝な表情を浮かべる。

「あー……こないだの対戦相手の隊長。戦争の犬」

「よろしく、アレクシア・ターナーよ」

 そう言うとアレクシアはさっと手を伸ばした、ライナも握手を返し、簡単な自己紹介の後に世間話は更にヒートアップした。

 

 見慣れた面子との世間話を終わらせると、私は今日の試合プログラムとパンフレットを受付で貰い、そのままBTRへと乗り込んだ。

 試合会場と言っても観客席はかなり広いし、観戦できる場所もスクリーンを除けばキロ単位で広がっているため、戦車道のチームが観戦をする時は自ずと見やすい位置に移動して試合を俯瞰するのが一番いい……と言うのは聖グロリアーナの副隊長オレンジペコさんの言葉だ。彼女も去年は隊長と一緒にそうやって観戦していたらしい。

 モニターが設置された観客席と両校の待機場所、そして試合会場を一望できる高台にBTRを停めると、私は車から降りて双眼鏡で辺りを見回した。距離はあるが、同じように試合を観戦している他校の姿が幾つも見える。強豪校が殆どであり、恐らくはその中にライナやミルカ、アレクシアも混じっているのだろう。

 名だたる面子が勢ぞろいしている事も頷ける。全国大会常連、それも当たる事が珍しいとされているサンダース大付属高校対プラウダ高校という夢の対決。去年の練習試合以来の組み合わせに観客の数もかなり多い。

「他にどんな学校が来てます?」

 私は紗江に双眼鏡を渡し、指で方向を指示する。

「あっちには大洗女子学園、向こうには黒森峰、もうちょっと隣にはアンツィオ高校、その奥には聖グロリアーナ」

「凄いですね……強豪校が一杯」

 紗江が双眼鏡でぐるりと辺りを見回しながら、周囲の特等席で試合会場を眺める強豪校達を見ている。

 私は車体脇のハッチを明けて、折りたたみのイスを2つ取り出し、腰を掛けてから望遠レンズ付きのカメラ――新聞部から借りてきた奴――と三脚を持ち出す。試合開始前の時間を使い、私は情報収集がてら待機中の両校の戦車を撮影していく。

 サンダースの主力はシャーマン戦車、プラウダの主力はT-34戦車だ。シャッターを切りながら、紗江が双眼鏡で待機中の戦車を眺めながら解説を始める。

「サンダースは特に新規で車両の開拓はやっていないみたいですよ。強いて言うならM4A3E2が今年から採用になったくらいですね」

「ジャンボかぁ……」

 ジャンボ、とはM4A3E2の愛称だ。強固な装甲を施したシャーマン戦車であり、史実ではドイツの重砲陣地を突破するために作られた代物だ。その独特の重装甲故かシャーマン戦車にしては不恰好なシルエットだが装甲の薄いシャーマンに苦言を呈していた現場の兵士からは重宝されたと聞く。

「そういえばイージーエイトは見てないね」

 ファインダーを覗きながら私は呟く。シャーマン戦車が大量に並んでいるが、イージーエイトは見つかっていない。

「市場にはあんまり出回ってないんですよイージーエイトは、欧州の戦車道だと割りと使われているみたいですけど、国内だと使ってるのうちぐらいじゃないですか?余り物戦車ばっかりですし」

「確かに言われて見れば……」

 確かにうちの学校は寄せ集め感たっぷりの戦車であるが、冷静に考えると他校で使用されている戦車とはあまりラインナップが被っていない。

 元々戦車道用に放出されている車両は数にばらつきがあり、大手や強豪校は学園艦の文化に則ってその手の戦車を購入していくので弱小校だと弱い性能の戦車や極端にマイナーな戦車を掴まされる事がある。黒森峰に関しては殆ど強力なドイツ戦車を保有・買占めしている事もあってか戦車の新規調達を望んでいる、今年から参加の戦車道新設校は表立って黒森峰を批判している。

 それに、使用する戦車が幅広い海外の戦車道先進国では、強豪校の戦車独占がまかり通っている日本の戦車道に対する疑問の声は多い。もっとも、アンツィオや知波単のようにわざわざ弱い戦車に縛りを設けているマゾな学校もあったりするのだが……

 ただ、第三世界で未だに現役・予備兵器で使われてる大戦時の戦車が思い出したように戦車道向けに放出される事もあるので新設校がアタリの戦車を入手できる確立も無くはない。イスラエル製のショットが外資獲得の為、センチュリオンに改装されて販売されたり、シリア内戦に使われたT-34が戦車道用に放出されたという噂すらある。

 それを踏まえると、うちの学校はまだまだ恵まれた方だといえる。何しろパーシングという重戦車にある程度性能のある中戦車をたっぷり揃える事が出来たのだ。学園艦運営の不始末で戦車道が切り捨てられていなければ今でも強豪校であったろうし、戦車道も大規模だったに違いない。

「去年と違ってサンダースは人事面で大きな変化がありましたね。新隊長、見ましたか?」

「いや」

 私は首を振る。

「去年の副隊長だったアリサ隊長です。見覚えがあるんじゃないですか?」

 不意に私は去年の事を思い出した。当時の隊長と付き添いで寄港地が偶然重なったサンダース学園艦にお邪魔し、練習試合のスケジュールを立てた事がある。当時のサンダースの隊長はケイという名前のフランクな人物で、私達との練習試合を歓迎していたが、寄航中だった学園艦が急遽移動をする事になり、結局スケジュールが狂ってしまいお流れになってしまった。

 空母の艦長室のような隊長室で会話をしている際に、隣に赤毛の少女が立っていたのを私は思い出していた。肩書きは副隊長、名前はアリサ――

「ああ……あの時の」

「去年の全国大会の不始末で一時期は副隊長降格も噂されていましたけど、何とか持ち直して隊長へ昇格したそうですよ」

「不始末?何かしでかしたっけ?」

 私の問いに紗江は答える。

「無線傍受ですよ。別にご法度じゃないですけど、サンダースのプレイスタイルにそぐわないようなアンフェアなやり方で非難されたとか……」

 はっ、と私は鼻で笑う。

「物量で押し潰して戦略もクソも無い金持ち校特有のゴリ押しプレイでアンフェアとか、どの口が言ってんだか」

「ですよねー」

 紗江も呆れ笑いを浮かべている。

「ただし知略に優れた隊長であるのは間違いないですね、次に当たるとするなら侮れないですよ」

「まぁ、数で押し潰されたら困る相手ではあるけどね……」

 律儀にシャーマンで攻めてきたらこちらにも分はあるが、その上で無線傍受などの小ざかしい真似をされたり、裏をかかれるような戦術を取られたら致命傷になりかねない。注意にこした事は無い相手だろう。

「紗江、プラウダ高校に関する情報は?」

「今年のプラウダは偵察がかなり厳しくて前情報が殆ど無いんですよね……」

「そうなの?」

 紗江が頷く。

「色んな学校が偵察がてら戦車道の受講者をプラウダの学園艦に送り込んだらしいんですけど、結果は全滅です。写真一枚、書類一枚も情報が手に入らなかったとか……」

「そんなバカな」

 私は笑いたくなるがプラウダ高校に纏わる黒い噂話を思い出し、不意にぞっとした。

「でも噂話レベルの情報なら結構流れていますよ。SNSにプラウダ高校の戦車道をやっている人が匿名で情報流していましたし……」

「疑わしいレベルね。確証の持てる情報とかは無いの?」

 あります、と紗江が答えた。

「隊長の名前はイリーナ、プラウダ高校3年生です。去年は経験の浅いクルーで纏められたフラッグ車の車長をしていたようです」

「あのT-34/76か……」

 私は事伝で聞いた去年の準決勝戦を思い出す。

 プラウダ高校と大洗女子学園の試合で、攻勢に転じるプラウダ側はフラッグ車を集落の中へ隠し、さらにKV-2という護衛には心もとない戦車を配置させた。この判断は後に「プラウダ高校最大の失敗」「準決勝敗北の分かれ目」とまで評されている程で、後に隊列を離れてフラッグ車の攻撃に回った三号突撃砲、四号戦車によってKV-2は護衛としての役目を果たせずに撃破され、さらに逃げ回り続けていたフラッグ車は待ち伏せを見破ることが出来ず、撃破された。当時の隊長カチューシャがたった1両のKV-2を護衛に回したという愚策と、フラッグ車のクルー達が取った回避行動に関する詰めの甘さが議論の的になったが、その後の決勝戦の結果で「大洗女子学園の非凡さ」が実証されるとたちまちその議論は立ち消えになった。

 何にせよイリーナは、そんな「敗北の決定打」という不名誉な結果に甘んじる事になった人物だ。

「今年からの使用戦車と人員の大幅な整理……今までのプラウダ高校に関するデータは役に立たないと踏んだ方がいいですね」

「先行き不安だなぁ……」

 トントン拍子で勝ち進む事が出来た私達だが、ベスト4に入る強豪校が目の前に立ちはだかっているという現実に思わず気が沈んできた。

「そろそろ始まりますよ」

 紗江の言葉と同時に、私はカメラを向ける。

 格好の隊長が握手を交わし、試合開始まであと僅かと告げるアナウンスが鳴った。

 全国大会3回戦。この試合で勝ったチームが、準決勝で私達が戦う相手となる。

 

 私達は試合展開を逐次チェックしシャッターを切り、紗江はノートパソコンに逐次情報を打ち込んでいった。

 試合形式はフラッグ戦、フィールドはごくごく普通の平地。使用する戦車は両校共に15両だ。

 サンダース大付属高校の戦力は、

・M4A3 10両

・ファイアフライ 2両

・M4A3 76mm砲搭載型 3両

 というシャーマン戦車が中心の布陣。それに対してプラウダ高校は、

・T-34/76 5両

・T-34/85 5両

・T-44 3両

・JS-2 2両

 という布陣だ。

 率直に見て、プラウダ高校が性能の良い車両をそろえていて有利ではある。何よりも去年運用されていたKV-2のような、いわばハズレ戦車が混じっていないのも理由の一つだ。

 試合開始と共にシャーマンは前進を始め、フラッグ車を守る後列、攻撃に加わる前列と分かれ、綺麗な隊列を組んでプラウダ高校へと突撃を開始した。空には無線傍受器が打ち上げられており、戦略的な面ではややサンダースが優勢だ。

 だが、開始三十分たらずで異変が起きた。

 サンダース大付属の本隊が、プラウダ高校が待機する地点へまっすぐに突撃を始めたのだ。

 指揮官が気付かずに突っ込んでいるのか、それともプラウダ高校の待ち伏せを知ってあえて突っ込んだのか。私が判断に悩む中、ついに両校は会敵した。

 そして、目の前で繰り広げられた光景は、まさに血祭りと呼ぶに相応しい物だった。

 サンダース大付属の攻撃部隊はあっという間に包囲され、多数のシャーマンが増援が到着するよりも前に、JS-2とT-34/85の包囲攻撃によって壊滅していた。そればかりか増援に来たファイアフライの部隊が、到着数分で遠距離からのJS-2の砲撃で屠られたのだ。その後も散発的にシャーマンが反撃に転じ、何両か撃破されるも、サンダースの戦車はその数を次々に減らされていく。

 こうなってくるともうサンダース大付属に逆転のチャンスは無くなった。

 試合開始から2時間、プラウダ高校の生存車両10両に対しサンダース大付属は僅か4両。追い込まれたサンダース大付属はフラッグ車と合流し最期の反撃の転じた。

 残っていたのはベテラン勢だったのだろう、包囲を進めるT-34の群れを相手に、初期型のシャーマンは地形を盾に防御陣地を築き、何度も砲撃を続けていた。フラッグ車も攻撃に加わり、その76mm砲を盛大にぶっ放し、包囲網の突破を試みようとする。

 だが、ついに30分後、JS-2の砲撃がフラッグ車に命中し行動不能になり、試合は終了した。

 最後まで生き残っていたシャーマンは片側の履帯が破損、砲塔には砲弾を弾いた跡や同軸機銃の被弾跡による塗装の剥がれが生々しく残り、まさに息も絶え絶えといわんばかりの様子だった。

 一連の流れを双眼鏡片手に眺めていた私は、ため息を吐きたくなった。

 これで次回の相手は決まった。

 

 プラウダ高校だ。

 

「まぁ、よかったじゃないですか。黒森峰みたいな凶悪な面子に当たらないで」

 撤収準備が終わり、試合会場の出入り口へ向かう中、隣で運転する紗江が能天気に呟いた。

「よくない、T-54を出してきたら一巻の終わりよ」

 楽観こそ思う壺だ。それに紗江の言い分はライオンを見た後にトラを見て「こいつが相手なら勝てる」と言っている様な物だ、プラウダ高校だって充分に恐ろしい相手だ。

 更に戦車道連盟が提示する公式ルールに則って言うのなら、戦後第一世代の主力戦車、T-54がギリギリ使えるのだ。これ以上に恐ろしい話があるだろうか?聖グロリアーナがセンチュリオン軍団で武装して迫り来る悪夢のような光景が、プラウダでも見れるのだ。勝てる訳が無い。

「だったらどうにかして勝ちましょうよ。中東戦争でも、イラン軍のT-54相手にシャーマンが勝った実例があるんですし」

「……あれはシャーマンを魔改造したイスラエルの発想と戦術勝ちでしょ。それに戦後改修のモデルは試合で使えないわよ」

「言ってみただけですよ」

 はぁ、と下らない話にため息が出た。

 とにかく帰ったら対策会議なんか開かずにとっとと寝よう。これ以上考えていたら深刻さで頭がどうにかなりそうだ。寝て忘れるに限る。

 BTRは試合会場の駐車場へとさしかかる。まだプラウダとサンダースの選手インタビューと閉会のあいさつが終わっていないが、同じく早めの撤収準備を始める他校の生徒で駐車場は賑やかになりつつあった。

「あー……そういや理香にお土産頼まれてたっけ」

「あっ!そういえば私、今日の物販回ってないです!」

 紗江の言う物販というのは、毎回試合になると出てくる戦車道関連の出店の事だ。ピンからキリまで、色々な戦車道に関するグッズや商品、コレクターアイテムが放出される事が多い。

「すいません、ちょっと待っていて下さい!今急いで買ってきます!」

「あ、ちょっと紗江」

 私を尻目に紗江は急いでBTRをM113装甲車の隣へ駐車させると、すぐに財布を握り締めて車外へと飛び出していった。

「……私は留守番か」

 あーあ、と思いながら私は外の空気を吸いに、車外へと出た。

 外へ出ると、色んな制服の少女たちが見える。恐らくは応援に来ていたプラウダやサンダースの生徒――恐らくチームの二軍――から、聖グロリアーナ女学園、黒森峰女学院、青師団高校、ヴァィキング水産のような普段メディアの露出が少ないような学校も散見する。

「由里!」

 そして、不意に私の名前が呼ばれた。

 声の方向を振り向くと、M113装甲車の車長席から見知った顔がこっちを見ていた、アレクシアだ。ていうかお前んところの学校か、そのM113装甲車。

「次の対戦相手が決まったみたいね。それにしてもソビエトかぶれのプラウダと当たるだなんて、相当クジ運がいいわね」

「良くないわよ」

 私はまたため息を吐く。

「ま、サンダースみたいなアメリカかぶれの連中よりかは幾分かマシでしょ」

「……気軽に言ってくれる」

 またため息を吐きたくなるが、ぐっと堪える。

 弱気な指揮官という姿を他校に見せてたまるかというプライドの問題だ。

「まぁ、聖グロリアーナも継続高校もコアラの森もシュヴァルツ・ヴァッサーも破った。今度のプラウダもギリギリでブッ潰して見せるわ」

「その根拠は?」

「勘」

 短い沈黙が流れる。

 何か言おうとした瞬間、またも見慣れた制服がやってきた。

「今度の対戦相手はプラウダ高校のようね」

 おいライナお前まで私を茶化しに来たか。

「茶化すつもりなんて無いわ……いや、むしろよくやってくれたとしか言いようがないわ」

 ライナは誇らしげな顔を浮かべる。私は思わず「何で?」と聞き返した。

「継続高校にとってプラウダ打倒が毎年の目標なのよ?私の先輩の先輩のそのまた先輩の……随分と前の世代からプラウダ高校に対する因縁があるわ」

 おいおい幾ら何でもそこまで学園艦の文化を踏襲しなくてもいいだろうに。

「とにかく、今年果たせなかった目標を引き継いでくれるのは……その……貴方たちしか居ないわ。頼んだわよ」

「そうそう、プラウダをボコボコにするのを楽しみにしてるわ。学校休んでまで試合見に行くから」

 ライナとアレクシア、2人の視線を受けながら私は頷いた。

 そうだ、私はここまでやって来たのだ。今度の敵だって、何とか勝てるかもしれない。

 第63回戦車道全国大会、準決勝戦はもうすぐそこだ。




■タイトル元ネタ
「死刑執行人もまた死す」
■月刊 戦車道
本編にも登場した雑誌。後に公式でも設定本の一環として刊行されており、今後の二次創作における燃料投下に期待がかかる存在。激安戦車チャレンジは「TopGear」が元ネタ。
■M4A3E2
劇中で紗江が解説した通り、重装甲のシャーマン戦車。ただし武装はそのままなので非力で、あくまで前線突破や盾としての役割が多かった模様。サンダース大付属から今年から採用!という設定にしてあるが、本編でのサンダースのラインナップを見るに加わってそうではある。ちなみに試合に参加しなかったのは「前の試合で酷使し、現在修理中」という設定。
■M113
米軍の装甲車両。戦場のタクシーをコンセプトに設計されており、現在でも相当数が各国で使用されている。信越学園のBTRに対抗してシュヴァルツ・ヴァッサーはM113で!というネタを随分前から暖めていて使用した。劇中では特に記載していなかったが機銃架は撤去済み。
■陸王
かつて日本あった国産バイクメーカー。詳しいモデルは書いてないがサイドカーモデル(戦場まんがシリーズでお馴染み)知波単の西隊長が試合会場まで乗り回してきた、という設定でカメオ出演
■レンジローバー UAZ469 ウィリスジープ ハンヴィー GMCトラック
同じく同上、カメオ出演した車両一覧。全て軍用車両で、右から聖グロリアーナ、プラウダ、以下全てサンダースが使用。選手の移動用車両で、補欠だったり学園艦から観戦に来た生徒が乗り付けてきて駐車場に置いた、という設定。
■キューベルワーゲン
継続高校の隊長と副隊長2人が乗っていた車両。こちらは大戦中のドイツ軍車両で、継続戦争でもドイツ軍経由でフィランドに入っていた、という事を加味して登場。ちなみに運転しているのはミルカ。
■T-44
プラウダ高校の新戦力として登場。大戦後ごく初期に使用されており、大戦中はもっぱら習熟訓練で実戦には使用されなかったとか。車体構造に関しては戦後初期のソ連戦車の礎となったが、T-54の配備からお払い箱になった。パッしないが、戦車道用としてはエースとして期待されている戦力、としてある。ただし初期型なので85mm砲搭載型。
■物販
決勝戦での会場お祭り騒ぎを見るに、恐らく関連する出店もあるのでは?という妄想から生まれた設定。確かに「試合」というよりは「イベント」の側面も強そう。
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