ガールズ&パンツァー Bad Company Story 作:Colonel.大佐
「生徒会長のケチ!ドアホ!守銭奴!」
珍しく敬語をかなぐり捨て、紗江が罵声をはき続けていた。
生徒会室からの帰り道、戦車格納庫へ向かう足取りはやけに重く感じた。
練習試合の勝利は、確かに反応こそ良かった。最初は新聞部が駆けつけて話を聞きに来たし、クラスメイトからも「練習試合勝ったんだってね」と賞賛を貰った。確かに継続高校相手にストレート負けをしたという過去もあってか、その反応は実に良かった。生徒会だって手放しで褒めた。
だが、皆と共に予算申請の話をしに生徒会へ行った所で、返って来た言葉は「それはそれ、これはこれ」の冷淡な一言だった。
「はぁー、生徒会は本格的にあたしらを嫌ってるみたいだね」
呆れ半分の笑いを浮かべながら、並んで歩く理香が私の肩をぽんぽんと叩いて慰めに入った。
大体、これぐらいならいけるだろうと私が用意した予算申請書の九割は赤線を引かれ……つまり「こんな物に予算は回せない」とカットされたのだった。もちろん新しい戦車の配備はお流れ、戦車の改造キット購入も却下、購入の約束を確保できたのは事務用品やユニフォーム等の小物のみ、後は現状維持に必要な予算を少しだけ出してもらうという散々な予算申請に終わった。
どれもこれもあの高慢ちきな生徒会長のせいだろう。一体どこの誰があんな無能をトップにしたのだろうか、と思う。もし生徒会に入る事があったら、どんな手段を使ってでも生徒会長を引き摺り下ろしてやりたい気分だ。
「でもユニフォームが手に入るのは良かったです。タンカーヘルメットも購入できるそうですし」
気を取り直した紗江が、赤線だらけの申請書を見ながらため息を吐いた。
「もうジャージで練習しなくてもいいしね」
「……だな」
だが多少の予算は確保できたので、紗江も奈央もある程度は満足と言った様子だ。
とりあえずは目の前の練習メニューを消化する事が最優先だ。皆も練習試合での勝利で自信もついて来ている、このモチベーションは全国大会に出るまで何とか維持したい所だ。
その日の練習も終わり、解散した所で、私は聖グロリアーナとの試合から引き摺り続けてきた問題を思い出していた。
戦車格納庫の裏には、戦車道用の倉庫が3棟ある。火気厳禁の弾薬庫、燃料タンクの他に予備部品など諸々がストックしてある倉庫だ。
セキュリティは働いているし、安全面でも気を配っているのだが、肝心の中身に問題が生じ始めている。明らかに足りないのだ。
ここ暫くの練習で燃料も消費したし、模擬試合や射撃訓練でも砲弾は消費される。おまけに試合で壊れた戦車は修理しなければならないし、破損したり消耗する部品は確実に出てくる。普通の学校ならここで「補充をしましょう」と予算が下りて、学園艦に燃料・弾薬・予備部品が運び込まれるという寸法だが、生憎ここは信越学園、予算配分を決める生徒会が戦車道の切り捨てにかかっている始末だ。
前年度分の繰り越した予算・今年度分の予算を合算しても、この調子で他校と練習試合を組んだり、いつもと同じ練習メニューを実行すると間違いなく全国大会の真っ只中で我らが戦車部隊は燃料なし・弾薬なしで立ち往生する。幸いにもこの勝利で多少の予算は確保できたが、解決できるのは弾薬・燃料・予備パーツの不足のうち、せいぜいどれか一つだろう。
と、ここで私は気にかけていたある話を思い出す。
ブリーフィングルームにある棚から戦車道に関する書類・書籍の中に埋もれたファイルを取り出す。「備品目録 1995~2005」と書かれたこの古ぼけたファイルには、この学校の戦車道で使用されたありとあらゆる物に関する記述がびっしりと書かれている。備品は月ごとの発注で、その内容も小は記録用のノートやメモ、ペンと言った事務用品、大は新規購入する戦車本体とかなり細かい。
ただし、備品には使用された事を示すチェックが入れられており、これらの備品は既に使われた、あるいは捨てられた物が殆どだと思われる。
わが校の戦車道がどんな物だったか、それを示す資料としては丁度いいかもしれないが、現状、今の予算不足を解決できる道具ではない。
だが、その中に興味深い記述がある……00年から05年まで5年間の目録に時折登場する「ハの六 倉庫保管分」という文だ。
戦車格納庫の裏にある倉庫は3つ、それぞれ弾薬庫・燃料庫・予備パーツ保管庫と看板が付けられているが、ハの六という言葉に該当する倉庫は格納庫付近には無い。
更に付け加えるなら、このハの六倉庫に保管されている備品の大半は、チェックもされておらず使われた形跡が全く無いと言う事だ。
これらに関する話は、過去に先輩もしていた。この学校の戦車道には幻の戦車保管庫がある――という内容の噂話だ。更にパンターが保管されているとか、我が校の戦車道が危機に陥ったときの秘密兵器が秘匿されているという尾ひれも付いた学園艦7不思議として数えられる事もある。
単なるチェックミスだとか、とっくの昔に使い潰された物資だという話もあるが、それを肯定する話も否定する話もない。
この噂話が本当であれば、私達も随分と助かるのだが……
三日後。
練習を終えて戦車格納庫へと全車両が帰還すると、荷物が届いていた。
大き目の段ボール……ユニフォームとヘルメットが届いたのだ。
と、言う事で皆の前でユニフォームとヘルメットが初披露になったのだが……
「ユニフォームって言うか……どう考えても既存のBDUに校章縫い付けただけですよね……」
紗江の的確な突っ込みが全てを物語っていた。
出てきたのは素っ気無いオリーブドラブのBDUだ。右袖の部分に校章のパッチが張られているが、それ以外は実に素っ気無い代物だ。申し訳程度に全員分のピストルベルト(何に使うつもりなのだろうか)がオマケで入れられている。とは言え服のサイズがピッタリなのが唯一の救いだろう。
「あっ、でもこのヘルメット米軍が使ってる奴ですよ!格好いいですね」
もう一つの木箱には、梱包財と一緒に米軍のタンカーヘルメットが入っていた。どこかのむさ苦しい米軍戦車兵が使ったような払い下げ品ではなく、倉庫でデッドストックされていた物らしい。何でよりによってこんな絶妙な所からチョイスしてくるのかサッパリ解らない。
「とことん嫌がらせをするつもりか、生徒会は……」
ため息が漏れるが現状これしかないなら使うしかないだろう。これじゃあまるで戦車道を嗜む女子ではなくて、どこかの陸軍の女性戦車部隊という格好だが仕方あるまい。
だが、ユニフォームが手に入ってノリノリな生徒は結構多いようだ。みんなユニフォームに袖を通し始め、周りに似合ってるかどうか聞いていたりする。
紗江に至ってはすでに上下ともユニフォームに着替え、ピストルベルトも締め、ヘルメットを被って上機嫌な表情だ。
「うわぁ……かっこいい!いいですよね、隊長!」
私に同意を求められても困るが、とりあえず紗江にはピッタリだろう。
「うーん、あんまり女の子っぽくないよね?これなら聖グロリアーナの方が遥かにいい気が」
「……少なくともサンダースよりは現代風だろう」
対して奈央と沙雪は渋い反応だ。橋本ちゃんはヘルメットの心地を試している。
「私はヘルメットがあるだけいいですけど……急停車や被弾でぶつけちゃう事も無いですし」
それはいえてる。幾ら乗員の安全を保障するカーボンがあるとは言え、下は金属、角に頭をぶつけたら痛いに決まってるし、試合中に戦車から顔出すときにも破片避けになる。
過去、カーボンの性能が低かった頃には重戦車の砲撃で吹き飛ばされた軽戦車の乗員が複雑骨折で病院に搬送されたという話も残っている。今でこそひっくり返ろうがどうなろうが乗員は安全だが、頭ぐらいは守っておきたいのが本音だ。
「ま、これしか無いなら着るしかないか……」
私もため息を吐きつつ、ヘルメットの着心地を確かめるべく、籠の中から一個取り出し、試しに被ってみた。
無いよりはマシ、とにかくユニフォームは手に入った、後は明日の全国大会のトーナメント抽選会を経て公式戦に参加するのみだ。
まどろみの向こうから、電子音が鳴り響く。
いつもの見慣れた寮の天井、聞きなれた目覚まし時計のアラーム。
私は手を伸ばして、目覚まし時計のスイッチを切ると、ゆっくりとベッドから起き上がった。
まだ瞼は重いし体もだるい、立つのも面倒で仕方ない。
だが今日は待ちに待った全国大会のトーナメント抽選会だ。朝早くから出発し、会場へ向かい、さっさと抽選を終わらせて初戦の対戦相手に関する研究会をやらねばならないのだ。
今の時間は朝の5時。寮の食堂はまだ開いていないし、スケジュールからして流暢に朝食を食べている時間はない。
歯を磨き、制服に着替え、昨日から用意していたパンフレットやメモ帳等を入れた鞄を手に取る。部屋を出て施錠チェック。
後は――この約束の時間に起きてる気配の無い、向かいの部屋のバカを起こしに行くだけだ。
まだ寝静まっている寮の廊下へ出ると、お隣さんの邪魔にならない程度に理香の部屋をノックする。返事が無い。
もしかして一足先に出たかと思い、私は携帯電話を取り出して電話をかける。
素っ気無い着信音が扉の向こうから聞こえて来ると同時に、開錠の音と共にドアノブが回り、ドアが開いた。
「……おはよう」
寝起きの理香がひどい顔で私の前に現われる。パジャマのままだ。
「今何時かわかる?」
「……7時?」
「5時12分。6時には学園艦から出なきゃいけないって話、忘れてないよね?」
「寝なきゃいけないから今日はいかない」
ドアが閉まるが私は間髪入れずに靴を隙間に押し込んで阻止する。
「副隊長が今日の抽選会をズル休みするとはいい度胸だな……今すぐ準備」
「……今すぐ準備する」
渋々と理香は部屋の中へと戻り、準備を始めた。
学園艦から出発した連絡船に乗り、私達は一路、会場へと向かう。
開会式・抽選会・試合は全て陸で行われるため、頻繁に学園艦から離れなければならない。そういった場合に使われるのが学園艦と港を行き来する連絡船だ。他にはコンビニの定期便もあるし、設備が整っている学園艦では空港まで整備されている場所すらある。信越学園は海路中心であり大抵の場合は連絡船だ。
早朝出発の便のため、他に利用している人は殆どいない。実質、信越学園の戦車道選択生徒の貸切に近い状態だ。私は出発前にコンビニで買って来た朝食を甲板上で食べながら、離れていく学園艦を遠巻きに見つめていた。
「隊長、全員の確認終わりました。欠席・休みなし、全員揃ってます」
紗江が私の元へやってきて報告を行う。
「ご苦労様。みんなは?」
「船内のラウンジにいます。隊長は?」
「食べ終わったらそっちに行くよ」
朝食のサンドイッチを食べ終わると、私は船内のラウンジに入りっていつもの面子のテーブルに座り、雑談の時間に入った。
「うちの学校、公式戦なんて何年ぶりなんだろうね」
ふと、会話の中で奈央が切り出した疑問に、私が答える。
「3年前までに1回だけ、当時の隊長の方針で出場したって話があるけど、それ以前は聞いた事が無いかな」
「でもさ、この学校って昔は強豪校だったんでしょ?」
「昔と言っても私達が学園艦に来る前の話ですよ?当時色々あって戦車の数が減らされたって聞きましたけど」
奈央の言葉を聞き、会話へ割って入るように紗江が補足の説明を行う。
「減ったって……ちょっと初耳よそれ」
理香が驚いた顔を浮かべる。私も同じ顔になってしまった。
「去年15両あったのに……まだあったの?」
「ブリーフィングルームの古い連絡帳で確認しました。少なくとも05年までは25両近く戦車を保有していたそうですよ、車種までは解りませんでしたけど……」
私の問いに紗江が答えた。
何があったかは知らないが、25両も車両を保有していたとは初耳だ。去年にパーシング戦車購入の為に売り払うまでは15両あったが、それ以前には更に10両も車両が残っていたとは驚きだ。
「まさか今残ってる戦車は売れ残りか……」
沙雪がぼそりと、あまり考えたくない話を呟く。
「逆に、今使ってる戦車よりも性能の低い戦車じゃないんですか?FT-17とかMk.Ⅳとか」
「それ第一大戦の戦車じゃん」
紗江のボケとも取れる予測に理香が突っ込む。
「あれ……そう言えば去年より参加学校増えてない?今年」
奈央が手持ちの大会パンフレットに目を通しながら、率直な不安を口にする。
私も同じ様に確認する。確かに多い。去年は強豪校と常連学校以外は殆ど出番なしと言わんばかりの編成だったが……
パンフレットの参加校一覧を読みながら、紗江が解説を始める。
「今年初参加の学校も結構多いですよ。初参加枠だとシュバルツ・ヴァッサー学園が有名ですね」
「……シュバルツ……ヴァッサー……?」
奈央が何のことやらと言わんばかりの顔を浮かべる。
無理も無いだろう、私ですら雑誌「戦車道」のニュース記事でようやく存在を知った学校なのだ。
「聞く所によるとミッション系の学校で、今年から戦車道特待生の制度を取り入れて、国内外問わず優秀な生徒の引き抜きをやっているらしいの」
雑誌の受け売り程度だが、私が補足の説明を加える。
「所でどんな戦車を使う学校なんだろうね。ほら、サンダースはシャーマン戦車、プラウダはソ連戦車、黒森峰はドイツ戦車で統一してるでしょ?この学校はどうなのかな」
「ネットの掲示板で見ましたけど、練習試合をした学校曰く「多国籍で軽・中・重三種の戦車混合編成」らしいですよ。新設で始めたんで、そこらへんの編成は手探りの状態なんでしょう」
紗江の言うとおり、この学校は多国籍の編成だ。世界各国の強い戦車をかき集めた夢の戦車軍団か、それとも微妙な性能の戦車をかき集めた急場凌ぎの即席混同部隊かはまだ資料不足で解らないが、潤沢な予算が使えそうな学校だけに前者の可能性が否定できないのが怖い所だ。
「他に今年は変わった事がありますか?」
橋本ちゃんの言葉に、紗江はパンフレットを捲りながら答える。
「知波単学園が今年からチハ以外の戦車の導入踏み切った事と、大洗女子学園が去年に引き続き参戦、後はプラウダ高校で“大粛清”があったとか」
「大粛清!?」
物騒な単語に奈央が反応する。
「はい。何でも去年以上に暴君な人が隊長に就任したらしくて、使えない戦車の一斉排除と大幅な人事変更があったとか……」
「確かに去年は酷かったからなー……フラッグ車の護衛にKV-2がたったの1両とか、戦線抜け出して攻撃に回った戦車に気が付かなかったりとか、試合中断で時間とりすぎて士気グダグダとか、色々あったからね……そりゃ“粛清”されるよね」
理香の言うとおりだ。去年のプラウダ高校はあと一歩で大洗女子学園を敗北に叩き込む事が出来たが、大から小まで様々なミスを端々でやらかしてしまい、フラッグ車を撃破されて敗北したのだ。
更にプラウダは至る所にも「ソ連式」を踏襲しているらしく、被弾して戦闘不能になった車両の乗員はシベリア送り25ルーブルを科すという詳細を聞きたくないような慣わしがある事も風の便りで聞いている。
「でも、この人事変更と車両再編がどう転ぶかはまだ解りませんよ。場合によっては一昨年のプラウダ優勝が再来するかもしれませんし、もし試合で当たる事になったら」
「警戒しておいて損は無いだろうけど……まぁ当たると決まった訳じゃないしね」
私は紗江をなだめる。
トーナメントの結果はこれから抽選で決める話だ。今からどこと当たるか、当たったらどうするか、という話をするのは無意味だ。
「そう言えば知波単学園がチハ以外の戦車って……国産戦車でチハ以外に何かあったっけ?」
奈央の言葉に紗江は得意気な顔で説明を始める。
「色々ありますよ、中戦車だけでも八九式、一式、三式、四式、五式がありますし」
「でも日本の戦車って弱いんでしょ?ここで使ってる新砲塔チハだって装甲も火力も貧弱なのに」
奈央のごもっともな発言に紗江は一瞬だけ不服な顔を浮かべる。
「新砲塔チハでもシャーマン戦車を十分に撃破できますよ!先週やった模擬試合で1回やられたじゃないですか」
「あれはまぐれ!」
ムキになって奈央が否定するが、実際は奈央の操縦ミスでうっかり泥濘にスタックし行動不能に陥ってしまい、チハにベストポジションから攻撃され、判定装置が撃破の結果を出したのだ。車長である私はお見通しであるし、奈央も自分のミスを自覚した上で認めたくないのだろう。
「……でも五式も四式も、使ってる学校見た事無いよ?大洗が三式使ってたけど、決勝戦では瞬殺だったし」
「と言うか末期の日本軍戦車って、ビミョーって言うか、実績ゼロで強いか弱いかも判断できない気が」
私と理香のツッコミを受けて紗江もついに折れたのか本音を漏らし始める。
「まぁ……大戦中の最強戦車と言えば、鹵獲されたM3スチュアートって言う人もいるくらいですからね。戦車道で使うには向いてないです」
そう思うとつくづく知波単はマゾな学園だと思う。あんな縛りプレイを続けていて実際に現場で戦う生徒たちの士気は大丈夫だろうかと思いたくなるが。
「早期に敗退したイタリア軍戦車の方がまだマシですよね」
遠慮ない橋本ちゃんの言葉に紗江は思わず苦笑いを漏らした。
「……でもまぁ、少なくとも数を揃えられている内はお金がある証拠だよね……」
理香の本心からの呟きに皆黙ってしまう。
本当にその通りだ。知波単ですら総車両数が信越学園を大幅に上回っているし、あのサンダースに至っては3軍部隊まで編成できる余裕がある、黒森峰は運用に金の掛かるドイツ軍末期の最強戦車軍団を何十両も保有して涼しい顔である。戦車道に力を入れてる学校のポテンシャルはそれくらい高いのだ。
「生徒会長、人質にして予算とるか」
私は思わずいつも脳内でやっている妄想をポツリと呟いてしまう。
理香と紗江以外の全員がぎょっとした顔で私を見るが、理香だけは頷く。
「確かに現状、生徒会長が重荷よね……生徒会長をパーシングの砲身に括りつけて、そのまま練習の模擬試合に突入すれば命惜しさに予算ポンと出してくれるでしょ」
「私はあの女が泣き叫んで失禁しながら「ごめんなさい私はブタですなんでもしますから命だけは助けて下さい」と言うまで全車両で学園艦の果てまで追い詰めたいね」
正直な本音を理香と一緒に話すが……みんなドン引きしている。
「来年から大会出場禁止にされちゃいますよ」
紗江が笑いながら言う。
正直、戦車道の運営をまかなっている隊長としては、深刻この上ない切実な話なのだが……
昼頃に連絡船は目的の港へと到着した。
それからさらに電車を使い、会場へ到着する。
会場には全国の学園艦からやってきた、高校生の戦車道チームで溢れかえっている。
毎年行われる高校生全国大会の見慣れた光景であるが、前年と違う点をいえば参加校が前年度の倍はいるという事だろう。
戦車道のイメージダウンに繋がるような学校は参加しないのが暗黙のルール、と強豪校が中心となって圧力を掛かけていたものの、そのルールを打ち破り優勝を手にした無名校・大洗女子学園の快挙は大会への参加を見送っていた多くの学校に希望とチャンスを与えたのだろう。更に数年後の世界大会を控え、文科省の戦車道興隆に関する後押しも理由している。そのため、今年の参加校は過去最多の32校となり、試合数も決勝含め5回戦までといつもより長い。対戦校の組み合わせによっては決勝まで行ける可能性も高い。
逆を言えば、優勝までの道のりは更に遠く険しくなったという事だ。初参加で実力が未知数の学校も多く、強豪校は未だに健在だ。
開会の挨拶が終わり、ついに抽選会がスタートする。各校の隊長が壇上に立ち、抽選カードを引き、トーナメン表に対戦校の名前が浮かんでいく。その度に、歓声やざわめきが会場に巻き起こっていく。
会場のテンションも去年に比べてかなり高い。過去最大規模の大会になるのだ、高くなるのも頷ける。
私達も、会場の客席に座って抽選の結果を逐一チェックしている。
「……どうなるんだろうねぇ今年は」
理香は呑気に舞台上のスクリーンに映るトーナメント表を眺める。
「初戦からあまり強い所に当たりたくないですけど、逆に言えば初戦で強豪校を潰す事が出来れば、車両数の優勢からは逃れられますよ」
紗江の言葉に私は頷く。
大会では試合ごとに砲弾の総数、そして車両の数が決まっている。初戦はどこも10両が最大上限であり、いわゆる弱小校の救済措置として働いている制限である。
最も黒森峰やプラウダのように強力な戦車を重点的に配備している学校にはあまり関係ない制限ではあるが、弱小校は物量で攻められるという一番嫌なパターンをある程度回避する事が出来るし、強豪校を屠るには1回戦こそが一番良いタイミングだ。
「でもやっぱり初戦は強い所に当たりたくないよねぇ」
奈央の本音には私も同意だ。初戦からいきなり黒森峰に当たったらそれこそ一巻の終わりだ。
聖グロリアーナ女学院を僅差で破ったとは言え、チームの経験地はまだまだ浅いし練習もまだまだ不足している。
「……時間が足りなかったかな」
「でも先輩、半日の実戦は半年の訓練に勝るとも言いますよ」
「橋本ちゃん、これはスポーツ、あっちは戦争の話」
後輩のボケとも本気とも取れる一言にツッコミを入れる。
「似たようなもんじゃないですか、隊長パンツァーハイでしょっちゅう暴言吐いて戦場みたいになるし、練習中だってたまにハートマン軍曹みたいになるじゃないですか」
紗江が私の痛い所を突いて来る。
「そうそう、あんまり暴言が酷いと審判に怒られるよ」
「聖グロリアーナの時も「ジョンブル気取りをぶっ潰せ」って言ってる所、始めて聞いた……」
奈央や沙雪もここぞとばかりに紗江に同調する。お前ら!
せっかく中学3年、高校1年でコツコツと積み上げてきた表の仮面が崩壊寸前である。
「……今に始まった事じゃないよ、実は昔から色々あってね由里は」
私の隣に座る理香が皆に向けて語り始める。
「六兄妹の末っ子で上は全部男、更に実家が空手道場。それに小学校の頃イジめられた反動で殺意バリバリぶっきらぼう口調が素になっちゃったの、学園艦に来てから変えるつもりだったらしいけど、結果はこの通り……」
理香てめぇ何さらっと隠したい情報をバラしてやがる。
「隊長と副隊長って出身どこでしたっけ?同郷なんですか?」
橋本ちゃんが興味深々と言わんばかりに聞いて来る。話を聞いてる他3人も同じ様子だ。
「私は糸魚川出身だけど由里は直江津、ただ家庭の都合で糸魚川に引っ越してきてね。以後小学校から腐れ縁」
「長岡や新発田生まれにはわからないでしょ、パチンコ屋とスーパー以外何もない場所……」
実家に対する愛着は薄い。正月・夏休み・春休みにたまに顔を出す以外、実家には帰っていないし家族とも疎遠だ。
そう思うと理香との付き合いはこの学園艦でも一番長い。
それに基本は何をするにも理香と一緒だ。ある意味家族よりも長く一緒に居るような気もする。
「そうだったんですか……1年間一緒だったけど知りませんでした」
紗江が意外といわんばかりの表情で呟いた。
シャーマン戦車のクルーである紗江、奈央、沙雪とは高等部から、更に橋本ちゃんとはまだ2ヶ月ほどしか一緒にいない。それも大抵戦車道の時間か放課後ちょっと集まる程度の付き合いだ。私も皆については深く知らないし、皆も私についてはそれほど知らない。
「……今はトーナメンの抽選会でしょ、集中しなさい」
皆を叱り付けるように言うが、理香はニヤニヤ笑いっぱなしだ。
「隊長を緊張させないようにこの話をしてるのよ、だって由里、この後壇上に上るんでしょ?これだけの大人数を前に抽選カード引くのは緊張するよー」
私が忘れようとしていた話を理香が蒸し返す。
これから順番が来たら、私は登壇して抽選カードを引き、この大群衆の視線を一気に受けるのだ。
「……私が舞台の手前までついて行ってあげようか?」
「……頼む」
ここは素直に理香へ甘えよう。
そして、こちらの会話が途切れる頃、今度は手前の席――別の学校の生徒が、遠くへ聞こえない程度にお喋りを始めた。
「ねぇ、参加校一覧に書いてある信越学園ってどこ?」
「さぁ、どこだろうね」
「今年からの参加校だよね、大丈夫かな……」
「うちらの相手じゃないでしょ、どうせしょぼい戦車しか揃えられない学校じゃないの?」
「そうだよねー、出来れば初戦で当たりたいなー、さっさと潰して二回戦行きたいし」
「だよねー」
楽しそうな、だが正直聞きたくない談笑。
理香とアイコンタクトを取ると、理香は「好きにしなさい」と頷いた。
私は遠慮なく前の座席を足で小突いた。
話の中心にいた生徒がびくりと背を震わせる、そのまま驚いた表情で後ろを振り返った。視線が合う。
制服を見るに、サンダース大付属高校のようだ。
「あの……なんですか?やめてくださ――」
目を丸くしている生徒を前に、私は声のトーンを一段低くして喋る。
「そういう話は本人達に聞こえない程度にやってくれない?」
腕を組みながらガツンと言い放つ。周りにいた仲間達も、一斉にサンダース大付属高校の生徒たちを見る。
突然の本人達登場に、盛り上がっていた彼女達が一気に静まり返った。
「……すいません」
素直に頭を下げられる。どうやら根は素直らしい。
今度はこっちが悪役のようだ、私も素直に謝る。
「いきなり蹴ってごめんね」
どこの学校も弱い学校に当たりたいのは同じだろう。ある程度の強豪校でも一回戦目の車両・砲弾数制限のルールが原因で敗北する事は十分ありえるし、弱小校でも初戦の相手次第では二回戦に出場するという箔を付ける事も出来る。そういった意味では、初戦でどの学校と当たるかは重要な問題だ。
ただ、現状その「対戦校に当たりたい弱い学校」に私達信越学園が入っているのは居心地の悪い話ではあるが。
「……そろそろ時間だから行ってくる」
時間だ。私と理香は席を立ち、邪魔にならないように移動を始める。
「頑張ってください隊長!」
「頑張ってね由里」
「……頑張れ」
「先輩、幸運を!」
皆が応援の言葉をかける。私は頷いて答える。
まぁ、何はどうあれ結局はクジ運の問題なのだが……
薄暗い通路を注意して抜け、私は壇上に立つ。
拍手や歓声はないが場内のざわめきと異様な興奮のムード、さらに無数の視線が私の背中へと突き刺さる。下手にここでコケたりしようものなら一生モノの恥だ。
既に緊張で手汗が凄い事になっている。1年生向けのプレゼンを行った春の事を思い出しつつ、私は数字の書かれたカードの入った抽選箱に手を伸ばした。
手で触っても数字はわからないし、とにかく引くしか方法は無い。
そして、私は運に身を任せてカードを引き抜いた。
右手で掲げ上げ、私は数字を見る。
『信越学園、12番!』
アナウンスが鳴る。
後ろでは歓声が聞こえまさかの組み合わせに会場が沸き立っている……と思ったが反応が薄い。どうやら強豪校とぶち当たった訳でも無さそうだ。
ならば、どこなのか。
私は顔を上げる。
「まさか……!」
無意識の内に、私の頬は引きつった笑みを作っていた。
私が引き当てた番号と、目の前のスクリーンに表示されたトーナメント表が、初戦の対戦相手が何者であるか知らせてくれた。
去年、私達が戦った相手。
「継続高校……!」
第64回戦車道全国高校生大会。
信越学園の長い戦いが、幕を開ける。
【解説&こぼれ話】
■タイトル元ネタ
映画「パリは燃えているか」
■ユニフォームのデザイン
よりミリタリーなガルパンをというコンセプトも編んだ結果、現実の戦車兵の格好に極めて近いユニフォームを設定しました。現用のタンカーヘルメットを使うというアイディアは、ガルパンと「戦場でワルツを」を合わせたコラ画像から発想を得たもの。かなりハードで無骨なデザインだが、恐らく自分なりに着崩したりしている選手もいるという設定。
■八九式、一式、三式、四式、五式
全て日本軍の中戦車。八九式と三式は原作に登場済みだが、一式と四式、五式は未登場。今後の原作如何では知波単は使っていないという設定になるが、あくまで「その後」の話という事を踏まえて設定を載せている。
■「半日の実戦は半年の訓練に勝る」
元ネタは小林源文の漫画。
■各キャラクターの出身地
新潟港が母校の新潟の学園艦、という理由でメインキャラの内5人は県内出身という設定にした。