バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第10話 魔獣

玲奈たちは監視カメラ越しに毅が惨殺される様子を見ていた。

玲奈は()()が何なのか分かっていた。格納庫に封印されていた怪物だ。電力が一回落ちたから、何か鎮静剤みたいなものを投与し続けていたのが、止まってしまったから活動を再開したのだろう。

 

「…何だ…あれは?」

 

最初に静寂を破ったのは竜也だった。

が、その唇は恐怖で震えていた。

 

『初期の実験段階でJ-ウィルスを生物に投与したの。しかし、アレは余りに危険で凶暴…。見境なく人を殺すモンスターへと変わり果てた。本来、アンブレラはアレをなめる者(リッカー)と呼称して、商品として海外に売り込む予定だった』

「あんな奴を売ろうとしてたのか⁈」

 

玲奈たちには信じられなかった。

あんな化け物がどこかに売られるなど…。

 

『それと、今新鮮なDNAを摂取したから変異するわ』

 

クイーンは再び画面をさっきの映像を戻す。リッカーは身体を丸めて変異を開始する。身体はまた一段と巨大になり、身体つきは犬や狼のような形になる。頭は丸みを失い、長細くなる。

 

『より敏捷で凶暴なハンターになる…』

「…へぇ……そいつは凄いや…」

 

葉子は苦しそうに言う。

 

「何故奴のことを黙っていた?」

『聞かれなかったから。それに、アレは…』

「襲わせるために用意した…でしょ…?」

 

玲奈の答えにクイーンは肯定も否定もしなかった。

 

『……正直、ここまで感染せずに生き残れるなんて思っていなかった。そこに関しては評価してあげる』

「評価なんてどうでもいい。それよりもここから脱出する方法を…!」

『駄目よ。感染者を殺さない限り、ここから出すわけにはいかない』

 

玲奈は歯軋りする。

クイーンは人工知能だ。最も確実性のあることしか実行しない。

しかし、まだアンデッドにもなっていない葉子を殺すなど玲奈には出来なかった。だが、クイーンの言葉を受けた葉子は、近くの壁に立て掛けてあった斧を取り、玲奈に差し出した。

 

「…()れよ……」

 

一瞬の沈黙の後、玲奈は首を横に振った。玲奈には、仲間を殺すなんて簡単には出来なかった。

 

『悪いけど…悠長にしている時間もないわよ?』

 

クイーンがそう言って、すぐ後にバァンと何かがガラスの向こうからぶつかってきた。驚いて振り向くと、そこには毅を仕留めて変異したリッカーが玲奈たちをガラス越しに見詰めていたのだ。

 

『一応強化ガラスだけど、長い時間足止め出来ない』

 

追い詰められた葉子はやけくそになり、玲奈の前に膝を着け、叫んだ。

 

「殺せ‼あんたらは生き残るんだ‼」

「………嫌…」

『殺しなさい』

 

玲奈は何度も何度も頭を振る。だが、時間はない。更に葉子、クイーン、リッカーの重なった重圧により、玲奈は気が狂いそうだった。

 

「殺れ‼」

『殺しなさい!』

 

ガラスに衝突する音は時間が経つ度に大きくなる。

 

『殺しなさい!』

「殺れえぇぇぇ‼」

『殺せ‼』

 

この瞬間、玲奈の中で何かが壊れ、喉からは玲奈自身、信じられないくらいの大声が飛び出した。

 

「うわあああぁぁああぁあああ‼‼」

 

斧を振り上げた玲奈は、その刃を葉子の後頭部ではなく、クイーンの声が発せられた画面に食い込ませた。それと同時に、急に電気は消え、辺りは静寂に包まれた。ロックされたはずの扉がゆっくりと開く。玲奈はアンデッドかと身構えたが、現れたのは…。

 

「…はぁ、はぁ…。クイーンは…吹っ飛ばしてやったぜ…」

「憲之…!」

 

あの地下通路に一人残った憲之がボロボロの状態でここまで戻ってきたのだ。彼の手には高圧電流を流すスイッチが握られていた。

しかし、安心するのも束の間、リッカーがガラスにタックルする音が再び響き始めた。それを見た三人は急いで部屋から脱出する。出たと同時にリッカーも遂に強化ガラスを破壊して、部屋の中に侵入してきた。憲之は急いで扉を閉めると、リッカーは構わず突っ込んできた。その衝撃で扉は飴細工のようにぐにゃりとひしゃげた。

 

「ありゃ一体何だ⁈」

「話すと長くなるけどいいか?」

「結構だ!」

 

 

 

 

四人は黙々と列車に向かう。

その途中に無惨に殺された毅の死体が転がっていた。

 

「…憲之、列車を動かして。私はウィルスを…」

 

玲奈の指示通りに憲之は運転席に向かう。玲奈はケースを閉め、取ろうとした時…毅が動き出した。

 

「……!」

 

毅は青くなった目を玲奈に向け、腹ばいになりながらもゆっくりと玲奈に近付いてくる。血だらけになった手で、玲奈のブーツを掴む毅に、玲奈は快感も不快感も感じなかった。

ただ、上から眺めているだけであった。

 

「…別れが辛い?なら、楽にさせてあげる…あなた…」

 

玲奈はそう言って、持っていた斧を振り上げて、毅の頭に落とした。(おびただ)しい血が飛び散り、地面は更に赤に染まる。

 

「…よし、発車するぞ!」

 

憲之はみんなに叫んだ。玲奈は最後に自分がはめていたプラチナの指環を外して、毅の死体の側に捨ててから列車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

列車は全速力で教会の駅に戻っていく。

その間に玲奈は注射器を取り出し、葉子の腕に当てた。

 

「……本当に…助かるんだろうな…」

「助けてみせる…」

 

玲奈は抗ウィルスを葉子に注入した。すると、葉子の頭がガクンと項垂れた。玲奈は()()()の時のために拳銃を向ける。嫌々ながらもこればかりはどうすることも出来ない。指に力が入りかけた時…。

 

「わっ!」

 

パッと拳銃を掴まれた。それは葉子の手だった。

 

「まだ、生きてるよ…」

 

そう言って、玲奈の手から拳銃を抜き取った。

 

「は、はは……良かった…」

 

玲奈は歓喜の声を漏らす。

 

「貴女にキスしたいよ、葉子…」

「……それは、ゴメン、だね…」

 

その様子を横から見ていた竜也も思わず笑ってしまった。だが、和やかな時間は一瞬で終わった。突如、列車の剛鉄の壁が何かで引き裂かれるように抉られたのだ。しかもあちこちで。そのいざこざで、竜也の右腕にも爪痕が残ってしまった。何かが列車の回りで動き回っているのだ。

 

「何が起きてる⁈」

 

憲之が叫ぶ。

 

「分からない!それよりもスピードを上げろ!」

「これ以上は無理だ‼脱線しちまう!」

 

突然、憲之の横の扉が抉り取られ、そこから血色の腕が伸びてきた。憲之はすぐに逃げようとするが、足を噛まれていたから、すぐに動けずリッカーの餌食となってしまう。

 

「うわあああああぁぁ‼」

「憲之!」

 

しかし、彼の名を叫んでも遅かった。玲奈は拳銃を至る所に向けて警戒する。奴が列車の外で動き回る音は反響してしまい、どこにいるかは判別出来なかった。竜也も色んなところを見回していたが、一つの扉が開いていることに気付いた。竜也はスライディングして扉を抑えた後に入ってこれないようにロックした。しかし、リッカーの体当たりは凄まじいもので頑丈な鉄の扉なんか意図も簡単に吹き飛ばしてしまう。吹き飛んだ扉に竜也は当たってしまう。

 

「うぐぁ‼」

 

遂にリッカーは列車内に侵入する。玲奈はその容姿に怯むことなく、リッカーの脳髄に銃弾をぶち込む。直撃した脳髄からはどろどろした液体が流れるが、全く効いていなかった。リッカーは口から長い舌を伸ばして玲奈の足を掴んで引っ張って来た。玲奈は後ろから倒れてしまい、拳銃を落としてしまう。

 

「うっ、くっ!」

 

玲奈はリッカーの腕にまで引っ張られないように床にしっかりしがみつく。あの爪に裂かれたら一溜まりもないだろう。

しかし、リッカーの舌の張力もかなりのものだった。玲奈はこの危険な状態でも、縄で固定され、ぶら下がって束ねられている鉄パイプがあることに気付く。竜也もすぐに気付き、パイプをまとめて担ぎ、リッカーにぶつけるため突進する。

 

「うらあああああああああ‼」

 

鉄パイプは見事にリッカーに直撃した。玲奈の足からも奴の舌が離れるが、再び玲奈を捕まえようと舌を伸ばす。今度は玲奈の頬を掠る程のスピードで飛んできた。玲奈はあの舌は危険だと思い、落ちているパイプを拾い、奴の舌を抑える。更に別のパイプも拾い、長い舌に深々と突き刺したのだ。パイプは床をも貫通してしまい、リッカーの舌は戻らなくなってしまう。

 

「床を開けて‼」

 

丁度、リッカーが立っているのは床を開閉出来る場所だった。竜也はすぐに開けようと後ろを向くが、そこには葉子が立っていた。首を一回捻ってゴキッと鳴らす。

そして、閉じていた目を開くと…青色に染まっていた。

口からは血を垂れ流し、アンデッド化した葉子は竜也に襲いかかる。玲奈はその光景を見て驚きを隠せなかった。竜也は首に噛みつこうとする葉子をどうにか自分から突き放した。

 

「床を開けて‼こっちが持たない‼」

 

竜也は拳銃を葉子の頭に向け、発砲した。弾は葉子の額を貫き、絶命へと導いた。そして、撃たれた反動で葉子の身体が床を開閉するボタンを押した。突然開いた床にリッカーは体勢を保とうとするが、鋭利になりすぎた自身の爪が仇となり、床ごと切り裂いてしまった。リッカーは舌を無理矢理出された状態で引き摺られる。

更に列車の車輪から発生する火花がリッカーを燃え上がらせた。リッカーは炎に包まれて、この世のものと思えない奇声を上げ続けた。

暫く、その姿に見とれていたが、竜也が再びボタンを押して、床の扉を閉めた。リッカーの舌は切れ、リッカー自身は線路の上で激しく燃えながら転がっていった…。




次で第一章は終了です。
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