4人はすぐに装備を整えて、屋上に向かうためにヘリへと乗り込んだ。玲奈は小型の散弾銃と拳銃、竜馬は大きめの拳銃…恐らくマグナムとほぼ同威力の銃だろう。そして秊とグレッグは標準装備のアサルトライフルを手に持っている。
ヘリの中でもグレッグだけは愚痴をずっと溢していた。
「おい、玲奈……とか言ってたか?お前感染してんのに来んのか?足手まといにならないといいがな」
「グレッグ…!」
秊が止めに入るが、玲奈は気にすることなくグレッグの不満に対して淡々と答えた。
「足手まといになるくらいなら来ないわよ。それも分からないの?」
また挑発的な発言にグレッグはイラつき、怒鳴ろうと思ったが、玲奈の青い瞳がグレッグを捉え、一言も発せなくさせた。美しい…というより、グレッグは恐怖に襲われたのだ。ひ弱そうな玲奈の瞳の中に燃える強い意志がグレッグの想像を超えていて、何も言えなかったのだ。
ひと段落着いたところで、竜馬はまだアンデッドと戦ったことのない2人に軽い説明を始める。
「今空港で広がっているウィルスに感染したものは誰でも襲う…。それが友人や家族でもな…。感染した者を元に戻す方法はない。そして奴らの生命活動を停止するには感染者の脳髄を破壊するしかない」
竜馬の足早な説明に2人はポカンとしてしまう。秊は確認するように竜馬に再度聞く。
「感染者の脳髄を破壊……って…」
「要するに頭を撃つってことよ、お2人さん」
代わりに玲奈がそう答えて、秊とグレッグはお互いに顔を見合わせた。主な理由としては、人の頭を撃つ…そんな残忍なことをしなくてはならないのか…と思ったことだが、もう1つあった。
それは、秊たちの前にいる2人がさも当然だろうと言っているように見えたことだった。
この2人が何者なのか…秊の中で更に疑問が増えるばかりだった。
「着いたようだな」
竜馬が下を見ると、ヘリは既に空港の屋上に到着していた。
4人はヘリからロープを下ろして降下し、屋上に足を付けた。
扉を開けて、慎重に中に入っていく。先に玲奈が入っていき、その後ろに秊と続いていく。
中は夜のせいもあるが、電力が落ちてしまっていて真っ暗だった。人の気配など、今の時点では微塵も感じられなかった。
更に先へと行こうと思ったら、後ろからグレッグに押されて後ろへと下げられる玲奈。溜め息を吐きながらも、玲奈は随分嫌われたなとつくづく思った。
階段を降りようと思った一行だったが、突然奥の通路から悲鳴のような…呻き声のようなものがした。秊はそっちに行こうと言うが、竜馬は即座に否定した。
「今のは感染者の声だ。さっさとVIPルームに……」
竜馬が否定しても関係ないのか、秊は単独で奥の通路に走っていく。
「秊!待って‼︎」
玲奈も後を追い、竜馬も追おうとするが、グレッグが肩を掴み竜馬の行動を止めようとする。竜馬は構うことなくグレッグの腹を殴って怯ませて、既に真っ暗な通路に進んでしまった玲奈たちを追うのだった。
秊は竜馬の制止をも振り切って、オフィスにまで来ていた。
声だけで感染者かそうでないかなんて見分けがつけられるはずがないと思ったからだ。それに何でも憶測で決めつけるのは秊は嫌いだった。きちんと自分の目で確かめる…それが秊のモットーだった。
秊はマシンガンに付属されたライトだけを頼りに辺りを見回す。
すると、散らばった書類などの上に倒れて、苦しそうに呻いているスーツ姿の男性があった。秊はマシンガンを降ろし、すぐにその男性に駆け寄り声をかけた。
「大丈夫ですか⁈」
秊の応答に男性は答えない。
相当な重傷だと思い、秊はその男性の腕を掴んだ。
「安心してください!必ず助けますから!」
そうはっきり言う秊だが、この男性は既に人間にならざる者へと変貌していたのだが、秊は全く気付いていない。アンデッドと化した男性は秊の首を後ろから嚙みつこうと口を開けた。
そのまま突っ込めば、アンデッドの歯は秊の頸動脈を捉えていただろうが、その前に秊は身体を後方へと引っ張られ、アンデッドの急襲から逃れられた。もちろん、秊は彼がアンデッドだと気付いてないため、自身を引っ張った玲奈に対して怒りを露わにする。
「何するの⁈」
「見なさい…」
玲奈がそう小さく言って、初めて秊は気付いた。
自分たちは既に奴らの
暗闇で見えなかったもあるとは思うが、机の下…本棚の脇など、どこからともなくウヨウヨとアンデッドが湧き出していたのだ。
目の前で倒れる男性も…そのアンデッドの1体だと、秊は漸く気付いた。
ゆっくりと着実に迫り寄ってくるアンデッド軍に、玲奈は何の躊躇いもなく腰から拳銃を抜き、その頭部に風穴を開けた。
「⁈」
秊は目を丸くした。
それは玲奈が躊躇いもなくアンデッドを殺したもあるが、まず“人を殺している”ところに驚いたのだ。
いくら秊が自衛隊とはいえ、彼女を初めとしたほぼ全ての隊員が人の頭を撃ち抜くなどしたことがない。
秊はここで分かりかけていた。
何故、自分たちに指導権がないのかと……。
そう思っていると、秊の左側からも1体のアンデッドが歩み寄ってきた。それを見た秊はマシンガンを構えるのだが、僅かに震えていた。初めて見たアンデッドにただならぬ恐怖を自分でも分からないうちに感じてしまっていたのだ。
「止まって‼︎撃つわよ⁈」
そうは言うが、アンデッドが人語を理解することはない。
ただ…食欲に赴くがままに秊の方へ足を一歩ずつ踏みしめていく。
これ以上近付くな!撃ちたくないんだ!と心の中で叫ぶ秊だが、堪らずアンデッドの右足を撃って転倒させた。
アンデッドは足を撃たれても秊の方に向かってくる。その異常な行動に秊は思わず「どうして…」と呟いてしまう。
「秊‼︎」
ここで竜馬とグレッグも合流する。
グレッグは手で合図して、早くここから後退しろと言う。秊は素直に下がり、代わりにグレッグが前に出た。
そして、持っているマシンガンを狙いも定めずに乱射する。アンデッドの身体に弾がめり込むか貫通するかして、アンデッドは倒れていく。
「グレッグ、もういいわ」
玲奈がそう言って止めようとするが、グレッグは気分が高揚しているらしく、全く引き金から指を離さない。見かねた竜馬がグレッグの肩を掴んで耳元で怒鳴る。
「グレッグ‼︎」
「うるせえ!指図すんな!」
そこで漸くグレッグの銃撃戦は終わりを告げた。先程までウヨウヨいたアンデッドの姿は闇に飲まれたのか1体も見当たらなかった。
「バケモンが!」
そう吐き捨ててグレッグは空になった銃弾を装填しようと、グリップを掴んでマシンガンから外した時、ガラスにピキッとヒビが入った。
「え?…うわああああああああああああ‼︎‼︎」
窓ガラスを突き破って、秊が足を撃って転倒させたアンデッドがグレッグの上に覆い被さった。
グレッグは必死にアンデッドに噛みつかれないように抵抗していた。額と顎を掴んで自身の顔から少し離したところで、玲奈が放ったナイフがアンデッドの側頭部を見事に捉え、絶命させた。
グレッグはアンデッドを自分から離し、顔にべっとり付いた血を拭って、焦った声色で言った。
「ど、どうなってんだ⁈こいつ間違いなく弾をぶち込んだはずなのに、どうして⁈」
「最初のヘリで言わなかったかし……ら‼︎」
玲奈はグレッグの襟首を掴んで壁にドンと叩きつけた。
グレッグより圧倒的に小柄な玲奈が持つ力にグレッグはやられる側ままだった。
「確実に殺す方法は1つだけ!頭を撃たない限り絶対死なない。覚えておいて‼︎今のような行動を取ると、弾も時間も、無駄になる!それじゃあ…私たちが先に死ぬわ」
グレッグに一通りの叱責をして、玲奈は手を離した。
すると、竜馬が玲奈に肩を叩き、さっき割れたガラスの方に指差していた。
そこでは床に這いつくばりながらも、玲奈たち人間を狙っているアンデッドがウヨウヨいた。
「行こう…」
秊が先導して、先程の場所に戻る。
グレッグは悔しかったか、あのアンデッドがムカついたのか、その死体を思いっきり蹴るのだった。