斎藤が1人勝手に走っていってすぐにロビーの入り口辺りが真っ白になるほど明るいライトで照らされていた。玲奈は前方に立ち塞がるアンデッドを殺し、更に前へと進む。
恐らくあの光は味方のものだろうと思った玲奈は全員に呼びかけた。
「頑張って‼︎あの光の方まで走って!」
秊が1番後方で走っていたのだが、後ろを一旦向いてどれくらいアンデッドが迫ってきているか確認する。
そこには先程まで自分たちがいた墜落した飛行機の翼の上には数え切れない程のアンデッドがやって来ていた。その中に自衛隊の装備をした者がいると思ったら、それはグレッグだった。遠目であまり分からなかったが、グレッグだったように……見えただけだと秊は頭の中で思った。
それからはもう後方を向くことなく、一直線に光の方へと走るのだった。
玲奈たちはすぐに保護され、空港内に残っているアンデッドは多数の自衛隊員によって処分された。玲奈たちが出てすぐに、秊とは別の部隊が空港内に入って、何万発という銃弾の発砲を開始した。
その方向を見たままの秊に誰も声をかけてやれなかった。
同僚を失った気持ちを玲奈は痛い程分かっている。東京事件の時に玲奈たちのために命を落とした竜馬の兄である竜也のことを…。
その事をまた思い出して、玲奈は泣きそうになったため先にテントへと戻った。
竜馬はその様子をじっと眺めていると、なんともやり切れない気持ちで一杯になる。
すると、薺が誰かを見つけたと思ったら、そこに早歩きで行き、そいつの頬を思いっきりビンタした。
「ぎゃあ!」
もちろん
「あんた!律代を突き飛ばして危ない目に合わせたでしょ⁈よくそれで国民から選ばれた議員になれたわね!クズ‼︎」
遠くで見ていた竜馬と律代は薺の激怒にちょっとだけ寒気を感じた。
「あれ……本当に薺お姉さん…?」
「ああ……多分…」
竜馬は改めて女を怒らせると怖いということを思い知るのだった。
ひとしきり、斎藤に怒りをぶつけ終わった薺はウィルスに感染してないかしつこく検査された。まあそれは律代も斎藤もあのCAも同じだろう。血液を取られた右の二の腕を見ていると、彼女の前に数台のトラックが列を成してやって来た。そこには英語表記で『ウィルファーマ』と書いてあり、薺は驚愕した。
「どうしてここに…?」
最初は疑問だけが募るばかりの薺だったが、次第に怒りの方が再び湧き上がってきた。トラックから降りてきた従業員らしき人物に薺は講義の声を上げた。
「ねえ!どういうこと⁈どうしてここにあのウィルファーマの薬があるの⁈」
「ワクチンのためですよ」
その答えは薺の後ろから聞こえてきた。振り向くと、クリーム色のスーツを着た男性が立っていた。その男性に薺はどこかで見覚えがあった。
「あなたは……確か…」
更に横から斎藤が現れ、得意げに説明を始める。
「彼はフレデリック・ダウニング。ウィルファーマ社で働く主任研究員だよ」
「さっきワクチンって言ったわよね?そんなの許可されてるなんて聞いたことないわ」
「残念だけど薺 、2人の言ってることは正しいわ」
「玲奈!」
「まあ……ついさっき認可されたばかりだから何とも言えないけどね」
玲奈はそう言って薺に説明を付け加える。
「斎藤氏はアンブレラ社から没収したJ-ウィルスでワクチン開発をフレデリック氏に頼んだ。そしてその研究の第一段階は国外で行われ、動物を使った臨床実験で成功し、ここにウィルスがあるってこと」
「ちょっと待って…!」
そこで秊が声を上げた。
「それなら……。それなら!」
秊は玲奈の胸ぐらを掴んですがりつくように怒鳴った。
「どうしてそのワクチンを先に持って来なかったの⁈それさえあれば、グレッグを救えたかもしれないのに…!」
「…それは…」
玲奈が事情を言おうとしたら、先にフレデリックがその事情を話してしまった。
「バイオハザードが起きた時点で持ってこようと思ったのですが、テラセイブのデモ講義が原因で持ってこれなかったんですよ」
「それは…!」
玲奈が言いたくなかった事を言ってしまい、薺の表情が一気に降下していく。そして少し震えた唇から漏れた声は非常にか細かった。
「それじゃあ……私たちのせい?」
「まあ、そういうことだろうな」
斎藤は全く悪びれる様子もなく、断言した。
いつもの薺なら、ちょっとは反論できたかもしれないが、今回ばかりは流石にショックが大きかったのだろう。1人フラフラと歩いてテントの中へと戻っていった。
竜馬が行こうとしたが、それを玲奈が止めた。
「ここは私の方がいいわ…」
「…それもそうだな……。女は女同士の方が、な…」
玲奈は頷いて、薺が入ったテントに自らも入った。
薺はパイプ椅子に座って、ずっと地面を見詰めていた。その痛々しい姿を見て、玲奈が声をかけようとしたら、独り言のように薺が口を開き出した。
「正しいと思ってやっていたことが逆効果だったなんて…ミイラ取りがミイラとは正にこの事ね…」
「それは違うわ、薺。悪いのはウィルスを使った連中よ」
「………」
玲奈がそう言っても薺のショックは打ち消すことは出来なかった。
玲奈は薺の隣に座り、話を続ける。
「丁度去年くらいよね?私たちの人生が狂ったのは……」
「…そうね。私なんかただ兄さんを探しに来ただけなのにね…」
「私はね…。あの事件のせいで1人…大切な人を失った…。その原因を作ったのも、殺したのもアンブレラ社…。だから私は誓ったのよ。必ずアンブレラを潰して、私の中にも流れている呪われたウィルスを葬るって」
「玲奈…」
「私や竜馬、薺のお兄さんは戦う事を選んだけど、薺は私たちと違って人を助ける……救済の道を選んだ。私とかには考えてもいなかった事を薺は実行した。だからそれを誇りに思って」
「………そうね。ちょっと気が楽になったかも…。ありがとう、玲奈」
「何言ってるのよ。あの地獄から生き残った仲でしょ?」
そう玲奈が言うと、薺は苦笑した。
そんな談笑中に突然地面が大きく揺れる程の爆発が3回起きた。
玲奈と薺がテントを飛び出すと、テントから少し離れたところで火の手が上がっていた。
急いで駆け寄るとそれはフレデリックが持ってきたJ-ウィルスのワクチンを積んだトラックが3台とも見事に燃え盛っていたのだ。火に飲まれて身体を燃やす従業員までいた。
すぐに自衛隊が消火器で消そうと試みるも、もう無駄だろう。
ワクチンは全て灰と化してしまった。
玲奈は唇を噛みながらも、呆然としているフレデリックに事情を聞く。
「何があったの⁈」
「突然……トラックが爆発して…」
「ワクチンは残ってんだろうな?」
焦った竜馬の声にフレデリックは冷静に応答する。
「残っているって……今回持ってきたのも社内でどうにかして掻き集めたサンプル品だったんですよ?」
「開発データは?」
「!まさかデータも…⁈」
「おい!いい加減奴らの目的は何なのか言ったらどうだ⁈」
ここで斎藤が業を煮やしたのか、玲奈に詰め寄る。
周りには事情を知らない人もいるため、玲奈は話すことにした。
「真実よ…」
「真実?」
「そう…。かつて東京で拡散したJ-ウィルスの開発に当時の政府関係者に謝罪させろってね」
「ちょっと待って!政府が関わってたって本当⁈」
秊がまさかの事実に声を上げた。
「根も葉もない事実さ。まあ…東京は核で吹っ飛んだから証拠となるものは全て消えちまったけどな」
「証拠なんてないし、政府が関わってた話も出まかせだ‼︎」
「この事態を引き起こした奴はそう思ってない。問題はそこよ」
すると、薺はこの事件がまだ前座なのではと思い、玲奈と竜馬に聞いた。
「その事をしなかったら?」
「J-ウィルスを日本中にばら撒くって脅迫文にはあった。タイムリミットは明日の午前0時…」
全員が一斉に時計を見た。
今時計の針は午後の8時を指している。
「あと4時間⁈」
「それにワクチンもない状態だぞ?何か手はないのか⁈」
「そういえば…犯人の特定は?」
フレデリックの発言に薺は1つ思い浮かんだ人物がいた。空港内でぶつかったあの人物だ。
「…1人だけ心当たりがある。空港にいたの。名前は広崎謙二」
ピクッと秊の肩が動いた。
「その男なら知ってるぞ。確か例のウィルファーマ社建設に唯一反対してた男だろう?それで不法侵入になって一度捕まった…」
「もし……その彼が未だに東京事件のことを調べていて、さっきの事実が本当だと信じ込んでいたら…この事件を起こした可能性も…」
「そんなはずない!」
突然薺の意見を真っ向から反対する声が響いた。
秊は震える口でその理由を述べるのだった。
「だって……広崎謙二は…私の兄よ!」
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玲奈
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竜馬
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薺
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紗枝
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海翔