バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第12話 怪奇の村民

竜馬は出来るだけ軽い装備を身につけて、ホテルの前で大統領が手配してくれているはずのパトカーを待っていた。いつもなら拳銃1つにナイフ1本という装備以外は身につけていない。

だが、今回の目的はBOWの殲滅ではなく、大統領のご息女を救出することだ。なのに、ドギツイ装備をぶら下げて、そんな得体の知れない村へと赴くのは危険と言える。

万が一のため無線は携帯しているが、竜馬の見送りのためにと彼の前に立つ玲奈の表情は昨日とあまり変わっていなかった。要するに…心配でしかないのだ。

昨日、自分でも大胆な発言をしたなと思いつつ、竜馬は苦笑した。

こんな格好つけて上手く行ったことなんてあったっけ?と。

そう思っていると、1台のパトカーがやって来た。

どうやら出発の時間のようだ。

 

「じゃあ、行ってくる。何も無かったらすぐ戻る」

「分かったわ。ほら、玲奈!いつまでもくよくよしてないで何か言ったら…」

「……気をつけてね?」

「っ‼︎」

 

上目遣いで顔を赤くして言っている玲奈に竜馬はドキッとした。

 

「あ、ああ…」

 

それだけ言って、竜馬は急いでパトカーに乗り込んだ。

実際今竜馬の心臓ははち切れんばかりに激しく鼓動している。

これだから天然は困ると竜馬は思いながら、軽い気持ちで(くだん)の村へと連れて行ってもらうこととなった。

だが…竜馬はこの時ちっとも分かっていなかった。

今から向かう村で…自身と玲奈の運命を大きく変えることを…。

 

 

 

 

パトカーの中で揺られて…もう2日は経とうとしている。

今更ながらだが、途中まで飛行機で行って、そこからタクシーか何か捕まえて行った方が早かったのではとも思えてきた。どうしてパトカーでそのまま行くのか……アメリカの考えは全く理解出来なかった。

 

「そういや…今更だけどさあ…」

 

唐突にパトカーを運転する警官に声をかけられた。

 

「あんた、あんな辺鄙(へんぴ)な村に何しに行くんだ?」

「行ったことがあるのか?」

「あるよ。とても雰囲気が暗い村でねえ…。本当に人が住んでいるのか怪しいレベルさ」

「でもいるんだろ?」

「ああ。変な奴らさ」

「変な奴ら?」

 

それが何なのか聞こうとした時…竜馬の視界は赤で染まった。

パトカー付いている頑丈なフロントガラスが…粉々に砕けて、運転してた警官の額を手製の槍で貫いていたのだ。

 

「な、なにっ⁈」

 

もちろん運転するものがいなくなったパトカーは暴走状態だ。死体となった警官がアクセルを踏み続けて、加速していくばかり。

竜馬は死体を退かして、急いで止めようとしたが、もう遅かった。

崖…ではないが、丘らしき場所からパトカーは落下し、竜馬の意識もそこで一旦途絶えてしまうのだった。

 

 

 

 

「ぐっ………痛…」

 

少しだけ痛む頭を抑えて、上体を起こした。

どれだけ落ちたのだろうか…。竜馬の目の前にはぐちゃぐちゃで原型を留めていないパトカーがあった。まだ運転席には警官の死体がある。だが…どうやって防弾性で頑丈なフロントガラスをあんなチンケな槍で貫通出来たのだろうか?

竜馬はそれが疑問であったが、今はまず玲奈たちに連絡して、どうするか検討しなくてはならなかった。

 

「玲奈……玲奈!」

『竜馬、どうしたの?まだ村には着いてないでしょ…』

「警官が殺された」

『殺された⁈どういうこと⁈』

「突然手製の槍が飛んできて…警官の頭を貫いたんだ。それよりも問題は…俺はどうしたらいいかだ」

『そうね…。もし…近くに例の村があるなら行って、そこで一晩過ごせば?私たちがすぐ迎えに行くわ』

「それがベストだな…。飛行機で途中まで来いよ?」

『分かってるわよ』

 

そう言って無線連絡は終わった。

竜馬も早く村に行かねばならない。厚い雲が覆っているからか、もうすぐ夜になるのではと思ってしまう。竜馬も流石に野宿は勘弁だった。

 

「…はあ、泣けるぜ…」

 

最悪の状況に陥った竜馬は、そう呟くのだった。

 

 

 

 

荒れ果てた獣道をひたすらに進んでいくと、1つの建物を見つけた竜馬は一応泊めてもらえるか確かめようと家の扉を叩いた。

だが、全く返事無かったため、やむなくお邪魔した。

 

「おい、誰かいないのか?」

 

そう言って、リビングの方に向かう。暖炉には薪があって、火が付いていた。家主はそう遠くには行っていない。ではどこに?

そう思いながらも、勝手に家の中に留まっているのも悪いと思い、退散しようとした振り返ったその時…。

キラリと光る刃が自身に飛んでくるのがはっきりと分かった。

竜馬は攻撃を左に避けて、相手が何者か確認する。

目の前にいたのは、斧を持った初老男性だった。しかし、その瞳は赤く光り、明らかに外部の人間に殺意を抱いている様子だった。

 

「動くな‼︎」

 

竜馬はそう叫んで、相手に拳銃を向けた。

なるべく騒ぎを広めたくないため、撃ちたくはないが…。

しかし、老人は拳銃を向けても全く気にすることなく竜馬に歩み寄ってくる。まるで恐怖などそういう感情が失われているみたいだ。

 

「……ああ、クソ‼︎」

 

竜馬は仕方なく、老人の頭を撃ち抜き、殺した。

今の銃声でこの村に侵入者が来たことはバレてしまったことだろう。すぐに立ち去ろうと思ったが、後ろでガタゴトと何か立ち上がる音が聞こえ、竜馬の足は止まってしまう。ゆっくり振り返ると、さっき額を撃ち抜いたはずの老人が立ち上がっていたのだ。

 

「嘘だろ…」

 

そう思わず呟いてしまう竜馬に更なる恐怖が襲う。

立ち上がった老人の頭がブルブルと震え始めると、首は不自然な方向へと傾き、その頭は吹き飛んだ。頭の代わりに出てきたのは…不気味というか…気持ち悪い触手状のものだった。

 

「な、何だ⁈こいつはっ⁈」

 

驚いている暇もなく、その触手は急に強く振ってきて竜馬の腕を切り裂いた。

 

「ぐあっ‼︎」

 

中々の切れ味に竜馬は圧倒され続けていた。まだ近付いてくる奴に、竜馬は暖炉の中にある薪を投げて怯ませると、奥の扉から一気に突っ込んで家から脱出した。

しかし、銃声に反応して来ていた村人が幾人もいて、竜馬を見るなり、それぞれが持った武器を構えて竜馬に近付いてくる。

 

「くそっ!何だ、この村は⁈」

 

竜馬は血が滴り続ける腕を抑えながら必死に逃げた。血の跡を辿られれば、当然また見つかってしまうと分かっているが、逃げる他なかった。

そうやって道なりに逃げていくと…広い場所に出た。

中央ではキャンプファイアのような大きな炎があるのだが、そこでは何人もの人間が胸に(くい)を打たれて燃やされていた。しかもその様子を見ている村人は、さも当然かのようだった。

その村人も竜馬に気付くと、赤い眼を大きく開いて、英語ではない原語を彼に向かって叫んだ。

 

「…こいつは、やばい…」

 

あの化け物が頭から生えた老人もやばかったが、今目の前と後ろから来ている村人全員に襲われる方がもっとやばかった。仮に拳銃で応戦しても、またあの触手状の化け物を出してくるかもしれない。

ジリジリと竜馬の退路を塞ぎ、完全に周りを囲んだ村人は一斉に武器を振り上げて襲いかかってきた。ここまでかと竜馬は、最後くらい抵抗してやろうと思って拳銃を撃とうとしたその時。

教会の鐘が高々と鳴り響いた。

鐘の音を聞くなり、村人は竜馬から視線を逸らし、教会に向かいながらブツブツと呟いていた。

 

『ロス・イルミナドス』…と。

 

何を指し示すかは分からないが、あれだけいた村人は一斉に竜馬から離れていき、教会の扉を開けてその中へと消えていった。

1人残された竜馬は力なくへたりと座り込んで、大きく安堵の溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

その頃玲奈は1人落ち着けずにいた。

竜馬から先程無線があって、どうしてこんなに嬉しいのかと思いつつ要件を聞くと、竜馬を乗せてくれたパトカーの運転手が殺されたとの報告だった。

問題ないと言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?

不安ばかりが胸の中に募っていく。

そして、居ても立っても居られなくなり、紗枝に内緒で電話をした。

 

「すいません、明日2時の便を…」

 

飛行機の予約を取り、玲奈は装備のチェックを行う。

彼女は…竜馬の元に行くつもりだ。誰が何をしても、玲奈は竜馬の元へと突き進む…。そんな思いを、誰にもバレないように()せているのだった。

キャラ人気投票。IF Story編終了まで実施。

  • 玲奈
  • 竜馬
  • 紗枝
  • 海翔

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