それといつもより少し短めです。
リッカーをどうにか倒し、教会に戻ってきた玲奈と竜也だったが、その代償は大きかった。憲之の死、葉子のアンデッド化…。前者はどうしようもなかったが、後者は玲奈の心に深い傷を負わせた。
列車を降り、二人はもといた教会の広場に着くと、緊張感が抜けてしまい、足腰から力が無くなり地面に座り込んでしまった。息切れや動悸も起きてしまっている。
そんな中、玲奈は悔しさから地面を叩いた。
「私がっ…もっと早く記憶を取り戻していたら…葉子を死なすことはなかった!私の…私のせいだ!」
そう…。その事が玲奈の心に傷を負わせていた。
助けられるはずの命を救えなかった悔恨が玲奈を襲う。
涙が溢れ、止まることもない。だが、竜也はその苦しみを優しく取り除くように玲奈を抱き締めて言う。
「お前は…玲奈は何にも悪くない…。悪いのは…あんな非合法なウィルスを開発しやがったアンブレラだ。俺だって…悔しいさ。妹を救えなかったしさ…。兄貴失格だよ」
自嘲して言う竜也。数十秒に渡る抱擁を終え、竜也は玲奈の肩を掴んできちんと顔を向き合わせる。
「でも、その事実を俺たちの手で世界に伝えることは出来る!それだけでもしないと……死んでいった奴らに面目が立たないしさ…」
「竜也…」
玲奈も竜也を抱き締め返す。こんな短い時間しか一緒にいなかったが、玲奈にとっては竜也はかけがえのない存在にまで登り詰めていたのだ。抱擁を解き、彼の唇に触れるか触れないかの瀬戸際で…彼は苦しみだした。
「りゅ、竜也!?」
「ぐ…うあぁ…!う、腕がぁ…!」
竜也はリッカーに引っ掻かれた右腕を抑えて喘ぎ声を上げ始めたのだ。元々リッカーは生物にJ-ウィルス投与して作られたものだ。なら、鉤爪にウィルスが含まれていても不思議はない。右腕は勝手に筋肉が動いているかのように膨張し、傷口からは僅かに小さな触手のようなものまで出始めた。この事に玲奈は大いに慌てた。
「感染したの!?待って!今抗ウィルスを………。……!」
玲奈は戦慄した。
ケースの中にある抗ウィルスは全て入れていた試験管が割れ、中身が漏れてしまっていた。これでは、竜也に注入することは出来ない。どうすることも出来ず、玲奈は竜也に声をかけることしか出来ない。
「耐えて!きっと…必ず助けるから…!」
「…その、様子からじゃ、俺は助かりそうにないな……」
竜也は腰の拳銃を取り、玲奈に差し出した。
「撃てよ…。感染者を…生かしておくわけにはいかないだろ…?」
「絶対に…いや…。竜也だけは必ず……。何か方法が…」
「俺が、もう…手遅れだということくらいすぐに分かるだろ?」
「そんなこと言わないで‼私は…私は竜也が…!」
玲奈は竜也に何を言われようと、どうやって助けようか必死に考える。だが、そんな考えが思いつくはずもなく…時間だけが流れる。竜也の息は徐々に浅くなり、いつの間にか、彼の口から血が流れていた。
「……玲奈は………優しい、な……」
竜也はそう呟くと、拳銃を自身のこめかみに当てた。
「ダメッ‼竜也‼」
「…悪い…。こうするしかないんだ…。玲奈、絶対に……奴らを、倒せ…よ……」
玲奈の腕が竜也の腕を掴む前に、竜也の指は既に動いていた。
竜也の側頭部から血飛沫が上がる。竜也の身体が地面にドサリと倒れる様を、茫然自失と眺めていた玲奈の目からは、悲しみの涙が流れた。
「竜也………」
結局、生き残ったのは玲奈、たった一人だった。だが、首にチクンとした痛みの後に眠気が襲う。首に手を当てると、注射器みたいなものが刺さっている。それが鎮静剤だと気付く前に玲奈も地面に倒れた。彼女の倒れたところは…笑った竜也の死体が、倒れている目の前だった。
玲奈が意識を失ってから、研究員5人を引き連れたアンブレラ社の重役の一人、佳祐はまず足元に転がった竜也の腕から触手が未だに出ていることに気付き、支持を出す。
「その男は
研究員たちは二人を担架に乗せ、呼んでおいたヘリコプターに乗せて近くの研究所に二人を軟禁した。そこでは、竜也の脳に特殊な機械を通し、アンブレラに逆らえないようにインプットし、玲奈には研究の一端として、J-ウィルスを投与した。
「さて……準備は整ったな…。お楽しみはこれからだ。本当の始まりは……」
佳祐はそう呟いたのだった。
玲奈の頭の中で…ハイブで起きた光景がフラッシュバックとなって甦る…。光線で焼き切られる者……アンデッドに噛まれ、食われる者……リッカーに襲われ、無惨に殺される者……。
そして…ある男が玲奈の前で頭から血飛沫を上げるところ…。
最後に…玲奈自身も青い液体を投与されたところで、彼女は自らの青い瞳を開けた。
中央にベッドがあるだけの実に殺風景な場所だった。だが、意識を取り戻してすぐに鋭い痛みが玲奈の全身を駆け巡った。
「あ…あああああぁぁぁあっ‼」
身体中、至る所に針が刺さっていて、痛みから逃れるために無理矢理引き抜く玲奈。引き抜く度にその箇所からは血がピュッと噴き出た。頭にまで刺さっていたため、身体はふらふらで立ち上がるのもやっとだった。そんな状態でも玲奈は窓ガラスに向かう。玲奈からはその先は何も見えないが、誰かいるはずだと思った玲奈は叫んだ。
「ねぇ!誰か…!誰かいるんでしょ⁈ねぇ‼」
玲奈は必死に助けを求めたが、横の扉は全く開かない。それもそのはずだった。玲奈は見えていないが、その先には“人間でないもの”が歩いていたからだ。
玲奈は諦めて、自力で扉を開けようと試みる。この扉はカードキーを読み込むタイプだったが、中の機械が壊れればすぐに扉は開くと考えた玲奈は、自身の身体に突き刺さっていた針を一本取り、機械の奥に突っ込んで一気に折り曲げるとバチンと火花が散り、扉は開いた。
玲奈は部屋を出た。そして、ここが病院だということに分かった。
白い壁に白い天井。だが、時折見かけるアンブレラ社のロゴ…。
ここはアンブレラ社が所有してるようだ。しかし、人は全くと言って良いほどいなかった。ある病室を開いても、人がいないのだ。嫌な予感がした玲奈は、病院着のまま病院の外に飛び出した。
その瞬間、彼女に寒気が走った。玲奈の視界に広がる街は間違いなく東京の霞が関なのだが…完全に崩壊していた。
そして、マンションからは火の手が上がっている。そして、落ちていた新聞の一面には、こう掲載されていた。
『
最も恐れていた事態が起きたんだと玲奈には理解した。クイーンでさえ、一番回避したかったJ-ウィルスの漏洩を、アンブレラは止められなかったのだ。明るみを失っていく空…。黒い空が夕焼けを覆い、大雨を降らせる。
ずぶ濡れになった玲奈は…今、この瞬間確信した。
何も終わってなんかいない…。
まだ、始まったばかりだと…。
これにて、一章終了です。
次回からは東京が舞台です。
ネメシスだけではなく、“奴”も出そうと思っているので、どうぞお楽しみに。