いつもよりかなり長めです。
サドラーはアシュリーと竜馬をこの村を元支配していた本城に連れて行き、その屋上へと連れて行った。サドラーに拘束されていたアシュリーも、ここで漸く解かれる。竜馬は未だに目を覚まさない。
「竜馬さん!起きてよ‼︎」
何度呼びかけても、竜馬の目が開くことはない。
その様子を見たサドラーは一層薄気味悪くさせる笑いを浮かべた。
「最初に言っただろう?アシュリー、たとえ誰かが君を助けに来たとしても…そいつらは絶望の淵に沈んでいくのだと…」
「うるさい‼︎怪物ばかり使って、自分では何もしてないくせに!」
「それは心外だ、アシュリー。これは我々が授けた神にも等しい力…要するに神聖な力…」
「どうだっていい!死ね‼︎死ねぇ‼︎」
アシュリーはそこらにあるものを投げて、サドラーに対抗する。だが…高校生の女子が投げたもので傷を与えるなど、夢のまた夢の話だ。サドラーは笑いを堪えるのがやっとだった。
「くくく……。君がいくら抵抗しようが無に帰する。さあ……そろそろ始めようか……新しい君を生み出す儀式を…」
サドラーが手を前に出し、何かしようとした時…1発の銃声がサドラーの右腕を貫いた。サドラーの目がゆっくりと弾が放たれた方向を向く。そこには拳銃を向け、荒い息を吐く紗枝が立っていた。
サドラーは撃たれた腕を振って、何ともない様子を見せつけると、掌から撃たれた数だけの弾丸が出てきた。
「ふん、これしきで死ぬと思っていたか?」
「思ってなんかない。でも…ダメージは与えられるし、アシュリーに何かする前に足止めすることが出来る」
「足止め?それも無理だよ…」
そう言ったと思えば、サドラーは一瞬の隙に紗枝の目の前にまで来ていた。
「⁈」
避ける暇もなく、サドラーの拳が紗枝の華奢な腹を直撃する。
「うぐっ‼︎」
紗枝の身体は何の抵抗もなく、上がって来た階段の方へと飛ばされる。
「分かっただろう?君は足止めすら出来ない」
「ぐっ……それでも…もう、ここには既に私たちの仲間が向かって来ている!たとえ私が殺されても、あなたの野望は無くなる!」
紗枝ははっきりそう言ったが、サドラーの表情に変化は見られない。
「……そうか。なら、そいつらもまとめて殺せばいいのだろう?良い機会だ。君らに本当の地獄…絶望というものを見せて上げよう!」
紫色のフードを取ると、自らの口を大きく開いた。
その中には大きな目が口いっぱいに入っており、首の付け根から4本の巨大な足を出現させた。そして、首はろくろ首…ほどまではいかないがかなり長く伸び、いくつかの刃を頭の周りに出した。
「…冗談でしょ?」
紗枝自身もここまで巨大化並びに、とんでもない化け物になるなんて予想していなかった。そこで紗枝は…。
「アシュリー!竜馬を連れて離れて‼︎」
アシュリーは頷いて、未だに目覚めない竜馬を引き摺って急いで怪物になったサドラーから距離を取る。
いつまで寝て、女子ばかりに任せるのかと思う紗枝だったが、ここは自分がやるしかないと、拳銃は一旦しまい、ライフルを構えた。
『そんな……おもちゃで私を倒せるとでも?』
「さっきも言ったわよね?倒せるか倒せないかなんて関係ない。私なりに頑張るだけよ!」
『……勇ましいことだ』
そう呟き、サドラーは巨大な足の1本を紗枝に向かって突き出した。
紗枝は側面に回避し、ライフルを連射する。
的が大きくなった分、当てやすくはなったが、ちっともダメージは与えられてなかった。弾は身体の中には食い込むが、すぐにさっきと同じように身体から排出された。
「そんな!こいつ…」
『だから言っただろう?君がやっていることは……』
言いながら、サドラーは足を紗枝の側頭部に直撃させた。
『意味を成さない』
「あああっ‼︎」
紗枝はライフルを手から離して、ゴロゴロと地面を転がる。
意識はあるが、グラグラと頭が揺れ、立ち上がることが困難になる。気付かない内に側頭部からは血がたらりと垂れてくる。
サドラーはゆっくりと紗枝に近付きながらも、紗枝が持っていたライフルを粉々に踏み潰した。
『これで…終わり、だな…』
その頃、紗枝の様子を頑なに見ているアシュリー。竜馬の方はちっとも見ていなかった。
カランと…竜馬のすぐ横に何か金属質のものが落ちる音がした。
その音に…竜馬は漸く目を覚ました。ゆっくりと目を開き、その音がした方向を見ると、刀剣が落ちていた。その近くには黒いパンプスを履き、赤い蝶柄のドレスを着た女性らしき人が見えていた。
「あん…たは……」
「全く……まさか二度もあなたを助けなきゃいけないなんてね…」
女性は竜馬の言うことを無視して、勝手に話を始める。
「いつまで貴方は眠っている訳?そんなことばかりしていると、お仲間さんが死ぬわよ」
竜馬はそう聞き、自分でも全開で首を動かして……女性が見ているところを見た。そこでは地面に倒れた紗枝に留めを刺そうとするサドラーの姿が見えた。
「紗枝……さん?」
「…どうするかは貴方に任せるわ。だけど…貴方のお兄さんみたいな無駄な死を増やしたくないなら…立ち上がることね…」
そう最後に言い残し、女性は竜馬の視界から消えた。
竜馬はその言葉で…ボロボロの身体を立ち上がらせた。
「待て…よ!サドラーぁぁぁ‼︎」
その大声にサドラーと紗枝、アシュリーもが反応した。
紗枝の視界から見て、いつもの竜馬ではなかった。ナイフを片手に、ボロボロのはずなのにどうやってか身体を無理に動かして…サドラーを物凄い眼力で見ていた。
『ほう……あの状態でよく、立ち上がれたな?だが……その努力に免じて…“彼ら”の気持ちを味わらせてやろう』
サドラーの目が赤く光った。
その途端、竜馬の胸がギュウッと締め付けられるような感覚に襲われた。それもただの…ではない。本当に…息をするのも出来ないくらいだった。
「あ…がっ……ああああああああああああああああああ‼︎‼︎」
立ち上がった竜馬もすぐに地面の上でのたうち回り、その苦しみに耐えようとするが……。
「あああああああああ‼︎ぐああああああああああ‼︎」
その様子を見ている紗枝はサドラーに怒鳴る。
「竜馬に何をしたの⁈」
『元々彼には……特別な、種を埋め込んでいた…。それが
サドラーがそう言うと、竜馬の悲鳴は止まった。
まさか……と思いながら、紗枝は竜馬の方に向き直った。
そこには、刀剣を片手に立つ上がる竜馬がいた。元のままではないかと言いそうになったが、それは間違いだった。
竜馬の目は…赤く血走っていた…。
「竜……馬?そんな……そんな……」
『丁度良い…。完成した人形に……君を殺させてやろう…』
サドラーの目がもう一度赤く光る。すると、竜馬は無言のまま、紗枝の方へと足を進めていく。
紗枝は身体を動かすことが出来ず、彼の行動をただ見ていることしか出来ないでいた。彼女に出来ることは…呼びかけることだけだった。
「竜馬…!そんなもので操られる竜馬じゃないでしょ⁈お願い‼︎」
「…………」
竜馬は無言で紗枝の方に刀剣を向けた。
そして…キラリと刃を
思わず紗枝は目を瞑ってしまう。
だが、聞こえたのは…。
『ぐあっ‼︎』
サドラーの悲鳴だった。
「え⁈」
紗枝が目を開けて見ると、そこには刀剣で新しく生えた首の根元を深々と突き刺している様子が入ってきた。
『貴様……どうして…⁈』
「…どうしてかな…?俺にも分からないさ…。でも、お前を殺す気持ちが寄生体よりも勝ったんだよ‼︎」
そのまま竜馬はサドラーの首に刺した状態で動かしていき、頭を断頭しようとする。
が…突然、紗枝の視界を一瞬…赤い液体で覆われた。
「っ‼︎」
「あ……」
紗枝にも何が起きたのか判断するのに、時間がかかった。
紗枝の顔全体にかかる程の大量の血……。それは、竜馬の腹部をサドラーの足が貫通したことによるものであった。
竜馬自身も…底知れない痛みに襲われているだろうが、それには耐え、首を切ろうと必死にもがく。
サドラーも今にも首を切られようとしている痛いからゆっくりと後ろに下がっていく。もう少しでサドラーの首が切れようかというところで、竜馬は吐血し、更なる痛みに耐える。
「竜馬!もうやめて‼︎それじゃああなたが…!」
紗枝はそう叫ぶが、その声は竜馬の耳には聞こえていない。
そして…竜馬は残りの力を全て振り絞り……声を上げた。
「うおおおおおおおおお‼︎」
その途端、サドラーの頭と胴体は分断された。ブシャァと血飛沫が上がり、サドラーは何も発することなく死んだ。
竜馬も…力を使い果たし、刀剣を地面に落とす。サドラーの身体も崩れようとしたのだが、サドラーが立っていたのは断崖絶壁で、酷く激しい海流が渦巻いていた。その方向にサドラーの身体が落ちかけてようとしたところで…竜馬の耳に『彼女』の声が響いた。
「竜馬!」
薄れそうな意識の状態で竜馬は傷付いた玲奈を見て、フッと笑った。
「玲奈……すまない…。俺は……君との約束を…守れそうにないよ…」
小さく呟いた言葉は玲奈には届かない。
竜馬の身体は、サドラーの身体もろとも…崖から落ち、大海原へと落下していくのだった。
「…………」
玲奈は言葉を出せずにいた。
今…目の前で何が起きたのか全く理解出来ていなかったのだ。
竜馬と謎の大きな怪物の身体は…玲奈の視界から消えた。いや…大海へと落下したのだ。
漸く理解した時、玲奈の足はその崖へと向かっていた。
「竜馬あああああ‼︎」
彼女も飛び込んで助けようと思った。しかし、それは紗枝によって止められてしまう。玲奈は暴れて、紗枝の制止を振り切ろうとするが、それも出来なかった。
「玲奈‼︎ダメよ‼︎それじゃあなたも…!」
「いやっ‼︎いやあああ‼︎竜馬っ‼︎竜馬ぁ‼︎」
玲奈は涙を止まらせることなく、ずっと泣き続けた。
大海に玲奈の泣き声が永遠に響き続けるのだった。
すぐに紗枝が呼んだ応援はやって来た。全ての村民は寄生体によって、人間でなくなっており、全村民が射殺された。
村1つを壊滅させるほどの寄生体の存在は……とても大きなニュースとなり、世界中に報道されていた。
その間…日本では、竜馬の葬式が行われていた。
三兄妹全員、遺体無しの葬式という…なんとも言えないものだった。
結局、数日も断崖の下を捜索したが、竜馬の遺体は発見されなかった。その代わり、憎たらしいサドラーの死体は見つかった。
喪服に身を包んでいる紗枝や海翔たちはそれぞれに悲しみを感じているが、最も辛いと思われるのは…玲奈だろうと誰しも分かっていた。
しかし、玲奈はこの葬式にはいない。
「玲奈…とうとう来なかったわね…」
「……無理もない」
「玲奈、可哀想に…」
薺が呟くと、紗枝も海翔も口を塞いでしまうのだった。
玲奈は海岸にいた。
花束を持ち、それを海に向けて投げ捨てた。
彼女は葬式に出れなかった。未だに現実を受け止めきれていない自分がいるから、葬式場で暴走してしまうのではと思って…出なかったのだ。
「…嘘つき…」
小さく呟き、何度目かになる涙を流した。膝を落とし、砂浜に手を付き、海に向かって話し出す。
「バカ…。嘘つき…竜馬……必ず戻ってくるって、約束したくせに…。どうして?私の前からは……大切な人がいなくなるの?」
誰もその答えを言わない。
そして…子供のように玲奈は大声を上げて、泣き叫ぶのだった。
「竜馬ああああああぁぁぁ………」
彼女の愛しの人は…戻ってくることはない…。
ピッ………ピッ………。
心電図の音が鳴り続ける。
ルイスはそこで横たわる竜馬の身体の中に残っている寄生体を取り、それを大きな瓶の中に入れる。するとそれを取りに来たのか、右眉毛辺りに傷を付けた男がやって来た。
「どうだ?」
「不思議なくらいだよ。竜馬が生きているのは…」
「ほう…。それなら使えそうだな…」
「何に使うんだ?アリエス」
「それはな……」
アリエスという男は答えを言う前に、拳銃を抜き、ルイスの頭を撃ち抜いた。ふっと銃口から出てくる煙を吹き、拳銃をしまう。
「君に言う必要はない」
アリエスは寄生体が入った瓶を取り、横たわる竜馬に向けて不気味な発言をするのだった。
「君にはこれから働いてもらうよ?助けてやった分…ね」
これが何を示すのか……理解出来る者は、誰もいない。
いかがだったでしょうか?リクエスト回は。
かなり自分なりにアレンジしましたが、楽しめたのなら良かったと思います。
次回からは新章です。
今度は原題を『マルハワデザイア』にしようかと考えています。