待っていた方々には申し訳ありません。
では、どうぞ。
数時間後、玲奈は漸く意識を取り戻した。
まだ僅かに痛む後頭部を少し抑えながらも、ゆっくりと立ち上がって何があったのか思い出す。そして、玲奈はビンディがここにいないことが分かる。
急いで周りを見るが、彼女は既にいなかった。
どこに行ったのかと探そうとも思ったが、その前に一室からグチュグチュと、何とも嫌な音が聞こえてくるので、それが何なのかと確かめようと扉を開けた。
玲奈の視界には目をめい一杯開いて、膓(はらわた)を抉られて、中の内臓をアンデッドによって貪られている生徒の死体が置かれていた。
扉を開けた音に反応したアンデッドは食事を止め、玲奈の方に襲いかかってくる。
「くっ……!」
玲奈は構うことなく、そのアンデッドの頭部を撃ち抜いた。
ここにもアンデッドが現れたのか…そう思っていたら、外から…中庭辺りからひっきりなしに男女の悲鳴が飛び交っているのが分かった。
『既にタイムオーバーなんです』
ビンディが去り際に言っていたあの言葉の真意が分かってしまった玲奈は急いで外へと飛び出した。
そこは正に地獄だった。地面に僅かだが、白い靄が残り、それを吸った者は否応なしにアンデッドになってしまう。そして…友達だろうとそうでなかろうと無差別に襲う…。
この光景は…玲奈の記憶の中に永遠にこびり付いているのと全く同じだった。
「…ビンディ…!」
玲奈は怒りに身を滾らせながらも、再び襲いかかってくるアンデッドたちから逃げるのだった。
グラシアは1つの会議室で拳銃を持って、身体中に血が付着しているビンディと向き合っていた。外で何が起きているかもグラシアは分かっている。そして、その原因が全て自分であることも分かっている。
だが、ここで死ぬ訳にはいかないグラシアは、恐怖に勝る語調でビンディに言うのだった。
「貴女は…ここで終わります!ビンディ・ベルガーラ‼︎」
「それは私の台詞ですよ…。今日でマザーの聖域も終わりです!」
ビンディがまだ話してる途中にも関わらず、グラシアは引き金を引いた。銃弾はビンディの左目辺りを貫き、彼女の身体は撃たれた反動で崩れ落ちる。
グラシアの息は荒々しく上がっており、殺したと分かっても安心出来なかった。だが…グラシアの予想とは違った光景が目の前に映った。
ビンディはゆっくりと上体を起こして立ち上がったのだ。
撃たれた部分からは白い煙が放出して、肉体は再生していく。
薄笑いを浮かべたままのビンディにグラシアは容赦なく銃弾を撃ち込む。
「悪魔…‼︎」
何発もビンディの身体を銃弾が貫くが、ビンディは痛む様子も倒れる様子も見せない。
そして、左腕に撃ち込まれた途端に腕は変形し、人間ではない異形のものへと変わった。
「ビ…ビンディ…貴女は、一体…?」
「さあ?あの方からくれたもの…と言えば正しいかしら?」
そう言った瞬間、左腕の惨爪がグラシアを襲うのだった。
玲奈はどうしようもなかった。生存者を導こうとしても、彼らにとっての頼みの綱はグラシアで、玲奈のような外から来た者の言うことは一切聞き入れようとしなかった。そのせいで次々と死に絶え、自殺していく。
助けることが出来ない悔しさが玲奈を襲う。
そう思いながらもアンデッドから逃げていると、突然右側から腹を抉られた死体が教会から飛んできた。教会の大きくて丈夫な鉄製扉は粉々に崩れ、中からは悲鳴が聞こえる。
玲奈が急いで入ると、丁度ビンディが最後の一人を殺し終えたところであった。
「…あら?起きたのね、玲奈さん。でも…もう手遅れよ」
「ビンディ…!あなた…よくもやったわね!」
玲奈が拳銃を構えて改めてビンディを見る。
顔の半分はたくさんの異形の目が出ており、左腕は地面に着きそうな程巨大化、変形している。しかも彼女の足元には、修道服を来て、綺麗な茶色の髪を持った死体が放置されていた。
「グラシア⁈」
「ええ…先程殺しましたの…。この大聖堂に残っていた人たちに見せつけて、絶望を与えて…ね」
「あなたの復讐は…そこまでのものだったの?」
「はい…私のナナンを奪ったのはグラシアじゃない。この学園そのものです!この学園を破壊することが、私たちが出来ること…。玲奈さん、邪魔をするなら…」
「するわよ」
ビンディが言い切る前に玲奈は言い切った。
「どんなに悔しくても…辛くても…あなたにはまだ選択肢が残っていた。こんなことをする必要はなかった。だけど…私は、あなたを殺さなくてはならない、ビンディ」
「そうですか……ふふふ…」
ビンディが薄笑いを浮かべる。
「なら…返り討ちにしてやる‼︎」
ビンディの口調とは思えない言葉を吐き出して、ビンディは巨大化した腕を振ってきた。
だが、その攻撃は当たりもしなかった。
玲奈はその腕を支えにして、ビンディの後ろに回り込んで2発、拳銃を発砲した。更にナイフを抜いて、頸動脈を裂いて、確実な死を与えた。ビンディは一言も発することなく、倒れた。
「…本当はこんなことしたくなかったんだけどね…」
「ええ、私もですよ…」
「⁈」
ビンディは即座に上体を上げると、巨大化した腕で玲奈を祭壇の方へと飛ばす。
「くっ!」
受け身を取ったため、大したダメージは受けなかったが、驚いたのはビンディの身体だった。白い煙が出ていると思えば、そこの肉体は再生を開始していたのだ。
「再生?冗談もやめて」
「終わりですか?」
「まさか!」
玲奈は残弾なんか気にすることなく、銃弾を頭や身体のどこにでも撃ち込んでいく。ビンディはそれを受けるだけで特に何もしない。
残弾が残り3発になったところで玲奈は心臓に撃ち、側面に回り込むと側頭部から銃弾を貫通させ、最後にビンディの身体に馬乗りになると、喉元に銃弾を撃ち込んだ。
最後のはビンディも流石に堪えたのか、目を大きく見開いてバタリと腕を床に力なく落とした。
これで漸く死んだか…そう思っていると、唐突にビンディの目が一気に開き、玲奈の身体を巨大化した腕で掴んだ。
「ぐっ…!ぐうう…!」
バキバキと身体が鳴り、今にも全身骨折するのではと思う玲奈。
だが、ビンディの身体にもさっきとは違うところがあり、それに気付いた玲奈はナイフで腕を斬りつけて拘束から脱すると、拳銃をしまってナイフを構えた。
「あら?もう銃は使わないんですか?」
「弾切れよ、どっかの誰かさんのせいで」
「くくく…そんな刃物1つで不死身の私を殺せるとでも?」
「充分よ。それにいい加減自分の身体をよく見たら?」
玲奈がそう言うから、ビンディは自らの身体を見た。
煙が上がって再生している…が、完全に再生しきれていない、要するに…再生が間に合ってないのだ。
「!」
「再生しきる前に殺せば何の問題もない」
「くっ‼︎うおおおおおおおおお!」
雄叫びを上げながらも向かってきたビンディ。
攻撃を右腕で捌いた玲奈は顔を切り、再生途中の腹に刃を刺しこんで強く切り裂いた。
「⁈」
「再生する暇は与えないわ!」
そこから怒涛の攻めでビンディを圧倒すると、最後に変形した腕の根元に刃を食い込ませて、両手で一気に腕を切断した。
「はああああああああ‼︎」
ビンディの左腕は切り落とされ、攻撃出来る部位は無くなった。
玲奈は最後にあの忌々しい首を切り落とそうと思った時、彼女の身体に変化が起こった。ボッと音がすると、ビンディの身体は一瞬だけ燃えて、黄土色のものに包まれていった。まるで昆虫の蛹のように。
「………?」
恐る恐る…その蛹状のものに近付いていくと、不意に中から長い足が現れて玲奈の腹を突いた。
「がはっ!」
地面を転がる玲奈。
蛹からは更に足が5本出て、大きな巨体も姿を現した。
見た目は蜘蛛、だが背中には幾本もの触手が出て、頭の部分にはビンディの艶やかな黒髪がだらりと垂れていた。
「ビンディ…あなた……」
彼女の学園に対する恨みはこれほどなのかと恐ろしくなってきた玲奈だったが、彼女の変わり果てた容姿を眺めている時間はそうなかった。
再び太い足で玲奈の身体を突くと、天井ギリギリにまで跳躍して玲奈の右腕を跳躍した時の力で捻り潰した。
「ああああああああああああああああああ‼︎‼︎」
右腕を潰された玲奈は思わず悲鳴を上げた。
更に背中の触手が纏まっていき、太い槍状になる。
腕を潰されながらも身体も抑えられている玲奈にはどうすることも出来なかった。このまま殺される情景が玲奈の脳裏に浮かぶ。
「………竜馬、私も……行くかも……」
そんな諦めたような言葉を吐き出した玲奈。
そして最後の瞬間を待った。
ビンディが槍状にした触手を振り下ろそうとしたその時…一台のハンビーが教会の入り口から侵入してきた。
二人ともそれに反応する。
「玲奈‼︎」
「…紗枝?」
ハンビーに乗っているメンバーの一人は…間違いなく、紗枝だった。