突然現れたナナンに玲奈と海翔の緊張感はマックスにまで上がる。
海翔は真っ先にライフルの引き金を引こうとしたが、それは玲奈が止めた。
「バカ!ここで撃ったら弾が跳ね返って私たちに当たるわ!それにナナンの後ろには…」
何かのタンクらしきものが置かれていた。
あれがもしガスだったら、引火して爆発して巻き添えを食らうだろう。相手が攻撃出来ないと分かっているのか、ナナンは長い触手を勢いよく伸ばしてくる。
2人はそれを右に避けるが、触手は金属板をへこませる。
「ここじゃ場が悪い。もっと奥へ行こう!」
海翔と共に玲奈は地下制御室の奥へと向かっていくのだった。
2人は足が遅いナナンから逃れるために更なる奥へと行くと、かなり広い区域に到達した。周りには制御盤やパイプが多くある。
ここまで来れば、仮に来ても問題はない…そう思っていると、ガンッ、ガンッと金属を強く叩いてるかのような音が辺りに木霊する。
思わず2人が振り向くと、天井のパイプに数本の触手を絡ませて逆さま状態のナナンがいた。そこから身体を反転させて、海翔の方に触手をナイフのように振り下ろしてくる。
海翔はその攻撃をライフルの銃身で防御し、ナイフを抜いて触手を斬った。
「海翔!」
「離れてろ‼︎」
海翔は腰から閃光手榴弾を取り、ナナンに向かって投げた。
忽ち手榴弾は激しい爆音と閃光を放ち、ナナンの感覚を狂わせた。
その間に海翔はナナンの正面に立ち、ライフルを構える。
「食らえ!」
海翔は引き金を引き、容赦なく弾丸をナナンの身体に埋め込ませていった。だが、すぐに傷口から白い煙が放出し始めた。
「海翔!ガスが来るわ!」
玲奈の声を聞いた海翔はすぐさまナナンから距離を取った。その後、ナナンの身体から大量のガスが放出され、半径1m辺りはガスで充満した。
「玲奈!あのガス、どうにか出来る方法はないか?」
「あるならもう動いているわ」
「…だよな…。じゃあ、ガスを吸わないように気をつけてやるしかないってわけか」
玲奈は頷く。
ナナンはすっかり閃光手榴弾の影響を振り払って、再び玲奈と海翔に標的を定める。
すると、ナナンは大量の触手を動かして、玲奈たちの動きを封じる。
「…多すぎてどれが攻撃してくるものか分からない…!」
立ち止まってどう来るか構えている2人だったが、突然ナナンが自らの身体を動かして海翔に体当たりをした。奴は触手を地面に突き刺して支えを作っていたのだ。
真横にまで迫っていたナナンを直視した玲奈だったが、ナナンの触手が高速に動き、玲奈の腹にヒットさせた。
「ぐっ!」
吹き飛ぶ身体は太いパイプに当たる。パイプは大きく凹み、衝撃の強さを物語っていた。
それでも玲奈は拳銃を取り、無鉄砲に撃つ。
しかし、ナナンの身体に当たっても弾痕が残るだけで大したダメージはちっとも無さそうだった。
「おい!こっちだ!この野郎!」
海翔はそう叫んで、自らの方に標的を捉えさせようとする。
ナナンはきちんとその声に反応して、玲奈から視界を外してよそ見をした瞬間に、玲奈はナイフを取り、ナナンの腹に深々と突き刺した。
無表情のままのナナンは玲奈をじっと静かに見詰める。
玲奈も暫く見詰めて、すぐに逃げれる態勢を作っていた。が、ナナンの触手が玲奈の周りを取り巻き、彼女の身体をガッシリと掴んだ。
「!」
そして、尋常ではない力で玲奈身体を締め付けた。
「あああああああああああああああ‼︎」
骨が鳴り響き、痛みも全身を駆け巡る。
「玲奈‼︎」
海翔がすぐに駆け寄って外そうと向かうが、残った触手が海翔の動きを制限する。玲奈は痛む身体を堪えながらもナイフでナナンの触手を3本切り落とし、彼女の身体を蹴り上げて距離を取った。
「がはっ!ゲホッ!」
数秒ぶりの呼吸でも玲奈の身体はちゃんと欲していた。
身体を仰向けにし、どうすれば…と考えている時、天井に付けられたある“もの”に目が映った。
「あれだ!あれさえあれば…!」」
玲奈は未だに気だるい身体に鞭打って起こし、明後日の方向に走り出す。
「!玲奈どこへ⁈」
「すぐ戻るわ!この状況を打開するのよ‼︎」
玲奈は階段を必死に登って、とある部屋を必死に探す。
入り組んだこの地下制御室に苛立ちを覚えながらも、玲奈はすぐに“あれ”を起動させよう部屋を見つけた。
が……。
「え?どうして⁈」
その部屋の扉は開かなかったのだ。
何度ドアノブを回しても一向に開く様子は見られない。
体当たりを行なっても、固い金属の扉は閉ざされたままだ。
その間にも海翔は追い詰められていた。幾度となく触手による連続攻撃を食らってしまった海翔の身体は言うことを聞かなかった。
動けなくなった海翔の身体を触手で拘束し、持ち上げると、ナナンは触手にガスを蓄え始める。
マズイと感じた玲奈は再び扉を叩いた。蹴った。殴った。
けれど扉は無情に開かない。
金属を叩く音が響くだけだった。
「開いて!開いてよ‼︎」
涙声の玲奈は諦めることなく、扉を叩く。
しかし…それでも、扉は開くことはない。
その頃、ナナンは触手にガスを蓄え終え、それを海翔に食らわせようとしていた。海翔の目にも見えるくらいにガスは触手に纏わりつき、不気味さを上げていた。
「海翔‼︎」
玲奈が叫んだ途端に、ガスは放出した。
思わず目を瞑った海翔だったが、ここで…。
『待たせてごめん‼︎』
無線紗枝の声が入ると、天井に備えられた換気システムが作動した。
「え⁈」
玲奈が扉の方を振り向くと、ガチャンと鍵が解かれる音が聞こえ、そこからは服を血で染めた紗枝と智之の姿があった。
「これがしたかったんでしょ?」
「…ええ」
ナナンはガスが換気システムに吸い込まれていくのを驚いた表情で見ていた。その隙に海翔はナイフを抜き、一本切って拘束を解くと、もう一本を掴んで背負い投げをする。
「ふん‼︎」
そこから太い触手にナイフの刃を食い込ませて、一気に切り裂いた。血飛沫が上がり、海翔にもかかる。
そこから海翔は今までやられたことのやり返しと言わんばかりにナイフでナナンの身体中を切っていく。
その様子を見た玲奈は無性に虚しく感じた。
結局…ナナン、そしてビンディが行き着いた先がこんな惨めなものだったのかと…。
「せい!」
触手をあらかた切り落とされたナナンの肩に刃を入れた海翔は攻撃を一時止めた。海翔は戸惑っていたのだ。今戦っている彼女も…今回の事件で犠牲になった生徒たちも…何の罪もない。ただ…1人の女子生徒の暴走が、ここまでの凄惨な悲劇を齎したのだと。
その事を頭の中に置いて、海翔は右手の上に左手を置いて、ナナンの身体を一刀両断した。完全に胴体と下半身が切断され、ナナンはと吐血して、そのまま倒れていった。
海翔はいっときの間、目を瞑ってナナンの冥福を祈った。
「ふう」
息を吐いた海翔のところに紗枝が寄り添う。
「疲れたよ、紗枝」
「まだそんなこと言ってられないわよ?次は脱出」
「そう…だったな」
紗枝の腕を借りて、海翔は疲れ切った身体をもう一度動かした。
玲奈も漸く終わったと思い、智之と共に海翔たちのところに合流しようとした時、黒い影が玲奈の前に立った。
「…!あんたは…!」
玲奈の前には、ビンディがウィルスを貰ったと主張する黒いフードを被った者が立っていたのだった。
次回、黒フードの者の正体判明
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玲奈
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竜馬
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薺
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紗枝
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海翔