ガタガタドタドタとやけに騒がしい音に紗枝は漸く目を覚ました。
覚ましたは良いのだが、手は後ろに縛られて椅子に座らされている。天井は簀(すのこ)のようで、光が木漏れ日のようになっていた。古ぼけた白熱灯もぶら下がっていたが、それは付いていない。
そのせいで紗枝が拉致されている部屋はとても薄暗い。だけど奥にルーク帽を被り、サングラスを付けた老人が座っていた。紗枝は気絶する前に、彼がリッカーに指示をしていたように見えたのを確認していたため、声をかけようと思った時、後ろから腕が伸びてきて紗枝の口を塞がれた。
「ん、んぐっ⁈」
「声を出さないで…」
静かな女性の声と共に、首にナイフを当てられた。
更に暗闇の中から小太りの男が現れて、紗枝が持っていたライフルと防弾チョッキを見せつけた。ニヤニヤ笑って、ありがとよと言いたげだった。
すると突然天井から男たちの声が聞こえ、1つ1つ部屋を確認している様子が見て取れた。最後に「異常なし!」の声が聞こえると、大量の足音が消えていき、最終的に静かになった。
その後、白熱灯がバチバチと鳴ってから付き、紗枝の前に立つ。
後ろにいた女性もナイフを首から離して、紗枝を静かに見下ろした。
明るい茶色のセミロングの髪、この戦場で戦っている者にしてはとても美しい人であった。
「私たちが何者か分かる?」
「……誰?」
「私たちは、あなたたちが言うテロリストよ!」
「ふうん…。それで?私を拉致った理由は?」
紗枝は至って冷静であるが、本当は怖くて堪らなかった。少しでも下手な事を言えば、殺されてもおかしくない。
「なあ、バディ。こいつは人質として役立つかな?」
「まだ分からないわ。それより…あなたは何?日本人がここで何をしているの?もしかしてCIAかFBIかしら?」
「どちらでもないわ。私は朝早くからこの国に行けと言われて止む無く来て、すぐに帰って来いと言われて逆らったただのBSAAの隊員よ」
BSAAと名乗った途端に彼らは紗枝に対する態度が変わった。
「…なるほど。それならここから出すわけにはいかないわ。アレとまともに戦って倒せる実力の持ち主なら…尚更ね…」
アレ…リッカーのことだと分かった紗枝は身体を乗り出して、彼女に訴えかけた。
「今すぐアレと関わるのを止めないと……全員死ぬことになるわよ⁈」
「これで私たちとあなたは『敵』なのははっきりしたわね」
彼女は紗枝の身体を掴んで、思いっきり押した。
椅子に座っていたから倒れることはなかったが、気分は最悪だった。
3人のテロリストに囲まれて動けない紗枝はどうすることも出来ず、隙が出来るまでじっとするしかなかった。
欧州のとあるホテルの一室で清々しい朝を迎えた玲奈に一本の連絡が入った。留守電であったが、その声の主は間違いなく海翔のものだった。
『おはよう、玲奈。連絡先は分かっても、君が今どこにいるか分からないから、もし早朝だったり夜中だったりしたら申し訳ない。本題だが、紗枝との連絡が途絶えた。場所はヨーロッパだ。訳あって国の名前は言えないが、今も戦争しているからすぐに分かると思う。あいつに限って問題ないとは思うが…すぐに行ってみてくれないか?行くんだったら、礼を言う』
ここで留守電は終わっている。
玲奈は結局海翔は紗枝のことが心配なんだとすぐに分かった。
「…海翔の頼みなら…聞かない訳にはいかないか…」
玲奈はそう呟きながら、朝のシャワーを浴びに行くのだった。
椅子に座らされ、拘束されたままの状況が数時間経過した。
外は相変わらず忙しなく足音が聞こえる。
紗枝の目線は最初にリッカーを操っていたと思われるサングラスの老人に向いていた。ずっと心臓の辺りに手を置いて、苦しそうに呼吸しているのが暗くても分かった。
そこで紗枝hs自身の防弾チョッキとライフルを持った小太りの男に声をかけた。
「ねえ、ちょっと…」
「俺は『ちょっと』じゃねえ、JDだ」
「…JD、そこの老人、様子がおかしいわよ?」
JDは少し戸惑った表情を見せたが、何事もなかったかのように返答した。
「いつものこった」
そう言った途端に老人は激しく咳をした。
「…だといいんだけどね…」
「なあなあ!それより‼︎お前どうしてこんな辺鄙な国に来たんだ⁈」
JDの興味ありげな眼差しを見て、こいつはさっきの女とは結構違うんだなと思った。
「どうしてだと思う?」
「考えても分からないから聞いてるんじゃねえか」
「そんなに知りたいの?じゃあ、私の質問に答えて」
「ものによるぜ?」
「…その防弾チョッキ……外すときに私の身体触ってないわよね?」
紗枝がそう聞くと、JDはい暫し固まっていたが、すぐに腹を抱えて笑いだした。
「おいおい‼︎俺たちは革命を起こそうと必死なんだぜ?女と戯れている時間なんかねえんだよ!」
「なら良かった」
JDはひとしきり笑うと、胸ポケットに収めている小さな水筒を取り出して口に含んだ。紗枝のものだが、自分のものだと主張しても無駄だと思い何も言わなかった。
そうやっていると、さっきの女が金属質の扉から入ってきた。手には銃を持って…。
「どうだった?イリーナ?」
「外は完全に政府軍に占拠された。暫くはここを動かない方がいいわ。…それと、あんた、さっきJDが言っていたことは信用しない方がいいわよ?あなたをここまで連れてくる間、『戦争中じゃなければやってたぜ』…なんてボヤいていたから」
それを聞いた瞬間、紗枝はJDの足を思いっきり踏んだ。
「いでっ⁈」
JDは足を抑えながら暴れる。
「JD、女の恨みは恐ろしいのよ?」
「理解したよ…イリーナ…」
そうやって囚われの身であるのにも関わらず暢気に話をしていると、再び老人が激しく咳をし始めた。
それを見かねたJDはイリーナに相談する。
「イリーナ、アダマンどうするよ?あの日本人も心配してるそうだったし…一回移動させた方がいいんじゃ…」
イリーナは紗枝を一瞥してからアダマンも見た。
確かにどうしようかと思った時、扉が激しくノックされた。
「誰かいるのか⁈」
声の雰囲気からして、イリーナたちと友好的ではない感じが冴えに分かった。恐らく政府軍だろう。アダマンの咳か別の何かで居場所を突き止められたのだ。
JDは勢いだけで扉の前に立ち、敵が入ってきたら即撃てるようにした。
しかし、この感じは違う…。紗枝は勘だけでそう思って、撃たれるのを承知で椅子から立ち上がってJDに体当たりした。
その1秒後、金属の扉は爆発音と共に吹き飛んだ。同時に迷彩柄の軍服を着て、ライフルを持った男たちが雪崩れ込んできた。
「行け行け行けーー‼︎」
「動くな‼︎手を上げろ!」
ライフルを構えられた紗枝やイリーナたちはどうすることも出来ず、ただ言われるがままになる。
しかし、奥で咳をしていた老人…アダマンは政府軍が突撃して来ても、余程何かに詰まったのか止まることなく咳が続く。そして漸く止まって、アダマンが顔を上げた時、彼の目は赤く染まり、奇声を上げて襲いかかった。
その混乱に乗じて紗枝は手を縛られていても、敵の顔面に強烈な蹴りを打って相手を倒した。
イリーナも敵のライフルを掴んで、アダマンを囲む奴らを撃ち殺し、更に周りの敵並びに紗枝に向かって乱射した。
これによって、侵入して来た政府軍は全滅した。
しかし、上にいた奴らに気付かれてしまい、雨のように銃弾が降って来た。イリーナたちは倒れているアダマンを担いで、そこから逃げ出すのであった。