イリーナとJDは足元がおぼつかないアダマンを引っ張って、狭い地下通路を進んでいた。政府軍に見つかってしまった以上、そこに長居は出来ないし、追手も振り切らなくてはならない。
約500m程進んだ辺りで、目を真っ赤に充血させたアダマンを地面に置いて一息吐いた。JDも荒井いい息を戻そうとめいいっぱい深呼吸する。
「どうやら……振り切れたみたいだな…」
「安心するのはまだ早いわ。とにかくアダマンを連れてここから出ないと……」
イリーナがアダマンの腕を掴んで立たせようとすると、それは振り解かれた。
「わしは……もう、いい……。置いていけ…」
「何言ってんだ!アダマン‼︎まだ諦めるには……!」
JDはそう叫ぶが、もう意識が朦朧として言葉も細々としか言えないアダマンを見て、連れて逃げるのは無理難題とも思っていた。
「このまま……じゃ…独立を…果たせん……。だから…」
「………」
「で、でもよお…!」
「分かった」
「イリーナ!」
「JD、アダマンの意志を尊重するのよ…」
イリーナは腰から拳銃を取り出し、アダマンの頭に向けた。
アダマンは最期に苦しみながらも笑みを浮かべた。
そのすぐ後、イリーナは引き金を引いた。
その様子を紗枝は遠くで眺めていた。
1発で楽に死なせればいいのに、イリーナは何回も銃弾を放って、アダマンに撃ち込んでいた。
合計7発くらい撃って、イリーナは目を擦って、JDとは別々に通路の奥へと向かって行くのだった。
それから紗枝は両手を縛られながらも、ライトを片手に狭い通路を一人で進んでいく。ライトが無くても、充分通路は目視出来る。だが、付けられている灯りは古びて、チカチカと点滅して今にも消えそうだった。
地下通路は迷路で、とても入り組んでおり、ここの地理が分かる者に道案内してくれないと出れそうもなかった。
そして、少しだけ広い部屋の一端に上へ続く錆びたハシゴがかかっていたため、出れるかもと思った紗枝がハシゴに足を乗せた瞬間、錆びついていたのが相まって、バキッと折れて紗枝は地面に背中を打つ。
「ああ!もう‼︎」
苛立ちから声を上げる紗枝。
すると、落としたライトが照らした先に誰かが蹲っていた。
よく目を凝らして見ると、そこにはJDがいた。紗枝を確認したJDは人差し指を口に当てて『静かにしろ』とジェスチャーして来た。
何故そんなことをしなければならないか分からない紗枝はもちろん奴の言う通りにする気は無かった。
「ふざけないで。何故そんなこと……っ⁈」
そう喋っていると、突然板で塞がれた道から男が突っ込んで来て、紗枝を地面に押し倒した。JDはめちゃくちゃビビったのか、甲高い悲鳴を上げていた。
押し倒した男は明らかにおかしかった。肌は血色のない薄紫色、目はさっきのアダマンと同じように赤く血走っている。
この特徴を持ったアンデッドを、紗枝は知っていた。
男は刈り込みバサミを紗枝の顔目掛けて振り下ろしたが、紗枝は顔を右に逸らして避ける。
「このっ‼︎」
紗枝は容赦なく男の足を蹴って転ばせると、逆に刈り込みバサミを奪って殺そうとする。だが、紗枝が振り下ろす直前、JDが叫んだ。
「やめろ‼︎そいつは殺すな‼︎」
紗枝はJDを一瞥したが、彼の願いを聞き入れることはなかった。
無言のまま、ハサミの刃を脳髄に突き刺した。
「ああああああああああ‼︎俺の高校の先生を…‼︎」
JDは紗枝から奪っていたライフルを向けて、再三に叫ぶ。
「どうして殺した⁈俺の先生を…‼︎」
「黙ってやられろって言うの⁈それに…テあんたも分かってるでしょ
あなたが言う先生はもう人間じゃないってこと…」
怒りに身体を震えさせるJDだったが、ここで争っても意味がないと思ったか銃を降ろした。
だがその瞬間、JDの身体を大きな腕が掴んで、近くの棚に投げ飛ばした。
「うわああ!」
「…!」
紗枝が助けに行こうとしたが、今度は包丁を持ったアンデッドが現れ、暗闇から振り抜いたのだ。包丁は刈り込みバサミに当たって、紗枝の手から落とし、包丁を顔に刺そうとする。
紗枝はそれを寸でのところで受け止めているが、男である上にアンデッドの異常な力に今にも押し負けそうだった。
JDもライフルを構えたままで、引き金を一切引こうとしない。
「撃って!躊躇わないで‼︎」
さえにそう言われても、JDの指は動かなかった。
徐々に近付いてくるアンデッドに撃てずにいたのが仇となり、JDは馬乗りにされ、首を物凄い腕力で締め上げて来た。
馬乗りにされて、今にも殺されそうなJDを見た紗枝は相手の身体を自分の前に動かして包丁を奪って、頚椎に刺して絶命させた。
更にJDに向けて、口から寄生虫を吐き出しているアンデッドの側頭部に包丁を突き立てた。
JDは安堵の息を吐く。
「ライフル持っておいて使わないなんてあなたは倹約家か何かかしら?」
「…っ、つ、次は撃てる。躊躇わずにな」
紗枝は縛っていたロープを解き、落ちていたライトと古びたバールを掴んだ。
「殺せる勇気があるなら頭を撃ちなさい。じゃないと、今持ってるのは単なるおもちゃでしかないわ」
そう言い残して一人で奥に行こうと思った時。
「待てよ!…こっちだよ、付いて来い!」
何の風の吹き回しか、JDは紗枝にここの出口を教えてくれると言うのだ。どういう狙いがあるのか分からないが、このまま彷徨うのも危険なだけなので、紗枝は取り敢えず彼の後を追った。
JDは横道に入り、堅く閉ざされた扉の前に立った。
「二人でなら開くはずだ」
JDは取手を掴んで引っ張るが、ビクともしない。それを見た紗枝も見習って扉を引くが、やはりどうにも出来ない。
「ここは何なの?」
「俺たちが戦争を始める前に作られていた……ゲリラ戦の跡だよ!」
「なるほどね…。……とても開きそうにないわ。退いて」
紗枝は武器として拾って来ていたバールを扉の隙間に挟み込んで、テコの原理で扉をごく僅かだが、動かした。JDも早く開こうと更に取手引っ張る。その時、通路の方からアンデッドの呻き声が響き、二人は焦り始める。
紗枝も必死にバールで抉じ開けようと頑張っていると、背後から三体のアンデッドがゆっくりと近付いて来た。
そこで漸く指が入りそうになるくらいに扉が開き、紗枝は指を滑り込ませて先にJDを通そうとした。が…。
「ぐおおお………くっそ…」
JDの腹が厚すぎて、その隙間を簡単に通れなかったのだ。
その間にも一体、アンデッドが走って来たため紗枝はバールでアンデッドの心臓を貫き、引き抜いて殺した。
「早く…!急いで‼︎」
振り向くと、心臓を貫かれたアンデッドの頭は吹き飛んで本体である寄生体が姿を現した。紗枝はひたすらJDを押し続け、寄生体の触手が二人に襲いかかろうとした時、JDの厚い腹が扉の隙間を通り抜け、紗枝もほぼ同時に抜けられた。
それでも紗枝は安心出来ず、扉をしっかりと閉め、ここから出られないようにした。
「こっちだ」
JDは先に長いハシゴを登り始めた。
先程登ろうとして落ちた経験がある紗枝はちょっとだけ、溜め息を吐いてから彼に続いた。
登り切ると、既に外では陽が昇っていた。
久しぶりの日光に紗枝は眩しかった。どうやら市街地に出たようだが、外には誰も歩いていなかった。
「この先が教会だ」
JDが足を進めようとした時、奥から迷彩柄の軍服を着た男とそれを追う住民が目に入った。紗枝たちは遠くにいるため見つからないと思うが、念のために影に隠れた。
男は銃を持っているのにも関わらず、腰が抜けたような状態でただ逃げ続けていた。恐らく弾を使い切ったのだろう。
逃げているうちに男は壁際に追い込まれ、奴らに捕われてしまう。
一体のアンデッドが口から何かを吐きだし、それを逃れようと暴れる男の口に無理矢理入れた。痙攣でもしたかのように男は暴れ、口の中に完全に入った途端、奴らは男に興味がなくなったのか、離れていった。
そして…男は暫くその場で身体を蹲っていたが、やがて目から血の涙を流して、尋常じゃない奇声を上げるのだった。
それを見ていたJDは悪魔でも見たような声を絞り出した。
「どうなってんだ…」
「…教会はどこなの?案内して」
紗枝はそう言ったが、JDには聞こえなかったのか何の返答もない。
「JD!」
「あ、ああ…分かった…」
ここでJDは漸く正気に戻り、教会へと足を動かすのだった。
キャラ人気投票。IF Story編終了まで実施。
-
玲奈
-
竜馬
-
薺
-
紗枝
-
海翔