陽が昇り始めた頃には至る所で見張りをしていた兵士たちが大統領府での警戒に当てられた。彼らからすれば突然のことで、少しだけ苛つきが走った。
日が変わる前の深夜辺りに突然大統領命令で呼ばれて、結局ろくな睡眠も取れていないからだ。だが、命令は絶対。逆らうことなど出来ない。
欠伸をしながら退屈していると、大統領府に通ずる道に3台のトラックがこちらに向けて走って来ていた。何の報告も受けていない兵士たちはそのトラックを怪しむ。
「止まれ!止まるんだ!」
1人の兵士が手を上げて止めるように促すと、トラック3台は中央ゲートの少し手前で止まった。運転席は太陽で反射して、全く見えなかったが誰も乗っていないようにも見えた。
兵士は持っている銃を構えながらゆっくりと近付いていく。
すると、後ろの荷台の扉が開くのが見えた。そこに向かおうと足を一歩動かしたその時、甲高い咆哮が兵士の耳に入った。
見上げる間も無く、兵士の頭に齧りついたのはリッカーだった。他の兵士も一瞬、その容赦に固まってしまったがそれは過ちだった。
次々とトラックの荷台からは大量のリッカーが出てきて、兵士たちを襲う。
何事もなかった中央ゲートは、一瞬にして殺戮の舞台へと変貌するのだった。
大統領スベトラーナ・ベリコバは自室で悠々としていた。
彼女の部屋の中央にあるソファには2人の人物が座っている。1人は秘書、もう1人は…竜馬。
秘書が拳銃を構えて竜馬に抵抗出来ないように牽制しているのだ。
「よく見つけられたな…俺を」
「私の部下は優秀なのよ、ミスター竜馬」
自らの名前を言われて、少しだけ表情を固くする竜馬。
もう一度改めて秘書を見たが、逃げようとしたら殺されるのは確実なのは間違いなかった。
「ほう…そこまで調べていたとはね」
「あなたは有名人よ。BSAAのエースのような存在で、東京事件で生き残った数少ない生存者…それに、最近は謎のテロリスト」
「最後のは聞き捨てならねえな。テロリストはあんただろ?俺は『あの人』のために動いている単なる傭兵みたいなもんさ」
スベトラーナは「ふうん」と興味なさげに呟き、秘書の隣に座る。
長くスラッとした足を見せ、竜馬に語りかける。
「ねえ、どうせこの国から出られないのだから…いっそ私につけば?悪いようにはしないわよ?」
竜馬は呆れ気味で首を軽く振った。
「バカ抜かせ」
そう言った瞬間に竜馬はソファとソファの間にある机を蹴って、一瞬奴らの視界から消えると、銃を構えていた秘書の胸ぐらを掴んで壁に投げ飛ばした。
それからスベトラーナも一瞥して、秘書が落とした拳銃を拾って出口の方へと向かおうとする。だが扉を開くと、目の前に立ち塞がったのは合金で出来た板だった。
「………」
「あなたが人間でないことくらい承知よ?だからね、逃げれないように用意だけはしておいた」
「……ちっ」
さっき投げ飛ばされた秘書は今度は散弾銃を向けていた。
流石の竜馬もあれを避けられるとは思っていない。
拳銃をスベトラーナに投げ渡し、倒したソファを戻して大人しく座った。すると、太陽の光が入っていた窓も合金の板がせり上がり、室内は暗くなる。
「どうやら…あなたとは別の物騒なテロリストが来たようだから…一先ず下に向かうわ」
スベトラーナもソファに改めて座り、竜馬に不気味な笑顔を見せた。
「さあ、どうする?」
僅かに粉塵が舞う道路の真ん中を紗枝は歩いていた。
先程から銃声と悲鳴、また甲高い声がずっと聞こえていたが、十数分もしたらすぐに聞こえなくなった。
そして、自分も少し遅れて向かうと、そこは酷い有様だった。
リッカーを乗せて来たトラックは全壊、その周りは銃撃や爆撃の跡。瓦礫が散乱し、その瓦礫に埋もれた兵士やリッカーもいれば、惨たらしく内臓を抉られたり、脳を食い千切られたりした死体が至る場所に転がっていた。
紗枝は転がっているリッカーの死体にこう語りかけた。
「初めて見た時とは比べものにならないくらい出世したわね」
すると、1人の兵士の無線から声が聞こえた。
『こちら部隊γ!もう大統領の部屋の前だ‼︎これ以上足止めは……う、うわああああ‼︎』
そこで無線は終わる。
前を見ると、アメリカのホワイトハウスを真似たような大統領府の奥から少しだが、銃声が聞こえた。
紗枝はすぐに駆け足でその銃声がしたところに向かう。
大統領府に入っても悲惨さはちっとも変わらなかった。
至る所に銃弾の跡と血が飛び散り、綺麗であっただろう大理石の大廊下は真っ赤に染まっていた。そして、その廊下には外で見たものよりも更に多い死体がゴミのように散らばっていた。
ゆっくりと、足音がするかしないかくらいの足取りで進んでいると、ポタポタと血が天井から垂れているのが見て取れた。上を振り向くと、1人の死体を口で噛んで貪っている二体のリッカーがいた。
お互いに肉を譲り合うこともせずに、飢えた獣の如く肉や内臓をグチュグチュと嫌な音を立てて食べている。
やがて人間の肉の味にも飽きたか、原型を留めない死体を捨てて紗枝と同じ地面に飛び降りる。
「………」
紗枝は一応ライフルを構えているが、二体は紗枝が見えていないようだ。それもそのはずだ。
リッカーには目がなく、卓越した聴覚で相手を認識して襲いかかってくる習性を持つ。このままじっとして、奴らがさっさと消えてくれればそれで問題はない。
だが、ここで一体が四肢を止めて紗枝の方を向く。
一瞬だけ引き金を引こうとしたが、リッカーは舌を出して紗枝に威嚇するような仕草を見せただけで襲っては来なかった。
見えていないのでは?と紗枝は思ったが、この際だから何も言わずにこの場から離れようとする。
するとまたリッカーの甲高い声が聞こえて来た。
振り向くと今度はリッカー同士が仲良く戯れ合っているのが見えた。
人騒がせな奴だと思いながら再び足を動かそうとした時、ガシッと足を何者かに掴まれた。
驚いて下を見ると、僅かに息のある兵士が奥の部屋に行かせまいと止めたのか、それとも助けを求めたのか…。
どっちにしても、これで紗枝は完全にリッカーたちに存在がバレてしまった。
「…!こんな時まで忠実な兵士ぶってんじゃないわよ‼︎」
掴んでいる腕を振りほどいて、紗枝は即座に走り出した。
もちろんリッカーたちは拘束で紗枝に向かう。だが、その前に殺し損ねていた兵士の首を鉤爪で切り裂いて止めを刺した。
一体はそこで止まっているが、もう一体は素早い動きで紗枝に迫ってくる。飛びかかった瞬間に紗枝は後ろに銃口を向けて、リッカーの腹を撃ち抜いて時間を稼ぐ。
しかしその銃声でもう一体が反応してしまう。
紗枝は目の前の扉を開くがその先には地面が無く、紗枝は慌ててドアノブに掴まって宙ぶらりんになる。
リッカーは構うことなくその扉の先に向かって盛大なジャンプをしたが、その先は底が見えない暗黒の世界。その世界へとリッカーは堕ちていった。
紗枝はその様子を見ながらも、元の入り口に立って下を改めて見た。
「……この先に、何かある…」
そう直感した彼女は近くのハシゴから長い道のりであるが、地下へとひたすらに降りていくのだった。
今回の章でこれを含めてあと2つ章を書くと言いましたが、どうしようかなと考えてします。
これは長く続けていきたいんですよね…。
私は執筆することが楽しみだから。
そこで現在考えているのは…彼らのその後か…IFStoryを更に延長しようか…です。
何はともあれ、これからもこんな自分をよろしくお願いします。