紛らわしいことしてすみません。
断崖…とも言えないが、子供のレナからすればそれなりにキツイ岩場を一緒に登る海翔。
はっきり言って、やっぱりレナは船に置いてくるべきだったと思っていた。レナの動きに合わせるかつ、守らなければならない。しかも子供というのは怖くなった時に1人で突っ走ってしまう傾向がある。
レナがそうだったら尚更海翔の行動は制限されてしまう。
しかし、一緒に行くと言い切ってしまった海翔には今更戻ろうとも言い出せなかった。
そんなことを思って、漸く岩場を乗り越えられるかと思われた時、ぬうっと腐敗した腕が海翔の襟首を掴んで引っ張り上げた。
「おじさん!危ない‼︎」
「うおっ‼︎」
アンデッドとは思えない力で持ち上げられた海翔だったが、すぐにナイフを取り出して、その腕を切り落として距離を取ると、その額に穴を開けた。
「J-ウィルスによるアンデッドか…。やっぱりこの島はイカれてる」
「おじさん…上がれないよお…」
一安心していると、後ろから岩場を登れないレナの姿があった。
こうしてみるとただの子供にしか見えないのだが、少し疑問が浮かび上がってきた。どうしてこの島にいるのか…それにどうしてアンデッドがそこに居たことが分かったのか…。
海翔が上にいた時、レナの方からはアンデッドが見えないはずだ。それなのに海翔がアンデッドに襲われるその瞬間に、的確に危険を促した。
「よいしょ…。そう言えばレナちゃん、ご両親はどうしたんだ?」
「……分かんない」
「分からない?」
「うん…パパとママがいるかは、分かんない…」
「そうか…。それじゃあ…さっき何でこの怪物が俺を襲うことが分かったのかな?レナちゃんからは見えないはずなんだけど…」
「…なんとなく。そこにいるって…分かるの」
「アンデッドの位置が…分かる?」
レナはコクンと小さく頷く。
そんなことがあるのだろうかと海翔は思ってしまう。しかし、玲奈に似ているこの子ももしかしたらウィルスの力で……。と思ったが、そんなバカなと思った。玲奈がウィルスを克服しているのとは訳が違う。
「おじさんは…どうしてここに来たの?」
ここでレナからも質問が飛んでくる。
海翔は目の前に広がる建物を見ながら答える。
「俺の…妹を、薺を探しに来たんだ」
すると、レナの口から衝撃の言葉が…。
「そのお姉さん…あの時、一緒にいたよ」
「本当か⁈薺は…薺はどこに行ったんだ…!」
いきなり自らの妹の情報を手に入れた興奮から海翔はレナの肩を掴んで激しく聞こうとしてしまった。
お陰でレナの目にはまたまた涙が…。
「あ……すまない…」
「おじさんは…お姉さんを探しに来たの?なら…あそこに行こう…」
レナが指差す先は真っ暗な森だった。
「この先に……だあれもいない町があるの…。そこから…少し言ったら変な形をした家があるんだ…」
「変な形の家?」
「うん…。縦に長い家」
恐らく塔のようなものだと海翔は想像した。
もし…レナの言う通りなら、薺はそこにいる可能性が高い。
海翔は逸れないようにレナの小さな手を握った。レナはピクッと震えたが、すぐに慣れたのか海翔の横に立って一緒に歩いていく。
その姿は、正しく兄と妹のようだった。
だが、そんな2人を見ている者がいた。
血走った目でレナだけを見て、恨めしそうに歯をカタカタと鳴らした。レナもその視線を感じた寒気を感じて辺りを見回す。
「どうかしたのか?」
「ううん…大丈夫…」
恐ろしい影はじっと…2人が森の中に消えていくまで見続けていた。
ー半年前ー
森の中に何発もの銃声と奇声を上げるアンデッドの声が響いていた。
テラセイブメンバーのゲーブとペドロ、そしてニールは逃げながらアンデッドの制止を振り切ろうとする。
するとニールが立ち止まって2人に先に逃げるように言った。
「行け‼︎」
「ニール…!…死ぬなよ!」
2人は更に森の奥へと突き進んでいった。
息切れが激しくなるまで走ると、目の前に完全に廃れた町が姿を現した。そして一軒の建物に『Vosek』という文字が…。
「あれか?ヴォセクってのは…。腕輪の女が行けって言っていた…」
2人は恐る恐る中に入ってみると、中は真っ暗でよく見えなかったが、ガタガタと誰かが物色しているような音が聞こえた。
ゲーブがゆっくりと距離を詰めると、1人の女が机のうえで拳銃を整備しているところだった。
ゲーブは即座にナイフを女の背中に突きつけ、質問する。
「お前が腕輪の女か?」
「…そう見える?」
「そうじゃなかったらここで何してる⁈暢気に拳銃弄ってましたなんて言い訳は通用しねえ……っ⁈」
ゲーブが話途中で女はゲーブの腹を小突き、座っていた椅子を後ろに蹴ってバランスを崩させると、ゲーブのナイフを奪って首に当てた。
「ゲーブ!」
「相手をやるつもりなら…さっさと殺すのが先決よ」
女はナイフの持つ手に力を込める。
その時。
「ゲーブを離しなさい‼︎このアマ‼︎」
薺がヴォセクの中に飛び込んで来た。後ろからモイラも続くが、今の状況についていけてなかった。
「…そんな口を聞いたらお兄さんはどう思うかな…」
「え……その声って…」
暗闇に目が慣れてくると、ゲーブを拘束している女の姿が見えてきた。
焦げ茶の髪に青い瞳…ただ、ちょっとだけ日焼けしたようにも見えた。誰が何と言おうが、彼女は玲奈だった。
「玲奈?玲奈なの⁈」
久しぶりに会うため、薺は目の前の女が本当に玲奈か信用出来なかった。あの腕輪からの声もあってか…。
「そうよ」
玲奈はゲーブの拘束を解き、ナイフを返して上げた。
「薺…この女と知り合いか?」
「腐れ縁ってやつよ。それより…どうしてここに連れて来たのかしら?」
「さあな…イカれてる女が考えてることは分からんからな」
何はともあれ、薺たちは漸く他にも生存者がいて少しホッとした。
モイラが何かに腰をかけた瞬間、それはうるさい音を発し始めた。
「ジュークボックス?」
「それよりも薺…少しヤバいんじゃ…」
そう言ってる間にガタンと建物が激しく揺れた。
天井の上を何かが走っているように思えた。
「…今すぐ扉を閉めて…。早く!それと出来る限り武器も探して‼︎」
玲奈の意見に反対する者はいなかった。
居たとしてもこんな極限の状況下で逆らう奴はいないだろう。
建物の揺れは激しさを増していき、遂に錆びた鉄格子の外にアンデッドが腕を伸ばして突き破ろうとして来た。
「やばい……やばい、どうしよう⁈」
薺たちと合流して、大丈夫そうにしていたペドロだったが、このヴォセクが危険になると急に弱気になっていった。薺は元々ペドロがテラセイブに入るほど、根性がある奴だとは正直思っていない。
それでも入ってくるのは素晴らしいことだが…。
と、ここで腕輪から…。
『どうかしら?閉じ込められた恐怖……。だけどこんなのはまだ始まりの中の始まり…。これからある1人が真なる恐怖に飲まれていく…』
「何言って…!」
薺が声を上げようとした時、ペドロが腕を抑えて突然苦しみ出した。
「うぐあああああああああ‼︎」
「ペドロ⁈」
モイラが心配そうに駆け寄る。
だがそれは危険だと瞬時に玲奈と薺は分かった。
「モイラ離れて‼︎」
『真の恐怖とは感じ…見て…抉られる……』
薺がモイラに駆け寄ろうとした時、ブシャッと血が溢れた。
それはモイラの心臓辺りをペドロの腕が貫通したところだった。
ペドロは未だに苦しんでるが、今のは無意識なのだろう。
「モイラーーーーーー‼︎‼︎」
『さあ、真の姿を見せなさい…。アレス……』
その瞬間、ペドロの腕輪は赤色の点滅に変わり、肉体全てが完全変異する。身長は更に伸び、着ていた服の半分は千切れ、身体中の血管が浮き上がっている。
そして…顔にはあの優しい表情は消え…怪物相応の表情になった、ペドロだけがあった。
変異したペドロは心臓を貫いたモイラの身体を壁に放り投げて、薺に向かっていく。
「薺!こっち‼︎」
玲奈は薺の手を取って、閉めた扉の方に向かう。
ペドロは何も考えずに玲奈たちに向かってタックルをしてきた。
ギリギリのタイミングでそれを避けたことで木製の扉は粉々に砕けて、このヴォセクから逃れることが出来た。
「モイラ……モイラ…」
「悲しむのはあとにして‼︎今は逃げるしかないの‼︎」
薺は血の海に横たわったままのモイラを最後に見て、玲奈と共にヴォセクから離れて行くのであった。
モイラファンには申し訳ありません!
モイラはここまでです。