少女がいないことに気付いた玲奈と薺は散々な程に呼んだが結局見つけられず、この塔を登ることにした…のだが、こんな形の塔を登るなど出来るのだろうかと思って立ち尽くしていると、不意に壁から明るい光が漏れ、小さな個室が現れる。
エレベーターだ。
それと同時に腕輪からも声が響いた。
『それは天国への道…。来なければ地獄に残ったまま…だが、どっちだろうと君らが死ぬことに変わりない…』
「………誘い込んでる?」
「行かない方がいい…と言いたいけど…」
玲奈がチラと森の方に目を向けると、ガサガサと走ってくるアンデッドの姿が見られた。先程のヘリの撃墜音が原因のようだ。
「行くしかないようね」
「武器もないのに?」
薺の言う通り、今玲奈も薺も武器と呼べる物はない。
「黙って食われるよりマシでしょ?」
「…そうね」
そう言って2人は急いでエレベーターに乗る。
すると扉は閉まって、勝手に上に向かっていく。
どうやら腕輪の女は2人をこの塔の上に呼びたいようだ。
暫く退屈していると、ガラス一つ無かったエレベーターの通路に突然光が差し込んだ。
それは…塔の内部の様子なのだが…廃墟だらけの絶島とは大違いだった。様々な機械が大量に壁を覆い、棺桶には作られたアンデッドが一体一体保管してある。
明るい青色で彩られた塔内部に玲奈も薺も圧巻された。
腕輪の女1人の力では、ここまでの施設を作ることは出来ないと玲奈は直感した。
それが誰なのかを考える前に、エレベーターの扉が開き、ガラスを真ん中に挟んだ広い部屋が目の前に広がっていた。
ゆっくりと前に歩みを進めると、ガラス越しに高いヒールを履き、白衣を着たブロンド色の長髪を靡かせる女性が現れた。
顔も確認したいが、ガラスが曇っていて見えない。
そして…私たちの目の前で話し始めた。
「よくぞここまで来た…。私は生き残った者だけをここに呼び…全てを話そうと思った……けど、私は耐えられない…。この美しさを失うくらいなら、一秒でも生きていたくない…!」
突然、いつもの冷静沈着な口調が乱れ、バンと後ろの机を強く叩いた。
そして…腰から拳銃を抜き、私たちに向ける。
「‼︎」
今ここで女が引き金を引けば、こんな狭い場所では逃げることも出来ない。だが、女は構えただけで撃とうとしない。
「あなた達を殺しても私は癒されない…。私の目的は既に達成されている。だから…私がこの苦しみから逃れるには……」
そう言って、彼女は銃口をこめかみに当てて…。
「死のみ…」
引き金を引いた。
脳から飛び出た血はガラスを激しく汚して、ドサっと女は倒れた。
あまりの急転直下な展開に玲奈も薺も付いていけずにただ立ち尽くしていた。
結局…この女性は何が目的でこんな惨劇を起こしたのか分からないままに死んでしまった。
しかし…それを考えているうちに、突然塔が激しく揺れた。
「な、何⁈」
「この女!死ぬのは勝手だけど塔を爆発させるのはやめなさいよね‼︎」
女は自分の死と塔の崩壊を合わせていたのだ。
途端に隣の壁に穴が空き、縦穴の塔は上から着実に崩れていた。
「こっちよ‼︎早くしないと瓦礫の下敷きだわ‼︎」
「仲間の死を無駄になんか出来ないわ‼︎行きましょう‼︎」
崩れた瓦礫を足がかりにして、ひたすらに下へ下へと降りていく2人。
だが、エレベーターでかなり上まで来ていたため、下に降りるのも一苦労…どころではなかった。
無事に地面に足を着け、瓦礫の落下から避けれるかも怪しいと玲奈は思っていた。
実際、あの女は玲奈たちを巻き添えにして殺す気だったのかもしれないとも思った。
そんなことを考えながら走っていると、薺の鋭い声が響いた。
「玲奈!危ない‼︎‼︎」
ドンと強く押され、玲奈は倒れる。
玲奈はすぐ様振り返って、薺の方を見た。
目を見開くような…絶望する光景が広がっていた…。
薺は落ちてきた瓦礫の下敷きになり、頭から血を流して倒れていたのだ。しかもあれは玲奈を庇って、ああなったのだ。罪悪感も玲奈の胸の中に広がる。
助けに行こうとしたが、その前の通路は無くなっている。
「薺…!薺ぁ…‼︎」
「…れ、れな………無事……なのね…」
「どうして…!どうして私を助けたの‼︎私は…どうせ死なない身体なんだから助ける必要なんか無かったのに‼︎」
薺は暫しの沈黙の後に、こう応えた。
「…たす………けるのが……私、の、……いきが……い…」
瓦礫の落下は更に酷くなる。
このままでは今玲奈が立っている即席の通路もいつ崩れてもおかしくない。だが…薺を置いていくことは出来ない気持ちが玲奈を止める。
「行って………行って……いき…延びて……」
「そんなの…出来ないよぉ……」
玲奈は膝を付き、喘ぎ声を出す。
「りょう………まを…すく、う……で、しょ……」
思わず顔を上げて薺を見る玲奈。
「いっ……てぇ…!」
薺の必死の声に…玲奈は漸く重い足を上げた。
そして…横に空いた穴に向かう。下は断崖絶壁で生きられるかも分からない。だが、ここ以外に逃げる道はない。
一歩踏み出そうとしたが、薺の方を見てしまう。
「…ごめんなさい……。必ず…戻ってくるから……」
絶壁から飛び降りる。
そして玲奈は最後にこう言った。
「許して…」
瓦礫に埋まっていく薺は薄れる意識の中でただ1人の肉親…海翔のことを考えていた。
今どうしているんだろう…、元気かなあ…と。
死の間際なのにこんなことを考えるなんてと、自虐したい気分になる薺。だが…ここで死ぬのは間違いないだろう。
呆気ない命だったなあと思う薺だが、せめて…兄に会いたかったなあと思いながら…その意識を手放し…瓦礫の隙間から伸ばした手も…ダラリと落ちた。
腕輪は忙しく…赤く点滅して……。
ー半年後ー
偶然見つけた秘密の通路は不気味一択だった。
趣味の悪い人形がたくさん吊り下げられ、他にも死んだカエルやトカゲなどの両生類や爬虫類が磔にされていた。
海翔の横のレナはずっと身体を震わせて、恐怖に耐えていた。
海翔でさえも、薄気味悪いと思うのだから…レナの怖さは計り知れない。
「この先に…奴がいるってわけか…」
更に奥に進んでいくと、ガラスの棺桶に入れられた不気味なアンデッドが大量に置かれていた。身体がビクビクと動き、更なる恐怖を醸し出していた。
そして…机に置かれている資料に手を伸ばす海翔。
そこにはなんとレナの情報も書かれていた。
それをゆっくり読み進めていると…彼の手に自然と力が篭った。
それは怒りによるもの…。
「あの女……!なんて残酷なことを…!」
「…おじさん?」
「…大丈夫だ。奥に行こう…」
しかし…ここで…。
「行く必要は…ない!ははは!」
聞くのも煩わしい声が施設に響く。
再びあの女…レナの母が現れた。
「貴様…!」
「わざわざ……私の娘を…寄越してくれたのかい?嬉しいねえ…」
その言い方に…海翔の怒りが爆発した。
「ふざけんな‼︎テメエ…レナちゃんに何をしたか分かってんのか‼︎‼︎」
レナでさえも怖がる海翔の憤怒…。
その原因が書かれた資料…いや、実験書を投げて叫んだ。
「お前は…玲奈のDNAとテメエのDNAを使って、レナちゃんを作り出したんだな‼︎そして、レナちゃんを使って永遠の美しさを保とうという馬鹿げた計画を立てて……何で…何で……何で薺たちまで巻き添えにならなきゃいけないんだよ‼︎‼︎」
レナは自らが作り出された存在だということに混乱して言葉も出せなかった。
「…そこまで分かったのなら…理解出来るでしょ?」
女は薄笑いを浮かべながら…ガラスの棺桶に入ったアンデッドの心臓を抉り出して、それを貪りながら話す。
「女は美しくなきゃいけない……そのために、大量の実験体が必要なの…。そのために……バイオテロを無くすとか言うふざけた集団を食らった……。ふふふ……ぎゃはははははは‼︎」
「………たった…それだけで…?そんな…理由で…薺が……死んだのか?」
「それだけ?あんたにはそうだろうが、私には大きなこと……うぐっ‼︎」
突然女は胸を抑えて苦しみ出す。
何が起きたか分からないが、いずれにせよ…何かが起きることは間違いない。
「もう……待てない…。レナぁ…貴様を殺して……その綺麗な細胞でぇ………私の美しさを……永遠にっ…‼︎」
そう叫ぶと、女は元々持っていたと思われる注射器を腹に突き立てた。
その瞬間、彼女の歪な身体は更なる変異を遂げる。
上半身と下半身を繋ぐ金属が伸び、ずっと身体を隠していたマントが破れる。今改めて分かったが、この女は身体のほとんどを機械で無理やり繋いでいたのだ。
それが伸び縮みし、自らの身体を更に強化、強固、巨大化させてゆく。
そして…変異を終えた女は海翔とレナに咆哮する。
「…貴様だけは許さねえ…。薺だけじゃ飽き足らず、レナちゃんの命も……」
海翔は拳銃を構えて、女に向かって叫んだ。
「ここでケリをつけてやる‼︎レナちゃんに命まで奪わせてたまるか‼︎」
次回、最終決戦。