「お前にレナちゃんは渡させない‼︎」
そう海翔が叫ぶと、拳銃の引き金を引いた。
弾は女の身体に当たったが、ウィルスの暴走と変異により痛覚はいくらか薄れて、怯むことなく通風口の中に獣のように逃げていった。
「そこで隠れているんだ!」
海翔はそうレナに言い、ゆっくりと奥に進んでいく。
通風口からはボタボタと血が垂れて、まだ中で奇襲をかける準備をしている可能性があった。だが、そうだとしても海翔には投げる武器はもう使い切っており、持っている拳銃とナイフしかない。
ライトも構えて、通風口の中を下から照らすと…中は空洞で何も居なかった。
どこへ行ったのか、辺りを見回していると、不意に地面を突き破って、海翔に襲いかかった。
「何⁈」
巨大な身体を持った女は、海翔の足を掴んでそのまま放り投げた。
ガンと金属製の机に背中を強打した海翔だが、怯むことなく拳銃を撃ち続ける。全ての弾丸は女の身体にのめり込むが、やはり怯むことはない。そのまま、鬼の形相で向かってきて、海翔の胸を掴んで地面に叩きつけた。
これには流石の海翔も堪えた。
「あぐっ…!」
「この…幸せもんがああ‼︎‼︎」
何を言っているのか全く分からない女はそれからの何度も…何度も海翔を殴り…蹴り…叩きつけ…投げ飛ばし…海翔の意識が朦朧となるまでめちゃくちゃにした。
だが…ここでそんな姿を見ていられなくなったレナが行動に出た。
「やめてお母さん!」
その声に女は反応する。
ギロリと血走った目を向けて、妖艶な笑みを浮かべた。
朦朧な海翔はレナに向けて、小さく叫んだ。
「何……言ってんだ…!こいつは……こいつは、君の…お母さんじゃ…」
「黙れええ‼︎‼︎」
「がああああああああ‼︎」
海翔の腕が折られる。
その悲鳴はレナにも響き、レナは遂に泣き出してしまう。
「やめてよ‼︎私が……私が何かしてあげるから‼︎何でもするから…‼︎だから…おじさんを、助けてあげてよお…」
子供らしい要件に女は笑いを溢したまま、異形の身体をグルリとレナの方に向けた。海翔には女を止める力すらない。
異形の女にレナは更に目を潤わせていく。
「何でもするう?そうねえ……じゃあ……」
何をさせようか迷っているように思わせて、女はレナの身体を掴み上げて一気に力を込めた。
「あ…!あぁ…ああ…!」
「テメエ…っ…」
「ははははははははは‼︎‼︎死ねばいいんだよ、レナぁ」
最低とは正にこの女を指すだろう。
だが、こんな最低野郎を止めようにも海翔の身体は言うことを聞かない。徐々に抵抗の力が無くなっていくレナをただ…見ていることしか出来ない海翔は、悔しさに涙を零す。
「くそっ‼︎くそっくそっ‼︎くそおおお‼︎‼︎」
悔しさから折れた腕を何度も殴って、身体に鞭打って立ち上がらせるが…この状態から何が出来ようか。
武器もない。腕は片方使えない。身体の大きさが段違い。
どうやってレナを助けるんだ。だが、海翔に選択の余地はない。
この身体が再起不能になろうが、必ず助けてみせると誓って突撃を開始する。
女も向かってくる海翔を見て、レナを掴んだまま蹴り上げようと態勢を作る。このまま蹴られてもいい。レナだけでも……、それだけが海翔の思考を奪う。
「レナちゃんを…離せええええ‼︎」
「うるさいよお!」
「お母さん‼︎やめて‼︎お願い‼︎‼︎」
「ならあの男を説得しな!そしたら……殺さないであげる」
すぐにレナは説得に入る。しかし…。
「おじさん‼︎やめて!もう…!」
「俺は約束しただろ?必ず守るって……」
海翔は止まらない。
それを見ている女はもちろん、もう容赦はしない。
「なら……死ねええええ‼︎」
女のぶっとい足が飛んでくる。
もう数秒でそれが海翔に直撃するだろう。
だが。
ドン‼︎
1発の銃声が女の目を撃ち抜き、怯ませる。
そこから怒濤の連射で変異した女を圧倒し、最後の弾が心臓辺りを貫いた途端、女の身体からは力が無くなった。
ドシーンと重い地響きが地下に流れて、女は倒れた。
レナも開放されて、海翔の胸に飛び込んだ。
「おじさんっ‼︎」
「…誰が………」
ゆっくりと振り向くと、そこに居た『彼女』に言葉を失った。
服は廃れて、艶やかな髪も醜いとまでは言わないが、汚くなっている。
皮膚も傷だらけで、頭と足には外れかけた包帯が巻かれている。
そして…拳銃からは煙が上っている。
『彼女』は目に涙を溜めて、震える唇を必死に動かした。
「来て……くれたんだね…」
「お姉さん…‼︎」
「…薺…なのか?」
「当たり前よ、バカ兄さん…」
そう言って、健やかな笑いを浮かべた。
ふらふらと立ち上がって、妹を抱き締めようと思った海翔だったが、女はまだ息絶えておらず、巨体をくねらせて立ち上がる。
「こっち!逃げましょう‼︎」
「…そうだな」
薺がレナの手を取り、急いで元来た道へと戻る。
女は呻き声とも叫び声とも取れる奇声を上げ続けるのだった。
外に出るともう夜だった。
陽は落ちて、辺りは暗闇に染まっている。
3人はここから逃げようとするが、地面から2本の巨大な腕が突き出てきて捕まえようとする。
そして、さっきより更に巨大化した女が地面の下から現れた。
圧倒的な体格差に海翔も薺も戦意喪失寸前だった。
海翔はナイフを持って、一応戦う意志だけは見せた。
「もし…奴が俺に襲いかかってきたら、レナちゃんを連れて逃げろ」
「何言ってるの⁈やっと…久しぶりに兄さんに会えたのよ⁈そんなこと出来ないに決まってるじゃない‼︎」
「お前はいつからブラコンになったんだ?」
そう言うと、薺の顔がカァーと赤くなった。
「ち、違う!そんなんじゃ…!」
「来るぞ‼︎」
下らない話をしているうちにも女は黒く変色した身体を暴れさせて、海翔たちに向かってくる。
3人は固まって、真っ正面から女の攻撃を受け止めてやろうと思っていた。
しかし、途中で女の動きが止まる。
海翔たちも上空から何かが近付いて来るのに気付いた。
そして、空から現れたヘリに乗っていた人物を見て驚愕する。
肩にまでしか伸びていなかったはずの焦げ茶の髪は更に長くなり、背中にまで達している。顔にもまだ傷はついたままで、身体中に包帯が付いているように見える。
しかし、それでも強い眼差しを向けた玲奈が、そこに居た。
「玲奈⁈お前…まだ完治してないんじゃ…!」
「海翔1人に任せられないわよ‼︎」
そう叫んで、持っていたライフルで女の腹を撃ち抜いた。
女はライフルの威力に負けて、後方に倒れる。
「乗って‼︎」
玲奈の掛け声でレナ、海翔、薺が順に乗る。
薺と視線が合った時、玲奈は申し訳ない気持ちで一杯になる。
「薺…私……」
「いいのよ、ここまで迎えに来てくれれば。それであの時のことはチャラよ!」
玲奈は頷き、ライフルを構え直す。
そして、こちらに来る前にもう一回撃って怯ませる。
「取っておきを使うわよ‼︎」
ライフルを捨てて、玲奈は掛けてあるロケットランチャーを取る。
それを構えて、撃とうとした。が、海翔が…。
「俺にやらせろ」
「でも…海翔、その腕…」
明らかにおかしな方向に曲がっている腕を見た玲奈はそう言うが、海翔は引き下がらない。
「こいつだけは…俺は始末する」
「…外さないでよ」
玲奈はロケランを渡す。海翔は笑いながら答えた。
「外すかよ、俺には…」
引き金に指をかける。
女は獣のようにただヘリに猪突猛進を繰り出して来る。
「大切な家族が待ってんだからな‼︎」
ミサイルが発射される。
女は赤い目を見開かせ、身体を硬直させる。
心臓に直撃したミサイルはそこで破裂し、女の巨体を消し炭にし、この世から抹消した。
痛む腕を抑えながら、海翔は発射装置を落とす。
「…これで悪夢も…終わりだ」
その言葉に全員が…ゆっくりと頷くのだった。
4人を乗せたヘリは日本列島に向かう。
薺は半年ぶりの故郷に期待を膨らませているが、レナは元気が一層ない。それもそうだろう。自分が作られた存在と知ってしまえば…。
そんな様子を見ている玲奈は海翔に聞く。
「どうするの?その子は?」
海翔はレナを見る。
レナは顔を合わせようともしない。
「この子…レナちゃんは、俺が引き取る」
レナは驚いて海翔を見た。
薺も一瞬驚いたが、兄さんらしいとも思えた。
「レナちゃんを寂しくさせないよう、俺が育てる」
「おじさん…」
「だから…そんな寂しい顔するなよ?子供は笑わなきゃ。もう俺たちは家族なんだ。何も溜め込むことはない」
レナはここで嬉しさと辛さのダムを溢れさせた。
「うわああああああああああああん…‼︎」
涙を一杯溜めて、海翔に抱きついて大越で泣き出した。
肩に手を置き、レナを抱き締める海翔、そしてその兄を抱き締める薺。
この3人はもう家族だ。
誰が何と言おうと…。
玲奈はこの3人の姿をじっくりと見詰め続けるのだった。
それから数日後、レナは海翔の養子になった。
そして、玲奈も…今回の事件を受けて、辞めていたBSAAに復帰することにしたのだった。
アンケート結果より、次回はアンブレラクロニクルズ編です。
と言っても…何を書こうかはっきり迷っています。
洋館と列車と研究所を全て合わせて、一つのストーリーにしようとは考えているんですが…。
何はともあれ、アンケートのご協力ありがとうございました!
今回からも人気キャラ投票でもしようかなと思います。