バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第56話 取り戻すために

玲奈と竜馬は距離を空けて、お互いに相手の動き、表情を観察していた。どちらが先に仕掛けてくるか…逃げるか…などを。

ところが竜馬はクスッと笑って、玲奈に問う。

 

「決着?今まで先延ばしにしてきたくせに今更か?そんな甘えん坊だから、世界を救えない……」

 

話してる最中にも関わらず、玲奈は竜馬の間合いに入り、彼の頬に渾身の拳をぶつけた。顔がひしゃげ、苦痛の表情をした竜馬はいきなりの奇襲を予測出来てなく、地面に膝を着いた。

 

「…ぺっ」

 

口に一瞬で溜まった血を吐き、玲奈を睨む。

玲奈は拳を降ろし、口を開いた。

 

「ええ、全くその通りね。躊躇わずに…あのマルハワ学園の時に殺しておけば…今のような事態を引き起こすことはなかった」

 

そう言って、玲奈は腰の拳銃にゆっくりと手を伸ばす。

 

「だから…これからあなたを殺すことはその罪滅ぼし。死んでいった人たちに向けての…ね!」

 

構えた銃からは弾丸が発射されたが、それは見事に外れる。

竜馬は玲奈の腕を取り、そのまま捻り上げるようにして、玲奈の身体を背中から叩きつけて、拳銃を落とす。

竜馬も拳銃を取るが、それは玲奈の信じられない握力で銃口を砕かれた。竜馬も驚いた表情をする。

 

「お前…まさかJA-ウィルスの力を…」

「それは分からないわ。いつまでこの身体が持つかなんて‼︎」

 

そして強烈なアッパーを竜馬の顎にぶつける。

蹌踉めき、隙を見せてしまった竜馬に玲奈は容赦なく襲いかかる。

これには先程も言ってた通り、侵食するJA-ウィルスがいつ玲奈の身体に変調を来させるか分からないからだった。

今の竜馬は昔より遥かに強い。

ウィルスか…はたまた無茶苦茶なトレーニングをしたかは不明だが、明らかに力を増している。下手をすれば、玲奈が殺られる可能性だってある。

 

「はあっ‼︎」

 

更にもう1発、拳を腹に突いた。

竜馬の口から更なる血が溢れ出る。

それを見た時…。

 

「!」

 

フラッシュバックが起きた。

ハイブで…苦しむ竜也の光景が、脳裏に過った。

そのせいか一瞬、玲奈は竜馬に隙を見せてしまった。

竜馬の蹴りが玲奈の胸…肺と心臓を直撃したのだ。

 

「ごはっ…‼︎」

 

長い通路を転がる玲奈。摩擦で漸く止まっても、玲奈は暫く起きることが出来なかった。

 

「今…何を思い詰めていた?」

 

竜馬の質問に玲奈は答えない。いや…答えたところで意味がないと思っているからだ。

 

「…えほっ、うる…さい‼︎」

 

玲奈が見る地面には赤い血がべっとりと付着していた。

自身が今吐いた血だ。

 

「…もう俺を殺すことに戸惑いが出来たか?」

「うるさい‼︎」

 

ヒステリックに叫ぶと、竜馬の足が今度は顎を捉えた。

 

「がっ…」

 

身体が宙に浮き、そのまま首を掴んで壁に押し付けた。

 

「あがっ……」

「弱いな。仲間には…」

 

キッと睨んで、玲奈は壁に足を付けて、竜馬の腕を蹴って拘束から抜け出す。竜馬は腕を軽く振って、鈍い痛みを取る。

その間に玲奈は後ろのエレベーターを呼んで、中に入った。

もちろん竜馬も。

 

「…どういうつもりだ?」

「狭い方がやりやすいわ。あなたもそうでしょ?」

「そうだな…」

 

そう言うと、お互いに殴り合いを始める。

技も技術もへったくれもない、ただの殴り合いだ。

お互いにお互いを殺したい…それだけがここの空気を支配していた。

だが、エレベーターが屋上に着く直前で、玲奈の身体に異変が起きる。

足に力が入らなくなったのだ。

原因は簡単…JA-ウィルスの副作用だ。

その事に気付いた竜馬は勝ったも同然と言わせる笑みを浮かべて、玲奈の髪の毛を乱暴に掴むと、壁に思いっきりぶつけた。

 

「あっ‼︎」

 

そこからも髪から手を離すことなく、蹴り、殴りを続け、互角の戦いは一変して、一方的なものになってしまった。

そして、エレベーターの扉が開いたと同時に、腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

「あ……ぅ…」

 

もう玲奈の身体はボロボロだった。

ウィルスの影響で足だけでなく、身体全体が風邪を引いたかのように怠く、重くなっており、先程の竜馬の猛攻のせいで頭部からは流血して、意識なんてあるかすら彼女自身分かっていない。

「ふう」と息を吐いた竜馬は足首に装着させていたもう一つの拳銃を取って、夜空を見上げた。

 

「良い空じゃねえか、玲奈…。お前を殺すには良いステージだ」

 

そう言いながら、玲奈の腹に足を乗せ、圧迫する竜馬。

肋骨を折られそうな力が腹から上半身全体に広がり、玲奈は血を吐きながら絶叫する。

 

「あああああああああああああぁぁっ‼︎」

「ははは‼︎良い悲鳴じゃねえか!聞きたかったぜ、そんな声をよお!」

 

銃口を向け、高々と…下品に笑う竜馬。

以前とまるで違った竜馬に…玲奈は絶望を覚えていた。

 

「……」

「あ?」

 

玲奈は泣いていた。

己の弱さに…泣いていた。

竜馬を救うことが出来なかったこともあるだろうが、この事態を起こした根幹は全て…自身にあるからだった。

また…竜馬に笑われて…そして殺される…。

そんなビジョンが玲奈の頭の中で構築されていた。

だが…。

不意に腹の圧迫が消え、カシャンと拳銃が落ちる音が聞こえた。

ボロボロの身体を必死に動かして、竜馬の方を見ると…信じられない光景が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…なんで…なんで、俺が…」

 

泣いていた…。

玲奈と同じように…ポロポロと涙を落としていたのだ。

何があったのか分からない…が、これが最後のチャンスだと確信した玲奈は力を振り絞って立ち上がり、竜馬を押し倒すと、ナイフを上げる。

一拍置いて、玲奈はナイフを竜馬の腹に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…突き立てた。

 

 

それは一瞬のようで…何分も経ったかのようだった。

玲奈はナイフの柄を握ったまま…更なる雫を溢した。

殺してしまった…。

愛した…いや、今も愛している大切な人を…。

今まで何人も殺してきて、こんな感情を抱いたことが無かったのに…。

 

「竜馬…ごめんなさい…ごめんなさい!私が……私が弱いせいで…」

 

竜馬の骸に縋り付いて、謝罪を繰り返していると…玲奈の背中に誰かが触れるような感触が…。

 

「えっ?」

「相変わらず……俺の前では泣き虫だな…」

 

顔を上げると、いつもの…昔の竜馬がいた。生きて……。

夢なんじゃないか…幻なんじゃないかと、何度も頭を殴り、頬を抓ってみるけど…。

 

「竜馬…?本当に竜馬なの…?」

「誰がどう見ても……そうだろ?」

 

そう言いながら、竜馬は突き立てられたナイフをゆっくりと抜く。

途中、何かに引っ掛かったように止まるが、竜馬が力を込めると、ナイフはズルリと刃を出した。その先には…プラーガ寄生体を刺して…。

 

「運良く…こいつを刺して、俺を正気に戻してくれたか…。ありがとうな、れ…」

 

竜馬の唇に…フワッとした柔らかい感触が伝わってきた。

それは玲奈からの口付けによるものだった。

一瞬で口の中に血の味が広がるが、竜馬は然程気にしなかった。

数秒の口付けを終えると、玲奈は…まだ謝罪を繰り返していた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい!私が…私が全て悪いの‼︎全部…」

「だから…そう泣くなって…。お前の気持ちは伝わった。今は、この事態をどうにか収束させるのは重要だろ?」

 

それを聞き、玲奈は漸く謝罪を止め、涙を拭った。

そうだ、まだ何も終わってなんかないと言い聞かせて。

 

「そうだね…。急ご…ぐふっ⁉︎」

 

突然、玲奈が大量の血を吐き出す。

焦った竜馬はすぐに玲奈の身体を支えた。

 

「玲奈!」

「私は……いいから、先に…行って!」

「馬鹿!置いていけるかよ‼︎」

 

玲奈を担いで、この場を進もうとする竜馬だが、玲奈に刺された腹はひりひりと痛み、出血もしていく。

止血するのが先だが、竜馬は自らが犯した過ちを償うために身体に鞭打って動かしていた。

だが…。

 

「あぐっ⁈」

「ああっ‼︎」

 

玲奈と竜馬の肩を貫く銃弾。

膝を着いて、後ろを振り向くと……拳銃を構えたアリエスとディエゴが静かにこちらを見詰めていた。

 

「アリエス……」

「…残念だよ、竜馬」

 

アリエスは更に引き金を引いた。

キャラ人気投票。IF Story編終了まで実施。

  • 玲奈
  • 竜馬
  • 紗枝
  • 海翔

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