全ての武器を没収された竜馬たちは結束バンドで縛られたうえ、後ろに傭兵が一人一人、頭にマシンガンを銃口を向けている。
しかし、玲奈だけは拘束されず、佳祐の前に立たされている。
「…殺すのならさっさと殺しなさいよ?」
「君は殺さない。今から君にはやって貰わねばならないことがあってね」
佳祐が指を鳴らすと、ゴツ…ゴツ…と聞き覚えのある重い足音がこっちに近付いてきた。それはやはり、ネメシスだった。玲奈はどういうことなのか説明しろと言いたいばかりに強い眼力を佳祐に向けた。
「玲奈…君はJ-ウィルスを完全に取り込んだことで人間離れした力を発揮している。スピード…パワー…テクニック…治癒力…。どれを見ても素晴らしい。だが君はその力をまだ完全に出し切れていない。この際だ。我々が開発した最強の生物兵器のネメシスもいる。どちらが真の《最強》なのか見極めようと思ったんだ。言いたいことは分かるだろう?」
佳祐は玲奈の目の前に立ち、見下した目で呟いた。
「戦え」
玲奈は静かに佳祐を見詰めていた。
だが、数秒後に玲奈は唾を吐いてきっぱり言った。
「お断りよ。あんたの思い通りにはならない」
佳祐は頬に付いた唾をハンカチで拭き取る。
そして、溜め息がちに言う。
「……そうかい…」
突然佳祐は後ろを振り返ると、懐から拳銃を取り、要三の心臓を撃ち抜いた。
「パパ‼」
律代の悲壮な悲鳴が響き渡る。倒れる要三に必死にしがみ付いて抱きつくが、既に息はしていない。
「パパ‼パパぁ‼」
涙が止まらない律代を静かに皆見詰めていた。その中でも玲奈の目は激しい怒りで燃え上がり、それは佳祐に向けられる。
「俺は必要な人材でも容赦しない。何せ、そこには博士の娘がいる。その娘を研究すればこれからは事足りる」
「くずが…」
「もう一度だけ言ってやる。…戦え。でなきゃ今度はあそこに並んでいる間抜け共の後頭部から額に風穴が開くぞ?」
歯をギリッと噛み締めながらも玲奈は竜馬たちを見る。
次断ったら今度は竜馬たちの誰かが犠牲になってしまう。
玲奈は、もうウィルスで汚れた自分のせいで人が死ぬのはもう見たくなかった。佳祐を睨み続けながらも、玲奈はネメシスの方に足を動かした。ネメシスも持っているミニガンとロケットランチャーを降ろし、玲奈をその隻眼で睨んだ。
「いつでも始めろ。見物だからな…」
玲奈はそれを聞いた途端ネメシスの腹に蹴りをかます。
しかし、ネメシスは怯むどころかよろめきすらしない。
それでも玲奈には着実にネメシスにダメージを与えていくしかなかった。
今度は頭を掴んで顔面に膝蹴りを放つ。すると、ネメシスの身体が少しふらつく。
この調子だと思っていた玲奈だが、ネメシスもやられてばかりではない。玲奈の胸ぐらを掴み上げると、ストレートパンチが玲奈の顔面に命中する。
「ぐふっ‼」
そこから更に地面に投げ落とされる。
「あがっ…!」
粗い音を出しながら玲奈は地面を転がる。しかし、一般人が受ければ絶対に死ぬであろうあのパンチを受けても倒れなかった。顔に出来た痣も徐々に消えていく。佳祐はそれを見て、玲奈の治癒力が更に上がっていると確信し、にやりと笑った。
ネメシスは流れに乗ったのか、もの凄い速度で玲奈に迫り、先程と同じパンチをかましてくる。
玲奈はそれを避け、回転蹴りを腹に当てる。ネメシスは苦しそうな声を上げるが、そこから跳躍して今度は顔面に蹴りを食らわす。
剥き出しの歯が折れ、ネメシスは後退する。先程の戦闘からネメシスはどうやら足を玲奈みたいに大きく上げれないらしく、腕か頭しか攻撃には用いれない。しかし、その代わりに一撃が非常に重い。
それを理解した玲奈は怒涛の連続攻撃に出る。玲奈はこんなバカげた戦いを早く終わらせたかったのだ。
腹を殴り、跳躍してから首を蹴り、更に回転蹴り…。勢いは止まることを知らず、ネメシスは玲奈に攻撃される度に後退していく。だが突然目力を強くしたネメシスは玲奈の両肩を掴み、頭突きをした。
「があ…っ」
更にそのまま地面に伏せさせると、踵落としをしてきた。
「くっ!」
玲奈は素早く立ち上がって踵落としを避けた。が、威力は涙ものでコンクリートが軽く粉砕していた。
頭から熱い血が流れているのを感じながら玲奈は真正面から突っ込んで行く。跳躍して、顎に蹴りをぶつけようとしたが、なんとネメシスは体勢を低くして、玲奈の腹に強烈なアッパーを食らわせてきたのだ。
「ぐあぁ‼」
メリメリと胸骨が折れる音が中で響く。それから足を掴んで何度も地面に叩きつけるネメシス。
玲奈は息が出来ず、何度となく意識を失いかける。しかし…玲奈はどうにか意識を保ち続けた。
するとネメシスが唐突に地面に降ろした。そして、近くにあった金属の柱を捻じ曲げ、即席の棍棒を作り上げ、それを玲奈の頭目がけて突き刺してくる。
玲奈はすぐに立ち上がって、再び立ち上がる。ネメシスは棍棒を振り回してくる。
玲奈は棍棒、ネメシスの目をよく見て避けていく。が、時々肌を掠る。それを見た佳祐は玲奈が不利だと気遣ったのか、さっきの警棒を2本1、玲奈に投げ渡した。玲奈はそれをすぐに掴んでクロスさせると、ネメシスの棍棒を地面に落とした。
そして股の間を抜け背後を取ると、警棒の1本を勢いよくネメシスの足にぶつけて足元をふらつかせるとそこを蹴り上げた。立つことを維持出来なくなったネメシスはズシーンと大きな音を立てて、倒れた。
玲奈はネメシスに馬乗りになり、警棒を奴の口に突き刺してやろうとした。
が……突然玲奈の手が止まる。そして、涙がポロポロと零れ落ち始める。佳祐以外の人たちは何が起きているのかさっぱり分からず、動揺してしまう。
玲奈は……間近でネメシスの目を見た。その目の持ち主を…玲奈は知っていた。
あの時…あのハイブで、一緒に逃げて助け合い…一抹の恋心を抱いた人物…。
その名は……。
「竜也……」
「えっ…」
その言葉に反応したのは、竜馬だった。紗枝と海翔も玲奈の放った言葉に驚愕せざるを得なかった。
「あれが……兄さん…?嘘、だろ…」
竜馬は緊張していた肩をガクリと落とした。そして…彼の目からも熱い涙が流れた。
竜馬が竜也の弟だと知らない玲奈はネメシス…いや、ネメシスとなってしまった竜也の身体に抱きついて謝り続ける。
「竜也…竜也……。ごめんなさい…。今の今まで忘れてて……それに、いっぱい傷つけて…。私は…あなたを傷つけるつもりは……全くなかったのよ…」
「………つまらん。さっさと殺せ」
佳祐が玲奈に指示する。しかし、玲奈はネメシスから離れて佳祐の方を向くと言い返した。
「嫌よ…。彼は……竜也は…私にとっては大切な仲間…。絶対に殺したりなんかしない」
佳祐は溜め息を吐く。
「全く……玲奈、君には相変わらず失望させてくれるな…。そこが君の欠点だ。そこまで言うなら……その大切な仲間ごとあの世へ送ってやる!」
ネメシスは身体を起こし、地面に置いていたミニガンにロケットランチャーを掴むと、それを玲奈に向けた。
「君を先に殺したら彼らも逝く。…本当に残念だがな…」
玲奈はもう自分は死ぬと覚悟する。いくら奴が竜也だと分かっても意味は無かった。彼はアンブレラに操られているのだ。こちらのことなど覚えているはずもない。玲奈は目を閉じて最後の時を待つ。そして…小声で呟いた。
「好き……だったわよ、竜也…」
ネメシスは引き金を引いた。速射音が玲奈の耳に響く。
が…弾は玲奈の隣にいた傭兵たちに浴びせられた。この予想外の出来事に玲奈は暫し固まってしまう。
「何してるんだ⁈」
佳祐がどんなに叫んでもネメシスは傭兵たちへの射撃を止めない。
玲奈は分かった。竜也は自らの意志でアンブレラに牙を向き、玲奈たちを助けてくれているのだと…。玲奈は竜也を見てこう言った。
「竜也…ありがとう…」
その頃、紗枝は隠し持っていた十徳ナイフで結束バンドを切り、傭兵に掴みかかった。銃を奪い、ヘルメット越しでも構わず引き金を引いた。そして十徳ナイフを海翔に渡し、更にやって来る傭兵たちに銃撃戦を展開する。海翔も拘束から逃げ出すと、要三の死体の前で啜り泣く律代を連れて壁に隠れる。
「ここで大人しくするんだ」
海翔、紗枝、そして竜馬の3人で傭兵を圧倒していく。3人が傭兵たちを皆殺しにするのは時間の問題だった。
形成を逆転されそうになっている佳祐はヘリの無線で東京から連絡を待っている飛行機に伝えた。
「こちら佳祐だ!今すぐ核をミサイルを発射しろ!」
『了解。発射します』
佳祐はいつまで経ってもヘリが離陸せず、パイロットに怒鳴りに向かった。
「何ぼやぼやしてるんだ⁈」
しかし…運転席にはパイロット以外にもう1人いた。
「俺、ヘリ操縦したことないんで」
パイロットの頭に拳銃を向けている智之は今回の一件のお返しと言わんばかりに佳祐に顔面ノックを食らわせてやった。
次回、タイラントがもう一度来ます。