形成を逆転した玲奈たちだったが、アンブレラが玲奈と律代の奪還、または殺害を簡単に諦めてくれるはずがなかった。次々と増援が現れ、少人数の玲奈たちが追い詰められていく…ことはなかった。
何故なら彼らが自慢していた最強の生物兵器…ネメシスとなった竜也が玲奈たちを守っていたからだ。いくら撃たれても倒れることはなく、正に現代版の武蔵坊弁慶そのものだった。
だが、その陰で玲奈はヘリに追われていた。
『武器を捨てて投降しろ!』
ヘリのスピーカーから聞こえる警報を無視して玲奈は走り出すが、ヘリに装備されたマシンガンが玲奈に容赦なく降りかかってくる。『投降しろ』と言う割には全く生かそうとする感じは見られなかった。玲奈はガラスに突っ込み、ヘリからの急襲を逃れたが、目の前にはライフルを構えた傭兵が3人…立ちはだかっていた。拳銃を構えられる距離ではない。
「銃を捨てろ」
「…分かったわ」
ヘルメット越しの声に玲奈は素直に応じた。
手を上げた位置から拳銃を落とす玲奈。
それこそ、彼女の狙いだった。拳銃が落ちていく様子に一瞬、敵は玲奈から目を逸らした。その瞬間、玲奈は身体を崩すと、落下中の拳銃を掴み、傭兵3人の頭を撃ち抜いた。玲奈はふぅと息を整えると、再び外に出た。
玲奈が外に出ると、ヘリは竜馬が庇う律代を狙っていた。もちろんその前にいる竜馬も標的の1人だ。
「まずい…!」
しかし…ここで信じられないことが起きた。突然車が下から宙を舞って来たのだ。その車はヘリにぶつかり、バランスを失う。そして…ガラスを割る音が定期的に聞こえ、飛び出てきた
思わぬ形で助かったかと思えば、奴は玲奈たちを見ると、瞳孔を大きく開き、耳を塞いでしまう程の咆哮を放った。
「うぅぅ…!こいつは……」
「玲奈、あの時の…!」
薺は叫ぶ。こいつはさっき玲奈が頭部の半分を吹き飛ばして殺したはずのタイラントだった。しかし…明らかに容姿は異なっていた。灰色のコートを纏っていた時よりも
玲奈は拳銃を握る手が微かに震えるのを感じた。そして、玲奈たちを追っていた傭兵たちもタイラントを見て明らかに動揺を隠せていなかった。恐怖に負け、逃げ出す者もいた。
だが、タイラントはそれを許さなかった。玲奈以上の跳躍を見せ、逃げる傭兵の真上に着地し、その身体を粉砕した。
「う…そ……」
薺は声を漏らした。あんな化け物を倒せるとは誰も思っていなかった。
しかし…玲奈は再び挑むつもりだ。
足を前に動かし、奴の方に進む。
「薺……先に皆をヘリに乗せて。私が時間を稼ぐ…」
「そんなの無理よ…!玲奈も乗って逃げようよ!」
「誰かが残らないと…私たち皆殺される」
「なら……俺が援護する」
名乗り出たのは竜馬だった。
竜馬は薺の肩を掴むと、後ろに放り投げた。
「さっさと行け!」
薺は唇を噛んで、玲奈たちから離れていく。タイラントが傭兵たちを抹殺中に玲奈は最後になるかもしれないと思い、質問する。
「竜馬…あなたは…」
「…あぁ、竜也は俺の兄さんさ」
「………私は…」
「分かっている!分かっているさ…。もう現実は認識した」
竜馬はライフルに弾を込め、ふっと笑った。
「けど…最後の最後くらいは…暴れたいな…」
「…援護、出来る?」
「あぁ…当たり前だ!」
竜馬はスコープをタイラントの頭に向け、引き金を引いた。
だが、タイラントは顔の前に腕を出して防御する。玲奈はそれを確認してから単独でタイラントに向かっていく。
迫り来るタイラントが振り上げた巨大な拳をギリギリで避ける。
しかし、地面に当たったところは完全にめり込んでいて、あのネメシス以上のパワーの持ち主だと分かった。そうと分かった玲奈は右手にナイフ、左手に拳銃を握り、ジャケットを脱ぎ捨てる。そして、玲奈は竜馬に叫んだ。
「竜馬!私が奴の目を潰したら……グレネードを撃って‼」
「了解‼」
玲奈は再び突っ込んで行く。また振り下ろされる拳だが、今度は開きすぎたタイラントの股をくぐり、滑り込むと銃口を背中に向け発砲する。しかし、弾が皮膚にめり込んでも全く効いていない。
地面を滑りながら撃っていた玲奈は立ち上がり、何をしてくるか見ようとしたが、既にタイラントは玲奈のすぐ近くまで迫り、横アッパーをかましてきた。
玲奈は仕方なく左腕を身体の横に置き、そのアッパーを受けた。左腕の感覚が一瞬で無くなる程のアッパーを受けた玲奈は地面転がるが、すぐに体勢を戻す。しかし、タイラントの追撃は終わらない。
今度は下から振り上げるようなパンチを繰り出す。避けれそうにない玲奈はわざと左手を前に出して、奴の指の間に手を挟ませると、反動で宙を舞った。そこから玲奈は銃を向け、引き金を引くが、弾は潰れた頭…目を撃ち抜くことは出来なかった。
落ちてくる玲奈を狙うように拳が向かってくる。玲奈は空中で身体をでんぐり返しするように動かして、タイラントの腕の上に乗り、首の後ろに陣取った。それから玲奈は拳銃を投げ捨てナイフを取ると、目に勢いよく突き刺した。
「グオオォォォォ…!」
目を刺された痛みからタイラントは悶え苦しみ出すが、首の後ろに乗っていた玲奈を掴むと、ギュゥゥゥと強く締め上げる。
「ぐぅぅ…!りょ…竜馬‼撃って‼私はいいから撃ってぇっ‼」
「馬鹿野郎!そんなこと出来るわけ……!」
「早く……や…って……‼」
必死に頼み込む玲奈に竜馬は心が折れた。引き金に触れる指が細かに震え、躊躇無くそうと躍起になる。しかし、そこに追い打ちをかけるような情報が紗枝から伝えられる。
「竜馬!早くここから逃げないと…奴らが来てる!」
紗枝の言う通り、今までの銃声に引き付けられたアンデッドはビルの周りを覆い今では扉を破ってもう近くまで迫ってきていたのだ。選択を迫られた竜馬は……叫び声を上げ、引き金を引いた。
「うおおおおおおおおおおおお‼‼」
放たれたグレネードはタイラントの残った頭を吹き飛ばした。玲奈は漸く拘束から解放されるが、全く動くことはなかった。竜馬はすぐさま玲奈のもとに駆け寄る。
「玲奈!しっかりしろ!」
「う…ぅぅぅ……」
「ちくしょう!ここまで来て死ねるかよ!」
竜馬は玲奈を肩に担いで運ぶ。ヘリのローターが回転を始め、離陸寸前だった。
「竜馬、玲奈…!早く…ここ、か……ら………」
叫ぶ紗枝の声が徐々に小さくなっていく。彼女は戦慄していたのだ。竜馬も背後の気配に気付いて、ゆっくりと振り返った。
「……冗談も、程々にしろよ……」
「なんて……生命、力……」
タイラントは頭が吹っ飛ばされてもまだ生きていたのだ。竜馬と玲奈は戦意を失い、ただ奴を眺めることしか出来なかった。そして…見えないはずの玲奈たちに向けて拳を作る。竜馬にも玲奈にも避ける力は残っていない。
拳が飛んでくる。2人は一緒に抱き合ってその攻撃を受けようと防御態勢を作る。
その時…こちらに向かってくる走る音が聞こえてきた。タイラントの拳は…竜也によって防がれた。竜也は右手にロケットランチャーを持っていて、それをタイラントの身体に向けたが、拳は竜也の顔面を捉える。更にロケットランチャーの銃身を握り、とんでもない力で捻じ曲げた。
今ロケットを放てば内部で爆発するだろう。それは竜也も理解している。だが…彼はそれでも構わなかった。
「え……待って……。竜馬、待って!彼…竜也が…!」
「馬鹿言うな!今しか逃げるチャンスはないんだ!」
「離して…!竜也!やめて‼」
玲奈はタイラントを抑えている竜也の表情で分かった。
どこか…笑っていた…。
竜也は…銃身が潰れたロケットランチャーの引き金を、引いた。
潰れた銃身にぶつかったミサイルは内部爆発し、タイラントごと吹き飛んだ。
「イヤーーーーーァッ‼」
飛び散る竜也に向かって…玲奈は悲しみの絶叫を上げたのだった。
そして…核ミサイルが東京に到達するまで、もう10分と無かった…。
次回、感染の章を終える予定にしています。
これから気分によっては一日に二度投稿するかも…