薺と共に同じ車の後部座席で寝ていたケーシャは目に眩しい程の日光が当たって目が覚めた。この集団のルールで、一番最初に起きた人は皆を起こすのが約束だった。アンデッドがいつ来ても対応出来るようにだ。まずケーシャは運転席で鼾をかく薺を起こす。
「薺、もう朝だよ」
「うん……もう、そんな時間なのね…」
薺は大きく背伸びしてすぐに眠気を吹き飛ばそうとする。
他の者たちも起き始めたのか、車からぞろぞろと出てくる。しかし、彼らは身近に迫っている危険に気付いていなかった。
…ある一人を除いて…。
パソコンなどのコンピューター機器に囲まれた車の中で眠っていたエッジは、監視カメラからの警報音により、突然眠りから覚まされる。すぐに起きようとしたが、すぐ目の前が車の天井であることを忘れており、派手に頭をぶつけた。
「いたっ‼いったぁ……」
エッジはぶつけた頭を擦りながら、警報音を止め、監視カメラの映像をパソコンに映し出す。そこには、黒い目出し帽を付けた複数人の人間がこちらに近寄ってきている光景だった。監視カメラも間もなく、彼らによって倒され、破壊された。エッジは無線を取り、皆に急いで伝えた。
「みんな!急いで車に戻る……」
その時、いくつもの銃声が木霊した…。
銃声が聞こえた瞬間、彼の目の前で一人の男性が頭から血を噴き出して倒れた。
「!何っ⁈」
「竜馬!車の影に!早く!」
竜馬にも凄まじい量の弾が降り注いでくる。
すぐに車の影に隠れてサブマシンガンを中から取り出す。
「何だ⁈」
「盗賊よ!」
「盗賊⁈こんな時代にやって来るなよな!」
『で、どうすんだ⁈』
無線から智之の声が聞こえてきた。あの容赦ない銃撃から、相手はこちらの話を真っ当に聞いてくれそうもない。だから……。
「やる、しかないな…」
『結局そうなるのな……』
竜馬たちも、遂に応戦を始める。こっちは車の影に隠れて安全、と言いたいところだが、このガソリンスタンドを囲むように接近してきていたら、有利とも言えなくなる。竜馬は死を覚悟して戦うと決めた途端、相手の銃撃が止まる。
「……何だ?」
そして、数秒後にまた銃声が響く。だが、竜馬たちを狙っていない。空に向かって撃っているようだ。どうしてそんなことしているのか…その理由はすぐに分かった。
「……おいおい、嘘だろ…」
「何…あれ…」
誰しも同じ言葉を呟いた。上空には、黒翼を羽ばたかせる集団が、盗賊たちを襲っていたのだ。遠くからは銃声と共に悲鳴も混じり始める。竜馬は無線で全員に伝える。
「皆!今すぐ車の中に戻るんだ!」
その指示を聞いた人たちは我先へと車に入っていく。竜馬もなるべく音を立てずに車に乗り込む。
そして、銃声は止み、大量のカラスは建物や電柱、電線に止まり、竜馬たちの乗る車の集団を見詰めた。
全員が息をするのも恐ろしい程の緊張感に包まれる。カラスは頭がいいのは有名だが、群れの統率力、目もかなりいい。
誰かが下手に動けば、獲物がいると判断して、すぐにこちらに攻撃を仕掛けてくることだろう。
「皆、静かにして。それと今すぐ窓を開けている車両があるなら閉じて」
小声で薺は言う。それを聞いたスクールバスに乗っている生存者は静かに、素早く行動する。窓を閉め、あいつらが早くここから離れていくのを祈るばかりだ。すると、一羽のカラスがバスのボンネットに乗り、バスの中をじろじろと見回す。
遠くで見ていたケーシャはあのカラスがどこかおかしいのに気付いた。
「あのカラス……なんか、大きいし…目がおかしくない?」
「…感染した死体を食べて変異したのよ」
ケーシャの言う通り、カラス一羽一羽の大きさは普通サイズのカラスよりも断然大きく、目に至っては赤く血走っていた。
ということは、あのカラスに襲われて怪我でもすれば、感染してしまうということだ。
バスの中は数分に渡り、静かだった。が、静寂はカラーンと甲高い金属音で破られてしまう。それは、昨日夕食として食べた缶詰だった。だが、そんな音に過敏に反応したカラスは得意の雄叫びを上げた。
その瞬間、何千羽といるカラスの集団は空へと舞い上がり、明るかった空を漆黒へと染め上げた。
舌打ちした薺は無線で伝える。
「エンジンかけて!行くわよ‼」
『名案だ!』
『賛成だ!』
それぞれ乗った車はカラスの集団から逃げようとするが、ただ一台…智之とルッティーの乗った車は砂にタイヤを取られてしまい、発進しようにもタイヤが空回りしてしまう状況に陥ってしまう。
「マズい!」
「このままじゃ無理だ!バスに移ろう!」
智之とルッティーは車から降り、バスへと必死に走る。
そんな絶好の的をカラスは見逃すはずはない。2、3羽で智之とルッティーに襲ってくるが、命辛々、バスに乗り込む。
「早く乗れ!出すぞ!」
智之はバスにカラスが入ってくる前に扉を閉める。
その瞬間、カラスは扉を曲げてしまう程の速度で突っ込んで来るが、中には入れなかった。扉がダメならと、今度はフロントガラスに突っ込んで来るカラスたち。これは流石に痛かった。バスを運転するオルトはカラスのせいで前方の視界を完全に塞がれてしまう。いくらか走らないうちにバスは電柱に衝突し、フロントガラスの枠も外れてしまった。しかもカラスはそれをチャンスにして、フロントガラスに向かって列を成して突っ込んできた。
「ヤバい!押し返せ!」
オルトとルッティーがフロントガラスを押すが、今にもカラスはここを破って入ってきそうな勢いだった。
「薺!あれ…!」
ケーシャはバスの周りに夥しい量のカラスが舞っているのに気付いた。薺もあれは長くは持たないと思い、車のハンドルを一気に切る。
「エッジ、竜馬!バスの中にいる生存者を助けるわよ!」
『『了解!』』
竜馬とエッジもバスに向けて走らせる。中の様子は竜馬の見た限り、オルトとルッティーがフロントガラスを抑えていると見て取れた。
だが、中はそんな生半可な状況でもなかった。突っ込んでくるだけかと思えば、今度は鋭い嘴でガラスを突いて、ひびを入れ始めたのだ。
「抑えろ‼」
「ちくしょう!持たないぞ!」
智之は早く彼らが助けに来ることを待つことしか出来なかった。
犬に噛まれた腕からジワジワと痛みが腕全体に広がっていくのを感じながら、ふらふらと砂漠を歩く玲奈の視界に漆黒に身を包んだカラスが一点に向かっていき、一気に降下していくのが見えた。
玲奈はゴーグル越しの濁った視界でもそこで何が起きているか分かった。気付いた時には、玲奈の足はそっちに向かっていた。
竜馬は自身の車のバスの後ろに置く。エッジも竜馬の隣に置く。竜馬は拳銃でカラスを牽制し、バスの非常用出口を開いて、バスに乗っている生存者に呼び掛けた。
「早く‼俺かエッジ、薺の車に乗り込むんだ!」
生存者は頭を低くして、小走りでそれぞれの車に乗り込んでいく。もちろんカラスたちも周りに飛び交いながら、数羽で固まって生存者に襲い掛かってくる。
「きゃあ!」
一人の女性がカラスの突進でバスや車から離されてしまう。カラスは彼女に嘴を向け、容赦なく顔を突き、彼女の顔を無惨な程に肉を抉っていった。
「くそ…!このままじゃ全滅だ!」
バスから出た智之はオルトとルッティーにも呼び掛ける。
「オルト、ルッティー急げ!」
「智之、先に行って‼」
抑えていたフロントガラスも限界を迎えようとしていた。隙間からカラスが入り込んできて、ルッティーに嘴、脚の爪で切りつけた。
見かねた薺は、一つの車に上がり、火炎放射器でカラスを焼いていく。だが、飛距離は全くないため、燃料の無駄となっていたが、こんな切羽詰まった状況では気付くはずもない。
「智之さん!急いで!」
ケーシャが呼び掛ける。が、智之はバスの中に残っている二人を見捨てることが出来ずにいた。すると、中から身体中血だらけで子供を抱えたルッティーが出てきたのだ。
「この子を…!」
智之は子供を抱えると、一気に薺の車に走り出す。
ルッティーの後ろではオルトがまだフロントガラスを抑えているが、破壊寸前だ。
「………」
ルッティーは覚悟を決め、バスの非常用ドアを閉めた。
それに気付いた智之は叫んだ。
「よせぇ‼」
フロントガラスを破ったカラスは真っ先に血だらけのルッティーに向かっていく。彼女は最期の悪足掻きに拳銃を撃つが、そんなのは全く当たらず、カラスに蝕まれていった。
「うぐっ…!うぐあああああっ‼」
「ルッティー‼」
バスの窓ガラスに顔を貼り、ずるずると倒れていくルッティーを智之は涙に濡れた目で見ていた…。
オルトもバスから出るが、既にカラスに囲まれてしまっているため、対処のしようがなく、カラスの餌食にされてしまった。竜馬の言う通り、全滅までは時間の問題かもしれなかった…。
ぐだった文章になったかもしれません。
次はこうならないように文章能力を上げていきたいです。
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竜馬
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海翔