では、後編をどうぞ‼
チェイスの上からの援護射撃がなければ、この戦闘はかなり厳しくなっていただろう。いくら戦闘能力が高い玲奈でも体力に限界はあるし、何よりアンデッドの数が尋常じゃないのだ。奴らはどんどん広範囲に散らばっていき、生存者の肉を食らおうと駆けていく。
生きたまま食べられる気持ちはその時なってからでないと、決して分からない。
しかしその時の恐怖はどんなものよりも恐ろしい。
玲奈は生存者を救うために、迫り来るアンデッドたちを殺していく。後ろから回り込んで噛みつこうとしているアンデッドの膝を後ろから蹴ってバランスを崩すと、標的を玲奈に変えた。だが振り向いた矢先に玲奈はアンデッドの頭にナイフを突き刺す。
だが、アンデッドは挟み撃ちの原理で更に左右からやって来る。玲奈はアンデッド一体の腕を掴んでもう一体にぶつけると、そのままナイフを重なった頭を突き刺して絶命させた。そこから血が噴き出し、玲奈の服を汚す。
息を整えていると、更にもう一体後ろからやって来たアンデッドの振ってきた腕の攻撃を避けると、一本のナイフは腹に刺し、もう一本は股間に突き刺した。途端にアンデッドの口から悲鳴のような奇声が漏れた。玲奈はそこからナイフを上へ上へと上げていき、首を掻っ切った。玲奈は刺さったままのナイフを抜き、この場をどうにかした。
だが、まだまだアンデッドはいる。玲奈は逃げ惑う生存者を追いながらも、奴らを殺していく。一体は頭を切り落とし、もう一体は顔面に蹴りを与え、頭蓋骨を粉砕する。それでも建物にいた生存者の一人は腸を抉られ食べられていた。生存者が死んだことはショックではあったが、そんなことをいちいち構っていられず、アンデッドの額にナイフを投げた。ナイフは弧を描いて、額に刺さる。
止まることなく、玲奈はコンテナの上に飛び乗り、そこからアンデッドの数を調べる。口笛を吹いてアンデッドの気を引くと、コンテナの上を一気に駆け抜け、ジャンプすると玲奈は拳銃を抜くと、一体も外すこともなくアンデッドを殺していった。着地の時は砂漠がクッションになって助けてくれた。
奥の方では薺たちがまだ戦闘を続けているのが分かった。そこに向かおうと立ち上がろうとした時…予想外の事態が起きる。一発の銃声と共に玲奈の右足首に痛みが走る。
「うっ⁈」
銃弾は玲奈の足首を突き抜け、砂にめり込み、玲奈は倒れてしまう。銃弾が飛んできた方向を見ると、ライフルのスコープが太陽の光で反射して、輝いているのが見えた。玲奈は腹這いになりながらも、狙撃から逃れようとコンテナの後ろに身を隠した。しかし、それを見越してか玲奈の周りに突如として仮面を被り、大鉈を持った奴らが現れた。
玲奈は痛む足をどうにかして動かし、再び立ち上がる。そして腰からナイフを抜き、奴らと戦う臨戦態勢に入った。
「ウラァ‼」
人間とは思えない奇声を発して、奴らは大鉈を振ってきた。玲奈はそれを軽々と避け、不気味な仮面に膝蹴りをぶち込んだ。仮面が半分に砕け、素顔が現れる。仮面の下は血だらけで目は異常とも言う程に増加し、人間ではないことが分かった玲奈はナイフで頭の半分を切断した。脳、中の肉が露出し、血が噴き出す。普通のアンデッドなら、そのまま倒れて二度と動かなくなるだったろう。
だが…こいつは違った。
切られた部位から白い煙が発生し、肉片が再生していく。そして最終的には元通りに戻る。
「な、何…⁈こいつら⁈」
突然傷が再生するアンデッドに対応したらいいか、玲奈は分からなくて混乱してしまった。その瞬間、同時に突撃してきたジュアヴォに身体を拘束されてしまう。
「離せ!この…っ……んむっ⁈」
暴れようとした時には、玲奈の口をジュアヴォが防いでしまい、呼吸出来なくなる。いくら普通の人間よりもパワーがある玲奈でも3、4人ものジュアヴォに抑えつけられては抵抗をしても、払いのけることは出来ない。
呼吸が出来ない影響で、酸素が徐々に身体に回らなくなり、意識も薄れてくる。
「く………う、はな………せ……」
力もどんどん入らなくなる。
薄れゆく意識の中、ぼやける視界に一人の男の姿が写る。
「実践実験は成功だな…。後はこの女の身体を思う存分研究するだけだ」
「うっ………くっ………」
視界はぼやけてから歪み、個々の顔も判別出来なくなる。最後の抵抗に腕を伸ばし、男の白い服を掴もうとするが、届くことはなく、ダラリと玲奈の腕は落ち、意識を闇へと落としてしまった。
竜馬は未だに全てのアンデッドを倒せずにいた。
いや…倒そうにも動きが速すぎて縦断がまともに当たらないのだ。そんな中で竜馬は玲奈なら簡単に当てれるだろうと思ってしまう。全滅するかしないかが懸かっている戦いなのに、この緊張感の無さに呆れてしまう。しかし、竜馬は奥の方で固まって行動する集団がいることに気付く。その中には気絶した玲奈を抱えている者がいることにも。
「玲奈ッ‼」
竜馬は思わず叫んでしまった。そのせいでその集団は見つかったことに焦ったのか、急いで建物の中に走り込んでいった。
竜馬は拳銃をしまい、全力疾走する。後ろからは薺の声が聞こえたが、そんなのはどうでもよかった。竜馬の中で、玲奈を助けることが最優先事項となってしまっていたのだ。階段を駆け上がっていくと、壁に銃弾がめり込んだ。竜馬も姿勢を低くして応戦するが、相手は撃ち合う気はないらしく、再び階段を登っていく。竜馬も見失わないように、急いで追うのだった。
薺たちは既に追い込まれようとしていた。
あまりのアンデッドの数に手持ちの弾も尽きてきたのだ。
エッジは一旦車に避難するが、アンデッドは車を叩き、フロントガラスを割って中に侵入しようとしてくる。入ってくるアンデッドを殺そうとするが、遂に弾切れになってしまう。この車の中にいるのはもう無理だと判断したエッジは後方のドアから逃げようとするが、車の上からアンデッドがジャンプして彼に掴みかかった。
「エッジ!」
同じく車の中で隠れていたケーシャが叫んだ。
それを見た薺は単発式の散弾銃を取り出す。エッジは必死に抵抗しているが、今にも噛まれそうだった。薺はアンデッドに銃口を向けて叫んだ。
「こっちよ‼」
アンデッドは薺の声に反応し、彼女を見た。途端に薺は引き金を引き、アンデッドの脳幹を貫いた。更に車の中にまで侵入したアンデッドも殺す。エッジは銃も何もないため、車の下に逃げ込もうとする。その間に散弾銃に弾を込める薺。その隙にもアンデッドは襲ってくる。薺は散弾銃の持ち手で腹を殴り、銃口を口に突っ込んで喉の奥から頭を撃ち抜いた。
だが、車の下に潜り込む前にエッジは3体のアンデッドに掴まり、身体を貪られてしまう。
「エッジ!」
「うぐあああぁぁ………」
エッジの悲痛な悲鳴が嫌でも耳に入ってくる。薺は当たる場所構わず、アンデッドに撃っていく。しかし、いくら身体に撃っても怯むだけで効果は皆無に等しい。そして、ゼロ距離にまで来たところで漸く弾はアンデッドの頭に命中する。だが、3体のアンデッドを殺したところで手遅れだった。エッジの頸動脈は裂かれ、ピューと小さな噴水の如く血が溢れていた。
薺は散弾銃を力なく降ろすと、悔しさから大声を上げた。
「うわあああああぁっ‼」
その叫び声はどこまでも響いていった。
チェイスは自分がいる場所にまで生存者が来たため、登ってくるアンデッドを撃ち落としていた。しかし、ここで弾切れが起き、舌打ちしながらチェイスはライフルを捨てた。そして、生存者に手を差し伸ばす。
「頑張れ!手を伸ばすんだ!」
チェイスはまだ登ってくるアンデッドにご自慢のマグナムを撃ち落す。いつもより大きい銃声がエッフェル塔に響く。だが、後ろからもアンデッドが近付いていることに気付けなかったチェイスは肩を噛まれてしまう。噛んだら離さないアンデッドはそのまま身体に抱きついてくる。
「くっそぉ!行け‼逃げろぉ‼」
チェイスはこのままではダメだと思い、一つの決心をした。
それは…。
「……こうなったら…!」
チェイスはアンデッド共々エッフェル塔から身を投げた。アンデッドは地面に頭を強打し死亡。チェイスもエッフェル塔の鉄骨に頭部をぶつけて即死した。
その様子を見ていた薺は車のボンネットを殴った。
「ちきしょおぉ‼」
だが、また悔しがっているわけにもいかない。最後の一体であろうアンデッドが薺に近付いてくる。散弾銃を構え、引き金を引くが、カチンと弾切れの音がした。今から腰の拳銃を取っても間に合わない。万事休すかと思われた時、一つの影が飛び出し、アンデッドを突き飛ばした。
「と、智之…」
影の正体は智之だった。アンデッドと共に地面に倒れた智之の腕にアンデッドが歯を食い込ませた。
「ぐあっ‼くっ……!」
智之は噛まれながらも、アンデッドの頭を拳銃で撃ち抜いた。
智之の左腕からは血が流れ出ている。智之は薺に顔を向け、残念そうに笑った。
「ははっ……やられちったよ…」
薺はもう自分のか弱さに泣きたくなるくらいに後悔した瞬間だった。