バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第35話 狂わされる理性

アンブレラは玲奈をとある部屋に監禁した。

椅子の肘掛けに腕を縛り、四つの足の二つに玲奈の両足を縛り付けた。

玲奈はまだ意識を回復していない。待ちきれないパイソンは、バケツの中に入った冷たい水を玲奈の頭からぶっかけた。唐突に冷水が玲奈の身体に浴びせられ、身体が冷えていったため、玲奈は半ば強制的に起こされた。

 

「ぶはっ‼おほっ……けほっ……」

「お目覚めはどうかな?」

 

玲奈は途端にパイソンに鋭い視線を向けた。ここが何処だかはいくらでも予想出来る。

だが玲奈は今すぐにでも、この手足の拘束から抜け出し、こいつを殺してやりたいと思った。

 

「…そうね……。少し冷たすぎるわ。風邪でもひいたらどうするの?」

「そいつは失敬。いやね、生温い水だと起きずにまた寝てしまうのではと思ってね…」

 

玲奈は手枷をガチャガチャ動かしながらも、パイソンから視線を離さない。

 

「で…私に何の用?」

「私には用がない。用件があるのは淳博士なんだが…アンデッドに噛まれてしまってね。もう手遅れなんだ。代わりの研究担当が到着次第、君は身体中を調べられる。まぁ解剖されると言ったらいいかな?」

 

パイソンは玲奈の方に歩み寄り、顔を近付けた。そして、目にかかっている濡れた髪を横にずらして、その美しい顔をジロジロと見た。玲奈はこんな奴の顔を見られるのは屈辱以外の何物でもなくて、顔を背けた。その反応が、パイソンの醜悪的な性格を興奮させた。玲奈の髪を乱暴に掴み、自身の顔に無理矢理振り向かせた。

 

「うぐっ……」

「玲奈……君だって分かっているだろう?今の世界で生き延びるのは到底不可能だ。そこまで馬鹿じゃないだろう?」

「………」

「もし、君がこちら…アンブレラ側につけば、ここで安心して生きていける。ちょっと狭い部屋で退屈した生活になるかもしれないが、玲奈…君の安全は保証しよう」

「……ぷっ、くくく……っ」

「…?」

 

玲奈はそれを聞いて、笑いを抑えきれなかった。馬鹿はどっちなんだと思うくらいに馬鹿馬鹿しくて笑ってしまったのだ。

パイソンはそんな玲奈を静かに見下ろす。

 

「…何が可笑しい?」

「安全……保証……?笑わせないでよ!私があんたらの所で一生を過ごすわけないじゃない!私は…実験のために生まれてきたんじゃない‼」

 

玲奈はそう叫んだ後に、顔を近付けたまま離れないパイソンの頬に唾を飛ばした。

ここで漸く、パイソンは玲奈の頭を投げやりに放し、頬を拭った。

 

「そうかよ…」

 

そう呟き、パイソンは腰からナイフを抜くと、玲奈の右手に深々と突き刺した。

 

「アアアアアアァァァッ‼‼」

 

今まで様々な傷を負ってきた玲奈であったが、肉を貫かれる痛みを耐えきるのは無理があった。身体をビクビクと震わせ、涙を流してしまう玲奈。こんな玲奈を見ていたら、パイソンは嫌がおうでも虐めたくなってしまう。

 

「はぁ…!はぁ…!」

「いくら気が強くても、口だけなら何とでも言えるな…。貴様も所詮は女だ」

 

パイソンは荒く息をする玲奈の豊かな胸に手を触れた。嫌らしい手が触れ、玲奈の怒りは益々上がっていくばかりだが、何も出来ない。

 

「…はぁ……くず…がっ……!」

「聞き呆れるくらいに言われるよ」

 

パイソンは口角を上げ、右手からナイフを抜いた。抜かれる時にも痛みが走り、玲奈は顔を歪めた。

 

「うっ…」

 

右手はすぐに再生を開始するが、パイソンは代わりに左手にナイフの刃を当てた。

 

「さて、今度は……」

「ま、待て……止め…」

 

涙目の玲奈の懇願を無視して、パイソンは次に左手にナイフを刺した。再びとんでもない痛みが腕全体に走り、玲奈は絶叫した。

 

「ぐうううううううぅぅぅぅっ‼‼」

 

刺されてからも暫く玲奈の左手は勝手に痙攣したまま止まらない。既にこの時点で玲奈の理性は崩壊寸前にまで追い詰められていた。

パイソンは動悸が激しくなってきた玲奈に聞く。

 

「止めてほしいか?」

「………こんな、の……仲間を、殺される……より、断然、マシ…よ…!」

 

途切れ途切れの言葉を必死に紡いでいく玲奈。

パイソンはやれやれといった表情をした。

 

「…全く、君は相変わらずだな。聞いた話だが、東京でもネメシスを仕留められなかったとかな…。使えない奴とは正にお前のことだな、玲奈」

「……ネメシスじゃない…」

「あ?」

「彼は…彼の名前は……“竜也”よ‼彼は私にとって大切な人だった‼それを…あんたらみたいなクズが私から奪ったのよ‼」

 

玲奈は必死に叫んだ。自分の意志は変わらないと伝えたくて…。

 

「…この7ヶ月近く、ドブネズミみたいに食糧を漁って生きてきた弱者が何を言う。『彼は竜也』?それは昔の話だ。あの時はネメシスという我々の所有物だったんだよ!それも分からないのか?」

「…ふっ…」

 

玲奈は再び笑った。

パイソンが言った『弱者』がまた馬鹿らしくて、笑えてしまったのだ。

 

「弱者?それはあなたたちじゃなくて?」

「何だと?」

「アンデッドに恐れをなして…地下深くに逃げ込んだカス集団が…私たちみたいに、毎日命を懸けて生きてる人たちをとやかく言う権利なんてない…」

 

ドンッ‼

と1発の銃声が部屋に響いた。

 

「あ……あ、アアアアアァァッ‼うああああああああぁぁっ‼」

 

パイソンが玲奈の右鎖骨を銃弾で砕いたのだ。玲奈は椅子が動いてしまう程に激しく痛みから逃れようと暴れる。汗がどっと噴き出し、撃たれた部位から血が流れて床に落ちる。パイソンは銃口を玲奈の頭に当てて言う。

 

「…馬鹿にするのもいい加減にしな。所詮貴様や貴様の仲間でもアンブレラを潰すことなど出来ない。いや…まずお前はもう終わりなんだよ!」

 

玲奈は痛みに耐えるのがやっとで言葉すら発せない。こんな絶望的な状況で…誰か助けになど来てくれるのかと不意に彼女の頭の中を過った。彼の…竜馬の笑顔が頭の中で再生される。

その時、突然部屋の中に慌ただしく傭兵が入ってきて、パイソンに耳打ちする。

 

「いいか?ちゃんと玲奈を見張っておけ」

 

パイソンはそう言うと、傭兵二人を部屋に残してどこかに行ってしまった。

玲奈は今なら脱出出来なくなかったが、肩と両手に作られた傷をが元通りに戻るのを待つ方が先決だろうと思い、そのまま椅子に留まるのだった。

 

 

 

 

パイソンは玲奈を部屋に残し、自身は淳を軟禁している部屋に向かう。軟禁だから拘束している訳ではないが、閉じ込められていると変わりない。暗証番号を入力し、入り口前にいた傭兵二人と共に中に入ると、抗ウィルスを打つ淳の姿が見えた。しかし、一本ではない。机には空になった試験管がいくつも置いてあった。

 

「…それを全て打ったのか?」

「玲奈の血清でアンデッドを強化した…。その分、ウィルスの感染力も増している…」

 

淳はこれで本日7本目の抗ウィルスを打ち終える。

 

「これくらい、打たないと……」

「どうなるか分かっていないようだな」

 

淳はパイソンの方を向く。淳の顔は酷いの一言だった。

目の下は黒い隈が出き、肌の色もいつも以上に薄くなっている気がした。だが、それでも淳は冷静さを保とうとする。

 

「それで……私をいつになったらここから出してくれるんだ?玲奈を…早く研究しなければ…」

「悪いが、それは別の博士にして貰う。あなたは重大な命令違反を犯した。ジョン議会長からも了承は得ている。今からあなたに略式排除を言い渡す」

 

淳はそれを聞き、顔を真っ青に染めた。

『略式排除』とは要するに…死んでもらうと同じことだ。淳は咄嗟に椅子を投げて、自身の研究室に一旦逃げ込んだ。

 

「逃げても無駄ですよ?大人しく死んでください、博士」

「こんなところで……大人しく殺されるか…!」

 

淳は机に置いていたJJ-ウィルスを首に当てた。本来、J-ウィルスとJJ-ウィルスを同じ身体に投与したらどうなるか予想も出来ない。とんでもない突然変異が起きるかもしれない。

しかし、彼からしたらそんなのは覚悟の上だった。

 

「………ぐっ!?あ……あがああああぁぁぁっ‼」

 

突然淳が悶え苦しむ様を見てパイソンには何が起きたのか分からなった。だが、近くにJJ-ウィルスの注射器が落ちていれば、彼が何をしたのか容易に想像出来る。

 

「貴様…!」

 

淳の身体はウィルスの影響でどんどん大きくなっていく。元の大きさより約1.5倍にはなっている。心臓は露出し、片目は退化したのか白内障が酷くなったように眼球そのものが真っ白に染まり、片手は異常なまでに発達した。パイソンは構わず、弾丸を淳の身体に撃ち込んでいくが、全く効いていなかった。淳はパイソンを一瞥すると…非情の一撃を加え、絶命へと追いやった。

 

「ぐおええええぇぇぇ………」

 

淳は部屋に残った二人の傭兵を見ると、不気味な薄笑いを浮かべるのだった。

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