智之が運転するトレーラー、そして竜馬、薺が運転する車、合計三台に分かれて行動に出た。今のところ、三台は平行して進んでいるが、いずれ、竜馬たちは先にエンジンを緩めなければならない。
竜馬は隣の窓からハンドルを握る智之を見た。彼もこちらを見て、首を縦に動かした。竜馬は覚悟を決め、徐々にアクセルを弱めていき、薺も竜馬に倣って、速度を緩めた。
智之だけはアクセルを弱めることなく、アンデッドたちの垣根に突っ込んで行く。助手席に置いてあるダイナマイトを見て、これから自らがすることを再度確認した。逃げ出すのなら今のうちだ。だが、智之はそうまでして長く生き残っていたいわけではない。彼は…竜馬や薺たちにもっと長く…生き延びて欲しいのだ。そのために一躍担うだけだ。そう頭の中で自分に言い、どんどんトレーラーを進めていく。
ただ、ここに来て一つの欲求が生まれた。
「…はぁ……せめてタバコがありゃあなぁ…」
そうボヤいていると、遂にアンデッドたちの垣根に到達する。ここからはアンデッドをトレーラーにぶつけ、更に奥へと突っ込んで行く。大体、垣根の中心辺りに到着したところで、智之は一気にハンドルを左に切った。トレーラーは一気に左に曲がり、右側のタイヤが全て宙に浮き、横転した。智之も助手席の方にまで落ちていく。
「うわああ⁈」
トレーラーは倒れながらも、慣性の法則で暫くは前に進み、アンデッドを薙ぎ倒していく。そして、完全に止まったところでアンデッドはこのトレーラーを標的にした。
智之は横になった車内で一本の白い棒を見つける。
「!ラッキー!タバコだぜ!チェイスめ、隠していたんだな…」
智之はタバコを咥え、ポケットからライターを探そうとする。
だが、そんなことしているうちに無数のアンデッドはトレーラーを登り、開いた運転席側の窓から侵入してこようとしてくる。
「おっと…タバコの前にこいつだったな…」
至って智之は冷静にダイナマイトの導火線に火を付けた。
これで智之がすべきことは終わった。
あとは……時が来るのを待つだけ…。その時が来る前に、ライターの火をタバコに持っていき、すぅ…と吸った。
「ふぅ~……。いつぶりかな…」
智之に後悔などない。これは自らが決断したことだ。智之の眼下にはアンデッドが一体、入ってこようとしている。その後ろ、周りには更にたくさんいる。だが、もう関係ない。智之は最後の一服に酔いしれ、こう呟くのだった。
「あとは、任せたぜ…」
竜馬たちの前で、智之が乗ったトレーラーが大量のアンデッド、そして……智之を巻き込んで巨大な爆発を起こした。トレーラーに積んだ大量のガソリンに引火し、爆発は一回では収まらず、何回も連鎖して起きた。爆発の範囲は想像以上で、トレーラーからそれなりに離れたアンデッドも爆風で倒れてしまう程であった。竜馬たちの乗る車にも震動がやって来たが、竜馬は歯を噛み締めて車のアクセルを全開で踏んだ。粉々に砕け散ったトレーラーの破片にぶつかりながらも、フェンスを突破する。その少し後に薺の車が続き、竜馬は乗っている生存者を降ろしていく。ヘリには薺が向かっていく。
「急げ!」
「……動いてよ!」
薺はとある博物館で行われていたヘリの模擬運転を記憶していたため、ある程度の運転なら出来るのだ。暫くして、ヘリのローターが回り、いつでも離陸出来るようになった。竜馬はヘリの中を生存者を一杯にさせるが、先程の爆発に巻き込まれなかったアンデッドたちはぞろぞろとやって来る。ケーシャが乗ったところで、竜馬はあの日記を彼女に託した。
「⁈一緒に来ないの⁈どうして…?」
「彼らを頼む。俺は……」
竜馬は向こうの建物を見ながら言う。
「玲奈を助けに行く」
「でも……」
「薺!行け!」
薺はこれは断れそうもないと思い、ヘリを空へと上げていった。
竜馬を置いていくのはどこか申し訳ない気持ちもあったが、彼の要望なら…仕方ない。薺はヘリを、北へ…アラスカに向けて飛行させていくのだった。
ヘリが竜馬の視界にも捉えられない場所に行くと、一人佇んだ彼はポツリと呟いた。
「一人……か…」
なんてことはない。竜馬はあの東京で紗枝と離れてしまった時よりかはよっぽどマシだと思った。数十秒経ってから、あの建物に向かおうとした時、白い服が目に映った。建物の横にある小さな窪みに目を向けると、そこにあった“もの”に身体を硬直させてしまった。
「!こいつは……」
そこには玲奈の死体があった。しかも一体ではない。窪み一面を埋め尽くす大量の玲奈の死体がまるでゴミのように放置されていたのだ。
これは、淳が実験に使用していた玲奈のクローンたちだった。
もちろん、竜馬にそんなことが分かる訳がないが、彼は激しい怒りに燃えていた。彼女らの身体に刻まれた非常に生々しい傷跡がその惨さを如実に物語っていた。
これを見ただけで、奴ら…アンブレラが玲奈を単なる研究材料でしか見ていないと分かった。
「玲奈が、苦しむはずだよな…」
玲奈がいつもどこか落としている暗い影の正体が分かったところで、竜馬は物凄い視線をあの建物の向けた。扉を蹴って中に入ると、そこには机が中心にあるだけの殺風景な場所だった。ゆっくりと一歩足を進めると、カチッと音が鳴り、机が半分に割れて地下深くへと続くエレベーターが現れる。
「なるほど。ここが奴らの本拠地…ってわけか」
竜馬は息を飲んだ。これから敵の懐に入っていくわけだから…。だけど…怖気づいてばかりもおられない。
「玲奈……助けに行くからな……」
竜馬はエレベーターに乗り、単身、地下研究所に乗り込んでいくのだった。
漸く傷が元通りに塞がってきた。逃げ出すチャンスを窺っていると、玲奈の後ろにいた傭兵の一人が無線で慌ただしく言い争っていると、そのまま部屋から出ていった。
今は一人…。今がチャンスだと思った玲奈は…。
「ねえ………トイレ、行きたい」
「パイソン大佐の命令無しにはその要求は飲めない」
中々強情だなと思った玲奈は、別の手に出た。
…多少、恥ずかしい行為ではあったが…。
「……私がここでションベン垂れ流しにするところを見たいわけ?ならいいけど…」
玲奈がそう言うと、傭兵は少し動揺する。
「本当にするわよ?アンモニア臭を嗅ぎたいのかしら?」
「………っ」
「トイレに、行かせて」
傭兵はここであの臭いを嗅ぐのはごめんだった。折れてしまった傭兵は玲奈の腕をつかんで拘束し、歩けるように脚の拘束だけは外した。そして、部屋から出て、トイレに向かう途中で…。
「間抜けね」
玲奈は傭兵の股間に強烈な蹴りを与えた。それに怯んだ隙に相手の頭を掴んで壁に何度も叩きつけた。容赦なく叩きつけたせいで、頭蓋骨が陥没してしまう。絶命した傭兵の懐からナイフを奪い、拘束された腕を解いた。
すぐにさっきの部屋に戻って奪われてしまった武器を回収に行こうとしたが、その道中……血溜まりと血の手形、そして…バラバラにされた傭兵の死体が転がっていた。
それを見た玲奈は思わずこう呟くのだった…。
「……最悪」