バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第37話 クローン

竜馬の乗るエレベーターは勝手に下へ下へと降りていく。表示されている画面を見ると、どうやらこの地下研究室の最下層に向かっているようだ。玲奈がこの広大な施設の中に閉じ込められているのは間違いないのだが…この広すぎる施設を徹底的に調べていくのも骨だと思いながら、エレベーターは最下層…地表からおよそ2kmの辺りに到着した。

エレベーターの扉が開く。

拳銃を構えながらも、真っ暗に近い通路に足を踏み入れていく。

電気はあるにはあるのだが、壁に付けられた昔の蛍光灯では周囲10mも照らせていない。なので、竜馬はエレベーターの中にあった懐中電灯を一本取り、それを照らす。が、その先には血の手形、それにペンキのようにぶちまけられた夥しい血溜まりが照らされた。

 

「こいつは…」

 

しかし、これ程の血があっても死体も肉片も転がっていない。

ただ食べられてアンデッドになったわけではなさそうだ。

 

「あの…噛まれた奴が、暴走したのか?」

 

考えても仕様がない。それでも竜馬は進んでいくしかなかった。

僅かに開いたシャッターの下をくぐると、そこは地獄とも言える光景が広がっていた。ライトに照らされた先に見えたものは赤だった。赤色の部屋…。機械類や薬品が入っていたビン類は粉々に壊され、その上に大量の血がこびり付き、原型を留めない人間の死体が無造作に置かれていた。電灯は半ば壊れかけ、バチバチと火花を散らして辺りをより一層不気味にさせていた。

 

「一体…何があったっていうんだ…?」

『淳博士よ』

 

不意に後ろから女性の声がした。全く気配を感じ取れなかった竜馬は背後を取られたと思い、拳銃を瞬時に後ろに向けた。

しかし、後ろにいたのは傭兵でも研究員でもなかった。ホログラム化された少女の姿が竜馬の目に映った。黒いワンピースを羽織り、黒い髪を背中にまで伸ばした少女が竜馬をその黒い瞳で見詰めていたのだ。

 

「…君は…?」

『ごめんなさい、驚かす気はなかったのよ。私は人工知能の……』

「知っているわ」

 

今度は竜馬たちの前から声が聞こえた。また女性だ。金属の棚から姿を現したのは、竜馬が丁度探していた玲奈だった。

 

「玲奈!」

「竜馬…どうしてここに…。それに薺たちは…?」

「薺たちには先に行ってもらった。俺は玲奈を助けに来た」

「……そう」

 

雰囲気を落とした玲奈に多少気になった竜馬だったが、今はこの惨状を起こした淳という人物と、この人工知能について聞くのが先だ。

 

「玲奈、この黒い女の子は何なんだ?」

 

玲奈はブラッククイーンを一瞥する。

 

「だって、私はこの人の妹さんを知ってるもの。確か……人を殺すのが好きな人だったわよねえ?」

「ひ、人を殺すのが、好き?」

 

竜馬には理解し難い話が出てくる。

その問いにブラッククイーンは淡々と答える。

 

『…妹…レッドクイーンは合理的にあの時の状況を解決しようとしただけよ。私も間違いだとは思っていない』

「ふ~ん…。ま、多少の犠牲が仕方ないのは理解出来なくもないけど…」

「…この人工知能…」

『私の名前はブラッククイーンよ』

 

竜馬は溜め息を吐く。

 

「はいはい、ブラッククイーンちゃん。彼女のことは分かったが、この現状はどうなっているんだ?単なるアンデッドがやったとは思えない」

『今から説明するわ。実は…この研究所主任の淳博士が感染して戻って来たのよ。新たな血清を投与して作ったアンデッドに噛まれて来てね』

「血清?」

『あなたのクローンから血を採取して作った血清よ、オリジナル玲奈』

「わ、私の血⁈」

「……それであんなに、玲奈が…」

 

竜馬が納得したかのように呟く。クイーンは続ける。

 

『淳博士はそれでバイオハザードを葬り去れると考えていた』

 

二人はそれを聞いて、一つの可能性を見出す。

 

「と…いうことは、全てを終わらせられるの⁈」

『その通り』

「どうして俺らにそんなことを…」

『それがあれば、ここにはウィルスを死滅させる薬を作る機械も薬品も揃っている。ただし…淳博士の見解通りならの話だけどね』

 

玲奈と竜馬は顔を見合わせた。今の話が本当ならば、自分たち自身でこの悪夢を終わらせることが出来る。歓喜に満ち溢れる二人だったが、その後のクイーンの発言が玲奈たちに影を落とした。

 

『でも……一つだけ問題があるの』

 

 

 

 

玲奈と竜馬はクイーンの言ってた部屋の前に立つ。玲奈は邪魔になったマフラーを外して、拳銃を取る。竜馬も着ていた服を一枚脱ぎ、同じく拳銃を抜いた。この部屋に問題の博士がいるらしい。扉の横に付いている小さな画面にクイーンが写った。

 

『中にどうにかして閉じ込めたけど、いつまで抑えられるか分からない。早急に排除して』

「命令口調か…。まあいいか」

「じゃあ行きましょう、竜馬」

 

そう言った途端に扉が開いた。通路と同じように灯りはほとんどない。ライトで照らして、入り口付近に何もいないことを確認した後、二人は部屋の中に足を踏み入れた。暫く進んで、クイーンの声が聞こえた。

 

『玲奈、竜馬。幸運を』

 

二人はお互いに笑いを漏らす。

それから重苦しい音と供に扉が閉まった。

 

「前は任せたぞ、玲奈」

「なら…後ろは頼んだわよ」

 

二人は共に行動する。こういう敵がどこにいるか分からない時は無暗に単独行動するのは危険だと分かっているからだ。それでも、二人とも底知れない恐怖を抱いていた。こんな極限状態では誰でも怖いと思うのが普通だろうが…。

真っ直ぐ通路を道なりに進んでいくと、開けた場所に出た。そこもあの血だらけの部屋と同様にあらゆる物が散乱していた。周りの壁には無数の銃弾の穴が開いていた。恐らく、淳博士と戦ったが、結局倒せずに死を迎えた…というところだろう。更にガラス張りの部屋を見た玲奈は悲壮な視線を向けた。竜馬も倣っても見たが、すぐに目を背けてしまった。そこには、串刺しにされた研究員が何人もぶら下がっていた。しかも、顔はズタズタ…または無くなっている。あれほど残酷なことをする怪物と相手にしようと思ったことを今更後悔したくなる竜馬。自然と身体が震えてしまう。

玲奈はそんな姿の竜馬を見るのを始めて見た気がした。竜馬はいつも誰よりも先頭に立ち、みんなをまとめるような存在に見えているのが普通だった。今は得体の知れない化け物と化した淳に恐れをなしている。

 

「大丈夫よ、竜馬」

「………」

 

竜馬は何も言わない。

 

「私が…あなたを守るから…安心して…」

「えっ…」

 

今の発言は…何か…心が和らいでいく感じがした。玲奈自身も顔をほんのりと赤くしていた。少し照れているのがこの暗闇でも分かった。

 

「玲奈も…俺が」

 

その時、後方で物音がガラガラと音を立てて倒れたのだ。二人は一気に緊張感がMAXまで登り詰める。

 

「見てくる」

 

竜馬は果敢にそこに歩いていく。床ではまだ何かの機械の一部が揺れていた。それに周囲からも、何かの気配がした。

 

「どこだ…?」

 

竜馬はライトを頼りに周囲を見回すが、やはり暗すぎて何の姿も見えない。

 

「玲奈、先に進も……って、玲奈⁈」

 

竜馬が振り返った時には、玲奈の姿はなかった。

 

 

 

 

玲奈は更に更に奥へと足を踏み込んでいく。竜馬を置いて行ったわけではない。じっとしているのが嫌だったのだ。暫く進んでいくと、目の前に吊り下げられた水の固まりを見つけた。しかし、驚きなのは、その水中に“玲奈”がいた。手を胸の前でクロスにして、豊満な胸を隠し、口許には酸素を送る装置が付けられている。

 

「これが…私のクローン?」

 

自然とその水に触れると、そこから水面波を作っていく。クローン玲奈の目は小刻みに動き、今にも開きそうだった。

その刹那、“奴”が現れた。玲奈の視線に入ってすぐに強烈なタックルを受けてしまい、吹き飛んだ先はあの水の固まりだった。突然の衝撃にクローンの玲奈は目を覚ましてしまった。玲奈はすぐさまナイフを一本抜き、淳の肩目がけて投げた。淳は肩にナイフが刺さった途端に呻き声を上げて、再び暗闇の中へと消えていった。それから起きてしまったクローン玲奈は中で暴れてしまい、水中から抜け出してしまう。玲奈はそれをきちんと受け止めた。

 

「………」

 

今初めて自分自身のクローンを見た玲奈はあまりに似ているクローンに言葉を失った。クローン玲奈は無理矢理出てしまったのが良くなかったのか、息が絶え絶えになっていき、遂には呼吸も止まってしまった。玲奈は死んでしまった自分に自らのコートを被せて、逃げていった淳を追った。理由はただ一つ。

 

淳を……殺すためだ。

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