淳から受けた激しい攻撃を受けた竜馬は、実に3日後に目を覚ました。
「ぐっ……。ぐぅぅ…」
床に横たわっていた竜馬は上体を起こしたが、すぐに腹と左腕に痛みが走った。よくよく見れば、腹と腕には包帯が巻かれ完全に固定されている。すると、机に乗った女性の影が見えた。
「あん…たは…」
「あ、起きた?」
「…玲奈……」
竜馬は玲奈の声を聞き、彼女が無事だと分かり、ホッとする。
だが、灯りに照らされた玲奈の顔は…どこか違っていた。髪の長さや…表情が僅かに違う気がした。
「あなたが探す玲奈は、左で眠っているわよ」
ゆっくりとその左側を見る竜馬。
そこには、スースーと寝息を立てるもう一人の玲奈の姿があった。
「………え⁈」
彼は驚きの声を漏らした。右も左も玲奈がいて、竜馬の頭の中は一気に混乱した。右にいる玲奈はくすくすと小さく笑った。
「驚いたでしょ?私もよ。私はね、左で寝ている私から作られたクローンよ」
「ク、クローン…?」
世界が滅びる前は、生物はもちろんのこと、人間に対してもその製造は禁止されているクローンが…竜馬の目の前で笑っているのだ。とても…いや、クローンだから当然だろうが、本物の玲奈と全く差異が見られない。
「大丈夫よ。だって私があなたと本物の私の治療をしてあげたんだから」
「…君が?」
「そう。あのふざけた化け物が倒されてからね。今はちゃんと寝かせてあげてよ?相当へばってるようだから…」
「…ありがとう」
クローンの玲奈はそのままこの場から消えていった。竜馬は痛む腕を抑えながら、自分自身も起き上がったのだった。
更に一週間が経過した。
ここには食糧も水も物資もあったため、長らくはここで住んでも問題はなさそうだった。ただ、竜馬としては問題が二つ。一つはこの地下施設の出入り口がアンデッドで一杯で脱出に困難を極めそうなこと。もう一つは…玲奈が一向に目を覚まさないことだった。クローン玲奈によると、淳の攻撃で腹部を派手に裂かれていたらしい。暫くしてから傷口は自然に塞がれたようだが、心因的な問題で起きないのかもとクローン玲奈が言っていたのを思い出しながらも、竜馬はペットボトルに入った水を一気に飲み込んだ。
「………」
ベッドで眠っている玲奈は正に現代版の白雪姫のように見えてしまう竜馬。竜馬は暇さえあれば、玲奈の眠るベッドの近くにいる。
「いい加減、起きろよ…。いつまで…俺を心配させるんだか…」
「…起きてるわよ」
「ああ、そうかい。だったら……………」
竜馬はそこから言葉を失っていく。ゆっくりと玲奈の目を見ると、その青い瞳はこちらを見ていた。そして、にこやかに笑って、小さく言った。
「生きて…たんだね…」
彼女の青い瞳からは徐々に涙の雫が出来てくる。
竜馬も泣きそうな声で答えた。
「…っ、当たり前、だろっ…」
竜馬は彼女の上体をゆっくりと起こすと、その華奢な身体を強く抱き締めた。玲奈も今出せる力を出して抱き締め返す。そして…玲奈は竜馬の頬に優しく触れると、自らの唇を触れさせた。
「…好きって、あのタイミングで言うの、ずるい」
「悪かったな……。あそこで言わないと伝えられないと思ったんだよ」
二人は顔を合わせ、同時に笑いを漏らした。そしてまた唇を近づけようとした時、「オホン!」と咳が聞こえた。
「私の前でやるなんて…見せつけたいの?」
「えっ⁈あなた…生きてたの⁈」
玲奈はあの時心臓が停止したはずのクローン玲奈を見て驚きの声を出した。
「そのコート…」
「あぁ…。ありがとう。服を用意してくれて…」
クローン玲奈はコートを返す。だが、玲奈は…
「あなたが着ていて。それに…他にも着たい人はいるだろうし…」
「着たい人?どういうことだ、玲奈?」
「その前に……伝えなきゃならない人がいるの」
玲奈はベッドから降り、近くのパソコンを開き、画面を見ながら言った。
「お久しぶり……各国の幹部さん…」
国家が崩壊した日本には、アンブレラが秘密裏に作った地下研究所があった。東京はその中でも最大の大きさを誇っていたが、今は誰も使っていない。その他はアンブレラ職員、並びに政財界に通じる人が住まいとして使っている。
その一つ…大阪の施設で緊急会議が行われていた。
「今日で、アメリカ施設の通信途絶は十日目か…」
そこはジョンが住んでいる場所だった。今、ジョンはアメリカの研究所を失ったため、JJ-ウィルスの研究をどうしようかということを議論していた。
各国の幹部は、あの厳重警備のアメリカ支部がやられたことに暗い影を落としていたが、ジョンはそれを払拭するように発言する。
「まあ…今更どうこう言っても仕方ない。データはこちらにもある。貴重な玲奈のクローンを回収するのが先決……」
『お久しぶり……各国の幹部さん…』
突然、アメリカ支部からホログラムが流れた。それは、なんと…オリジナルの玲奈で全員驚きを隠せないでいる。
しかも…彼女の表情はとても楽しそうだ。
『私のクローンを回収…するのかしら?それなら不要よ。だって…私がそこに行くんだもの』
各国の幹部たちは顔を青くさせていく。彼らも知っている通り、玲奈がどれだけ滅茶苦茶なことをするか理解している。更には…簡単には死なない…不死身にも近い女…。
『それと…その時は、何人か友達を連れてくるわ』
玲奈はそう言い残して、パソコンの電源を落とした。会議にいたジョンは玲奈の言っていた発言を頭の中で反芻させていた。
『私がそこに行くんだもの』
ざわざわとする会議室の中。
ジョンは真剣な表情でこう述べたのだった。
「……それなら…我々もそれ相応の対処方法を検討しなければ…」
パソコンの電源を切った後、三人は目の前に広がる光景に見とれていた。それは、何十とある玲奈のクローンの保管所だった。
「これが…全部私だとはね…」
あの時のクローン玲奈と同じように水の固まりに保管されている。中には既に目覚めて、そこから抜け出そうと暴れ、もがく玲奈たちの姿があった。
「この私をたくさん使えば……奴らを潰せる」
「…本当に、やるつもりなのか…?」
「当り前よ。こうなったのは全て奴らのせい。まぁ、ここには食糧もそれなりにあるらしいから…のんびりやっていきましょう…」
玲奈はそう言って、全てのクローン玲奈を水の固まりから解放した。だがそこで竜馬は全てのクローン玲奈たちが裸であることに気付き、慌てて目を背けた。玲奈は溜め息を吐く。
「まずは服ね」
玲奈はそう呟くのだった。
ー1年後ー
彼らは……長い期間をかけ…準備を積み終え、復讐するために地上に舞い戻った。
同じ顔…同じ身長の様々なクローン玲奈たちはそれぞれに武器を持ち、研究所の出入り口に置かれた大型のヘリを使って、ジョンがいる場所…日本に再び向かおうとしていた。あのフェンスの中にはアンデッドが恐ろしい程にいたが、この一年間の訓練により、奴らは最早雑魚とも言える程に、クローン玲奈一人一人の戦闘力は上がっていた。辺りには、数百のアンデッドの死体が転がり、それを見た竜馬は賛嘆と同時にここまで強いのかという恐ろしさもあった。
「玲奈…覚悟はいいな?」
「もう、覚悟なんかとっくのとうに決まってるわ」
竜馬はへりの操縦席に座り、ヘリを離陸させた。
彼らには死の恐怖は微塵もない。
あるのは……この事態を引き起こし…玲奈の運命を大きく変えたアンブレラに対する復讐心だけ…それだけだった。
次回は最新章突入です。
玲奈と竜馬、くっ付きました。
戦いばかりも詰まらないと思ったので、こういう風にしてみました。
ただ、あまりデレデレさせないように努力していきたいと思います。