報告してくださった方、ありがとうございます。
では、どうぞ
玲奈はさっき段差に衝突してしまったプロペラ機のプロペラをくるくる回して問題がないか調べた。回る時の感覚もそこまで酷いものではなかったから、まだ飛べるだろう。
そこにルーサーが近寄って来た。
「何とかなりそう?」
「えぇ。全然」
玲奈はルーサーをまじまじと見詰めていると、何か不思議な感覚に捕らわれた気がした。
「……ねえ、ルーサー、私…なんか初めて顔を合わせたような感じがしないんだけど、気のせいかしら?」
「ははっ、よく言われるよ」
玲奈からしたら、ルーサーはまるで昔からの友達と普通に話しているのと大差なかった。
「スポーツ見てた?」
「全く」
「…それじゃあ……スターのパワー?」
ルーサーは一つのビルを屋上を指差した。そこにはルーサーの顔写真がデカデカと載っている看板が半ば焼けて立っていた。それを笑いながら、クリフトが説明した。
「そう!ルーサーは元プロバスケの選手並びにハリウッドの俳優だったんだよ!」
玲奈はそれで納得した。さっき飛行機の後翼を掴むのにかなり飛んでいるだろうと思っていたが、元バスケ選手なら高く跳躍するのに苦労はないだろう。
「そういや、自己紹介が途中だったな。俺はクリフトだ。着陸見事だったよ」
「ありがとう。それよりも……アルカディアって何なの?私たちは長い間旅を続けていたけど、そんなの聞いたこともないの」
「ここ最近、ラジオで呼びかけがあったんだ。食糧、シェルター、安全な場所を保証するって……」
玲奈たち生存者にとってはそれは夢のような話であった。アラスカでも同じような話を聞いたが、もしかしたらと思った。あそこに生存者が全くと言ってもいなかったのは、その『アルカディア』という場所に避難したからなのではと玲奈は予想した。
すると、クリフトは玲奈に双眼鏡を差し出した。
「あの方向を見てくれ」
「……何が見えるの?」
「それは自分の目で見た方が早い」
玲奈は双眼鏡の倍率を上げて、遥か先の海岸を見る。海には濃い霧が立ち込めていたが、そこには明らかに人工物が浮遊していた。見た感じ形状は船。それも、映画『タイタニック』……とまではいかないだろうが、かなり大きい豪華客船のように見えた。
そして、霧の合間からその船に刻まれた船名が露わになり、双眼鏡を渡された理由が分かった。
「アルカディア……。あれが…」
「見えたか?」
「ええ。なるほどね…。生存者を乗せてあちこちを回っているのね…」
確かに大きさだけでも、食糧、シェルターに関しては十分すぎる程だ。
「これも聞いてくれ。放送を録音しておいたんだ」
クリフトがラジオのツマミを弄ると、ガーというノイズ音の次に放送が流れた。
『こちらアルカディア。地上通信において放送中。食糧、シェルター、安全な環境を保証します』
それが2、3度流れた後に放送の途中で何かの呻き声が聞こえたかと思えば、通信は途絶してしまう。
「何?」
「分からない…。これが最後の放送だった…」
「…1時間置きに照明弾を撃ったんだ。だから、君らが来た時に助けに来たと皆思い込んだんだ」
これで彼らがここまで喜んでいたのか納得した。
玲奈は再び双眼鏡からアルカディアを見る。
何にせよ、玲奈はここからどうやってでも脱出してあの船に辿り着く必要があると思うのだった。
飛行機の点検、アルカディアの説明を受けた玲奈は竜馬と薺を連れて、この建物の案内をルーサーにしてもらうことにした。松明を片手にルーサーはこの建物…彼から聞くに刑務所…の一番広いを最初に案内する。
「ようこそ、新居へ。官房塔Bだ」
そこは確かに広かった。縦穴で一番上が見えない程だ。まあ、見えない理由は、電気が止まってしまっているせいで電気が灯ってないからだろう。代わりはやはり松明だったが、真っ暗よりかはマシだろう。
ここはどうやら昔は受刑者の溜まり場…か、娯楽の場で使われていたように見えた。
「あそこにいるのはマッキー。料理のレパートリーは然程多くないが、味は絶品だ」
「お世辞はいいわよ」
さっき玲奈に歩み寄ってきた女性がマッキーだった。今はフライパンの上でチャーハンを炊いている。夕食はこれだけだろうが、やはり少ないなと思ってしまう。でも、玲奈にとってはあの放浪中の缶詰生活よりかはまだ良い方だと思った。
「さっきはガッカリさせて、ごめんなさい」
「失敗には慣れてるわ。ここでも散々な目にあったしね」
「…失敗?ここで?もしかして…あなた女優さん?」
薺がそう言うと、マッキーは苦笑いする。
「ハリウッドで大活躍しようとした矢先にこれなんだもの。ガッカリばかりしていられないわ」
「おい、早くしてくれ。腹ペコなんだ」
すると、またまたさっきのちょび髭の男が割り込んで来た。その後ろには気の弱そうな男もいて、まるで野良犬みたいに引っ付いていた。
「ああいうのよくいたわ…」
「誰なの、あの二人」
玲奈はトレイを取りながら、ルーサーに聞く。
「彼はベルモント、その後ろにいるのはイだ。前はどっかの映画のプロピューサーだったそうだ。そして…最悪のお馬鹿さん!」
最後の一文は2人にわざと聞こえるように大きな声で放った。
ベルモントとイは声に反応して一瞥したが、すぐに背を向けて細々と食事を摂り始めた。
「イは奴の部下だったようで…未だにそのことを引き摺っているらしい」
5人もスプーンを取り、チャーハンを口に運ぶ。
「そこそこね」
「お厳しい意見をありがと…。それより…あの飛行機、まだ飛べる?」
「飛べるけど、またここに着陸するのは無理ね。さっきも危なかったしね」
「じゃあ……やっぱり“あれ”に聞くしか脱出出来……!」
“あれ”と言った途端、ルーサーはシッと言ってマッキーを口止めした。その様子を見ていた3人は何かがあるなと思った。
「何?“あれ”って…」
「……時間の無駄でしかない」
「時間ならたっぷりあるじゃねえか?」
竜馬がそう言う。玲奈もルーサーの目をじっと見詰めて言う。
「竜馬の言う通り。時間なら山ほどあるわ」
ルーサーは溜め息を吐くのだった。
玲奈とルーサーは刑務所の地下へと向かいながら、ここに着いた時の状況を話してくれた。
「ここは俺たち生存者からしたら最高の場所だ。隔離された建物、高い外壁、それに武器も少しだけ残っていた。この地下にはもう誰もいなかった。恐らく……牢獄に入れているだけ無駄だろうと思ったんだろう。……こいつを除いてな…」
玲奈たちが着いたのは妙に広い空間だった。あるのは中心にポツンと置かれた小さな部屋だけだった。部屋の中には一人の男が閉じ込められていて、その部屋の横では見張りをしている男にルーサーは話しかける。
「ゲイル、変わったことはなかったか?」
「あったも何も……大ありだ。奥の方で何かが蠢いている感じがして仕方がないんだ」
「よし、そうか。俺も見に行く。どこだか教えろ」
ルーサーとゲイルは二人で暗い奥の方へと行ってしまった。
一方玲奈は一人になり、ポツンと置かれた特別牢獄の中を見た。すると、中にいる男はこっちに近付いてきて、腕を伸ばした。
「よろしく。シェーンだ。君は……飛行機に乗っていた一人だろ?」
「こんな所でも飛行機のプロペラ音が聞こえるのかしら?」
「いいや。風の噂だ」
玲奈は伸ばされた手を握った。
牢獄に閉じ込められてる割には、かなり友好的だ。
「どうしてここに閉じ込められてるか気になるだろ?」
「一応ね」
「それでいい。…ここから出してくれ」
「どうして?」
「脱出方法を知っているからだ」
玲奈は納得する。
さっきマッキーが言っていた“あれ”とはこの事だったということに。
「俺はここの看守だった。だが、突然受刑者を全て釈放せよとの命令が出たから解放したら……奴らは俺をここにぶち込んだ。それを見た彼らは俺を極悪の犯罪人だと思い込んでいるから出してくれないんだ」
「ふぅん…。でも、それを信じる確証はない。悪いけど…」
暫く話していると、奥から2人が戻ってくる。
「どうだ?なんかあったか?」
「いいえ。全く」
「よし、行こう」
再び地上へと戻ろうとすると、シェーンは叫んだ。
「絶対俺が必要になる時がやって来る!覚えておけ‼」
玲奈は叫び続けるシェーンに背を向け続けるのだった。