玲奈とシェーンはどうにかダクトから抜け出して、数分ぶりに広い場所に出た。そこは、屋上から然程遠くないところだった。だがその前に玲奈たちの耳に聞き慣れた音が聞こえ始めた。何かが回転し、エンジンが鳴る音だ。
玲奈はそれが何なのか気付き、急いで走り出した。
「嘘でしょ…。まさか……⁈」
そのまさかであった。
ベルモントは玲奈のプロペラ機に勝手に乗り、エンジンをかけて脱出を計ろうとしていたのだ。もちろん、そんなすぐに離陸できるわけではないため、ベルモントは「早く早く」と焦りながら待っていた。
「何しているんですか⁈」
ベルモントはさも当然であるかのように話す。
「ここから逃げるんだよ!」
「でもみんなは……」
「そんなもの知るかよ!いいから早くお前も乗れ!ここにいても死ぬだけだぞ!」
ベルモントに昔から随分な指図を受けてきたイではあったが、今はどう足掻いても生きたいという気持ちが勝ってしまい、彼もベルモントの後ろの座席に乗り込んだ。
そこにアンデッドたちから逃げてきた薺たちが屋上に到着する。
だが、その扉はベルモントによって鎖で繋がれて、簡単には開けられないようになっていた。
「何してるの⁈開けて!早く開けないと奴らが…!」
「どいてろ‼」
ルーサーは蹴って鎖を断ち切ろうとする。そこに別の出入り口から屋上に上がって来た玲奈にベルモントは拳銃を向けた。そして、容赦なくベルモントは引き金を引き、玲奈たちを牽制した後にプロペラ機を発進させた。薺たちも扉を破って、どんどん進んでいく飛行機を追う。
「ベルモント‼」
玲奈たちも後を追う。プロペラ機は屋上から離陸するが、ベルモントに飛行機を操縦する技術など持っていない。そのため、忽ち飛行機は地面へと向かって真っ逆さまに落下していく。
「なっ、何だ⁈くそっ‼」
落ちていく飛行機を見て、ルーサーは嘲笑った。
「へっ!自業自得だ!ざまあみな!」
だが、飛行機は地面に上手く着地して、アンデッドたちを薙ぎ払いながらも再び上空へと浮上した。どうにか態勢を保てたベルモントとイは喜々恐々とした。
「やった‼やったぞぉ‼」
どうしてあんなに上手く飛んで行ったのか分からない一行は茫然と飛行機を眺めた。
「あのくそ野郎……」
「あの二人、アルカディアに向かったようね…」
「それで……俺たちはどうすればいいんだ?玲奈」
竜馬がそう聞いてきたと同時に玲奈は後ろを向き、拳銃を向けた。
「それは……奴らを相手にしてから考えましょう」
「嘘……だろ……」
ルーサーは思わず言葉を漏らした。
そう……あの巨人に門を破られてからアンデッドは津波のように刑務所に雪崩れ込んできていて、既にこの屋上にまで迫っていたのだ。5人はそれぞれの武器を構える。
「玲奈!これを使え!」
シェーンが叫ぶと、バッグの中からマシンガンを投げた。玲奈はマグナムをしまうと、マシンガンを受け取り、近付いてくるアンデッドたちに発砲した。玲奈に倣って他の4人も銃撃戦を開始する。5人は奴らに大量の鉛弾をプレゼントさせ、近付けないようにする。
更に玲奈から見て、右側の扉が開き、そこからもアンデッドが溢れてくる。逸早く気付いた玲奈がそこに銃口を向けて撃つが、このままここであの数のアンデッドと戦っても、勝てないことくらい容易に想像が付いている。
そこで玲奈は先頭を切って叫ぶ。
「こっちよ!」
玲奈が先頭にエレベーターの方角に走っていく。玲奈はバッグの中から箱状のものを出し、それを別のバッグに詰め込んだ。
「このエレベーターでシャワールームに!」
「馬鹿言うな!電気が止まっているんだぞ⁈」
「“これ”を使うのよ!」
玲奈が握っていたのは、C4爆薬だった。竜馬はすぐに理解して、ルーサーに呼び掛けた。
「扉を閉めろ!早くしろ‼」
「……ああくそ!」
竜馬とルーサーは上下開閉式の扉を閉めると、玲奈はC4爆薬をエレベーターの上に投げ入れた。
「あっちで会いましょう!」
「分かった!」
玲奈はマシンガンを撃って、アンデッドを自分に引き寄せるようにした。そしてまもなく爆弾はエレベーターの上で爆発し、エレベーターを支えていた滑車と太いワイヤーを破壊した。中にいた4人の身体に重力がかかり、苦しくなる。
「……っ!掴まれぇ‼」
エレベーターは地下水の上に着水して、衝撃を和らげた。全員急いでエレベーターから降りて、シャワールームに急ぐのだった。
玲奈は爆風で転んでしまうが、すぐに立ち上がりベルトのバックルにワイヤーを結び付けた。だがその間にも玲奈の視界一杯のアンデッドがこちらに向かって来ていた。前方は完全にアンデッドで埋め尽くされていたため、玲奈はマシンガンを捨て、一気に走る。途中で先程のC4爆薬をたくさん詰めたバッグを落とし、構うことなく玲奈は屋上から飛び降りた。アンデッドたちも玲奈の臭いにつられて、屋上から落下していく。
玲奈に結び付けられたワイヤーは一気に伸びていき、ピンと張った瞬間、C4爆薬は破裂した。屋上の半分かそれ以上に爆炎が上がり、アンデッドたちは吹き飛んでいく。
玲奈は体重を前方に預けて、振り子のようにして落ちてくるアンデッドを避けていく。だが、長い時間ワイヤーに命を預けていることも出来ない。コンクリートにワイヤーは擦られてしまい、いずれ擦り切れてしまうからだ。漸く地面に近付いてきたところで、玲奈はバックルからワイヤーを取り外し、地面に降り立った。
もちろんここにもアンデッドは彷徨っている。玲奈はすぐにマグナムを二丁出し、確実にアンデッドの頭を撃ち抜く。だが、マグナムであるため、弾には限りがあるし、アンデッドが徐々に銃声と玲奈に気付いて、自然と退路を塞ぐように寄ってくる。どうしようかと狼狽えていると、向こうの方から銃声が聞こえた。
「玲奈!こっちよ‼」
呼んでいるのは薺だった。薺は玲奈がここに来れるように、アンデッドたちを殺していく。玲奈はその方向に走り場柄、立ち塞がるアンデッドに撃っていく。だが、ここでマグナムからカチッと弾切れの音が響くと、玲奈はマグナムを後ろに投げ捨て、背中に収めていた二丁の散弾銃を掴んだ。前方に銃口を向け、引き金を引く。だが、銃から飛び出してきたのは散弾ではなく、コインだった。コインは凄まじい速度で飛び出すと、アンデッドの頭や身体を意図も簡単に突き抜けていった。
「きゃあ……!」
薺のところにもコインは飛んで来て、腕も吹き飛ばす程の威力であることを理解する。その威力のお陰で前方にいたアンデッドはほぼ全滅した。薺はシャッターに手をかけ、玲奈が入ってくる直前に降ろした。玲奈は滑り込んで中に入り、アンデッドに食われずに済んだ。
「大丈夫!?」
「えぇ…。そっちは?」
「玲奈のせいで腕を怪我したわ!」
「あらそう……。それよりも早く行きましょう。このシャッターも長くは持ちそうにない」
シャッターはガシャン、ガシャンと叩かれ、すぐに突破されそうだった。
「…あぁ!あとでこの借りは返してもらうからね!」
「肝に銘じておきますよ…」
玲奈と薺はみんながいるシャワールームに急ぐのだった。
あと二話程で復讐の章を終える予定です。