今回はかなり久しぶりの人物と新キャラが登場します。
巨人の撃退に成功した二人は先に入っていったルーサーと薺を追って、穴の中に潜り込んでいた。この穴……入ってみて分かったのだが、アンデッドの腕や口だけでよく掘り出せたものだなと思った。理由としては全てコンクリートだからだ。いくら先に進んでも柔らかい土に到達することは無かった。余程コンクリートが風化して脆くなっていたのか……もしくは、誰かがここに手引きしたのか……。
玲奈はそんな考えを頭の端へと追いやり、ひたすらに先に進む。正直、どっちでもよかった。今はライト一つでしか照らせていない狭い穴の中から脱出したくて堪らなかった。
すると、玲奈の横から唐突に人間の顔が現れ、玲奈は大きな声を上げてしまう。
「きゃっ……!」
「しっ‼静かに!」
「ルーサー…」
玲奈はまともな人間で良かったと息を吐く。
「驚かせて悪かった。早く行け。近くに奴らがいる。周りから気配しかしない」
「分かった」
玲奈が進んでいくと、竜馬と今度は顔が合う。そこでルーサーはシェーンがいないことに気付く。
「シェーンは?」
竜馬は無言で首を横に振った。ルーサーは溜め息を吐き、早く行けと指図する。
玲奈はここで漸く光が見えてきた。玲奈の予想通り、排水溝に繋がっていたようだ。玲奈がそこから飛び降りると、薺が待っていた。
「お待たせ」
それから竜馬も降り、残りはルーサーだけとなる。出口付近にまで来たルーサーが降りようと態勢を作った時、不意に側面に何かの気配を感じた。ライトをそちらに向けると、四又のアンデッドが口を開いて向かってきたのだ。
「ルーサー!」
「うわっ‼」
玲奈は叫ぶが、ルーサーは抵抗したのか、噛みつかれて焦ってなのか分からないが、身体を暴れさせた。穴からは悲鳴が聞こえ、もともと脆かったコンクリートは更に崩れ、あの穴は瓦礫で完全に塞がってしまう。それでも玲奈はもう一度叫ぶ。
「ルーサー‼」
しかし、塞がれた穴からは物音一つも聞こえてこなかった。
薺は玲奈に言う。
「今はどうすることも出来ない…。先に進もう、玲奈」
玲奈は薺を一瞬睨むが、歯軋りして、足を前に動かした。竜馬と薺も塞がれた穴を一瞥してから、玲奈の後を追っていった。
ゴムボートを膨らませ、乗り込んだ三人は濃霧が立ち込める中でアルカディアに向かう。暫くして、彼らは漸くその大きな船体とお会い出来た。しかし、玲奈は最初、これは輸送船か何かかと思ったが、よくよく見れば豪華客船のように見える。
右側には『アルカディア』と名前が刻まれているが、左側には別の名前が表記されていた。その名は……。
「クイーン・ゼノビア?」
「同じ船に別の名前……。異様ね」
「異様だろ…。見ろ、この錆といい雰囲気。まさしくゴーストシップだ」
竜馬の言う通りだった。恐らく真っ白だったろう船体は錆、または黒ずみでいかに時間が経っているかを分からせてくれた。
「あそこから行けそうね」
入れる場所は唯一一つだけだった。乗客を避難させるために救命ボートを出すところが丁度…玲奈たちを待っていたかのように扉が開いていた。そこにゴムボートを付け、玲奈たちは乗船した。だが、中に入ってすぐに違和感だらけだった。
絶対安全と言っていた割には、さっきみたいに扉は開けっ放し。それに、生き残りがあまりいない。玲奈たちは不気味な船の中を進んでいくと、一つの重い鉄の扉を開ける。何かの部屋だろうと軽い気持ちで行った途端、鼻孔に吐いてしまいそうになる程の腐臭が飛び込んで来た。
「!」
「な、何…?」
ライトで辺りを照らすと、そこには無惨に放置し、腐りきったいくつもの死体が置いてあった。三人はこれを見て息を飲んだ。
「……まさか……ここも、もう……」
「でも、いつものアンデッドではないわ。だって感染せずに死んだままだもの」
「じゃあ…何がこいつらを殺したんだ?」
「私が聞きたいわ…」
玲奈はそう呟く。
玲奈たちはここまで来たのに、また選択に迫られていた。このままこの得体の知れない“何か”がいる船内をうろつくか……あのアンデッドたちがいるそこまで戻るか…。
もちろん玲奈たちは前者を選択する他ない。
「操舵室に行きましょう。仮にあの放送がここから流されたなら、何か痕跡が残っているはずよ」
「…確かに…そうだな…。ここで止まっているよりはいいな…。ただ、こいつらを殺した奴らには出会いたくないがな…」
竜馬の言っていることは正しい。敵の正体も分からないまま、勝手に進んでいくのは危険でしかない。それでも玲奈は、新たな扉を開け、暗闇の中に入っていくのだった。
ー中国 北京ー
まるで巨大金庫のような部屋である男は退屈していた。
着ている服はズボンだけ。ふかふかなベッドで寝ているのも悪くないと思っているが、決まった時間に身体中を調べられるのはもうウンザリしていた。しかも、ズボンもベッドも部屋の外装も純白。相手がいかにセンスがないかと、男は溜め息を吐く。
そう思っていると、唐突に部屋の扉がゆっくりと開く。中に入って来た仮面を被った男たち。その仮面の下は人間でなく、単なる怪物であることを男は理解している。それでも言葉が通じるのは良いことだと思った。
男は手錠をかけられ、定期健診のために部屋を出る。だが、後ろでは仮面を被った怪物が背中に冷たい銃口を当てている。男はいつも通りに歩いていたが、途中でその足を止めた。
「さっさと歩け」
怪物はそう言う。だが、男は……。
「もういいか……。お前たちが何をしているかも分かったし……な‼」
男は怪物の持っていたマシンガンを掴むと、前方にいる怪物二人に弾を浴びせて怯ませる。そこから足を引っ掛けて転ばせると、首に足を絡めて骨を折った。怪物は少しだけ苦悶の声を上げ、身体を震わせると、動かなくなった。
男は手錠の鍵を取って、外す。前に視線を戻すと、残りの二人は完全に警戒して銃口を男に向けていた。男は手を前に出し、指をくいくいと動かして奴らを挑発した。
「さぁ………どっちから来る?」
紗枝は退屈すぎる時間を過ごしていた。この部屋には血圧や脈拍を計測する装置に、無機質なベッドが置かれているだけ。窓ガラスもあるのだが、ここからは外を見られない。そのせいで…いつも落ち着いていられない。だがもっと気に入らないのは胸元が開きすぎた服だった。約半年、この服のまま過ごしている。洗濯はしているのだが、ずっと同じ服はどこか落ち着けられなかった。
しかし、今日は違った。突然電気が消えたのだ。それと同時に電力が落ちたのか、電子ロックされていた扉が勝手に開いた。紗枝はそこから出ようとすると、スタンロッドを持ったジュアヴォが奥から入って来た。
「!」
奴を見るなり、紗枝はすぐにベッドの裏に隠れた。
ジュアヴォも部屋の中に慌てたように入り、部屋の中を眺める。部屋の中をウロウロして、紗枝を探すが中々見つけられず、頭を掻いてしまうジュアヴォ。
そこに紗枝の蹴りが飛び出した。ジュアヴォの後頭部に強打し、よろめくがスタンロッドを振って攻撃してくる。紗枝はそれを華麗に避けて、ベッドに伏せさせると、奴のスタンロッドを奪うとそのまま首に突き刺して絶命させた。紗枝はそれから部屋を急いで飛び出して、“彼”が生きていることが分かった。
「生きてるのね…。ジョッシュ…!」
次章からは、原作である二つのエピソードを混ぜて、話を展開させていきます。
次回はとある人物の衝撃事実が判明します。