葉子、純輝、竜也は彼らが戻ってくるのをただ退屈に待っていた。
そんな時、電気が一瞬消え、自家発電に切り替わった。これがどういうことか、葉子と純輝にはすぐに分かった。
「どうやらクイーンは始末したらしいな」
「ええ、後は脱出するだけね」
その時、ガタタンと奥から物音が響いた。
葉子はライフルのセーフティを解除してその方向に走っていく。
「見てくる」
警戒しながら進んでいくと、カラカラと音を立てて転がるガスボンベが葉子の方に向かってきた。その奥には白衣を着た社員がふらふらとよろめきながらも立っていた。社員は全員死亡の報告を受けたが、生き残りがいたのだ。
葉子はふぅと息を吐くと、警戒を解き、無線で純輝に連絡する。
「純輝、生存者発見。保護するからそっちに……」
葉子が生存者の身体を支えようとした時、不意に左手に鋭い痛みが走った。
「っ⁈」
その痛みは生存者が噛みついたことによって起こされたものだった。そこで葉子は漸く悲鳴を上げた。
「うぐっ‼なっ、何すんだよ⁈」
「葉子!」
悲鳴を聞きつけた純輝は左手に噛みつく生存者を葉子から引き剥がした。その反動で葉子は尻もちを着く。
「大丈夫か?」
「何なんだよ、あの野郎…。突然噛みついて来やがったよ…」
葉子は血が流れる左手を抑えた。
純輝は直ぐ様そいつに拳銃を受けた。
「動くな!動けば撃つぞ!」
しかし、そいつには全く聞こえていないようだった。不気味な唸り声を上げながら葉子と純輝に近付いてくる。純輝は警告を無視した社員の左足を拳銃で撃ち抜いた。
だが、足に走ったであろう痛みに全く顔は歪まず、悠然と立っていた。
「なっ…こいつ…」
純輝は呆気に取られたが、もう片方の足にも弾をぶち込んだ。これで這いつくばるだろう…そう思った。
しかし、それでも倒れることはなかった。
だが次はもう容赦しなかった。ライフルを構えた葉子は社員の胸部に何発も弾を撃ち込んで遠くに吹き飛ばした。
今度こそ確実に死んだなと分かり、二人は銃を降ろした。
「今の銃声は⁈」
とそこに玲奈、毅、憲之は銃声を聞きつけて戻ってきた。
駆け寄ってきた玲奈に葉子は苛立ちを抑えながら答えた。
「生存者が襲いかかってきたんだよ……。…っ、くそ…」
葉子は噛まれた左手にハンカチを巻き付け、傷が悪化しないようにした。早めの治療が必要だろうが、今はいた仕方ない。
「!」
竜也は地面に手錠の鍵が落ちていることに気付いた。鍵を拾おうと膝を着けると、同時に不自然なものを見つけた。
それは…既に固まった血だった。竜也が地面を凝視しているのに気付いた玲奈も固まった血を見た。
「…妙ね」
「あぁ…。こいつはおかしい…」
「何が?」
憲之は不思議そうに言う。
「この血はもう固まっている。人間の血ってのはな、大体15分くらいで固まるんだ。でもこれはもう固まっているから、葉子のものではない。ということは、さっきあんたを襲った奴だと考えるのが妥当なんだが…」
竜也は自分でそう言いながらも納得出来ていなかった。
この事実はつまり…。
「要するに…そいつは死んでいた…ってことか?」
憲之の結論に葉子は直ぐ様反論した。
「そんなの有り得ない!さっきの奴は確かに生きていた!」
「おい!死体がないぞ!」
純輝が叫んで、葉子もすぐに確認に行く。葉子はそんな馬鹿なと思いながら、吹き飛ばした場所を見るが、純輝の言う通り、そこに転がっているはずの死体はなかった。
あったのは、固まった血溜まりだけだった。
「…嫌な予感がする!さっさと逃げよう!」
毅が怯えて言うが、葉子は…。
「隊長たちが戻るまで行かないよ」
葉子の言葉に玲奈と憲之は顔を見合わせた。
さっきの惨劇を話すにしても、あまりに辛い内容で話せそうもない。
「……誰も、戻ってこない…」
憲之が代表して言った。
「それってどういうことだよ⁈」
葉子は憲之の胸ぐらに掴みかかった。
更に怒鳴ろうとした葉子を純輝が止めた。
「しっ!静かに…!何か…聞こえないか?」
純輝がそう言うと、明らかに何かが聞こえた。
金属を引き摺るような音に……呻き声…。
すると、機械の後ろや角からたくさん人が現れた。しかし、その者たちは身体が一部欠損していたり、通常の人間では成し得ない動きをしていた。
「何だこいつら⁈」
毅が声を上げる。並々ならぬ事態に全員が息を飲む。
すると、横からさっき葉子に襲いかかった奴が再び葉子に噛みつこうとしてきたのだ。葉子はそいつの頭を掴んで、首の骨を折った。
襲ってくる者たちを見た葉子、純輝、憲之は目を鋭くした。三人はそれぞれが持っている銃で近付いてくる奴らに幾百もの弾を浴びせる。つい数十分前まで静かだったこの場所に、けたたましい銃声と奴らの呻き声が響く。だが、奴らの身体に何発、何十発もの弾をぶち込んでも奴らは死ぬことは疎か、倒れることもなかった。
「何でこいつら死なないんだ⁈」
「いいから黙って撃て!近付けるな!」
純輝も焦りながら叫んだ。無鉄砲に撃っているため、弾はあらゆる場所に食い込む。
機械に当たると、白いガスが漏れてきて、玲奈は叫んだ。
「ガスよ!爆発す………」
その瞬間、轟音と共に爆発が起きた。近くにいた玲奈は爆風に吹き飛び、彼らとは離れた場所に飛んで行った。
きぃぃぃん…と耳鳴りが玲奈の頭の中に響いて、意識が遠くなる。
気絶したら楽になるだろうが、今は出来ない。奴らに襲われて、死ぬのがオチなのか容易に分かった。そんな意識下でも、誰かに引き摺られているのが分かった。
「おい、しっかりしろ!」
「あ……あぁ……」
耳鳴りでも声の主は分かった。竜也だ。いつの間にか、手錠を外していたのだ。
「奴ら、銃声につられている!こっちだ!」
玲奈は竜也が自らの肩を貸してくれていることに気付く前に、意識を手放した。
「くそっ!このままじゃ弾がなくなるぞ!」
四人…毅、葉子、純輝、憲之は退路を絶たれつつあった。
三人の銃の残弾も限界に近い。すると、純輝は憲之に叫んだ。
「おい憲之!そこのドアを開けろ!そこから逃げる!」
「分かった!」
憲之がこの施設のパスワードを全て熟知していると踏んだから、純輝はそう言ったが、中々ドアを開けたとの報告が来ない。
「いつまで時間かかってんだ⁈9桁の数字を打つだけだろ⁈」
「まっ、待ってくれ!」
普段の憲之ならこんなことにはならなかっただろう。
だが、今は違う。人が人を襲うという異常な事態に憲之の冷静さは完全に失われていた。ブルブルと指先は震えてしまい、何度もパスワードを打ち間違えてしまう。
「…ああ、くそ!俺が打つから、お前はパスワードを言え!」
純輝は憲之を戦線に戻して、自分でパスワードを打つことにした。
「早くしな!弾が無くなるよ!」
葉子も焦りから叫んでしまう。憲之は拳銃で奴らを撃ちながら、着々と言葉を繋いでいく。
「256…885…149!」
言われた通りに純輝がパスワードを打つと、ロックされていたドアが開いた。ドアが開き、純輝は安堵の笑いを見せた。
だが…開けない方が良かった…。開けた途端、扉からは数え切れない量の奴らが
「嘘だろっ⁈」
すぐに逃げようとしたが、奴らに囲まれ、掴まれて身体中を食われていく。
「やっ、やめろ!」
「純輝!」
葉子は奴らが溜まっている中に突っ込んで純輝を助けようとしたが、既に奥まで押し込まれてしまった純輝を助けるなど出来るはずがなかった。それどころか、今度は葉子の右腕を奴らに噛まれたのだ。
「いやあぁ‼」
鋭い痛みが全身に駆け巡っていく。そんな中にいた葉子を憲之と毅の二人で引き剥がして、奴らの溜まり場から離れる。
「葉子、もう純輝は無理だ!行くぞ!」
「放せ!純輝!純輝ぃ‼」
葉子が叫んでいる間、純輝も叫んでいた。余りに辛く、地獄の恐怖、痛みに純輝は絶叫せずにはいられなかった。
「ぐあああぁぁぁ‼助けてくれえぇ‼」
純輝の絶叫は死ぬまで響き、身体からは肉が散り、血飛沫が噴き上がるのだった。
次回、竜也の目的が分かります。