バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第52話 ジョンの息子

捕縛者のタックルをジョッシュは股の隙間をスライディングして避け、背中を陣取ると、拳銃を発砲した。だが、血が少し出るだけで大して効いている感じはしなかった。生半可な武器で相手にしても無駄だと思ったジョッシュは壁にかけてあったライフルを掴むと、紗枝に投げ渡した。

 

「そいつを使え!言いたいことは分かるよな?」

「当たり前よ‼」

 

紗枝はそう叫んで階段を上がっていく。捕縛者もその姿を目で追っているが、やはり狙いはジョッシュらしく彼の傍から離れることはなかった。

そして、大きく雄叫びを上げると、再びタックルを繰り出してくる。異常とも言える速さではあるが、ジョッシュには見切れる程度の速さだった。

だが、避けた後、その機械の腕を空で振ったと思えば、それは一気に伸びてジョッシュの身体を掴んだのだ。

 

「なっ⁈」

 

驚きを隠せないジョッシュ。これはヤバイと思い、逃げ出そうとするが、鋼鉄の指で挟まれては逃げ出すなど不可能だ。

と、ここで1発の銃声が轟いた。弾丸は捕縛者の片目に直撃し、ジョッシュを離して痛みに苦しむ。

 

「ったく、なんて羨ましい腕だ。俺も欲しいもんだぜ…」

「暢気に言ってる場合じゃないでしょ‼…来るわよ‼」

 

紗枝が叫んだ通り、捕縛者は新たな行動に移していた。伸縮性のある機械の腕がガキガキと鳴り、別の武器へと変形した。

それは紛れもなく、グレネードランチャーを発射する砲台だった。

 

「おいおい!嘘だろ⁈」

 

ジョッシュは急いで走り出す。捕縛者は彼を追撃するように、グレネードを発射し、幾度も爆発を起こす。砂煙でジョッシュを見失うと、今度は3階にいる紗枝を標的にグレネードを向ける。

 

「!紗枝!逃げろ‼」

 

紗枝はジョッシュの叫び声が耳に入り、ライフルを捨てて走り出した。グレネードは紗枝の真後ろに着弾し、3階の足場を一部吹き飛ばした。ただ、ここで2人に捕縛者以外の問題が発生する。この脆い建物での激しい戦闘のせいで、天井を支えている柱がミシッと音を立て出したのだ。このままでは生き埋めになってしまうと思ったジョッシュは早く捕縛者を倒さなくてはならないと思い、奴に向かって叫んだ。

 

「おいポンコツ!こっちだ!」

 

ジョッシュの声に反応した捕縛者は、グレネード砲を自らの腕から取り外し、背中に担いでいたまた新たな武器を装着した。また掴む系のようだが、その指の一本一本は鋭く、殺傷能力はかなり上がったように見えた。クラウチングスタートのような取ると、そこから驚異的なスピードでジョッシュに迫ってきた。

本当に間一髪で避けたジョッシュだが、腹部を掠ってしまう。

 

「くそっ!こいつでも食らってろ‼」

 

ジョッシュは腰からマグナム…名をエレファントキラー…を取り出す。名前通り、象をも殺せる程の高性能かつ高威力のマグナム…。それを先程紗枝が撃ち込んだ目に再びぶちこんだ。

 

「グオオオォ‼」

 

捕縛者は今度は顔全体を抑えて、後ろに激しい後退していく。そのせいで奴は脆い柱に背中をぶつけ、その柱を折ってしまう。柱は捕縛者の真上に落ち、奴を瓦礫で埋めさせた。

だが、今の柱の崩壊で、遂に建物が完全に悲鳴を上げ始めた。小刻みに建物は揺れ、倒壊も時間の問題なのが分かった。

 

「あの野郎…最後まで面倒かけやがって……!」

 

ジョッシュは出口へと逃げようと思ったが、この事を紗枝が知っているかは不明だった。仮に知っていたとしても、あの崩れた足場を走るのは到底無理だ。

 

「……あぁ、くそ……」

 

ジョッシュは紗枝の下へと走り出した。自分だけ助かればいいというのが、彼の昔の考えだったが、今回はあの《約束》があるため、自分1人生き残ることは出来ない。だが…《約束》以外にも彼女を助けたいと思う気持ちがあったことに、彼はまだこの時気付いてはいなかった…。

 

 

 

 

建物が小刻みに揺れている…。建物が天井の重さに耐えれず、今にも崩れ落ちようとしているのが分かった紗枝。逃げたいの山々なのだが、逃げ道はない。階段にまで繋がる通路はグレネードで破壊されている。または窓から飛び降りるという手もなくはないが、ここは3階。生きていられる保証がないため、紗枝からしたら却下だった。

では、どうしようかと悩んでいた時、自らの足場も崩れた。

 

「きゃ……」

 

悲鳴を上げる間もなく、身体は重力に従って落下する。思わず目を瞑って身体中に来るであろう痛みと衝撃に耐えようとしたが、代わりに誰かに受け止められた感じが身体に伝わって来た。

誰かは言うまでもないが、ジョッシュだ。

 

「じょ、ジョッシュ⁈どこに触れて……!」

 

彼の手は紗枝のお尻に当たっていて、そこに文句を言おうとした。

 

「そんなこと言ってる場合か!それに暴れるな!走りにくいだろ‼」

 

ジョッシュは崩れ落ちる瓦礫を避けながら懸命に走る。

とにかくここから出るのが最優先だった。

出口に通ずる灯りが漸く彼の視界に写る。ラストパートをかけるジョッシュは足腰に更に力を込めて、出口に向かってジャンプした。その途端…天井を支えていた最後の柱が崩れ、建物は大きな音を立てて倒壊していった…。

 

 

 

 

ジョッシュは地面に倒れて、荒い息を吐いていた。紗枝を抱えて走ったため、短距離とはいえ、かなり辛かった。

 

「……はぁ、はぁ…。生きてる…か……」

「ええ……。ジョッシュの、お陰でね…。ありがとう…」

 

紗枝は彼の腕を掴んで立たせた。

 

「全く…。あの野郎のせいで無駄に体力を使った気がするぜ…」

「そうね…。とにかく、早くここから離れないと…。また奴らが来たら……」

 

そう話している矢先に前方からジュアヴォの軍団が2人にマシンガンを発砲する。ジョッシュと紗枝は一旦伏せると、拳銃の安全装置を外し、応戦する。

だが…音も無く…《奴》が後ろに佇んでいた。それにいち早く気付いた紗枝だったが、捕縛者の機械の腕が紗枝の頭部を直撃し、遠くに吹き飛ばした。

 

「あうっ……!」

「!」

 

ドサッと地面に倒れる紗枝を見たジョッシュは捕縛者に拳銃を向けようとしたが、ここまで詰め寄られてしまってはどうすることも出来なかった。奴の腕がジョッシュの頭にもクリーンヒットし、彼を地面に伏せさせた。

 

「ぐうっ…!」

 

頭から温かい血が流れてくるのが分かるジョッシュ。意識も一瞬遠くなるが、向こうで意識を失っている紗枝を見て、自分も気絶するわけにはいかなかった。上体を起こし、立ち上がろうとしたが、捕縛者の体重の半分近くがジョッシュの背中にかかる。

 

「うぐっ……」

 

すると、そこに紫の上着に赤いマフラーを付けた派手な女が1人、数体のジュアヴォを引き連れてこちらにやって来た。ジョッシュにはその女性に見覚えがあった。

 

「やぁ……。あの時…みんなに注射器を配っていた女じゃねえかよ…」

 

女は膝を曲げて、ジョッシュをじろじろと見ると、薄笑いを浮かべて言った。

 

「あなたがジョンの息子のジョッシュね?」

「ジョン?誰かな、そいつは…」

「グレール・ジョン……。アンブレラ社本社の元副社長…今は議会長…。この腐った世界を作り、自分を神だと思っている大バカ者で私の実の弟……。そして……あなたの()()()()よ…」

 

それを聞いたジョッシュは女の方を見上げた。あまりに突拍子もない話に彼の頭はついていけなかった。驚きのあまり口がパクパク金魚のように開き、数秒してから漸く言葉が漏れた。

 

「何だと…⁈」

「あなたはあのバカ者の血を受け継いでいるから、ジュアヴォにもならない。納得した?化け物にならなかった理由」

 

ジョッシュは紗枝の見込み通りにあの注射器にはウィルスが入っていたのかと分かった。だが、そんなことはすぐに頭から離れていった。それよりも…このアンデッドだらけの世界を作ったうちの1人が自らの父親だと知ってしまい、彼は戸惑いを隠せなくなる。

女は抵抗力が無くなったジョッシュを確認すると、指を鳴らして捕縛者に指示する。捕縛者は足を上げる。

身体中にかかっていた重しが無くなり、ジョッシュは奴を見上げる。そして間もなく…奴の(かかと)がジョッシュの頭を捉える。

 

「ぐあぁ…!」

 

目の前が真っ暗になりかける。だが、ジョッシュはどんなことがあっても気を失いたくなかった。

 

「や……く……そ……く……が、あるん…だ…。あいつ……かい、と……と、の、や………」

 

もう一撃、捕縛者の(かかと)がジョッシュの頭を捉えた途端、彼の意識は闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

紗枝は一瞬、気絶していたが、すぐに目を覚ましていた。そして…ジョッシュの後頭部に捕縛者の踵が直撃している様子を見て…あの時の情景がフラッシュバックした。自分の前で誰かが…傷付き…死んでいくのを…。海翔の時も…紗枝の前で死んでいった。

また……同じことが、続いているように見えて…目尻に雫が溜まっていく。

 

 

――もう…私の前から…大切な人を奪わないで…――

 

 

そう心の中で呟き…今度こそ、本当に意識を失うのだった。

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