ー現在ー
紗枝は先程殺したジュアヴォからスタンロッドを奪い、研究所内を歩いていた。裸足だし、この大きく胸元が開いた病院着のような服では防寒対策など皆無で、酷く寒かった。早く別の服に着替えて暖かいコートでも羽織りたい気分な紗枝。
そして、部屋から逃げ出して数分後…漸く警報音が研究所内に響いた。
『被験者2名が脱走!施設内から外に絶対出すな!状況に応じて発砲も許可する!繰り返す……』
今の放送を聞き、紗枝からしたら実に面倒なことだった。紗枝は今、武器としてスタンロッドを持っているのみ。銃を持った相手が来れば、圧倒的不利になる。出来れば、銃を手に入れるまで見つかりたくないと思った。
と思った矢先、前方にマシンガンを持ったジュアヴォがいた。
紗枝は気付かれないように後ろからゆっくりと近付き、頭を掴むと地面に思いっ切り叩きつけた。突然の襲撃、並びに重い一撃によって、ジュアヴォは絶命した。
その調子で通路を進んでいくが、ここで難所にぶち当たった。紗枝の目の前に立ち塞がる扉はパスコードを入力しないと開かないのだ。もちろん紗枝はそんなものを知っているわけがない。そこで紗枝は一計を案じた。部屋のロッカーの中に隠れ、奴らがどんなパスコードを入力するのかを盗み見するのだ。
この作戦が上手くいけばいいのだが…失敗したときのリスクは大きすぎる。
『状況に応じて
その言葉が未だに脳裏に焼きつく。紗枝は息をするのも抑えて、敵がくるのを待つ。
暫くして、ピピーと音がしてからマシンガンを持ったジュアヴォが入って来た。紗枝は額から冷汗が流れるのを感じていた。ジュアヴォはロッカーに隠れている紗枝には全く気付かず、例のパスコードを入力した。紗枝はそれを注意深く見て、暗記した。
「……よし」
敵が向こうに行くと、すぐに紗枝はパスコードを入力し、更に奥へと進む。
広い空間に出た紗枝だが、そこにはマシンガンを持ったジュアヴォが4体、見張っていた。この中を突っ込んで行くのはとんだ日にいる夏の虫だ。
「これじゃ……先に進めない…」
紗枝は奴らが大人しくここから去ってくれるのを祈る他なかった。
その頃ジョッシュも手持無沙汰の状態で色々な部屋を通っていく。その途中で、運よく監視室に辿り着き、その一つのモニターに動きたくても動けない紗枝の姿があった。半年ぶりに彼女を見たジョッシュは、髪が少し伸びたこと以外では全く変わっていないなと思った。
「……手伝ってやるか…」
ジョッシュは監視室から操作して、紗枝の部屋に設置してあったマシンガンを使わせてもらうことにした。コントローラーを掴み、ジュアヴォに照準を定め、撃つ。ジュアヴォたちは突然の発砲に驚きを隠せていなかった。
「ゲームみたいで楽しいな…」
1分と経たない内にジュアヴォは全滅しした。紗枝は辺りをうろちょろしながらあの部屋から出ていった。その先は更衣室だ。ジョッシュも後を追うように、エアダクトを通じて、その場所に向かっていくのだった。
紗枝は先程の援護射撃がジョッシュによるものだと瞬時に分かった。この敵だらけの研究所内で紗枝に味方する者など、彼しか思いつかなかった。そんなことを考えながら、更衣室に入ってすぐに、上のダクトから何者かが降りてきた。それは……。
「ジョッシュ!」
上半身裸で、この半年間、自分と同じように研究を受けていたであろうジョッシュが降りてきたのだ。しかも、半年間、彼とは顔を合わせることもなかったため…紗枝の表情が
その理由は、紗枝の病院着の胸元が大胆に開いていたからだった。
「あっ……」
急に恥ずかしくなった紗枝はロッカーを開いて、その後ろに身を隠した。ジョッシュもロッカーを開き、他人の服を貰おうと思った。紗枝は病院着を脱ぎながらも、ジョッシュに質問した。
「ここどこ?」
「中国だ」
「中国?どうして私たち……ここに…」
「さあな…。俺が聞きたい……」
話してる途中で、ジョッシュは病院着を脱いだ紗枝の背中の裸体に見惚れたが、すぐに正気に戻った。
「ただ……もう実験だけは勘弁だ」
「…どんな実験をされたの?」
「詳しくは分からねえよ…。でも、研究所の奴らが俺の血を使ってJJ-ウィルスを強化するとかは聞いたぜ」
紗枝はそれを聞き、新たな脅威が迫っているのだと分かった。ジョッシュの血から作られるウィルス…。どんな影響を与えるのか想像もつかない。
「それは…ヤバイわね…」
ジョッシュは靴を履き、ベンチに座る。そこで…ジョッシュは頭の中で引っ掛かっていることを紗枝に聞いてみた。
「……グレール・ジョン…って聞いたことあるか?」
「!」
紗枝は息を飲んだ。知らないはずがない。アンブレラ社の元副社長で、残酷極まりない最低野郎だってことを…。紗枝は何も答えなかったが、彼から見れば態度でよく分かった。
「…知っているようだな…。良いこと教えてやるぜ?俺はそのクズ野郎の息子さ」
「⁈」
紗枝は今度は無視出来ず、ジョッシュの方を振り向いてしまった。
「俺は……自らの身体を実験道具に使われるのが嫌で……俺の母親と……。要するに…俺は単なる実験動物、モルモットみたいなものさ…」
この真実は、ジョッシュにとっては非常に辛いことだった。ジョッシュは父親が誰なのか…つい半年前まで知らなかったのだ。それに…その父親は……。
「仇なんだよ…母親の……」
「え…?」
「幼い時のうろ覚えだけど……親父が…母さんを…」
ジョッシュはベンチを強く叩いた。
「それどころか…この世界を作り出した生みの親?…俺は…生きてる価値、ねえな…」
「……あなたとジョンは別よ、ジョッシュ…」
ここで今まで黙っていた紗枝は口を開いた。
ジョッシュは紗枝を見上げると、鋭い口調で怒鳴った。
「…テメエに何が分かる…。母親を目の前で殺された奴の気持なんか分からねえくせに‼」
「だからって…自分を責めることはないわ!」
「ちっ!本当にめんどくさい女だな…。やっぱり、あいつとあんな《約束》をするんじゃなかったぜ」
「約束……?」
ジョッシュはしまったと口を手で塞いだ。紗枝はジョッシュに詰め寄り、怒鳴って聞く。
「約束って何⁈」
「………海翔との、約束だよ」
「⁈海翔……」
「あいつから頼まれたんだよ…。あいつは……自分が噛まれたから、自ら死んでいこうと決めていたんだ。そこで紗枝を……守ってやって、くれって……」
その話を聞いて、紗枝の足はフラフラとよろめいた。そして…乾いた口から小さく微笑が漏れた。
「は……はは………。なに、それ…。何なのよ‼」
紗枝の声は部屋を震えさせるほどに響いた。
「酷いよ……こんなの……。こんなこと…知りたくなかった……」
「……すまない」
紗枝は涙を拭うと、ジョッシュの襟首を掴んで、はっきりとした声で言った。
「さっきの話の続きよ…。だから何?あなたは父親がそんな大悪党…クズのクズ野郎だからってもう自分はどうでもいいって思うの?それは単なる我が儘な子供の言うことよ!自分に自信を持てないなら……それはあなた自身の問題よ!」
乱暴に襟首から手を離した紗枝はジョッシュの肩にわざとぶつかって部屋を後にした。ジョッシュははぁと溜め息を吐き、紗枝の後を追った。ただ……自分が子供のように甘えているという認識は…芽生えていた。
最初、2つのストーリーを混ぜて書いていくと言ったんですが、もうひとつのストーリーは薄くなりそうです。
申し訳ありません