2人が倒れてからジョンは玲奈を暫しの間見ていたが、指をパチンと鳴らした。その瞬間、玲奈の目の前にいた犬があの大口を開けて玲奈に向かって噛みついて来た。その攻撃を左に避けたが、すぐに反転してまたやって来るだろう。だが、いくら口を大きくして噛みつける範囲を広くしても、頭はいつも通り悪かった。つい先ほど飛びかかって来たのは散弾銃の場所に陣取っていた犬だった。玲奈は避けた後、すぐに散弾銃のところに飛び込んで掴んだ。犬は今度こそと言わんばかりに大口を開けて玲奈を丸ごと食おうとしてくるが、玲奈が引き金を引く方が早かった。銃口から放たれたコインは犬の口から全身からあちこちに貫通して、完全なる死を与えた。そのままコインは高い天井に向かっていき、上げてあったガラス板に当たり、粉々にした。
その破片が降り注ぐ中、もう1匹の犬が玲奈に向かって来ていた。玲奈は落ちてくるガラスの破片を腕で遮りながら、その姿を確認した。今からもう1つの散弾銃を取りに行っても間に合いそうになさそうだった。だが…落ちてくるガラスの破片の1つだけ、一様に大きいことに気付いた玲奈。そして、もう1体の犬が玲奈の頭辺りくらいの高さに跳躍してきたところで玲奈はそのガラス片を蹴った。ガラス片は犬に向かって飛んでいき、縦に裂けた大口の中に突き刺さり死亡した。
だが、玲奈に迫っていたのは犬だけではなかった。後ろから何かの気配がした玲奈が振り向いた途端、ベルモントがメスで玲奈の腕に突き刺したのだ。
「あうっ⁈」
メスは玲奈の二の腕を貫通して刺さっていた。そのせいで左腕は勝手に痙攣してしまう。そこにジョンが歩み寄ってきて、口から寄生体のようなものを吐き出した。あの四又の口を持つアンデッドと似たようなものだったが…どこか違うようにも見えた。
玲奈は痛みに耐えながらも、腕に刺さったメスを引き抜き、迫ってくるジョンの頭にメスを刺してやった。だが…ジョンは首を曲げて何事もなかったようにしていた。
「うそ……」
そこから玲奈の腹を蹴り、回り込んで足を蹴ってバランスを崩して、地面に倒した。
「うぅ……」
玲奈はジョンを下から見上げた。その嫌らしい笑い見て、すぐに起き上がって速攻で殺してやりたい気分だったが、今の態勢からは反撃は不可能だった。
「そのくらいにしておけ…。お前じゃ俺を倒すことは出来ない」
玲奈はそれを聞き、フッと諦めたような笑みを漏らした。
「確かに……私だけじゃ無理かもね…」
「漸く諦めたか…」
ジョンは玲奈の焦げ茶の髪を掴んで無理矢理立たせた。玲奈はその腕を掴んで逆に折ってやろうとしたが、ジョンは残ったもう一方の腕で左の二の腕を掴んで、ギュッと力を込めた。
「あああぁ‼」
刺された痛みがまだ完璧に抜けていない玲奈は鋭い痛みが腕から広がっていき、低い小さな悲鳴を上げた。
「…うぅ……くぅ…」
「フッ、終わりだ…」
ジョンはさっき出した口よりも更に大きな口を開いた。その大きさは人間なんて簡単に飲み込めてしまえる程のものだった。だが…玲奈はそれを見て、薄笑いを浮かべて玲奈を食うことすか考えていなさそうなジョンに言う。
「さっき……私が言ったこと…覚えてる?」
「アァ?」
「私
竜馬は玲奈に呼ばれて、即座に立ち上がって玲奈の散弾銃のところに走っていく。ベルモントも2人の策略に気付き、急いでその散弾銃を奪おうとするが、動きは竜馬の方が足は速かったので、散弾銃を掴んだのは竜馬だった。更にその銃尻でベルモントのこめかみ辺りを殴ってやった。
「ぐあぁ‼」
「これは刑務所で死んだルーサーとシェーン、マッキーの仇だ!」
そう吐き捨ててから素早く玲奈に散弾銃を投げた。今、ジョンは大口を開けて玲奈の視界の9割を塞いでいた。その頭を一発殴って、彼女の頭からちょっとでけ遠ざけると、銃口をジョンの口の中に突っ込んだ。
そして……玲奈は容赦せずに引き金を引いた。
コインはジョンの口から貫通して後頭部に大きな陥没穴を作り、血と肉、砕けた骨を辺りに飛び散らせた。玲奈の顔にも派手に血がかかるが、玲奈は至って冷たい視線をジョンに向けて、四又の口をしまいながら倒れていくジョンを見続けた。
玲奈はこのキツイ戦いが終わり、アドレナリンが切れてしまったからか、へたりと地面に膝を着いた。そこに薺を支えた竜馬がやって来る。玲奈は2人に笑いを見せて、『やってやった』という嬉しさの表情を作った。
だが…その時小さな呻き声が聞こえた。玲奈がゆっくりと首をその声がしたところを動かすと、そこではジョンが上体を起こそうとしていたのだ。頭の中を完全に吹き飛ばされてもなお生きている生命力に玲奈は舌を巻いてしまう。
しかし、そこに竜馬が近付きジョンの身体を足で踏んで抑え、怒りの言葉を出した。
「そのくらいにしとけよ…。いい加減にな…」
「ええ…。そうね…」
竜馬と薺は拳銃を抜き、微かに生きているジョンに向けた。
そして、2人はジョンの身体中にありったけの銃弾をぶち込んでいく。ジョンは苦しそうに呻いたり、ぷるぷる震えたりしたが、2人はそれが無くなるまで…銃弾を撃ち続けたのだった。
3人はお互いに身体を支えながら、どうにかこの部屋から出ようとしたが、入り口の扉は何故か閉まっていた。更にこの船自体が何かにぶつかったかのように大きく揺れた。
「な、何だ?」
ここは恐らく船底であるし、周りは白い壁で窓もないため、外で何が起きているのか全く分からない。三人が右往左往してると、彼らの前に赤色の少女の形をしたホログラムが現れる。竜馬と薺は警戒したが、玲奈はそれを見て懐かしそうに話しかけた。
「久しぶりね。レッド・クイーン」
『姉があそこで世話になったらしいわね…。玲奈』
姉…ブラック・クイーンのことだ。
『それよりも…あなたたち、早くここから降りた方がいいわよ』
「えっ?」
『この船は爆発するわ。あと5分かそこらでね…』
それを聞いた3人は一気に焦り始める。今から船の外に逃げ出すにしても、とても間に合うとは思えない。玲奈たちは知らないが、この船は動いているため、仮に外に出れたとしても船の近くにいたら、沈没時の渦に巻き込まれてお陀仏だろう。更にここにいる生存者たちを置いていくことも出来ない。
「玲奈!先にケーシャたちを助けないと……」
『何か勘違いしてないかしら?』
「え…」
『この船に生存者なんかいないわ。ここはジョンが作ったJ-abyss-ウィルスのための実験場…。それにあの地面の下には生存者じゃなくて、そのウィルスで作られたアンデッドたちが保管されているだけよ』
クイーンの話は突拍子もなくて、薺は首を振って違うと言いたかった。だがクイーンはそれを3人に信じさせるためにクイーンはわざとあの床の下にあるケースの中身を映像で見せた。それを見た薺は絶句し、顔を背けた。
『……いいからそこから逃げなさい。そっちに非常用の梯子がある』
「……クイーン、どうしてあなたがそんなことを…」
『いずれ分かるわ』
クイーンは最後にそう言うと、ホログラムは消えていった。
3人はクイーンに言われた場所に本当に梯子があるのを確認し、薺を先頭に登っていく。するとそこに……。
「おい!待て!俺も一緒に…」
裏切者以下であるベルモントが3人を追いかけてくる。玲奈がそいつの頬に拳をぶつけてやろうとしたが、竜馬が前に出て、拳銃でベルモントの足を撃ち抜いた。
「ぎゃあああああああ⁈テメエ!何すんだ!?俺はプロデューサーだぞ‼」
「関係ねえよ…。その地位は世界が滅んでからは無意味なんだよ、カス…」
そう言い残し、玲奈を連れてさっさと梯子に登っていく。ベルモントも梯子に登ろうとするが、足が痛むと同時に時折揺れる船に傷付いた足が耐えきれず、全く登れなかった。その様子を見ていた玲奈は、いつもはどんな人間でも助ける気持ちが強い玲奈でも…この時だけ…奴は死んでもいいと思った。
ベルモントは梯子の近くで溢れ出す血を抑えながら罵声を散々な程に浴びせた。
「くそぉ‼くそ野郎ども‼覚えておけよ‼」
だが、そう叫んでいると…不意に後ろに気配を感じた。振り向くと、“彼”が大口を開けて、こちらに向かって来ていた。それを目にした途端、、彼は自分の運命を察したため、自らを憐れむような発言を口にした。
「ああ……。嘘だろ…。俺はただ生き延びたいだけなんだ…」
その数秒後、ベルモントの悲鳴が響くのだった。