バイオハザード リターンズ   作:GZL

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第62話 沈没

延々と続く長い梯子をひたすらに登っていく一行。先程あの部屋からだろうか…ベルモントの悲鳴が聞こえたが、あのアンデッドたちが迫って来て殺されたのか、または別の原因なのか…。まあ、どちらにしても玲奈たちには関係ない。今はとにかく脱出だ。

だが、玲奈は刺された腕で梯子を掴む度に痛みが鋭くなっていく気がしていた。そう思った途端にまた船が大きく揺れて、その揺れに玲奈の腕力が耐えきれず、梯子から手が離れてしまう。

 

「あっ…!」

「玲奈!」

 

竜馬はそれを間一髪で玲奈の腕を掴んで、落ちないようにした。

 

「出口が近いわ!2人とも、頑張って‼」

 

薺の言う通り、既に空は見えていた。夜なのだが…。だが夜なのに、異様なほどその周りは明るかった。その原因は至る所で爆発が起き、炎上していることと漏れたガソリンに引火して海上で火の海となっていることだった。そして、数時間ぶりに外に出て、新鮮な空気を吸う……はずだったが、周りは黒煙だらけで逆に噎せてしまうし、息苦しいのが現状だった。

 

「ここは?」

「船首だ。って……この客船、あの鉄骨だらけの建物にぶつかっていたのか!」

 

竜馬の言っているように、船は海上に建てられていた建造物の鉄骨に衝突していたのだ。

その様子を景観している3人であったが、船は爆破を繰り返し、船内に海水が侵入してきて船尾の方に傾きつつあった。船首は持ち上がったような形になっていて、緩やかな坂に立っているような感じだった。

 

「で…ここまで来たが…こっからどうすればいいんだ?」

「あれよ」

 

玲奈が指差す先にはジョンが以前使っていたオスプレイが置かれていた。

 

「クイーンの言う通りだったわね」

「急ごう!」

 

オスプレイに急ごうとした矢先、船の中腹で一際大きな爆発が起きた。その影響で船は大きな地震が起きたと思うくらいに大きく揺れ、更には真ん中から真っ二つに割れてしまう。そのせいで船首は更に傾斜が酷くなり、竜馬の足は摩擦が足りなくて、ゴロゴロと転がっていく。

 

「うわぁ⁈」

「竜馬!」

 

玲奈はこのままでは竜馬が海へと落下してしまうと思い、咄嗟に腕を出して、彼の手を掴んだ。のだが…その出した腕が問題だった。刺されて、まだ完治していない腕で竜馬を掴んでしまったのだ。竜馬の身体を海に落ちないように、左腕に力を込めるが、その度に痛みが身体を突き抜け、どうしても力を出し切れなかった。

 

「玲奈!一旦離せ!お前……!」

 

掴んでいる竜馬の腕には流れ出る玲奈の血が滴っていた。だが、状況は悪化する一方だ。直ぐ側面でも爆発が起き、その即席の穴からはあの白濁肌のアンデッドたちがわんさかと出てきたのだ。今の状況であのアンデッドに襲われでもしたら…。

 

「竜……馬っ…」

 

玲奈はここで竜馬を引き上げなければ、共倒れになってしまうと思い始めていた。

それなら……彼だけいきてくれればいい……と玲奈は思い、左腕に一気に力を込めた。

 

「……おい、玲奈?まさか…」

 

竜馬がまさかという顔をした時に玲奈は力を込めた左腕を引き上げ、作用反作用で竜馬を持ち上げ、自身が落ちるようにした。だが…。

 

「こんの……馬鹿なことすんなぁ‼」

 

竜馬は船に足を着けた途端に素早い動きで玲奈の腕をギリギリで掴んだ。玲奈は竜馬に「何で?」と言いたげな表情を見せた。竜馬はそれに答えるように叫んだ。

 

「俺は……いつか…この世界を終わらせて………いや…終わらせられなくても…お前とずっとにいたいんだよ!玲奈だって分かっているだろ⁈」

「竜馬……」

「俺は玲奈がいないとダメなんだ!だから…ここで死なせるわけには……」

 

竜馬の掴む腕力が徐々に強くなっていく。だが、アンデッドたちは既に玲奈と竜馬のすぐ後ろにまで迫って来ている。

 

「いかないんだぁ‼」

 

最後に大声を上げ、竜馬は玲奈を引き上げた。そして、奴らの後続を断つために手榴弾のピンを抜き、その場に置いた。それから玲奈を抱えてオスプレイまで走り出す。

 

「早く急いで!もう持ちそうにない‼」

 

薺は既にエンジンを付けて、2人が来るのを待っていた。そして、2人が乗り込んだと同時にオスプレイを離陸させた。

客船は真っ二つに割れた後、そのどちらもゆっくりと海底に沈んでいった。その光景を眺めていた玲奈は独り言のように呟いた。

 

「クイーン・ゼノビアが…沈んでいく…」

 

結局、この船は何のために作られたのだろうか…。玲奈たちや生存者を嵌めるだけにしては少し大掛かりで無駄に労力を使っている気がする。だけど…玲奈はこの3人で脱出出来て良かったと改めて感じていた。のだが…オスプレイの操縦席に座っている薺の方から…グスッという鼻水を(すす)る音が聞こえた。竜馬は走りすぎて疲れ切っているし、玲奈は重くなった足をどうにか動かして、彼女の近くに行った。

 

「どうしたの?薺…」

「え……いや、何でもない…よ……。もう、仲間がいつ死んでもおかしくないもんね…」

 

ここで玲奈は何故泣いていたのか理由が分かった。薺は…助けられなかった生存者たち…ケーシャなどの人々に対して涙を流していたのだ。辛そうな薺に玲奈は右腕で薺の身体を抱き締めてあげた。その途端、薺は何かのタガが外れたのか、再び泣き始めてしまった。薺は玲奈の胸に顔を押し付けて、声を押し殺して泣き続けていた。

だが、その数分後…。

 

「……えっ?…ヤバイ」

「え⁈どうしたの?」

 

玲奈と竜馬は薺を見詰める。そして、薺は目が笑っていない状況で笑みを浮かべた。

 

「燃料が……ない」

 

2人の顔が一気に青ざめていく。玲奈はすぐに叫んだ。

 

「オスプレイがあの建物の高度近くにまで落ちたら、飛び降りるのよ!」

 

玲奈の言うように、燃料の無くなったオスプレイは忽ち高度を下げていき、丁度建物の屋上らしき場所くらいになったところで…3人は飛び出した。オスプレイは鉄骨にぶつかりながら、海へと向かっていった。

しかし…3人は…この建物こそ…これから始まる本当の地獄になることを、この時は知る由もなかった…。

 

 

 

 

眩しい光が顔に当てられている感じがして、ジョッシュは漸く目を覚ました。しかし、四肢は全く動かせない程に拘束されていた。十字架の形で腕を広げられていたのだ。それにあの切断されたはずの左腕は何かで繋ぎ留められたような感じで、元に戻っていた。そして…後ろから“彼女”の声が聞こえた。

 

「ごめんなさい…」

「あ?何がだ?」

 

紗枝は丁度ジョッシュの後ろに貼り付けられていた。

 

「私のために戦ってくれたのに…私のせいでまた捕まってしまった…。全部、私のせいよ」

「…そんなことはねえよ…。お前、いや…紗枝、紗枝はあの時俺を置いていくことが出来たろ?どうしてそうしたんだ?俺を嫌っていただろ?」

「それは………」

 

紗枝は口を濁した。

 

「…まぁ、いいさ。どうせ時間は有り余る程あるしな…」

「そうね……」

 

2人はそれから黙ったままだった。

もう……二度とここから出られないだろうと2人は思い込んでいる。

だが、2人はこの後、助けられる。

 

 

 

 

しかし…これからその先に待ち受ける運命を受けたくないないなら……このままの方が良かったかもしれない…。

キャラ人気投票。IF Story編終了まで実施。

  • 玲奈
  • 竜馬
  • 紗枝
  • 海翔

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