玲奈はタンスの上に置かれている写真立てを掴んで見た。
そこには玲奈と竜馬、そして…玲奈と竜馬の間で出来た子供…
そこにエイダがやって来て、冷徹な目で言う。
「あの子はクローン…。そして、記憶も刷り込まれた人形のようなものだわ。連れていく必要はない」
「…たとえそうだとしても、私はあの子……佑奈を置いていくことは出来ない」
「…本当に連れていく気なの?」
エイダはあまりいい顔はしなかった。移動の際、行動の1つ1つが鈍くなってしまうし、何より…この少女自体が本当に実験用で作られたかも怪しく思っていた。もしかしたら…発信機の役割を担っているのではともエイダは考えていた。
「とにかく、ここに竜馬たちはいない。今はここから出ましょう」
「ママ、パパに会える?」
「…会えるわ。今から会いに行くのよ」
玲奈は佑奈の手を繋ぐ。すると、にっこり笑いながら佑奈も手を握り返してくれた。
「……いい母親になれるんじゃない?」
「それはどうも…」
玲奈はそう言いながら、玄関口から出ると、そこには黒服を纏った人間が何人もいた。
それぞれの手にはアサルトライフルやマシンガン…様々な武器を持っている。
だが、玲奈が驚いたのはメンツだった。今までの戦いで死んで来たメンバーか、まだ生きている人ばかりなのだ。葉子に智之、それに海翔、竜馬もいる。
「…海翔まで……」
「あれは本物じゃない。クローンよ」
「それくらい分かるわ」
葉子だけには薺に付けられていたデバイスが装着されている。なので、葉子の目に映るものはレッドクイーンにも見えている。玲奈を確認したクイーンは葉子に指示を出す。
『生きたまま捕まえなさい。ダメなら殺してでもその身体を入手しなさい!』
と、ここでエイダは残念な知らせを玲奈に知らせた。
「言ってなかったわね。海翔は死んだわ」
「………そう」
海翔が死んだ…。薺や紗枝にはもう周知のことだろう。薺が泣き叫ぶ情景が嫌でも思い浮かんでしまう。
そんなとき、ブランコに座っていた智之はタバコを吹かしながら、アサルトライフルの
「智之、子供がいるのよ?ここで銃撃戦でもしたいのかしら?」
「知らないね…。そこにガキがいるのが悪いんだよ…」
「相変わらずね。…全然変わっていない」
「ふん……」
海翔はもう銃口を玲奈、佑奈、エイダに向けていた。
「さぁ………降参するか死ぬか…。子供が死ぬ様はあまり見たくないだろう?きちんと考えるんだな…」
「……ええ、そうね」
玲奈は素直に両手を上げた。
恐らく、玲奈が降参すれば殺されずにまたあの拷問部屋に戻るだけかもしれないが、佑奈とエイダは間違いなく用無しになって殺されるだろう。玲奈は手を上げながら、エイダの前を通過する。
玲奈のさり気無い行動の意図をエイダは即座に読み取った。
玲奈が前を通ったことにより、エイダに拳銃を掴むチャンスが出来たのだ。エイダは拳銃を発砲して、兵士たちの身体に風穴を空けていく。もちろん部隊はこんな不利な状況で撃ってくるとは思っていなかったため、一時混乱する。
玲奈は佑奈を抱えて、中に逃げ込んでエイダも銃撃が激しさを増す前に家の中に逃げ込んだ。玲奈はさっきの写真が置かれていたタンスの影に佑奈を座らせた。
「伏せてて!」
玲奈はマシンガンを両手に持ち、奴らに応戦する構えを取った。
部隊が放つ弾はもはや適当と言ってもいいレベルで、家の至る所に弾がめり込んでいく。玲奈とエイダは銃撃がほんの少しでも緩んだ隙の時だけ、マシンガンを撃ち、兵士たちに鉛弾をプレゼントする。
更に玲奈は兵士たちの後ろに置いてある車のガソリンタンクを狙って撃ち、車を爆発させた。爆発によって持ち上がった車は兵士2人を頭の上から踏み潰した。そしてまた隠れる。
エイダは裏口から入ってくる兵士を見つけると、フック付き拳銃を構えて、兵士の心臓に向けてフックを撃つ。槍状になっているフックは簡単に心臓を貫き、そのままワイヤーで身体を引っ張られる。玲奈も窓から侵入してくる兵士に弾を浴びせていく。
玲奈は今度は海翔に銃口を向けた。昔の仲間とか…そういうのは関係ない。玲奈の心中では既に覚悟は決まっている。海翔は玲奈がこちらに銃口を向けていると分かり、横に避ける。海翔に弾は当たらなかったが、代わりに後ろにいた兵士の頭を貫いた。
「チームで前進せよ!」
「了解!」
しかし、このまま籠城戦を続けるとなると、相手の方が圧倒的に有利だった。しかも前進してきたら、更に隙は無くなり、敵の数を減らせなくなる。すると、エイダが叫ぶ。
「この家から出て!」
「何言ってるの⁈あなたはどうするの?」
「誰かが足止めする必要があるでしょ?」
エイダはポケットから赤い眼鏡を投げた。
「それに脱出ルートが記してあるわ‼…これも…!」
エイダはフック付きの銃も玲奈に投げた。シルバー色の小型銃…。
エイダは玲奈に何故と問いかけられる前に言う。
「身軽な方がいいからよ…」
玲奈は歯を噛み締めながらも、佑奈を連れていく。
エイダはその様子を見た後に拳銃を発砲する。的確に、兵士の頭、心臓を撃ち抜いていく。
だが、葉子はもう殺すと決めたのか…分裂型グレネード弾を発射した。
エイダは舌打ちして、さっきフック付き銃で殺した兵士が持っていたアサルトライフルを掴んだ。グレネード弾がこの家で爆発を起こす前に床に向かってライフルを乱射する。そして、脆くなった瞬間にそこに逃げ込み、家で爆発するグレネード弾の攻撃を避けるのだった。
玲奈は爆発して、その家の上のホログラムが破壊されていくのが見えた。
「エイダ……」
しかし、彼女の心配ばかりもしていられない。追手が玲奈が生きていると気付く前に早くここから離れなければならなかった。
「佑奈!奴らが来るから、先に走って!」
佑奈は頷いて前に走っていく。
玲奈も追いかけようとしたとき、脇腹に痛みが走った。
「うっ…!」
触れてみたが、血は出ていない。
ここはさっき、斧鎚の巨人と戦った時に鎚の方で殴られた場所だ。どうやらあの一撃で肋骨の一部が折れてしまって、曲がった骨が出血を及ぼしているようだ。
玲奈は溜め息を吐きながら、佑奈の後を追いかけていった。
玲奈と佑奈は警戒しながら、モスクワエリアを着々と進んでいく。
今、玲奈たちはモスクワ駅に見立てた場所を移動している。その時…。
「ねえ、あんた!」
玲奈は瞬時にマシンガンを向けた。そこには葉子が立っていた。ただ、あの黒服の葉子ではなく、私服姿の葉子だった。恐らく、郊外でのシーケンスのために作られたクローンの1体だろう。
「なにその服…。なんていうか……女スパイって感じ?」
玲奈はマシンガンの1丁を葉子に差し出した。
「使い方分かるわよね?」
葉子はそれを見て青ざめた顔になる。
「ちょ…ちょっと待って!あたし、銃なんて見たことも扱ったこともないんだよ!?ていうか、どうして持ってるわけ?」
「それは愚問ね」
言い訳を繰り返す葉子は無視して、玲奈は葉子にマシンガンを握らせる。
「いい?要領はお祭りの屋台にある射撃と同じ。狙いを定めて……撃つ」
玲奈は葉子の指を握りながら撃たせてやった。葉子は自分が銃を撃てた事実に驚いてしまっている。
「もうこれで銃とは離れられないわね」
玲奈は肩をポンと叩いた。
すると、上の方から銃声が聞こえてきた。恐らく救助チームだろう。玲奈は葉子に頼む。
「葉子、佑奈をお願い」
玲奈が単身で向かおうとすると、佑奈は玲奈の身体を掴んだ。その目は涙で潤っていた。
「行かないで…」
「……。ママは今から行かなきゃいけないの。パパを助けに…」
「パパを?」
佑奈にとっては……だが。
「だから、この人と待ってて。必ず戻ってくるから」
「………約束だよ?」
「うん、約束ね」
玲奈はそのまま前に走っていく。その様子を見ている葉子と佑奈。
彼らが巻き込まれない内に一緒に逃げるのが、玲奈の目標だった。