無事、永久氷河の真下に作られた研究所から脱出した一行は雪原用の車でこの南極大陸を横断していた。ジョッシュ曰く、後にジョンが迎えを送ってくれるようだが…それまではジョッシュが運転する車の中でゆったりくつろぐことになった。玲奈の膝に頭を乗せて、佑奈は疲れっ切ったのか、すっかり眠っている。そして玲奈も隣に座る竜馬の肩に頭を乗せて…緊張感から解かれた表情を見せた。
「助けてくれて…ありがとう…」
「そう言うけどさ……俺が来た時にはもう脱出してたろ?俺の助けなんかいらないんじゃないか?」
「そんなこと……ないよ…」
玲奈はどうしても優しい視線を竜馬に向けてしまう。一難去った後なので、玲奈は完全に気を緩めていた。それは竜馬も同じだった。2人は前の席にいる2人…紗枝とジョッシュに見られているかもしれないこととか気にせずにお互いに唇を合わせていた。薺なんかは恥ずかしいのか、玲奈たちを全く見れていない。
すると、紗枝は「オホン」と声を出してから…こう言う。
「今ここで、そういういかがわしいことしないでくれる?」
玲奈は紗枝の発言にキョトンとする。
「……いかがわしいことって?」
彼女は自らがしていることに自覚を持っていないらしい。その自覚の無さに紗枝とジョッシュは同時に溜め息を吐く。玲奈はたまにそういうところは天然だ。
しかし、紗枝はそういうところもあって羨ましく思った。この約3年間、ずっとアンデッドかアンブレラの脅威に晒され続け、警戒心を緩められる時間が無かった。でも今なら、そういうこともないから…竜馬との時間を楽しめられる。
それがまた…羨ましくて堪らなかった。この手を優しく握ってくれる人はもう…この世にはいない。
「…海翔……」
そう…彼女はあの施設でクローンではあるが、海翔に会っていた。それを見た彼女は思わず、クローンでもあるのに本当は生きていたのではと思ってしまいそうだった。だが…それが更に海翔の死を強調させてしまい、表情をどんどん悲しく染め上げていく。
「………」
そんな紗枝の悲しい声を聞いたジョッシュは、紗枝に話しかけられずにはいられなかった。
「どうした?元気ねえな…」
「…関係ないでしょ?」
「冷たいな…。……もしかして、あそこで死んだ恋人の偽物を見たから…またその影を追っているのか?」
「関係ないって言っているでしょ‼」
「「「!!?」」」
玲奈と竜馬、薺がいるというのに紗枝は気にすることなくジョッシュに怒鳴った。紗枝の目は酷くうるうる潤っていた。
「大切な……人を失った気持ちを知らないから…そんな暢気なことを言えるのよ…」
耐えきれずに涙を流してしまう紗枝。ジョッシュはそんな紗枝を見て、自分自身がしてしまった罪を深く後悔した。後ろの2人は紗枝が泣き出したと分かっていないのか、相変わらずイチャイチャしている。
ジョッシュは彼女の悲しみを払拭させたくて…ハンドルから片手を離して、紗枝の頬に手を置いた。涙で濡れた頬は冷たく、ほんのりと赤かった。
「…悪い……」
ジョッシュはそのまま顔を近付けていき、紗枝の唇を奪った。
「⁈」
紗枝は目を見開いて驚いた。すぐにジョッシュは唇を離したが、紗枝には何時間も…いや、永遠にされているような感覚に陥っていた。更にジョッシュは紗枝の冷たくなった手をぎゅっと握り、こう呟いた。
「俺は紗枝が好きだ。あいつの代わりは無理かもしれないけど……それでも俺は、紗枝を離す気はないからな…」
そう呟き、彼は再びキスする。紗枝はもう涙が止まることがなかった。ぽっかり空いてしまった穴が…急速に埋まっていく気がした。彼女も……ここで漸く分かった。紗枝も…ジョッシュのことが好きだと、やっと気付けるのだった。
ジョッシュはそれからはもう何もしなかった。車を運転したまま、彼は一言も発しない。だが、隣にる紗枝は鼻をすすり、涙をポロポロと未だに落とし続けていた。何度となく自分に涙を止めろと言うのだが、一向に止まる気配は見られない。
「……っ…うぅ……っぅ……」
嬉しさが止まらないのだ。紗枝は自身の身体が温かくなっていくのが分かった。もう誰も差し伸べても…握ってもくれないと思っていた孤独な手を…彼が受け止めてくれた。今もジョッシュの手が強く握られたままだ。
「海翔っ…。私……絶対死なないからね…」
ジョッシュはそれをまた横で聞く。今の発言で、ジョッシュは紗枝が海翔の死を漸くきちんと受け止めて…長い間の苦しみから解放されたように見えた。それはそれで良かったと…彼は密かに思うのだった。
車は順調にジョンの指示された場所に向かっていた。ジョッシュにとっては父親だが、本心は今になって父親面するなと怒鳴り散らしてやりたかった。しかし、玲奈を助ける作戦だと、映像を通して伝えられた。そんなことを伝えられて…ジョッシュはまだしも他のメンバーは断るはずがなかった。紗枝と薺は海翔を殺された復讐心からアンブレラを憎んでいたから…。殺されたルーサーは助けてもらった恩があったから…。竜馬に関しては言う必要もないだろう。そのせいでジョッシュは逆らう…というか、反対することが出来ず、やむなく賛成してしまったのだが…彼は心のどこかで引っ掛かっていた。映像の中のジョンは最後に微笑んだのだが、何か嫌な感じしかしなかった。
ジョンはまた何かを企んでいる……。玲奈たちの知らない何かを…。
「……って、考えても仕方ねえか…」
独り言を言うジョッシュ。運転している彼の周りの人間は全員、疲れ切って眠ってしまっていた。玲奈と竜馬はお互いに抱きついたまま……。紗枝は涙で目を腫らしたままであったが、ジョッシュの手を握ったまま眠りに落ちていた。運転をしていなかったら…もう1度キスしてやりたいくらいに紗枝の寝顔は美しかった。そんなことを考えていたら、自然と彼の顔がまた彼女の唇に近付けていく。お互いの唇が触れようとした直前だった。
突然、車が激しく揺れたのだ。あまりに大きく揺れたせいで、眠っていたメンバーは全員目を覚ましてしまった。
「な、何⁈」
「さあな…!」
揺れている原因は氷河自体が動いていたからだった。しかし、この氷河が動き出した理由は分からない。ジョッシュは車のバランスを安定させようと必死になる。
「く、くそ…!」
氷河に
「きゃあ!」
佑奈は突然車が傾いてしまったため、驚いて悲鳴を上げてしまう。もうこれでこの車はお陀仏になった。玲奈はマシンガンを掴んで扉を開ける。そして外に出る前に薺に頼む。
「佑奈をお願い」
「分かったわ…。気を付けて…」
玲奈と竜馬、ジョッシュに紗枝は車から外に出て、雪がちらつく雪原に立ち入った。くらコートを着ていても南極なため、寒さは身に
しかし…そんな極寒の寒さも目の前にある“もの”によって完全に吹き飛ばされてしまった。それはあの施設に置かれていた巨大な潜水艦だった。あちこちに光るLEDによって、夜でも明るく辺りを照らす。
潜水艦の扉が開く。
玲奈たちはここで本当の決戦を覚悟するのだった。
ちょっとイチャイチャさせ過ぎましたか?