玲奈はバイクを激走させて、どうにか2台の装甲車の追跡と攻撃から撒くことが出来た。だが、いずれ奴らも玲奈と同じ場所…東京に向かってくることは重々承知だった。玲奈は更にアクセルを強く踏み、東京へと急ぐ。玲奈のすべきことは人類の絶滅を阻止するためにンブレラ社の最重要研究施設…通称ハイブにまた潜入し、散布型抗ウィルス剤を奪還することだ。だが、それを実行する前にあの装甲車とアンデッド軍団をどうにかしなければならない。それには、他に協力者がいないと成せないことは分かっていた。
玲奈は遂に東京に入る。前は建てられていなかった門のようなものにはアンデッドが3体吊るされていた。それはまるで…ここには入って来るなと言いたげな感じだった。国道を走り、途中で崩落した橋の前で玲奈は一旦バイクを降りた。
そして…随分前に滅んだ街に向かって、彼女はこう呟いた。
「ただいま……」
見渡す限り、ここにもアンデッドの姿は見られなかった。
やっぱりアンデッドは装甲車で引き寄せているので全部なのだろうか…。
そんなはずはない。人類の生き残りは約4000人…。他の人間は全てアンデッドになったはずだ。もしかしたら…クイーンの言っていたことは全て嘘で人類の生き残りは……。
「……!」
玲奈は頭を大きく振って、そんな考えを払拭させて再びバイクに
あの名古屋城と同じように静かだった。核ミサイルをぶち込まれた東京も…名古屋と同じように荒廃……いや、その次元を超えて、建物がほぼ残っていなかった。目立つ建物と言ったら、彼女の前に
「‼」
それは避ける前にバイクに直撃して、玲奈の腹にも当たった。バイクは前方に吹き飛んでいき、玲奈も地面に倒れた。虚ろになっていく視界に…一つの人影が見えたのは…玲奈の気のせいだったのだろうか…。
竜馬は退屈な時間を過ごしていたところ、突如ビルの下が騒がしくなったのに気付いた。窓から下を覗くと、1人の女性が寝かせられていてその女性をどうするかと意見が仲間同士で割れていて、口論にまで発展しているようだ。
ここからじゃよく見えないが…かなり美しい女性に見えた。玲奈に似ている。
でも…この世にいないんだったな…と、竜馬は改めて思った。
信じることはどうしても出来なかったが、ジョンは確かに言っていた。いくら頭の中で否定しても、玲奈が見つからず…ジョンの話に信憑性を持たせてしまった。
竜馬はまた拳銃を弄ってしまう。この拳銃で竜馬から大切な玲奈を奪った全てを…皆殺しにしてやろうと考えた。
が、その時ビル内に銃声が響き渡る。慌てて再び下を見ると、さっきの女性が仲間である桐生の首を締め上げて、人質に取っていた。竜馬は急いで下に駆け下りていくのだった。
玲奈は何者かに首に何かを注入されようとしたところで目が覚めた。目前には男性が片手に注射器を持っていた。注射器というものを見ただけで、玲奈は頭の中でアンブレラの仲間なのではと思ってしまい、すぐに上体を起こして、その男の腕を掴んで首を締め上げた。
「おい!テメエ、女‼離せ‼」
「撃つわよ!」
2人の前にいた男女の一組は地面に向けて、脅しではと思わせるために弾を撃ち込んだ。普通の人なら怖気づくかもしれないが、玲奈からしたらそんなものは全く怖くも何ともない。玲奈は首を締め上げている男性に質問する。
「この注射器の中身は何?」
「……くっ…栄養剤だよ……」
「本当に?ウィルスじゃないわよね?」
「ウィルス?そんな物騒なものは持っていないよ…」
「おい!お前!桐生を離……せ…」
玲奈の視線には…愛しい人が立っていた。
竜馬は一瞬たじろいだが、すぐに拳銃を向けた。彼は、今目の前にいる玲奈が本物であると、信じることが出来なかったのだ。
「と、とにかく…彼を離すんだ、玲奈…」
「………」
玲奈は桐生を離して、両腕を上げた。そこに銃を構えた男女が近付いて、男の方が玲奈の腕に触れた。それが不快感だった玲奈は即座にその手を振り払った。
「逆らうんじゃねえ!」
「…逆らったら?」
「殺すだけだ」
男は拳銃の銃口を玲奈の頭に当てた。
玲奈は「はぁ」と溜め息を吐いてからこう言った。
「銃を向ける時は……覚悟を決めなさい」
「あ?」
玲奈は男の拳銃を掴んで、奴の腹を蹴って怯ませた。そして、男が玲奈の方を再び見た時には、今度は玲奈が男に拳銃を向けているという、さっきとは逆の態勢になっていた。玲奈は数秒だけ男に拳銃を向けていたが、すぐに安全装置を閉めて、男に拳銃を返してあげた。
「分かった?」
男は悔しそうな表情をして、女性と共に扉の奥へと消えていった。
ここにはもう玲奈と竜馬、そして桐生しか残っていない。そんな中で…玲奈はゆっくりと竜馬に近付いていき、彼の身体を強く抱き締めた。更に…自然と涙も溢れてくる。
「玲……奈?」
「また……会えたっ…」
竜馬はふっと笑みを漏らして、玲奈を抱き締め返した。
しかし、その後玲奈に急激な眩暈が襲った。玲奈はそのまま竜馬に抱きつかれたまま、眠るように気絶するのだった。
玲奈が再び目を覚ますと、彼女は固いベッドの上に寝かされていた。玲奈が上体を起こそうとしたところを、隣にいた紗枝が止めた。
「まだ横になってて。身体に負担をかけ過ぎよ」
紗枝の隣にはさっき玲奈に栄養剤を打とうとしていた男も立っていた。
「やぁ、気分はどうだい?」
「最悪…」
「先程はすまなかった。あいつ、いっつも人を疑ってしまう癖があってね…」
“あいつ”とは…玲奈にやけに絡んで来た男のことだろう。
「俺は桐生って言うんだ。竜馬の知り合いらしいな…」
「……まあ、知り合いというか…腐れ縁というか…」
そう言うと、彼は奥の方から呼ばれたらしく玲奈と紗枝の傍から手を振りながら離れていった。玲奈は横になったまま、紗枝に質問した。
「あの戦いの後……一体何があったの?」
「防壁が突破されて…みんなあそこから逃げ出すしかなかったの。でも…玲奈だけ見つけられなくて…。そんな中、ジョンがあなたは死んだなんて言って来たのよ。どこにいたのよ、玲奈?」
明らかな嘘だ。ジョンたちが玲奈を嵌めるために作った口実だろう。
「私は……ジョンに言われて、地下に逃げ込んだの。でも…そこで気絶させられて、目覚めたのがつい先日あたり。外の空気は
玲奈はベッドから降りて、腕に付けたタイマーを見た。残り31時間だ。
「まだ動いちゃダメ!まだ身体にダメージが残っているでしょ⁈」
「大丈夫よ、もう…。それよりも行かないと…」
「どこに?」
「ハイブよ。クイーンが言ってたの。あと30時間弱で人類は絶滅するって…」
紗枝は
「信じていいの?」
「今度こそ大丈夫。けど……もっと厄介なことがある」
「え?」
玲奈はあの罠について考えていた。いくら何でもあの静かな東京の町でバイクのエンジン音で気付いて、あの罠を解除するなりなんなりするはずだ。だが、その様子は全く見られなかった。つまり……。
「スパイがいるわ。ここに…」
紗枝はそれを聞いて、驚きを隠せなかったのだった。