取り敢えず、玲奈は竜馬にジョッシュ、薺、そしてあの男……高田にアンデッドの大群がこちらに進行中であることを伝えた。
「アンデッドなら大丈夫だ。このビルならどうにか耐えきれる」
「アンデッドは……ね…」
「どういうことだ?」
高田は聞いてくる。
「アンブレラはそいつら誘き寄せるために装甲車を使っている。入り口のバリケードも搭載されたミサイルで一瞬で破壊出来る」
ジョッシュは大変だと思いながら頭を掻いた。そこで竜馬は皆に提案する。
「奴らに対抗する手立てを考えないとな……」
「そうね……。なら…」
「おい、ちょっと待ってくれ」
そこで再び高田は玲奈に突っかかってくる。玲奈は面倒そうに彼を見た。
「何でテメエが偉そうに指揮ってんだ?本当はそのアンデッドを連れてきたのはあんたなんじゃないのか⁈」
「……だから?」
玲奈の物言いに高田は怒りを込めて、皆に怒鳴った。
「お前ら!この女を助けたこと後悔するからな!」
高田はそう吐き捨ててこの場を出ていく。
「悪いな…。気難しい奴で…」
「構わないわ。それより、ここに武器はどれくらいあるの?」
「拳銃とかはあまりない。ただ…使えるかどうかは別として、ガソリンは山のようにあるぜ?」
ジョッシュがそう言うので、玲奈はニヤッと不気味に笑った。
ガソリンがあるなら、勝機はなくはない。
次に玲奈はビルの屋上に足を運んだ。そこには今でも稼働している小さなクレーン車が置いてあった。それを女性が操作しているのが見えた。
「やぁ!あなたが新しく来た人ね!」
「え…えぇ……」
やたら口が軽いなと玲奈は思った。初めて会った人にあんな言い方をされたのは…玲奈からしたら初めてだった。
「このクレーン車、あなたの?」
「『あなた』じゃないわ!光子よ。まあ…このクレーン車は私のものって言っていいのかな?親から無理矢理使い方を教えられたからね」
玲奈はこのクレーンである作戦を思いつく。
ニヤッと笑った玲奈に光子は少しだけ寒気を覚えた。
「じゃあ光子、このクレーンを改造するわよ」
「へ?」
光子は間抜けな返事をしてしまうのだった。
玲奈はみんなに出来る限りの対策をするように命じておいた。大体の大枠は完成しているため、残りはジョッシュが外に出て、夜でも目立つように白いスプレー缶で地面に数字を書かせることが終われば……あとは奴らを迎え撃つだけだ。
玲奈はそれが終わるまで休憩を取ることにした。いつあの軍団が襲いにやって来るか分からない。今のうちに少しでも体力、スタミナを温存しておく必要はある。そんな時に背中に誰かの背中が預かってきた。そんな人物は、玲奈の知る限り1人しかいなかった。
「竜馬…?」
「……俺、最低だ」
突然竜馬が訳の分からないことを言い出してきたので、玲奈は困惑してしまう。
「ちょっと?何言ってるの?」
「玲奈が死んだって言うジョンの言葉を……あっさり信じた俺が最低…だって言ってるんだよ…」
玲奈はジョンや淳がそういう風に竜馬たちを
「……竜馬は何にも悪くないよ?」
「でもここで玲奈を目にした時、俺……お前のこと偽物かもって…一瞬だけ頭に|過<よぎ》った」
「それは…ちょっと酷いかな?」
玲奈は苦笑した。
「でも一瞬だけでしょ?私は竜馬がそれだけ私を大切にしてくれているって知れて…いつも嬉しいよ?」
「玲奈…」
玲奈はにっこりと笑い返した。
それを見てしまった竜馬は自らの欲望を抑えきれなくなってしまった。彼女の身体を小石や小さい瓦礫だらけの地面に押し倒して、唇を激しく重ねた。
「……傷まで付けちまって…」
竜馬は玲奈の頬に付いている傷を優しく撫でた。痛みは感じない。
感じたのは…愛する人の手の温かさ…それだけだった。
「…くすぐったいよ……」
「もう…止めてやんねえからな……」
「…いいよ……。竜馬になら、何をされてもいい…」
玲奈の了承を聞いた竜馬は玲奈の衣服を破らない程度で無理矢理引き剥がした。
それから玲奈と唇を重ねながらも…初めて…身体も重ねるのだった。
「………くっ………」
淳は切断された右手首が未だに鈍く痛んでいて、苦しい声を漏らした。
流石にいくらバイクを奪うためだけに、手首から先を切断してしまうなんて予想もしていなかったのだ。あの時、すぐに部下に止血をさせていなかったら、この世には留まっていることは出来なかっただろう。淳はあれから一気に血が足りないと感じ、装甲車に積んであった食べ物を恐らく大人2人分くらい口に入れた。血の巡りも良くなり、少しだけ生き返った気もした。
そして……もう絶対に許してやらないと心の中で激しい怒りを燃やす淳。
装甲車の上に立っている淳は門にぶら下げられたアンデッドに鉛弾をプレゼントした。それほどイライラしているようだ。装甲車の後ろを追ってくるアンデッドの呻き声も…イラつきの要因の1つかもしれない。
「武器を装備しろ!」
そう言うなり、装甲車からは新たなガトリング砲が出て、ミサイルの砲台もせり出てくる。日も落ちてきたため、白色のLEDライトを付けて、前が見えるようにした。その先には…朧気に光るオレンジ色のライトが見える大きなビルが聳え立っていた。
「ここからは我々の反撃だ……」
淳は積年の恨みを込めて、この先にいる玲奈に言ったのだった。
身体を交えた2人はお互いに脱いだ服の上で一糸纏わぬ状態で横たわっていた。
竜馬は玲奈の身体全体を、改めて見た。顔だけでなく、彼女の身体中…傷で一杯だった。しかし、竜馬を虜にしてしまう程の美しい身体に竜馬は無意識に玲奈の身体に触れようと思った時…外にいたジョッシュの叫び声が聞こえた。
「来たぞぉ‼」
玲奈と竜馬はその叫び声を聞くなり、すぐにお互いの服を着直して、窓から外を見た。
ずっと奥の方から2つの光と土埃…そして、何かが|蠢<うごめ》いているような地面が見えた。遂にここにまでやって来たんだと思った。
「屋上に上がるわよ」
「ああ」
2人は屋上に上がってみんなと合流する。
薺は玲奈を見るなり、彼女に3発装填式の散弾銃を渡した。これは単発で撃つことも可能だし、3発同時に撃つことも可能な代物だ。
「銃くらいないとキツイでしょ?」
「そうね。ありがとう」
「はっ…武器まで渡すのか?」
高田はまた玲奈を挑発する。
「やめろ、そんなこと言ってる場合じゃないぞ、高田」
竜馬がそう怒鳴ると、高田はふんと鼻を鳴らすだけで、反省した感じには見えなかった。
しかし…時間が経つにつれて、余裕だと言っていた彼らの表情が徐々に青くなっていくのが分かった。
「……嘘だろ?大群なんてレベルじゃねえ…。まるで軍隊みたいじゃねえか…」
眼下に広がっている景色は…真っ白なLEDライトに照らされて見えるアンデッドだった。しかし、その数は玲奈や竜馬が遭遇してきたアンデッドの数の想像を遥かに逸脱していた。水平線上にまで広がるアンデッドのカーペット…。何体いるかなんて推測すら出来ない。
ただ……大量に…膨大な数のアンデッドがこのビルの前の道に群がっていることだけが彼らの目が捉えていた。
それを見た紗枝はジョッシュの手を握った。ジョッシュも同じく紗枝の手を強く握る。
そして…この光景を見て、数十秒後…最初に口を開いたのは薺だった。
「それで……どうするの?玲奈…」
玲奈は手摺を力いっぱいに握って、こう言うのだった。
「1匹も残さずに殺すだけよ……」