奴は、玲奈と竜馬を既にこの暗闇の中でもしっかりと捉えていた。
ライトの光も…2人の体温もその眼球で見ていた。
奴はいつ彼らを襲おうか…タイミングを見計らっていた。
食いたい……。頭にかぶり付きたい……。肉を抉りたい……。血の味を楽しみたい……。
そんな
奴は天井から天井へと動くのだが、その気配を感じた玲奈は足を止めた。玲奈も竜馬もこの暗闇の中で何かが自分たちを見て…動き回っているのは分かっていた。
「竜馬……」
「ああ…。何かいる…」
分かっていても、2人の視界には奴の姿は映っていないため、そのことが恐怖心を更に煽り立てていく。玲奈が前を歩き、竜馬は後ろを見張りながら歩く。
すると、鎖で繋がれて、下半身が欠損しているアンデッドが唐突に動き出して、竜馬の服を掴んだ。
「……っ⁈」
竜馬も玲奈も驚いて、そこに拳銃を向けた。竜馬は即座に掴んでいるアンデッドの腕を振り払う。アンデッドは鎖に繋げられているため、地面に降りることも出来ないし、そもそも下半身がないため、歩くことも出来ない。
放っておいて問題ないだろうと思い、竜馬は拳銃を降ろしたのだが…それが誤りだった。
玲奈は自分の上に何かの気配を感じて、そっちを向いたのだが、竜馬の方に奴は向かっていて、竜馬は全く気付いていない。
「竜馬っ‼上‼」
竜馬は上を見ずに、適当に側面へとダイブした。その途端、竜馬が立っていた場所に赤黒い生物が口を大きく開けて飛び出してきたのだ。
「玲奈!」
竜馬はこの態勢では銃を撃つのは難しいと思って、彼女に拳銃を投げ渡した。
それを掴んだ玲奈は2丁拳銃を向け、ブラットショットの頭に弾をぶち込んでいく。奴は怯んで、身体を後ろに反らして銃撃から逃れようとしたが、玲奈は逃すことはない。グリップに込められている15発、2丁合わせて30発の弾を空になるまで撃ち続ける。奴は弾を頭に受けすぎて、遂に身体を地面に倒れた。
玲奈は冷徹な表情のまま、空になった2つの拳銃を捨てて竜馬に駆け寄った。
「大丈夫⁈」
「ああ……。本当に気付かなかった…」
彼を立たせている時、奴は再び咆哮を上げて、立ち上がると再び暗闇の中に消えて行く。どうやら、先程の弾を頭にあれだけ受けても死ぬことはなかったようだ。
「くそ…」
「隠れるのが上手ね…。気配が全く感じ取れない…」
優れた洞察力を持った玲奈でもブラットショットの気配を察知することが出来なかった。玲奈はライトを周りに向けながら、どこにいるかを探す。
上からの急襲もあるが、奴は頭がいい。同じ手は2度も相手には効かないと理解している……と、玲奈が思った矢先…玲奈の足元にピチャンと水が落ちた。見上げた時には、再び奴は玲奈たちと距離を詰めていて、目の前に現れると、その腕で2人を吹き飛ばした。
「うあっ!」
「くぅ…!」
2人は共に吹き飛び、その反動で玲奈はライトを手から落としてしまう。
奴はその明るいライトの光に目が行ってしまい、それを掴むなりすぐに噛みついた。だが、ライトは無機質なもので、肉ではなかったという怒りが玲奈たちに向けられる。
玲奈は近くにあった鎖を利用する。先端には鎌状の突起物があって、ぶら下げられたアンデッドのように引っ掻けることが出来る。ライトに夢中のままのブラットショットに玲奈は叫んだ。
「こっちよ‼」
奴は玲奈の声に反応して、視界に玲奈を捉えた。
玲奈はその瞬間、鎖に繋いだ鎌を顔面に直撃させて、左頬辺りを噛んで切り裂いた。更に玲奈は鎌を何回転をさせて、遠心力を付けると奴の腹に突き刺して、抜けないようにした。
それをした後に、玲奈は後方へと急いで駆け出す。
ブラットショットは玲奈にしか目が行っているみたいで、竜馬は見向きもしなかった。
奴が玲奈を追うせいで、奴に繋がれた鎖は物凄い勢いで出されていく。
玲奈は飛び前転をして、奴の引っ搔きを避ける。更に柱を蹴って、奴の真後ろに移動して、また逃げ出す。とにかく玲奈が今やりたいことは奴を竜馬から離すと同時に、早く鎖を出し切らせることだった。
いつになったら、巻かれた鎖が全て出るのかと考えていたら、玲奈はブラットショットに足元をすくわれて転倒されてしまう。
「しまった…!」
ブラットショットの巨大な牙が玲奈に迫ってくる。
思わず、目を閉じてしまう玲奈だったが、その瞬間に鎖が完全に出切った。
奴を繋ぐ鎖がピーンと張って、腹に刺さった鎌が奴の腹を切り裂いていく。
ブラットショットは苦しそうに呻きながら、口から大量の血を吐き出して玲奈の顔にかける。そして…遂に玲奈の身体の上に覆い被さって倒れた。
玲奈は全力疾走をしてしまった疲れで息が上がり、こいつを退かそうにも力が中々入らなかった。
「はあっ…」
玲奈は溜め息を吐き、漸くこいつを退かそうと身体を動かした時…。
「グワアアアアアァ‼‼」
ブラットショットは
これでも死なないのかと聞きたいくらいの生命力の強さだと玲奈は思った。
恐怖の大口が玲奈の頭に噛みつこうとしたところに…玲奈は止めの一撃を食らわせた。足に付けていたナイフを抜き、ブラットショットの顎から突き刺した。ナイフの刃は脳にまで届き、そこから捻って確実な死を
そして蹴り上げて、ブラットショットの死体を退けると、ナイフをしまった。
するとそこに竜馬が駆け寄ってきた。
「無事か⁈」
「ええ、なんとかね…」
玲奈は竜馬に立ち上がらせてもたった。
すると、向こうの扉が勝手に開いた。
「こいつはロールプレイングゲームか?」
「簡単ならいいけどね…」
竜馬はここで不意に後ろに人の気配を感じた。玲奈も同じようで、さっきのナイフを足から再び取ると、後方に投げようと思った時…それを止める声が聞こえた。
「待て!俺だ‼」
ナイフを投げた瞬間にその声が聞こえたため、投げる軌道がずれて、ナイフはその人物の頭のすぐ横に突き刺さった。
そこには丸腰で突っ立っている桐生の姿があった。
「桐生…!無事だったか!」
「……他のみんなはどうしたの?」
「分からない…。みんな分断されてしまったんだ…」
気まずい空気が流れるが、玲奈はすぐにその空気を払拭したくて発言した。
「…先に進むわよ」
3人はこの悪夢のような部屋から出ていくのだった。
紗枝と薺はどうにかこのガラスケースから脱出しようと試みていた。
そこで玲奈は昔、海翔に教えてもらったことを試してみることにした。拳銃から銃弾を取り出し、中にある火薬をガラスケースの角に置いた。
「勿体ないけど……いつまでもここにいるわけにはいかないわ」
薺は拳銃の空薬莢が出る部分を火薬の近くに置いて、引き金を引いた。それにより火薬は引火して小さな爆発を起こし、ガラスケースに蜘蛛の巣状の
漸く2人はケースから脱出することに成功した。
2人はそのまま部屋から出ようとしたが、扉を開けた前にジョンが拳銃を2人に向けて立っていた。紗枝も拳銃を出そうと思ったが、あのガラスケースを割るのに全ての弾を使ってしまっていたのを思い出した。それは薺も同様だった。
「…ゲームオーバーだよ。死にたくなかったらついてこい」
ジョンは2人に拳銃をチラつかせて、紗枝と薺を連れて行ってしまうのだった。