hina(ヒメとカナ)の宝箱   作:hinanan

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明けましておめでとうございます!
今年もよろしくですっ


新年もれーむは休まらない?

 広場に急遽あつらえた壇。そこの上に座っている私は、あたりを見渡してから、一つ息を吸い込む。最初はそこまで緊張しなくっていい、大事なのは勢い。

 広場中に響き渡る声を響かせ、私はそれを始める。

 

「謹賀新年、明けましておめでとうございます。

今年もつつがなくよろしくお願いいたします」

 

 壇上から、柔らかくお辞儀をすると人里の人たちもそれにならい、頭を下げてくれる。

 今からやるのは毎年元日に恒例の今年一年の福を呼び込む儀式。何代も前から、人々の不安を少しでも拭うために続けられている伝統の儀式でもある。

 頭をあげた期待の目に応えるように、私はいつもと同じ口上を口にする。

 

「ではこれより、今年一年の皆様の安全を願いましてこの里にて、厄払いの祈祷を行います。準備には少々時間が掛かりますゆえ、そちらに少量ながら用意したお酒でも飲んで、ごゆるりとお待ちください」

 

 よし、タイミングはバッチリ。やっぱり手伝いが一人でもいると違うわね〜。

 私が手を向けた先には、いつの間にか慧音と自警団の人達がお酒を用意してくれている。順番の整理もしてくれているので、騒動も起きていない。うんうん、本っ当にありがたいわ! これでこっちに専念できる。

 慧音たちに感謝を込めて手をふり、手早く準備を整えていく。先ずは塩、続いて榊の枝に、散らした葉っぱ。壇上もみそぎをするための舞台へと変じさせる。と言っても、両端に榊を置いて、畳をどかしてってするだけだけど。あ、あと祈祷台も置かなきゃ。

 舞台の準備を終わらせても、今度は衣装の変更が待っている。いつも、妖怪退治に来ていくようなのではなく、きっちりと清水で洗った神聖なるな御服だ。というか、毎年思うけどホントに着づらいわねこれ、余計な装飾付けすぎなのよ。

 袖をとおしながら、その発案者を殴りたくなる。自分がこういう系統の服似合わないからって、人に押し付けるやつっているわよねぇ。勿論予想は付いているから、今度あったときは封魔針を大量にお見舞いしてやろうと思う。

 

 

 ここまで伝わってくるなんて……今年は例年以上に熱いわね。壇の奥の幕からでも、それは透かして来るため見えない圧のように私を苛む。女の子にはすこぉしばかり厳しい空間でもある。

 しかし、もう時間だ。それに私は一人の女の子である前に巫女、人里を守る巫女なのだ。これぐらいでうろたえてられない。

 足に力を込めて、ピシャリと頬を張る。巫女である事実を深く思い出した私はその一歩を、静寂の波紋のように厳かに、かつ大振りに踏み込む。

 その歩によって静寂を世界に満たし、場を神聖なる神前の舞台へと昇華する。

 

 いつしか、あれほどあった熱気は全て清廉な気へと変わっていた。それは今私が立ったここから全てを包み込んでいた。

 

 さぁ、ここからが本番よ。

 

「お集まりの皆様、大変お待たせいたしました」

 

 静なる空間のなか、私の声は大気を震わせ遠くまで響き渡る。

 

「これより博麗の巫女による祈祷の儀を始めます」

 

 二の句を継ぐのと同時に右手に持った鈴蘭のような鈴を鳴らす。

 シャンッ、シャンッ。

 空気がさらに澄んでいくのを肌で感じた。すると、口が意思を持つかのように、するり、と祝詞を捧げる。

 

「『はらいたまい、きよめたまう――』」

 

 それは確かに力のある言葉。

 祝詞を口ずさむように唱え、榊の枝を振るい、摘まんだ塩を辺りへ撒く。

 神へと捧げる神聖なる舞。天から降りてきた使者も私を照らし、現実を幻想へと変じさせていく。

 いつしか人里は、私の声と舞の音しか聞こえなくなっていた。そうなるように私たちは世界から切り離されていた。

 

 

 何分たったのか、分からない。だけど、私の舞いは唐突に終わりを迎える。

 持った榊を滑らかに振り抜き、祝詞を締めた。

 しばらくの間、ソコには私の息づかいしか無かった。しかし、徐々に熱気が戻ってきて――

 

 パチ、パチパチ、パチパチパチパチ――!!

 

「ありがとうー、巫女さーん!!」

「良かったぞー!!」「お姉ちゃん綺麗だったー!」

「これで今年も安泰だな」

「ありがとうー!」「ありがとうー!!!」

 

 えへへ、こちらこそ。

 皆に呑まれないよう、私も精一杯手をふり返す。本当にこっちが感謝はこっちがしたいぐらい、なにせこんなにたくさんの報酬が貰えるんだから。

 声援がほしくてやってる訳じゃないけど、こんだけもらっちゃありがとうって言うしかないわよね。

 最後に一礼して壇から降りると、拍手が更に大きく後を追いかけてきた。

 まったく、こんなんじゃ次もやらなきゃいけないじゃない。来年も期待しなさいよね。

 

 近くにあった休息所で一息ついていると、慧音がやってきた。たぶん報酬を払いに来たのだろう。毎年やるものなんだけど、一応博麗に対する依頼って言う形を取っているのである。

 

「今年も見事だったぞ、霊夢。お疲れ様」

「ふん、いつもと同じよ。あまりに何も変わらないものだから皆飽きてきてるんじゃない?」

「あの反応を思い出して同じことを言えるのか?」

「……」

「悪かったよ。それより報酬を持ってきたんだ。少し量が多いから外に置いてあるんだが見てくれないか」

「量が多い?

 いつも通り金銭だけじゃないの?」

「まぁ、百聞は一見にしかず、だ」

 

 慧音について休息所から出ると、ソコには引き車と大量の食材が。

 しかも、殆どがえっと……なんの魚よ、これ。

 

「今年は霧の湖から大漁に鯛が獲れたから、そのお裾分けだそうだ」

「にしたって、多すぎでしょ……」

 

 どう見たって十匹以上はあるし、それ以外にも野菜やらなんやらもたくさんある。私をなんだと思ってるのよ。

 半眼でにらむと、慧音に愉快そうに笑われた。

 

「あはは、私も去年までは抑えてたんだけどな。

 それにこれでも厳選した方だぞ?」

「え、まだあったの?」

「そりゃそうだ。あんな見事なもの見せてもらって、贈り物をするなって方が無理な話だろう?」

「もう、こんなに誰が食べるのよ……腐らせたくないんだけど?」

「食べきればいいじゃないか。それにこのあとアレがあるだろう」

「私がもらったのにあいつらにあげる気なんてさらさらないわよ」

「まぁ、そう言うな。お前の負担を軽くできるなら送ったやつも喜ぶさ」

 

 まったく……まぁ結局もらうんだけどさ。だけど――

 

「これ以上は貰わないわよ」

 

 その言葉に、そっとお金も紛れさせようとしていた慧音の手がビクッと震える。そろそろと上がってきた視線を睨んでやるとすぐに視線を逸らされた。

 

「あのねぇ、確かに依頼の報酬は現金だけど、これだけ貰えばもう現金の分なんてとっくに越えてるわよ」

「いや、でもお前普段は賽銭を寄越せなどなんだの言うじゃないか」

「仮にも教職者がそれを許容しちゃダメでしょ。それに依頼ならきちんとしておかなきゃなんだかむずむずするのよ」

 

 なんでそんな変な顔してんのよ。なにか言いたいことがあるなら言いなさい。

 私の眼圧に負けたのか、取り出していたお金を再び懐にしまう慧音。はぁ、ってため息つきたいのはこっちよ。

 

「分かった、分かったよ。その代わりこっちは全部受け取るんだぞ」

「はいはい、精々足しにしますよっと。それにしても、こんなにいっぱい……何に使えばいいんだか」

 

 折角もらったものを無下にも出来ないから、咲夜に保存のきく料理の作り方を聞いとこう。あいつんちなら色々作ってそうだし。

 

「何だかんだで使いきろうって考えている辺り、お前はお人好しだよな」

「自分に都合のいい事実を言えばお人好しになるのね、あんたの思考は」

「憎まれ口も照れ隠しだと思えば心地いいな。あ、そうだ荷物は私が責任をもってお前の家まで運ぶよ」

「それは素直にありがたいわ、準備もしなきゃいけないから無駄に体力を使いたくないの」

 

 準備して、参拝ラッシュを捌いて、そのまま宴会に入ってって感じだから体力の消費が激しいの。出来れば温存しておきたい。

 慧音の苦い笑いを飲み下しつつ、巫女じゃない普通の女の子は神社へ帰る準備を進めるのだった。彼女は少し優しすぎるもの、巫女がその衣を脱いだって誰も不思議にならないわ。

 

 

 さて、帰ってきたわけだけど……。

 

「何やってるのよ、萃香」

「あ〜?見ればわかんだろ〜、呼吸してんだよ〜」

「確かにあんたらにとっちゃ呼吸よりも自然だろうけど

 

 荷物を表においてもらって、神社の中に入るとソコには萃香がかぱかぱとお酒を空けていた。さすが鬼と言うべきか、そこらに大量に転がっている酒はどれも度数に高いものばかりだ。

 いや鬼だもん、酒自体を飲むなとは言わないわ。私が鬼になるのは避けたいし。でも――

 

「出かける前に、これは飲んじゃダメなやつだって私言っていったわよね?」

 

 宴会に使う用に酒を大量に仕入れておいたってのに、こいつは一人で殆ど飲んでしまっている。

 

「いやぁ、そこに酒があるなら飲むのが当たり前だろ〜。むしろ、私の近くに置いとくのが悪いんだよぅ」

 

 なんか、いけしゃあしゃあと言い始めた。これはつまり、そう言うことね。

 

「どうやらきつめのお灸を据えないとダメみたいね?」

「ひっ!?」

 

 右手に封魔針、左手にお払い棒。

 ゆらりゆらり、と萃香へ歩を進めていく。

 

「ちょっと待ってくれよ、霊夢!!

 お前は分かんないだろうけど、鬼ってのは目の前にそれが出されてたら飲まずにいられないんだよ! 飲まないと気分が悪くなってくるのさ。だから、おしおきは違うと思う!!」

「我慢は?」

「一切してない」

「よし、執行開始」

「ぎにゃああああああああああ!!!」

 

 

 

 ふう、スッとしたわー。

 ちらっと後ろを見ると、全身針とアザだらけの萃香が目をぐるぐるさせながらのびている。我ながらよくもまあやったものだと思うけど、贈り物の中にお酒が入ってなけりゃこれ以上やっていただろう。

 でも、ストレスが解消したとはいえ流石にやりすぎたわね、無駄な体力使っちゃった。しかも、準備がまだ終わってない――ん?

 なんだか、石段の方から話し声が……。空中をかけ、障子を開け放つと賽銭箱の方に。

 つくと同時にその声の主が姿を表す。いえ、主『たち』が、と言うべきね。まさか、もう参拝客が来る時間だったなんて……くう、それもこれも萃香のせいよ! 異変が絶えないのも、普段の賽銭箱にお金がたまらないのも、地球が青いって言われてるのも全部あいつのせい!! 腹いせに後でもう一本ぐらい刺しといてやろう。

 って、そんなことしてる場合じゃないわ。

 

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

 

 急いで来た参拝客に挨拶をして、境内に御神籤とかお守りとかを用意していく。さあて、ここからもうひとふんばりしなきゃっ。

 

 

 

 

「や、やっと終わった……」

 

 結局、参拝客が全員帰ったのは四時を回ってからだった。その間ずうっと動きっぱなしだったため、足はパンっパンに張っている。気が抜けると直ぐにでもねっころがってしまいそう。

 ああもう、宴会の準備も終わってない……もうすぐであいつらが来るってのに。

 足を引きずって家の中に入ると、萃香が小走りにと近寄ってきた。妖怪の癖に、妖怪退治の専門家をそんなに気遣ってて大丈夫かしらね。

 

「お、おい霊夢。お前は休んでた方が良いぞ?

 後は私がやっておくからさ〜」

「なぁにバカなこと言ってんの。あんた、物をしまってる場所なんて知らないでしょ?

 あんたこそ、邪魔だからその辺で座ってなさい。あ、料理の味見だけ手伝ってよね」

「霊夢……」

 

 ふん、大妖怪の一人であるあんたがそんな顔してたら、下の妖怪に示しがつかないわよ?

 とは言え、結構キツいわね。何より、足が今にももつれてしまいそうで歩きづらいったらありゃしない。まぶたも……。

 くう、どうしたら――――。

 

「でしたら、私が代わりにお手伝い致しましょう」

 

 柔らかくも研ぎ澄まされたような声が響く。

 思わず体の負担も無視して、勢いよく振り向き

 

「咲夜!?」

 

 なんでいるの!? 時間はまだのはず……あれ、もしかして私の方が間違えてたの?

 

「いえ、霊夢は合ってるわよ」

「じゃあなんでもういるのよ。今回の当番は私のはずよ」

「ええ、それもその通り。でも、お嬢様が行ってこいと言ったの。ならば、貴女の事情はいらないわ」

「相も変わらず、刺さるような言葉ね。で、何て言われたの?」

「『今宵の宴が私を満足させるよう整えてきなさい。虚弱な博麗の巫女は自分の都合も省みずに強硬で宴会を始めるはずよ』と」

「ふうん、私の運命でも読み取ったのかしら、あのコウモリ。妹の方の話じゃそんなのがあるのかどうか怪しいけど」

「照れ隠しでそう言ってたわ」

「そこ言って良かったの?」

「知らないわよ、お嬢様を満足させられないようなやつの耳に入ったところでたいした情報じゃないもの」

 

 やれやれ、あいつも心配性ねぇ。とはいえ、自分が来ないで咲夜だけ遣わせたの正解ね、この憎まれ口は置いておいて。

 

「じゃあ、ごめん咲夜。境内の方の準備だけお願い――「もう終わってるわ」――いや、早すぎでしょ」

「そりゃ光速なんかより少し速く動けるからねぇ」

「思考の間隔もその辺りが基準なのかしら」

「ここに来た時点で料理も、会場の設営も終わってないんだもの、光速より速く驚いたわ」

「光速より、って気に入ったの?

 それよりありがとう。じゃあ、後は座ってなさい。

 料理ぐらいは自分でやらなきゃね」

「いいえ、ダメよ。

 せめて私と一緒に作りなさい、お嬢様の機嫌を損ねるわけにはいかないわ。

 そう言うところは見た目相応なのに、我慢はできる。そんな素晴らしき方にずっと我慢させるなんて私が認めない」

「あーはいはい、そう言うところばっかりにかよってるわよね、あんたたち」

「むしろ光栄ですわ」

 

 まったくどいつもこいつも人外のくせして人のことばかり心配するんだから。そんなのだから、私が人間の知り合い少ないって言われるのよ? 少しぐらい自分のことを考えていきりゃいいのにさ。

 

 ふぃ〜これで殆ど終わりね。いや、咲夜がいなかったらどうなっていたか分かんないわね。

 額の汗を拭って家の中で休んでいると、他のやつらもぞくぞくと集まり始めた。それもそれぞれ手に手に荷物を携えて。食材とかはたくさんあるのにさらに増やしてどうすんのよ。……食べきれるかなぁ。

 

 よおし、これで大体全部ね。

 辺りを見渡してもいない顔はほとんどない、どころかあまり見ない顔ぶれさえある。咲夜がいなきゃ以下略ね、ホント。予想以上に集まりすぎて空間を操ってなきゃ、全員は入れてないわ。

 

 しばらくすると自然とざわめきは落ち着き始め、こちらへと視線が集まる。

 私はコホンと一つ咳払いをする。

 

 緊張はいらない、いるのは勢いだ。

 ただ朝と違うのはどう皆を魅せるか、じゃなくてどう盛り上げるかってこと。

 でも、心配はいらないだろう。

 特別な気負いも。

 だって、コイツらならきっと。

 

 私は静かに口を開く。

 

「まずは、新年明けましておめでとうございます」

 

 一礼。

 頭をあげる。

 

「長々とした口上は、この料理の前では無意味でしょう。

 だから、手短に」

 

 皆、静かに耳をすませ私の言葉を待つ気配が私に届く。

 だから、私も期待に応えようと強く言の葉を重ねる。

 

「今年もまた皆々様の派手な立ち会いと私に退治されることを祈って。

 そして、そのあともこうやって笑いあい、飲みあえるように。

 かんぱいっ!!」

 

『こちらこそよろしく!

 かんぱいっ!!』

 

 わあっっ!!

 

 音頭が終わると途端に、暖かい賑わいにその場が満たされる。そこに集うものたちがお互いに笑いあう――そんな喧騒が始まる。

 

 さあて、それじゃ私も参加しますか。

 お酒を片手に上座から降りて、みんなの輪の中へ。

 

 今年もまた始まる。

 妖怪らしいのに妖怪らしくない彼らとの、賑やかで騒々しい、いつも通りの新しい宴が。

 何度でもこの終わらない幻宴のなかで、また新しく遊びましょ?

 

 だから、今年もよろしく、ね 

 よーかいさんっ

 




新年明け、初めてですがいかがでしたか?
明日か明後日ぐらいに、福袋とお年玉もご用意してますので待ってくださいね♪
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