千の貌を持つアラガミ 作:疋倉ヨバラ
それより3年弱ほど昔の話。
ある日、フェンリルドイツ支部より、新種のアラガミが確認された。
発見したゴッドイーター曰く…
無数の触手が蠢いていた。
名状しがたい形状をしていた。
正気で無くなるような見た目をしていた。
見ただけで発狂した者がいた。
との、証言をした。
その翌日、証言者のゴッドイーターは突如アラガミ化し、やむなく討伐することとなった。
他の目撃者も発狂したり突然死したりと、とても証言を得られる状態ではなかったため、これ以上の有益な情報は得られなかった。
至急、調査隊が組まれ、数少ない証言を元にそのアラガミの調査を開始した。
このアラガミの存在を知った全員が「特徴的な形であるなら、詳細が分かるのも時間の問題だろう。」
そう考えていた。
しかし予想は外れ、どこを探してもそのアラガミは見つからなかった。
一目で分かりそうなほど特徴が多いにも関わらず、だ。
2日後、ロシア支部でも同種と思われるアラガミが確認された。
再び調査隊を派遣したが壊滅、生き残った2名も後日呼吸困難に陥り窒息死した。
以降1年間、数ヶ月に一度ではあるものの、そのアラガミの目撃情報はで続けた。
そして目にした者は皆、謎の変死を遂げている。
幸いにも、目撃頻度が低いため全体的な被害はそれほどではないが、襲われたキャラバンや対峙したゴッドイーターが例外なく全滅している。
『遭遇すれば死亡率100%』
それが、この新種アラガミの現状だ。
この事態に、フェンリルの重鎮たちはすぐさま緊急会議を開いた。
が、『見れば死ぬ』という理不尽な現実に、全員が早々に匙を投げた。
討伐はおろか、捕獲も、隔離も、接近すらも不可能。
袋の鼠であれば、どれだけ救いようがあっただろうか。
時既に遅し、もはや人類は、絶対的捕食者の口の中にまで追い詰められていたのだった。
そんな絶望的状況の中、件のアラガミについて、新しい情報の入手が成功した。
交戦していたゴッドイーターが息絶える間際に、「アラガミが突然
これまでうんともすんとも応えないレーダーだったが、その時だけはハッキリとヴァジュラの反応を探知した。
そのアラガミは、交戦の最中で
その後、痕跡から奇跡的にサンプルの入手に成功し、正確には" オラクル細胞が取り込んだあらゆる要素を吸収し、それをコアが学習、会得することで身体の構造を変化させている "ということが判明した。
まさしく変身である。
これはある意味、最もオラクル細胞らしいアラガミと言える。
これにより" 発見や捜索が困難なのは、姿を変えて己でない何かに誤認させているため "と結論付けられた。
フェンリルは、この進化し続けるアラガミを千の貌を持つ神になぞらえてこう名付けた。
『ニャルラトホテプ』と……
ーーーーGOD EATERーーーー
この情報の発表により、世界中が歓喜した。
見えぬ死を怯えずともよい、と。
まだ勝機は残っているのだ、と。
だが、聡明な者は言う。
「まだ終わってはいない」と。
実際問題として、原理は分かったが対処法が無い。
一見必死の脅威は、未だに拭えていないのだ。
ある科学者は、「あらゆる要素を吸収し学習するのであれば、人間的な物を捕食させれば次第に無害化するのでは?」と提案した。
フェンリル側は、藁にもすがるとばかりに即実行に踏み切った。
半年の歳月を懸け、子供用の人形やおもちゃのほか、絵本や辞書や小説や人道・道徳の本も補食させた。
変化は、研究者の予想を大きく上回る結果として現れた。
欧州支部の部隊がニャルラトホテプと交戦した時のことだ。
あるゴッドイーターが岩に打ち付けられ、その衝撃でインカムが外れてしまった。
その後、部隊が全滅した際、ニャルラトホテプの咆哮をインカムは不鮮明ながら聞き取った。
咆哮をあげる器官があるということも驚きだが、それが霞むほど衝撃的な出来事が起きた。
U……N……KNO……WN……
インカム越しに、オペレーターは確かに耳にした。
アラガミが、確かに意味のある言葉を発したのだ。
『Unkown』
皮肉にも正体不明という意味を持つ、このアラガミのために存在するような人間の言葉を。
アラガミが人の言語を発した。
しかしそれだけ。
模倣するだけのオウムに近い。
というのも、コミュニケーションを図る科学者やゴッドイーターはも僅かながら存在したが、まるで会話が成立しなかった。
単語しか発しない、というかその意味すらも理解していないようだった。
そもそも、視界に入れるだけで発狂するのだ。
アプローチをしかける側が言葉をかける以前に、近づくことも危険である
姿を変えるという遭遇のしにくさ、見るだけで発狂する特性から、和解やコミュニケーションは不可能であり、第一級接触禁忌種と位置付けた。
ーーーーGOA EATERーーーー
恐れていた最悪の事態が起きてしまった。
知ってのとおり、ニャルラトホテプは完全な変身をする。
その完全さたるや、目視はおろかレーダーや特性まで元のそれと同じになる。
現在技術では、ニャルラトホテプの変身を見破ることは不可能である。
そんな中、悪夢はおきた。
場所はグラスゴー支部管轄のとあるアナグラ。
地下に建設されていること以外はなんの変哲もない、ごく一般的なアナグラであった。
もっとも、昨今では地下施設のアナグラも珍しくはないが。
ある日のことだ。
アナグラの居住区に、ニャルラトホテプが突如として現れた。
侵入というよりは、まるで発生したように、なんの前触れもなく出現したのだ。
これに関しては、人間に擬態したニャルラトホテプが何らかの方法でアナグラに接近・侵入した『人間擬態説』を唱える研究者が大半だ。
アナグラは一瞬にして混乱状態に陥った。
緊急避難警告が発令され、戦う術を持たない人々は逃げ惑った。
事態の元凶が他のアラガミではなくニャルラトホテプであったことが、事を最悪へと導いた。
その元凶を見た者は皆例外なく、奇声をあげて発狂した。
その発狂した者が、今度は逃げ惑う人間に殴りかかる。
殴られた人間は思わず振り向き、そして発狂する。
発狂した者は、さながらニャルラトホテプの傀儡、操り人形だ。
出撃可能なゴッドイーターを総動員するも、見るだけで正気を失うことに加え、傀儡や触手、様々なアラガミの攻撃に翻弄され、多くのゴッドイーターが千の貌の1つとなった。
この時点で、既にアナグラの住民99.96%が発狂ないし死亡した。
出動したゴッドイーターも、グラスゴー支部に所属する者の大半と増援に来た他支部の者たちがその命を散らした。
ニャルラトホテプと直接対峙したゴッドイーターは、傷1つ付けることもできず、悉く散っていった。
シンガポール支部支部長は、決断を迫られていた。
このアナグラは地下に建設されている。
それはアラガミから身を隠すためだけのものではない。
対処法が確立されていないアラガミの襲撃時、上部を爆破することで生き埋め、一時的な時間稼ぎをする為でもあるのだ。
その決定権を、支部長は所有している。
机の中に厳重に保管された、黄色と黒で縁取られた赤いボタンがそれだ。
しかし、住民の住まいを犠牲にするという非人道的行いに、大きな罪悪感も伴う。
「支部長……既に住民は9割以上、当支部のゴッドイーターも7割が犠牲になりました。……ご決断を。」
「人が生に執着する限り、人が滅びることはない……人類に、栄光あれ!!」
結果として、人類は一時の猶予を手に入れた。
しかし、コロニー1つとゴッドイーター百数十人、総人口の19%という代償は余りに大きく、決して正しいとは言えない決断。
しかし、確かにできた猶予。
束の間の猶予の中で、人類が『進化し続ける神』を上回らなければならない。
それはすなわち、『オラクル細胞』そのものを上回るということ。
言うなれば、
その結果は、神のみぞ知る。
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