千の貌を持つアラガミ   作:疋倉ヨバラ

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ミッション「鉄の雨」の作戦内で、エリックを目の前で失ったユウ。
初めての仲間の死に茫然としているユウと、それを全く気にも止めていないような口振りの「死神」ソーマ。
それを見たコウタは、自分の中に生じた邪な考えに苦しんでいたのだった。


赤い傀儡

「あれ?リンドウさん?」

 

 

翌朝、ロビーへと足を運んだユウとコウタの前には、昨日と全く同じ場所で全く同じ体制で寛いでいたリンドウの姿があった。

 

 

「ん?あぁ、お前らか。」

 

「どうしたんです、その左手?」

 

 

昨日と明らかに違うところは、リンドウが左手に包帯を巻いているところだろう。

見た感じ、巻いてからそんなに時間はたっていない。

昨日はデートに行くと言っていたはずのリンドウが、何故手を怪我しているのかとコウタは疑問に思った。

 

 

「これか?こりゃあ……恋人にやられてな。」

 

「リンドウさんにケガさせるとか、どんな恋人っすか……」

 

「んまーちょいと激しい性格でな。心配すんな、任務に支障はねぇ。」

 

 

そう言うと、リンドウは笑いながら左手をヒラヒラと上げた。

本当に問題は無いのだろう。

その様子を見て、ユウは相変わらず代わり映えのしない表情だが、コウタは胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべた。

 

 

「よかった、今日のミッションはリンドウさんに着いてきてもらおうと思ってたんすよ。」

 

「おいおい、よかったってそっちかよ、別にいいけどよ。んで、そのミッションの中身は?」

 

「えぇと……あれ、なんて言ったっけ?」

 

「ヴァジュラ……」

 

「そう、ヴァジュラ!ソイツの討伐ですね。」

 

 

ヴァジュラ。

虎のような姿をした大型アラガミ。

背中のマントのような器官から電撃を放つことができる。

高い身体能力を生かした、爪や牙などを用いた近接攻撃も強力であり、遠近共に隙が少なく手強い。

()()ではなく()()ため、手練れのゴッドイーターでも後れを取ることがある。

一般的には「ヴァジュラが出たら支部総出でやっと討伐できる」程の強敵だが、激戦区である極東支部では「ヴァジュラが単独討伐できれば一人前」とされているなど、一種のハードルのような扱いをされることもある。

 

 

「うし、そんじゃあ行くとするか。」

 

 

やって来たのは鎮魂の廃寺。

年間通して雪が降り積もっている多雪地域であり、そこには極東の宗教建造物と宗教家たちの魂が眠っている。

ここでみられるアラガミの多くは、この極地的な環境に対応すべく独自の進化を遂げている。

このような亜種は「堕天種」と呼ばれ、過酷な環境下で生き残るために原種より凶暴性が高くなっている。

しかし、今回の討伐対象である「ヴァジュラ」は、元から強靭な肉体をもっているので進化せずとも極地で活動ができる。

それ故か、現状ではヴァジュラの堕天種は確認されていない。

しかし、極地に耐性がある訳でもなければ、動きやすさから完全装備という訳でもないコウタたちには中々堪える環境だろう。

それが例え、超人的な肉体を持つゴッドイーターであったとしても。

 

 

「ううぅぅ……さささささ……さみぃ……」

 

「寒くない寒くない寒くない寒くない……寒い!!」

 

「動いてりゃその内熱くなる。そこの花を見てみろ、こんな世の中だってのに立派に咲いてるだろ?お前らもちっとは見習うよーに」

 

「そんな事言ったってーーー」

 

「!?静かに!」

 

 

突然ユウが二人の前に出て制止する。

その先には、音に反応したのか辺りをキョロキョロと見回しているヴァジュラの姿が。

幸い、まだ発見されてはいないようだ。

覚られないよう音を殺してゆっくりと背後に忍びよる。

聞けばヴァジュラはマントの内側の背中と尻尾が弱点だというので、好都合だ。

狙い目はヴァジュラが最も気を抜いた瞬間。

より近くに身を潜めるリンドウは、合図を出すタイミングをじっと待っている。

ヴァジュラが後ろへ振り向いた瞬間、リンドウが手を振り降ろ……

 

 

 

「は……ふぁ……ぶぇっくしょい!!

 

 

 

……す事はなく、寒さに凍えるコウタのくしゃみが銀世界一面に轟く。

横で同じく待機していたユウも、離れた場所にいたリンドウも、ヴァジュラでさえも呆気に取られて硬直してしまった。

この場で一番早く我に帰ったのは、最も戦闘経験のあるリンドウだった。

何が起きたか分かっていない二人+一匹を尻目に、神機を吹かして斬りこむ。

 

 

「くそっ、作戦変更だ!」

 

 

結果的にはリンドウの奇襲は成功したが、未だに二人からの遠距離援護は来ない。

見ると、ユウとコウタは言い争いをしていた。

普段から仲のいいこの二人が対立しているのは珍しいことだが、今はそれどころではないのは言わずもがな。

一足遅れて我に帰ったユウは、コウタの頭を怒りとか呆れみとか色々と籠った拳でひっ叩いた。

 

 

「バカ!このバカ!なんでこんな時にくしゃみなんてするかなぁ!!」

 

「仕方無いだろ寒かったんだから!!」

 

「任務中にくしゃみする奴がいるか!しかも、よりによって潜伏してる時に!!」

 

「おーい、俺が手をケガしてんの忘れんなよ。」

 

 

登竜門は1人のくしゃみによって、なんやかんやで雰囲気ぶち壊しになった挙げ句、なんかもう色々と諦めたようなゴッドイーターたちの神機の錆びとなった。

哀れなりヴァジュラ……。

やけっぱちになったユウによって鼻から銃形態の神機を突っ込まれたことについては泣いていい。

そんなこんなで無事生き残ることができた三人は、アナグラへと帰還した。

その直後、第一部隊各員はロビーに呼び出された。

そこにはツバキと、赤い服装をした見慣れない人物がいた。

 

 

「ロシア支部から極東支部第一部隊に編入することとなりました、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします。」

 

「彼女はヨハネス支部長直々にスカウトされた、本支部二人目となる新型神機使いだ。」

 

「へぇ……俺は雨宮リンドウ、第一部隊の隊長だ。神機は旧型だが、まぁよろしくたのむ。」

 

「あなたが……えぇ、旧型は旧型なりの仕事をしていただければいいと思います。」

 

「おい、そんな言い方無いだろ!」

 

「まあまあいいじゃねぇか。旧型には旧型にしか出来ないこともあるってこった、な?」

 

「ふん……」

 

「……」

 

アリサは不機嫌そうな表情を浮かべたままそっぽを向いてしまった。

その様子を心配そうに見つめていたのが、ユウだった。

なんとなく心配だったのか、新型同士でなにか通ずるものがあったのかは分からないが、とにかく不安があった。

なにか、放っておけばアリサが壊れてしまう、そんな感じがしたような気がした。

ふと視線に気付いたアリサが向くと、その視線の先から不思議な感覚がした。

それは昔懐かしい感覚だった。

初対面の筈なのに、まるで旧友か兄妹にでも会ったかのような懐かしさがこみ上げて来た。

アリサとユウはしばらく見つめ合っていたが、状況を把握したアリサは顔を赤くして行ってしまった。

ユウはその背中を見ていたしばらく見ていたが、倫理的にまずいと気付き、目線を反らした。

その様子を見ていたサクヤは、なにか思い付いたようにユウに話しかける。

 

 

「新型同士、なにか感じるものでもあった?」

 

「……なんとなく、心配で。」

 

「……感応現象っていう言葉は知ってるかしら?」

 

「いえ……」

 

「なら、博士に聞いてみるといいわ。話を降っておいてなんだけど、私もそこまで詳しい訳じゃないから。」

 

「はい……感応現象……」

 

 

実は、ユウにはその言葉に聞き覚えがあった。

というのも、ターミナルのライブラリーでそのワードを見かけたことがあったからだ。

それでも「知らない」と答えたのは、聞いたことがあるだけで、実際のところ、どのようなものなのかは理解していないから。

早速ユウは、ペイラーの元に足を運んだ。

 

 

ーコンコン

 

「……神薙ユウです。」

 

「あぁ、うん、どうぞー。」

 

「失礼しま……はい?」

 

「よう、二時間ぶりだな。」

 

ユウがドアを開けると、そこには先ほどまで共にロビーにいた筈のリンドウがいた。

驚くのも無理はない、ユウはずっとアリサを見ていたので、リンドウが席を立ったのを知らなかったのだから。

あと、さっきの集合は一時間前なので二時間もたっていない。

 

 

「なんでここに、って顔してんな?ケガの治療だよ、左手のやつ。」

 

「いらっしゃい。あぁ、リンドウ君のことは気にしなくていいよ、今ちょうど終わったところだからね。」

 

「そういうこった。じゃ、俺は行くとするかな。」

 

「うん、お疲れ様。リンドウ君、くれぐれも()()には気をつけるように。」

 

「へいへい。」

 

 

リンドウはタバコを吹かして退出した。

精密機械の多いこの部屋でタバコなんて、大丈夫なのだろうか?

まぁ、本人が何も言わないということはいいのだろう。

確実に健康には悪いが。

 

 

「さてと、キミが知りたいことは「感応現象」だね?」

 

「……コク」

 

 

ペイラーは、ユウが自分の元に来ることを予測していた。

他の新型ゴッドイーターが赴任してくれば、早かれ遅かれいずれこの事に行き着くとわかっていた。

もし来なければ自分から彼を呼び出す予定だったが、どうやら余計なお世話だったようだ。

 

 

「感応現象。新型同士が接触することで発生する現象で、精神に影響を及ぼすことがあるそうだ。記憶を共有した一例もあるそうだ。……もっとも、発見されたばかりで、新型同士という条件もあって、まだ判明していない所が多いんだ。アラガミ研究者として、不甲斐ないよ。」

 

「いえ……接触って、どの程度くらいなんですか?」

 

「手に触れて起きたことはあるらしい。ただ、起きなかったこともあるから確実ではないがね。」

 

 

新型の神機自体、最近になってやっと適合者が現れはじめたくらいで今はまだあまり普及しておらず、また明確な発生条件も判明していないので前例がとても少ない。

こればかりは現象を研究する上で必ず通らなければならない道なので、仕方無いといえば仕方無い。

それを理解したユウは、ひとしきり疑問を投げ掛けると、答えの有り無しにかかわらず一先ず自分の中で納得させた。

 

 

「ありがとうございました……」

 

「どういたしまして。分からないことや知りたいことがあれば、またいつでも来るといい。答えられるかどうかは別だけどね。」

 

「はい……失礼します。」

 

「……」

 

 

ユウが退室すると、いつもは逆さ''八''の字のようなペイラーの目尻が垂れ下がる。

その原因となるのは、リンドウだ。

あの左手のケガは、人間にやられた訳でも、アラガミにやられた訳でも、まして事故などで負ったものではないとされている。

本人の言葉を使うなら、「勝手についてた」。

これが現状では最も的を射ているだろう。

他人はおろか、本人ですらその傷を受けた瞬間を把握していない。

幸いにも傷自体は非常に浅い擦り傷程度であり、身体検査やバイタルに異常は見られないので、ミッションに支障は全くと言っていい。

ペイラーの手には、リンドウがヨハネスから下されたミッションの報告書があった。

そこにはこの様なことが書かれていた。

 

調査対象と接触し、規約により、極東支部 雨宮リンドウを殿に撤退。調査隊員全二十七名の内、十八名が任務中に狂死及び行方不明、三名が調査対象に捕喰。生還した六名の内、四名が狂死及び行方不明となった。

 

ペイラーは複雑な気持ちだった。

調査隊が壊滅した悲しみと、自分の予想の裏付けとなりうる結果が得られた喜びと、自らを「星の観測者(スター・ゲイザー)」として律しようとする思いが混濁している。

悩むほどにペイラーは瞼は重くなり、やがて座ったまま眠りについた。




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