「あ〜〜〜」
4月8日の昼休み。コウヤは教室の机に頬杖をつきながら唸る。昨日出会った“第4位”と呼ばれる白い少女とのバトルを思い出していたのだ。
それは勝負ではなく、蹂躙とも言うべき一方的な展開であった。エースたるルカリオが一撃も与えられずガブリアスに敗北した。それがあまりにショックだった。
「コウヤくん。昨日の事を気にしてるのー?」
「あー、ヒナかー。まあなー」
ヒナ。コウヤのクラスメイトである女子生徒。小柄な体格で、ふわっとした雰囲気から“可愛い”と男子生徒から人気がある。初等部からこの学校に通っており、内部の事情には詳しい。
「しょうがないよー。あの子が出てきたのは事故以外の何ものでもないもん。ラウンズ・第4位のレイちゃん。小等部4年生から6年生の終わりまで他の地方を旅してポケモンリーグにも出場した実力者だもん」
「オレだってリーグには出てそこそこのところまで行ったんだけどなー」
「結構有名なんだよー、レイちゃん。聞いたことない? 一昨年のカロスリーグの優勝者なんだけどー」
「はあ!? 優勝!?」
残念ながら、コウヤは一昨年のカロスリーグの開催時期は道に迷っていた。中継を全く見られなかったのは今でも後悔している。まさかその時の優勝者が彼女だったとは。
「中等部入学の時に戻ってきてねー。すぐにラウンズになったのー。可愛いし強いし勉強出来るしでこの学校で知らない人なんていないよー」
「へぇー…。なあ、ところでラウンズってなによ」
エスカレーター組は常識のように口に出すが、高等部から入ったコウヤには聞き慣れない単語である。
「ああ、
「なんだそれ! すげー面白そうじゃん! そのトーナメントとかいうのはいつ開催される? 参加条件は? なあ、なあ!」
情報を聞き出そうとヒナに迫るコウヤ。ヒナ本人は困惑はあれど嫌悪感は無いようだが、ヒナに好意を抱くクラスメイトからの憎悪に満ちた目にコウヤは気付かない。
「近い近いー。えっとねー、トーナメントは例年5月に始まって2ヶ月くらいかけて行われるのー。条件は“手持ちを6体で編成できる中等部以上の生徒”だよー。そろそろ案内が来る頃かなー。」
「マジで!? もうすぐだしオレは条件満たしてるじゃねーか!」
キラキラとした目でヒナを見つめるコウヤ。そして、ヒナの右手を両手で握ると-
「ヒナ! 今日の放課後付き合ってくれ!」
この言葉で我慢の限界に達したクラスの半分の男子生徒が一斉にコウヤに殴りかかったのは言うまでもない。
「いきなり“付き合ってくれ!”なんてー。びっくりしちゃったよー」
「いや…。“今日の放課後”って言ったじゃん…。なんで殴りかかって来たんだアイツら…」
放課後。コウヤとヒナはある場所に来ていた。ちなみに、先程の暴動はクラスの女子生徒及び一部の冷静な男子生徒により収められた。その後、担任教師によるお説教が待っていたが。
「そんなことよりだ! さっき言った通り、レベルアップのためにバトルに付き合ってもらうぜ!」
「はいはい。わかったよー。さっそく始めよっかー」
場所はスクール敷地に設置されているバトルフィールド。生徒であれば自由に使うことが出来る。普段は沢山の生徒で賑わう場所だが、授業終了後すぐの時間であるためか数人しかいない。
「よし、頼むぞ!」
ミカドはモンスターボールを投げ、ポケモンを繰り出す。
「にゅら!」
現れたのはオオニューラ。鋭い爪を構え、臨戦態勢をとる。オオニューラを見たヒナは驚いたような表情をする。
「へぇ、ヒスイ時代のポケモンなんて珍しいね」
「そうなのか? 言われてみれば確かに他では見ないかも」
「今じゃ一部地域でしか見られない激レアポケモンだよ。よし、いいもの見せて貰ったから全力で戦うね。お願い!」
ヒナが投げたモンスターボールから現れたのは、可愛らしい彼女のイメージからは掛け離れたポケモンであった。
「ケッ…。フア〜」
「ケッキング…? ヒナ、意外なポケモン使うんだな。あと全くやる気を感じられん」
「もー! 動いてケッキング!」
ゴロゴロしながらお腹を掻くケッキング。どこからどうみても休日のオッサンである。
「これは自分からは動かないなぁ…。コウヤくん。お先にどうぞー。」
「じゃあ遠慮なく。オオニューラ、“フェイタルクロー”!」
「にゃら!」
爪に毒を纏い、ケッキングに接近するオオニューラ。そして、寝転がる相手にその爪を振り下ろす。
オオニューラの爪が地面を切り裂く。ケッキングは素早い身のこなしで“フェイタルクロー”を躱したのだ。
「チッ。ケッ…キッ!」
面倒くさいといったように舌打ちをして、ケッキングはオオニューラに急接近し、顔を鷲掴みにする。
「にゃ…ら…」
「ケッキング! そのままオオニューラを上に投げて!」
「ケッ!」
空に高く投げられるオオニューラ。ケッキングは追撃をすべく、投げたオオニューラより高く跳躍する。
「ケッキング! “アームハンマー”!」
「あんなに怠けてたのに機敏すぎる! 来るぞ! “フェイタルクロー”で迎え撃て!」
上空より振り下ろす拳アームハンマーと空中で体勢が崩れた状態での爪フェイタルクロー。どちらが打ち勝つかは明白であった。
ケッキングの“アームハンマー”がオオニューラの身体に突き刺さる。地面に叩きつけられたオオニューラは目を回し、これ以上の戦闘は不可能であった。
「一撃かよ…。ありがとうオオニューラ、戻ってくれ。…強いんだなヒナ。こりゃまた意外だ」
「“意外”は余計だよー。さあ、次のポケモンは何を出すの?」
「全力で行かないと勝てないようだしな。次はこいつだ! 行け、ルカリオ!」
ルカリオ。コウヤの最初のパートナーでありエース。何度も困難を共に乗り越えてきた相棒である。
オオニューラより格段に気迫のあるルカリオの登場でヒナは気を引き締めるが、ケッキングはまた寝転がってしまった。
「もー。ヤルキモノの時の気力はどこに行ったのー」
「難儀な特性だよなぁ。“なまけ”。今度もこっちから行くぜ。“コメットパンチ”!」
ルカリオは彗星の如く一気に距離を詰め、ケッキングを殴りつける。
あまり効いていないのか、ケッキングはぐうたらし続ける。幾ら特性でもナメ過ぎではないかと抗議しようとしたその時だった。
「傷が治って…。そうか“なまける”か! だが、あれはどうみても特性の発動中じゃ…」
「ふふー。わたしのケッキングは要領が良いの。特性でなまけていても“なまける”を自動的に使って回復できるのー。…ややこしいね?」
「デメリットをメリットに変えているのか…! …面白い! 要するに回復する前に削り切りゃあいいんだろ!」
コウヤはバトルを心底楽しんでいた。流石は最高レベルのポケモントレーナー育成校。こんなハイレベルなトレーナーやポケモンがまだまだいると考えるだけでワクワクする。
「行くぞルカリオ! 一撃で決めるッ! “コメットパンチ”ッ!」
「そう簡単に行かないよ! “ギガインパクト”!」
互いの持てる全てを出す大技。ルカリオは跳躍し、落下の勢いのまま拳を繰り出す。対してケッキングは膨大なエネルギーを全身に纏い、ジェット機のようにルカリオに向け跳ぶ。
大技と大技のぶつかり合い。あまりのエネルギーに爆発が起こる。煙が晴れると、未だ両者とも健在であった。
「削り切れなかったか! 回復される前に倒すぞ、“インファイト”!」
「ぐるあ!」
ルカリオはエネルギーを纏い、ケッキングに突撃する。ケッキングは回復を始めたが、“インファイト”連打を食らっては無事では済まない。
ヒナは、恐らくケッキングも戦闘不能を覚悟したその時だった。
「ギルガルド!」
突如としてケッキングの前にギルガルドが現れ、ルカリオに立ちはだかる。“インファイト”の初撃はギルガルドに命中するも無効化された。
「バトル中悪いけどね。その調子で続けられたら設備への被害が免れなかったから止めさせてもらったよ」
「…ミカドくん。ホントに悪い。楽しかったのに」
“ミカド”とヒナに呼ばれた男子生徒。身長は175cmくらいか。コウヤより少し高い。ネクタイの柄から高等部2年生ということはわかるが…。
「あ、あのすみません。貴方は…」
コウヤは相手が上級生ということもあり、恐る恐る素性を尋ねる。
「俺かい?」
男子生徒はそう言うと、コウヤの問いに答える。
「俺はミカド。このスクールの生徒会長をやっているよ。ああ、それと」
ミカドはニコリと笑い、言葉を続ける。
「円卓議席も務めている。第1位だ」